2022 年 62 巻 6 号 p. 338-340
曲率誘導タンパク質の吸着により,生体膜は形状変化するが,その吸着は他のタンパク質により制御されている.我々は,シミュレーションを用いて,このようなタンパク質の反応拡散と膜変形のカップリングについて研究した.チューリングパターンや進行波が膜変形により,どのように変わるか紹介する.

細胞内にはバナナ状のBin/Amphiphysin/Rvs(BAR)ドメインを持つタンパク質など,生体膜に吸着して膜を曲げるタンパク質が多く存在する1)(図1左).これらは曲率誘導タンパク質と呼ばれ,エンドサイトーシス時の小胞形成のような生体膜の形状変化を引き起こす.曲率誘導タンパク質が生体膜を曲げるにあたって,細胞内の他のタンパク質によって膜吸着が調節される.また,曲率誘導タンパク質は生体膜を曲げると同時に膜曲率の感知能を有し,生体膜の形状によっても膜吸着が調節される1).最近,こうした細胞内のタンパク質の相互作用と生体膜の形状変化によって曲率誘導タンパク質が生体膜上を伝播する化学反応波が引き起こされることが報告され2),膜変形を介した反応ネットワークが注目されている.しかし,その制御機構とそれにより引き起こされるダイナミクスは不明な点が多い.

曲率誘導タンパク質の生体膜への吸着.曲率誘導タンパク質による膜変形を介した反応ネットワークによって,生体膜上を伝播する化学反応波が生じる.
こうした反応ネットワークは反応拡散方程式でモデル化できる.そこで,我々はシミュレーションを用いて,反応拡散と膜変形がどのように相互作用するかを調べた3)-5).膜は動的三角格子模型で表し,曲率誘導タンパク質とその膜吸着を調節する制御タンパク質の2成分の反応拡散方程式を膜変形とカップリングさせた(図1右).反応拡散方程式としては,代表的な方程式であり,性質がよくわかっているBrusselatorとFitzHugh-南雲模型を用いた.膜の曲率の大きさに応じてタンパク質の膜吸着へフィードバックを加え,タンパク質の濃度と膜を曲げる強さに従って膜を変形させることでカップリングした.これにより,反応拡散系によってタンパク質の濃度が変化すると膜の形状が変化し,膜の形状変化によってさらに膜吸着の速度が変化するという,互いに調節し合うモデルとなる.
反応拡散系の2成分の拡散速度が大きく異なるとき,定常的な空間パターンが存在する条件があり,チューリングパターンとして知られている.生体におけるパターン形成のメカニズムとしても知られ,例えば魚の体表面の模様がチューリングパターンで理解できることが,実験的に示されている6).膜変形とカップリングした反応ネットワークについても,移動細胞の極性形成におけるパターン形成に関与することが報告されている7).そこでまず,チューリングパターンへの膜変形の影響を調べた3).
図2に小胞膜上のチューリングパターンの例を示す.変形しない球面上では斑点状のパターンが形成される条件にしている.曲率誘導タンパク質が吸着した部位(赤色)では,タンパク質の吸着により膜の曲げ弾性率が上がり,タンパク質の形状に従って球面状に曲がってコブ状の形状をとる.一方で,非吸着部位(青色)は吸着部位が好ましい曲率に変形するために逆方向に曲がり,小胞膜全体としてマルチポッド状になる.2成分の拡散定数の比を一定にして,拡散定数を小さくすると,チューリングパターンの間隔が狭くなるため,斑点状のスポットの数が増えてより凸凹した形状が得られる.

膜変形を伴うチューリングパターン.色は曲率誘導タンパク質の濃度を示す.曲率誘導タンパク質が吸着した部位(赤色)が球状に曲がり,その間の非吸着部位(青色)が逆方向に曲がり,マルチポッド状の形状をとる.拡散速度が小さくなると,チューリングパターンの間隔が狭くなるため,より多くの膜ドメインが形成される.文献3より転載.
またヒステリシスが見られ,小胞膜の初期形状によって反応拡散系によるパターン形成過程が変化し,得られる形状が異なることがある.図2左端の条件では,円盤形状から始めると,まず円盤の縁にタンパク質が吸着し,小胞膜を変形させながら1つのスポットが成長して図に示す球状のコブが出芽した形状になる.一方で,同じ反応条件で長細い楕円体状から始めると,膜曲率の大きい楕円体の両極に斑点が形成され,大きな形状変化を起こさず最終的にスポットが1つある楕円体状に落ち着く.
このような膜変形により,チューリングパターンの安定性が増し,球面上に比べ,より広いパラメータ領域でチューリングパターンが見られるようになる.また,初め曲率誘導タンパク質濃度の時間的な振動パターンを示していた状態から,タンパク質による膜変形を介してチューリングパターンへと転移するという,これまで報告のない現象も見つかった.
Minタンパク質群はバクテリアの細胞分裂において,細胞中央面の決定に関わっており,リポソームを用いた再構成系において,膜上を伝わる反応拡散波を起こすことが知られている8).最近,Minタンパク質の吸着に伴い,リポソームがくびれの形成を周期的に繰り返す形状変化を起こすことが報告されている9).このような形状変化は,図3に示すように,反応拡散に小胞膜の変形をカップリングされることで再現することができる5).小胞膜の変形が追随できるように,ゆっくりと波が伝わることが重要な条件である.

反応拡散波に伴うベシクルの変形.ベシクルにくびれが周期的に生じる.
また,球上では空間的に一様な濃度の振動が見られる条件でも,変形する小胞膜上では曲率が場所により異なるため,膜曲率の高い部位(条件によっては低い部位)を起点として,反応拡散波が発生することがわかった4).
細胞内では,小胞体やミトコンドリアなどでチューブ状の膜が見られるが,興奮波の伝播による膜チューブの変形も調べた5).タンパク質の吸着によって生じる自発曲率の値が大きいと,チューブにくびれを生じ,くびれを通過時に波が消失する(図4左図).膜の変形は,膜チューブの軸方向だけでなく,円周方向にも起こる.変形を起こしながら波が伝播することで波面に円周方向の波打ちが生じるが,膜チューブが太くなると円周方向の波打ちの波数が大きくなる.図4右図に波数2の場合を示す.このように円周方向に畝った形状の波が形を保ってチューブに沿って進行する.膜も波の形状に伴って変形しており,断面は楕円形になっている.

興奮波の伝播に伴う膜チューブの変形.曲率誘導タンパク質の吸着で生じる自発曲率が大きいと,左図のように膜にくびれが生じ興奮波が消失する.また,右図のように円周方向に畝った形状の波が進行することもある.文献5より転載.
曲率誘導タンパク質を含む2成分の反応拡散による膜のダイナミクスについて紹介した.反応拡散による膜上のタンパク質の濃度変化に伴って膜変形をすると共に,膜変形によりチューリングパターンや進行波の波形の変化が起こることで,様々なダイナミクスが見られた.2成分の比較的単純な反応拡散方程式を用いたが,他の方程式を用いることで,また異なったダイナミクスも起こることが期待される.生体内では,多くのタンパク質や他の分子が複雑に相互作用し合い,様々な生体機能を担っている.より生体内を模した条件で,膜のダイナミクスを明らかにするのが今後の課題である.