バイオフィリア リハビリテーション学会研究大会予稿集
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第17回バイオフィリア リハビリテーション学会
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どうして予防接種で病気から身を守れるのか?
小安 重夫
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p. 8-

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抄録

麻疹にかかると2度と麻疹にかからない。水疱瘡にかかると2度と水疱瘡にかからない。皆さんよくご存知のことです。これらの病気はウイルスという小さな生き物が私達の体に侵入して悪さをします。ほかにも、おたふく風邪や風疹、小児まひやインフルエンザもウイルスによって起こる病気です。ウイルスよりはかなり大きいのですが、肉眼では見えない、細菌によって起こる病気も沢山あります。ジフテリアや百日咳などの呼吸器の病気や赤痢やサルモネラ症などのおなかの病気は細菌によって起こります。中世にヨーロッパの人口に3分の1を失ったといわれるペストも細菌によって起こります。

 これらの病気を起こす小さな生物は微生物と総称されますが、私達の体は侵入した微生物と戦う力を持っています。そして戦いの後には、どのような微生物と戦ったかを記憶しています。記憶できるから、2度目に同じ微生物が私達の体に侵入して来た時に素早く戦うことができます。そして症状が出る前に微生物を退治してしまいます。つまり、その病気に対する抵抗性を獲得できるということになります。

 このような、一度戦った相手を記憶することができる能力を利用したのが、予防接種あるいはワクチンと呼ばれるものです。もっとも成功したワクチンは種痘です。かつて、天然痘は人類によって大きな脅威でした。しかし、一度かかって治った人は2度かからないことは良く知られていました。ですから、元気なのにかかった人の瘡蓋や膿を吸い込んで、軽く病気になって、抵抗性を獲得しようという試みも広く行なわれていました。しかし、時には重症になって命を落とす人もいたといいます。18世紀の終わりに、ジェンナーは人が牛の天然痘にかかると命を落とすことはなく、人の天然痘にかからなくなることを見つけました。そして、牛の天然痘の膿を人に接種することで天然痘にかからなくなる、つまり予防ができることを示しました。この画期的な方法は瞬く間に世界中に広まり、たった50年で日本にもやってきました。そして1977年に確認された患者さんを最後に天然痘は地球上から姿を消しました。

 これをヒントに色々な研究がなされ、病気を起こす能力が落ちた、あるいは人工的に病気を起こす能力を落とした微生物を接種することで、病気を起こす能力が強い微生物に対する抵抗性を獲得できることが明らかになりました。これが予防接種あるいはワクチンです。今では、沢山の病気に対する予防接種があります。生まれて直ぐに行なう3種混合ワクチンもそれです。予防接種のおかげで多くの病気(微生物が起こす病気:感染症と総称します)が克服されました。その一方で、一度で完全に予防できる効果的なワクチンが作れないものもあります。赤痢やインフルエンザなどがそうです。

 今回の講演では、どうして私達の体が微生物と戦えるのか、どうして予防接種が病気から私達の身を守るのか、どうして効果的な予防接種が作れる病気とそうでない病気があるのか、などに関してお話をさせていただくつもりです。

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© 2013 バイオフィリア リハビリテーション学会
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