世論調査の「回収率の低下」が問題となって久しく,多くの議論が展開されてきた.しかし一方で,世論調査と他の調査との適正な分類や各調査の目的に応じた課題への対処がなされていない懸念がある.この背景には,各分野で調査に従事している人々が,先人が築き上げてきた調査の歴史と理論と実践の現場を必ずしも把握できていないことをあるのではと推察させる.
本論文では,調査方法論を根本より再考することにより,世論調査と他の調査を区別し,今日の調査研究の課題を考える上での示唆を試みる.1 節で問題提起をする.その問題の解決を念頭に,2 節で世論調査の歴史を振り返り,3 節で海外の世論調査の方法について概観する.4 節では確率論の基礎の数学的定義を確認する.これらを考慮しながら,5 節では調査に関する用語の意味を再確認し,6 節では調査の分類に応じた課題に対して提言を試みる.最後に7 節で将来の展開へコメントする.