生物物理
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総説
FLUID3EAMS:マイクロ構造中での流体界面エネルギーによる3次元液滴周期構造の生成と生体工学への展開
矢菅 浩規
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2022 年 62 巻 2 号 p. 110-113

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Abstract

本稿では,“fluid-fluid interfacial energy driven 3D structure emergence in a micropillar scaffold (FLUID3EAMS)”に関する最新の研究とその応用について解説する.FLUID3EAMSとは,流体-流体界面が3次元の足場構造を通過する時に3次元に配列された微小液滴が生成される現象である.この現象の応用技術を用いることで,細胞のマイクロカプセル化などが実証されており,将来的に生体工学への応用が期待される.

Translated Abstract

This review describes our recent studies about “fluid-fluid interfacial energy driven 3D structure emergence in a micropillar scaffold (FLUID3EAMS)” and its application. The FLUID3EAMS generates a 3D droplet (or hydrogel bead) array in a micropillar scaffold by a simple phenomenon that a fluid-fluid interface passes through the scaffold. The method to realize the phenomenon will be a powerful tool for application requiring ordered or arrayed microdroplets in biophysics, biology, or tissue engineering.

1.  はじめに

近年の微細加工技術の発展に伴い,マイクロスケールの構造物を精度良く製作することが可能になってきた.微細加工技術で製作されたマイクロ流路からなる「マイクロ流体デバイス」は,微小量の液体の正確な操作を可能にする.中でもDroplet microfluidicsと呼ばれるシステムでは,マイクロスケールで支配的となる粘性や界面張力を利用し,高い再現性で微小な油中水滴を生成することが可能である1).生成されるマイクロスケールの液滴を化学反応場として利用することで,化学分析における試薬・試料の劇的な削減に繋がるほか,細胞と同程度のスケールであるため1細胞解析への貢献が期待されている.微小液滴内での分析は,50年近く前から考案されている2)が,近年の微細加工技術と結びつくことで発展してきた比較的新しい技術である.最近では,細胞分析のほかにも,タンパク質の結晶化やデジタルPolymerase Chain Reaction(PCR)など,微小液滴の応用は多岐にわたっている3)

微小液滴を2次元に並べる(アレイ化する)ことにより,液滴の経時観察が容易になるなど,実験効率の向上が可能である.微小液滴のアレイ化方法は多種多様であるが,最もシンプルな方法は,デバイス中で生成した液滴を平面状の微小空間(チャンバ)内に封入し配置する方法である4).しかし,この方法では液滴の融合など安定性の問題が生じる場合がある.これに対し,液滴同士を物理的に隔てることで安定性を向上させる方法が存在する.例えば,微小液滴をバイパス流路を有するマイクロ流路に固定する方法5)や,ロボット制御されたインジェクタで液滴を直接アレイ化する方法も報告されている6).最近では,流体界面と材料の濡れ,微細構造を巧みに利用し,微小液滴の生成とアレイ化を同時に行う方法が研究されている.例えば,Cohenらが提案したSelf-digitization法では,連続的なくぼみ構造を有するマイクロ流路にオイルと水溶液の界面を通過させ,くぼみ部分で水溶液を分割することによって,微小液滴のアレイを生成した7).この方法には,複数のポンプ操作などの複雑な流体駆動が不要になるという大きな利点がある.筆者らの研究でも,流路を介して接続された円形溝アレイに,水溶液・オイルを順次導入することで,液滴アレイを自発的に生成する方法を開発した8)

近年,液滴アレイの高密度化や更なる応用分野の拡張のため,液滴アレイを3次元空間に生成する方法が検討されはじめている.しかし,微小液滴をチャンバ内に詰め込み3次元に配置する方法など,現状その方法は限定的である3),9).本稿では,筆者らの最新の研究10)で発見されたfluid-fluid interfacial energy driven 3D structure emergence in a micropillar scaffold(FLUID3EAMS)と称された微小液滴の3次元アレイの自発的な生成現象とその技術に関し,基本原理や特徴,応用可能性について述べる.

2.  FLUID3EAMSによる液滴アレイ生成

FLUID3EAMSの概要を図1aに示す.FLUID3EAMSとは,2種類の非混和性流体(水とオイルなど,ここでは流体1と2とする)の界面が,3次元のマイクロ足場構造内を通過する時,先に満たされていた流体1が液滴となって3次元に出現するという現象または技術を指す.FLUID3EAMSによって生成された3次元構造は,3つの構造的要素,つまり3次元のマイクロ足場構造と構造内に生成された流体1の液滴の3次元アレイ,残りの空間を満たす流体2を有するマイクロスケールの周期的な構造である.

図1

FLUID3EAMSによる微小液滴の生成.(a)FLUID3EAMSの基本原理と生成された3次元液滴アレイの写真(右上).(b)流体トラップとして働く格子状足場構造内の八面体状領域.(c)異なる流体・格子条件における,界面通過後の4つの状態.文献10から改変.

FLUID3EAMSにより液滴を生成するには,足場構造中に“流体トラップ”が存在する必要がある.ここでは八面体状に連結されたマイクロピラーからなる格子状の足場構造内の流体トラップについて述べる.流体界面が格子の軸方向(図1bではzの方向)に沿って通過する場合,液体2が八面体内の領域に入るには,領域が形成する4つの歪んだ四角形部分(図1bの赤枠部分)を通過する必要がある.この領域では,曲率を持って形成された界面により圧力障壁が生じる.この圧力障壁が,液体2が八面体領域内に進行するための圧力よりも大きい場合,流体トラップ内に液滴が残存する.詳細な原理については,文献10を参照していただきたい.

FLUID3EAMSによる液滴生成現象の評価は,3つの無次元数,Ca(Ca = μ2u/γ:キャピラリ数)とcos θθは流体2中における流体1の静的接触角),μ2/μ1(粘度比)をパラメータとして,実験と流体シミュレーションから行われた.ここで,μ1μ2はそれぞれ流体1と流体2の粘度,uは界面の平均速度,γは流体1と流体2の間の界面張力である.実験には,流体1としてグリセリン水溶液,流体2として界面活性剤(Span80)を含むミネラルオイルが用いられた.これらの評価から,液滴の生成が可能・不可能となる場合で,それぞれ2つの特徴的な状態および液滴が確認された(図1c).生成不可能であった1つ目の状態は,主にcos θ > 0つまり構造表面が流体1に濡れやすい場合に確認された,チャネリングである.主にCaが小さい場合に,流体2が足場構造の一部にのみチャネルを形成し浸透していく様子が確認された.2つ目は,流体1が流体2に完全に置換される状態である.置換現象は,cos θ < 0つまり構造表面が流体2に濡れやすくCaが小さい場合に確認された.

液滴生成が可能であった2つの条件では,異なる形状の液滴が確認された.1つ目の形状は,八面体構造内に張り付いた状態で生成されたダイヤモンド状液滴である.ダイヤモンド状液滴は,–0.4 < cos θ < 0.2の条件下で,幅広いCaの範囲で確認された.これは既に述べた通り,八面体領域周囲で圧力障壁が形成され,界面の通過と共に液滴がトラップされたものと考えられる.2つ目の形状は,球状液滴である.球状液滴は,cos θ < 0の条件において,Caが大きい場合で確認された.この条件では,まずダイヤモンド状液滴が八面体領域内に生成されたが,足場構造が流体2に濡れやすいため,トラップされた流体1が構造から剥がれ,表面エネルギーの最小化により,球状になったと考えられる.実験的に確認されたこれらの液滴形状は,同様のパラメータを用いて行われた流体シミュレーションにおいても確認されている.上記の中でも,cos θ < 0の場合では,毛管現象による流体1から流体2への自発的な置換が生じ,球状液滴が生成することが確認されている.つまり,シリンジポンプや圧力ポンプなどを用いた外部からの流体操作を必要とせず,3次元の液滴アレイの自発的生成が可能であることが確認された(図1a右上).また,この方法は迅速性に関しても優れた特徴を有する.u ≈ 10 mm/sという高い流速での液滴生成も可能であり,次の章に述べるように生成可能液滴数は足場中の流体トラップの数に対応するため,足場のサイズを大きくすることで短時間での大量の液滴生成が可能になることが期待される.

3.  足場構造の製作と液滴サイズ可変性

FLUID3EAMSにより液滴を生成するためには,3次元の足場構造が必要である.筆者らの研究10)では,足場構造の製作に,多方向フォトリソグラフィと3Dプリンティングが用いられた.多方向フォトリソグラフィとは,複数方向から紫外光を照射して行うフォトリソグラフィである.具体的には,図2aのように,マイクロピラーのパターンが印刷されたフォトマスクを通して,紫外光を複数方向から光硬化性樹脂に照射することで,3次元足場構造を製作した11)図2bのSEM画像からわかるように,この方法を用いることで,高い精度でマイクロスケールの3次元足場構造を製作することができる.この方法で製作された3次元足場構造は,毛管現象で駆動するマイクロ流体デバイスなどの研究にも用いられている12)-14)

図2

3次元の格子状足場構造の製作方法の模式図(a)と製作された足場構造のSEM画像(b),10 μmスケールの微小液滴アレイ(c).文献1012から改変.

FLUID3EAMSは3次元足場構造の流体トラップのサイズに応じて,その生成液滴のサイズが可変であることがわかっている.筆者らの研究では,流体トラップのユニットの長さで1 mm(図1a)から20 μm(図2c)まで,液滴生成が可能であることが確認されている.また,足場構造の製作面積や厚みを変更することで,生成液滴数を増加させることが可能であり,cm2のスケールでの液滴生成も実証されている.

以上のように,FLUID3EAMSによる液滴生成は足場構造の形状やスケールで調節可能である一方で,裏を返せば足場構造によって配列やサイズが制限される.多方向フォトリソグラフィで製作可能な構造は数種類であり,生成可能な液滴の3次元パターンはそれらに沿った形状となる.一方,筆者らの論文でも示されている通り,光造形方式の3Dプリンタで製作した足場構造中でも液滴生成が可能であることがわかっており,今後3Dプリンタの活用による自在な3次元液滴アレイも可能になると考えられる.また,生成液滴のサイズは,理論上流体や界面が連続体として振る舞う(10~102 nm)スケールまで可能であると考えられるが,実際には製作方法に制限される.筆者らの研究でも多方向フォトリソグラフィや光造形方式の3Dプリンタの製作限界である10 μmのスケールに留まっている.一方,近年100 nmスケールの解像度を有する2光子マイクロ光造形法15)を用いた3次元構造の製作技術の普及が進んでおり,こういった技術を組み合わせることで,液滴サイズの更なる微小化が可能になると期待される.

4.  FLUID3EAMSの生体工学への応用

FLUID3EAMSで生成した微小液滴は様々な応用が期待される.筆者らの研究でもいくつかの応用が実証されている.本稿では,(1)多様な材料を有する液滴アレイの生成,(2)脂質二分子膜を介した微小液滴のネットワーク形成,(3)高密度な細胞マイクロカプセル化について説明する.

1つ目の応用は,多様な材料を有する液滴アレイの生成である.FLUID3EAMSによって生成された液滴アレイは,空間的に分離された状態であるため,界面活性剤を使用しなくても融合が回避され,液滴は安定した状態で保持される.さらに,液相のゲル化やポリマ化を利用し,流体1,2の相をそれぞれ固体(ゲル又はポリマ),液体,気体に変更することで,異なる相を含む様々な複合構造が実証されている(図3a).

図3

FLUID3EAMSの応用.(a)多様な材料の組み合わせを有する液滴アレイの生成.(b)Droplet interface bilayerネットワークの形成.(c)アルギン酸ゲルビーズへの高密度な細胞(Glioma cell line U87)封入.左:1ゲルビーズの全体図.右:拡大図.緑色はAlexa Fluor 488ファロイジンで染色されたアクチンフィラメントを示し,青色はHoechstで染色された核を示す.文献10から改変.

2つ目は,3次元Droplet Interface Bilayer(DIB)ネットワーク形成である.DIBネットワークは,脂質二分子膜によって接続された多数の油中水滴で構成される組織状のネットワークである.一般的に,DIBネットワークでは,ネットワーク中の液滴の3次元配列を規定することは困難である.この問題に対し,筆者らはFLUID3EAMSによって足場構造中に生成された液滴アレイを用いることで,液滴配列を規定し個々の液滴組成をパターニングできる3次元DIBネットワークの形成方法を提案した.具体的には,FLUID3EAMSを利用し単層の液滴アレイを生成し,それらを積み重ねることで,3次元の液滴ネットワークを形成するという方法である.さらに,あらかじめアレイ中の液滴に試薬などを選択的に転写した後に積み重ねることで,3次元の溶液組成のパターニングが可能であることも示している(図3b).

最後に,高密度のヒト由来の細胞を含むハイドロゲルビーズの形成が実証された.FLUID3EAMSにより細胞を含んだ水溶液の液滴アレイを生成し,ハイドロゲルとすることで細胞を固定する(図3c).生成された微小液滴・ゲルビーズは,側方にオイルを流すことで,足場構造から取り出すことができるため,この方法で高密度な細胞を含むハイドロゲルビーズが回収された.このような細胞を含むハイドロゲルビーズは,細胞を用いて疾患を治療する細胞治療への応用が期待される.FLUID3EAMSを用いて形成された細胞を含むハイドロゲルビーズは100 μmオーダーであり,細胞治療における移植作業に適したサイズである.さらに,従来方法よりも約1桁高い密度で細胞を封入することが可能であるため,細胞治療のための優れた技術となると期待される.また,液滴表面にポリマ薄膜を形成することで細胞を含むコアシェル粒子の形成にも成功している.

5.  おわりに

本稿で紹介したように,FLUID3EAMSにより生成された液滴・ハイドロゲルビーズのアレイは,複数相を含む周期材料の開発や,組織状ネットワークの形成,生体細胞のマイクロカプセル化をはじめとする様々な分野への応用が期待される.また,3次元液滴アレイは,計算上3 m2/cm3を超える単位体積当たりの液―液界面を有し,この特性を生かすことで,液滴中に細胞や組織・微生物を封入し,試薬を供給するといったリアクタの開発も可能ではないかと考えられる.今後の課題として,生成可能液滴の更なる微小化や,3次元液滴アレイのイメージング方法の確立が必要である.現在,筆者らは光造形方式の3Dプリンタや2光子マイクロ光造形法を利用することで,サブミクロンスケールの液滴の生成やメカニカルメタマテリアルと組み合わせた新規材料の開発などに取り組んでいる.

本研究は,筆者の前所属である慶應義塾大学理工学研究科や神奈川県立産業技術総合研究所(人工細胞膜システムグループ),スウェーデン王立工科大学Micro and Nanosystemsなどの多数の研究者との共同の成果である.また,特別研究員奨励費をはじめとする研究助成により研究を推進できたことに深く感謝する.

文献
Biographies

矢菅浩規(やすが ひろき)

お茶の水女子大学基幹研究院,日本学術振興会特別研究員PD(理学部物理学科奥村研究室)

 
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