2013 年 3 巻 1 号 p. 17-47
本論文では,統計数理研究所による「環太平洋価値観国際比較調査」における労働や職業意識に関する項目を取り上げ,当該の10 か国・地域の特徴を明らかにすることを試みる.労働や職業は人々の所得に直接つながる生活領域の重要な要素であり,また個人と社会との関係を維持,発展させる重要な接点でもある.したがって,労働や職業に関する意識を比較し,その異同を明らかにすることは,異なる政治,経済,社会状況,家族関係の下にある国や地域の人々の価値観の多様性,あるいは国や地域を超えた普遍的な価値観を浮かび上がらせるであろう.本稿では,まず簡明に当該の国・地域の背景を説明する.次に,「職場のリーダーの条件」に関する複数回答選択項目及び「収入と余暇」,「お金と仕事」,「就職の第一条件」に関する多肢選択項目,さらに「尊敬する職業」,「自分が実際に就きたい職業」に関する自由回答について,国ごとに単純集計や性別,年齢層別クロス集計を俯瞰する.そして次に,文化多様多体と称するパラダイムの観点から,数量化Ⅲ 類により,項目群と各国の全体の関係を俯瞰した多次元の潜在的連関の探索を試みる.最後に,将来の研究へのコメントをしよう.