2021 年 55 巻 1 号 p. 23-44
本稿は,ディスコースマーカーdu moinsおよびen tout casについて扱ったものである.以前より,先行研究において,このふたつのマーカーはある特定の用法において置き換え可能であることが指摘されている.具体的には,追加,または言い換えによって前件の再解釈を促し,前件の解釈範囲を限定し,後件をその最低限として提示する用法である.本稿では,この用法における両マーカーの関係を複数のコーパスを用いて検討する.まずはじめにさまざまなコーパスにおける使用頻度の差を複数の観点から比較し,この用法に限って言えば20世紀初頭からen tout casがdu moinsに少しずつ取って代わってきていること,そして現在,保守的な分野ではdu moinsが,また話し言葉といった変化の速い環境では en tout cas がより多く用いられるようになっていることを明らかにする.次に,この結果を踏まえ,両マーカーが共起する例を観察することで,du moins と比べてen tous casがより断定の内容を最低限に限定する機能において優れていることを明らかにする.これはdu moinsにおいて〈最低限〉の意味が希薄化していることに原因があるように思われるが,このことは,du moinsの出現頻度が一番低い現代話し言葉のコーパスにおいて,en tout casに置き換えにくいdu moinsの〈修正的言い換え〉用法が多くみられることからも裏付けられるのである.