1995 年 1995 巻 49 号 p. 15-28
福岡県宗像郡津屋崎町における採集・飼育結果をもとに,モクズガニEriocheir japonicusの海域における繁殖生態を明らかにした.モクズガニは雌雄とも9月初旬から7月初旬にかけて採集された.雌は全て成体であり,抱卵個体は全ての月にみられた.採集個体の甲幅組成は,生きている個体と斃死個体の間に差は認められなかった.飼育個体は雌雄とも,脱皮・成長せず8月までに全てが死亡した.死亡には11月から12月にかけてと4月から6月にかけての2回のピークが認められ,海域で斃死個体が採集された時期とほぼ一致していた.以上の結果により,9月以降海域へ回遊してきた個体のうちほとんどが,繁殖活動後脱皮・成長せず8月までに死亡することが推定された.雌には最高3回の産卵と孵化が観察され,卵塊の量は産卵回数を重ねるに従い減少する傾向が認められた.また産卵および死亡の時期が異なる2群の存在が示唆され,早期に海域に出現する個体が大型である傾向が認められた.