生物物理
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カラメルに含まれるオリゴ糖を分解する酵素の同定と構造基盤
鹿島 騰真石渡 明弘藤田 清貴伏信 進矢
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2022 年 62 巻 3 号 p. 184-186

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Abstract

ヒトは火を使って調理することでカラメルのように天然には存在しない糖質を含んだ食品を生み出している.私達はビフィズス菌でカラメル化糖に含まれるinulobioseの脱水縮合を平衡的に触媒し,difructose dianhydride I(DFA I)を生成するDFA I synthase/hydrolase(αFFase1)を発見した.本稿ではαFFase1の機能を特定した経緯とX線結晶構造解析による構造基盤について述べる.

1.  はじめに

ヒトの食習慣において他の生物と異なる点はいくつか挙げられるが,その中で特に顕著なのは火を用いた調理法だろう.食材を加熱することで様々な化学反応が起こり,食物に含まれる成分の化学構造が変化し,食感や味に変化が生じる.この化学反応で代表的なものとしてカラメル化反応がある.ショ糖を構成する糖であるd-フルクトース(d-Fru)とグルコース(Glc)は反応性が高い還元糖である.そのため水を加えずに加熱すると,水飴状に溶けると共に,糖同士が脱水縮合して様々な構造の重合物が生ずる.その重合物の中には,自然界に存在しないα結合したフルクトフラノース(Fruf)を含んだ化合物がある.植物が生産するスクロース(O-α-d-Glcp-2,1-β-d-Fruf),イヌリン([β2,1-d-Fruf]n),レバン([β2,6-d-Fruf]n)などのFruf分子重合体のFrufはβ結合している.よって人類は火を使うことで天然では珍しいα結合したFruf分子重合物を生み出したといえる.

2.  ビフィズス菌によるカラメル化糖の資化能

興味深いことに一部のビフィズス菌や乳酸菌はd-Fruf-α2,6-Glcのようなα-d-Fruf含有糖質を炭素源とし,増殖することが分かっている1).このことからビフィズス菌がα-d-fructofuranosidase(α-d-Frufase)を有していることは明確である.これはビフィズス菌が,ヒトが火を使って調理し文明を築いていった中で共進化してきたことを示す.しかし,このような酵素の遺伝子はこれまで発見されていなかった.

私達はこれまでヒトの健康増進を目指し,善玉菌の代表格であるビフィズス菌の増殖と定着において重要である糖質代謝経路の研究を通して,様々な新規糖質関連酵素の機能と構造の同定を行ってきた.その一環で,カラメル化糖の資化に関与する酵素,difructose dianhydride I(DFA I)synthase/hydrolase αFFase1を同定したので,その機能解析と構造解析の概要について紹介する.

3.  DFA I synthase/hydrolase αFFase1の機能解析

私達はヒトの口腔内,そして腸内に生息するBifidobacterium dentiumが持つ遺伝子クラスターに着目した.この遺伝子クラスターではGH32 β-d-Frufase(BBDE_2039)と機能未知ドメインDUF2961含有タンパク質(BBDE_2040)が隣接していた.このことからBBDE_2040もFruf分子重合体の分解に関わる酵素であると仮説を立て,BBDE_2040をクローニングし,機能解析を行った.アルキル化配糖体d-Fruf-α-MeをBBDE_2040と混合したところ,Frufの遊離を薄層クロマトグラフィーで確認した(図1A).また,d-Fruf-α-Meと構造が類似しているd-Araf-α-Meでも同様の現象が見られた(図1B).これによりBBDE_2040は新規のα-d-Frufase およびα-d-Arafaseであると同定し,その活性からα FFase1と名付けた.

図1

αFFase1の活性.(A)d-Fruf-α-Me加水分解,(B)d-Araf-α-Me加水分解,(C)d-Fruf-β2,1-d-Fruf脱水縮合,(D)inulobiose脱水縮合.

α FFase1の天然基質を探索するべく,Fru,そしてFruとGlcの混合物を加熱してカラメル化糖を調製した.いずれのカラメル化糖でも,αFFase1と混合してHPAEC-PAD解析を行ったところ,酵素未処理のネガティブコントロールと比較して2つのピークの減少と,別の2つのピークの増大を観察した.

αFFase1の基質と生成物の化学構造を同定するべく,カラメル化糖から2つある基質のピークの片方にあたる化合物を精製した.これをαFFase1で処理することで反応生成物試料を調製し,基質と生成物のNMR解析を行った.基質試料は,還元末端にフルクトピラノース(Frup)を有する2糖の異性化混合物であった.一方,生成物はdiheterolevulosan II(DHL II, α-d-Fruf-1,2ʹ:2,1ʹ-β-d-Frup)という環状フルクトース2糖であることが分かった.よって基質は異性化混合物に含まれるd-Frup-β2,1-d-Frufであり,αFFase1はこの2糖の脱水縮合反応を触媒することが示唆された(図1C).

d-Frup-β2,1-d-FrufとDHL IIはそれぞれinulobiose(d-Fruf-β2,1-d-Fruf)とDFA I(α-d-Fruf-1,2ʹ:2,1ʹ-β-d-Fruf)に構造的に類似している.そこで,構造未決定の基質・生成物ペアがそれぞれinulobioseとDFA Iであると仮説を立て,イヌリンから各化合物を調製した.InulobioseをαFFase1と混合させたところ,予想通りDFA Iが合成された.また,興味深いことにDFA IをαFFase1と混合させるとinulobioseが9対1の比率になるように生成された.よって,αFFase1が触媒する反応は脱水縮合反応に偏った平衡反応であった(図1D).

4.  αFFase1の分子機能と構造解析

これまで詳細に研究されてきたDFA合成・分解酵素として土壌菌や一部の腸内細菌が有するGH91酵素群が挙げられる.しかし,これはイヌリン多糖を基質とし,リアーゼ様の機構で反応を触媒している2).一方,inulobioseのような2糖構造からリアーゼ反応でDFA Iは合成できない.αFFase1の反応機構は既報のDFA合成酵素と異なると考え,酵素反応の初期生成物の化学構造の変化を1H NMRで解析した.酵素添加後の合成基質pNP-α-d-Arafの加水分解反応をモニタリングし,反応初期生成物が同じαアノマー型を有していたことからαFFase1はアノマー保持型反応機構によって加水分解反応を触媒することが分かった.

Protein Data Bank(PDB)上ではαFFase1に最も近しい構造として,配列同一性36%のBacteroides uniformis由来BACUNI_00161が登録されている.しかし,この構造は構造ゲノミクスの一環で解かれたものであり,その分子機能は不明であった.他に類似構造はPDBに存在しなかったため,既報のタンパク質構造からαFFase1の分子機能を突き止めるのは困難であった.そこで,αFFase1を結晶化し,X線結晶構造解析を行い,分解能1.9 ÅでαFFase1の構造を決定した(PDB ID: 7V1V).αFFase1はD3二面対称性を持った6量体構造を有していた.各プロトマーはN末端から機能未知ドメインDUF2961特有の2つのβ-jelly rollドメイン(図2A,マゼンタと緑,double β-jelly roll,DJR),そして長いαヘリックスで構成されていた(図2A,青).DJR構造は既報の糖質関連酵素には存在しなかったため,構造生物学的にもαFFase1の新規性が示唆された.構造比較の結果,αFFase1はBACUNI_00161以外ではウィルス由来のキャプシド構成タンパク質と少なからず類似していることが分かった.よってDUF2961とウィルスのキャプシドは系統学的に遠縁でありながらも共通の祖先を持っている可能性が示唆された3)

図2

(A)αFFase1の6量体構造.一つのプロトマーについてドメイン毎に色分けして示す.(B)DFA Iのモデルを置いた活性中心の拡大図.サブサイト毎に残基名を色分けしている.文献6の図より一部改変.

共結晶化で獲得したαFFase1とd-Frufおよびd-Arafとの複合体構造(PDB ID:7V1Xおよび7V1W)では,プロトマー間の特定の部位にβ-d-Fruf,またはβ-d-Arafを視認でき,そこが活性中心であると判断した.アノマー炭素との位置関係からE291が求核触媒残基,E270が酸塩基触媒残基であると特定した.また,いずれのリガンドも同じ形で安定的にαFFase1と相互作用していることから,inulobioseやDFA Iも同様の形で活性中心に入り込むと考えた.また,inulobioseの還元末端(α-d-Fruf)が入る–1サブサイト,非還元末端(β-d-Fruf)が入る+1サブサイトを形成するαFFase1のアミノ酸残基を特定した(図2B).これらを踏まえて,αFFase1によるアノマー保持型脱水縮合反応機構を提唱した(図3).アノマー保持型反応機構は糖質関連酵素の中ではメジャーな機構だが,これを脱水縮合反応に利用している例は私達の知る限り現在のところαFFase1のみである4),5)

図3

αFFase1によるinulobiose脱水縮合の触媒反応機構.文献6の図より一部改変.

5.  おわりに

以上がカラメル化糖に作用する新規DFA I synthase/hydrolase αFFase1の研究成果である.本研究で扱ったαFFase1は糖質関連酵素データベースCAZyに登録されていたいずれの糖質関連酵素とも配列同一性を示さなかった.その上,構造,反応機構も独特であり,画期的な酵素であることが明らかになった.この発見により,新たなる糖質加水分解酵素ファミリーGH172が設立された6)

αFFase1は口腔内の齲蝕部から発見されたB. dentiumに由来しているが,同様の遺伝子クラスターが乳児型ビフィズス菌B. breveにも存在する.よってDFA Iやinulobioseは善玉菌の増殖因子として応用の見込みがあり,現在微生物学的に解析を進めている.更に,αFFase1と配列同一性45%以下のホモログでは活性中心の残基が保存されていないことから機能的に異なる可能性があり,その詳細は現在解析中である.

文献
Biographies

鹿島騰真(かしま とうま)

東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程学生

石渡明弘(いしわた あきひろ)

国立研究開発法人理化学研究所開拓研究本部専任研究員

藤田清貴(ふじた きよたか)

鹿児島大学農学部准教授

伏信進矢(ふしのぶ しんや)

東京大学大学院農学生命科学研究科教授

 
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