2023 年 63 巻 1 号 p. 16-20
脂質メディエーターであるプロスタグランジン(PG)はその受容体を介したシグナル伝達によって,生体内の様々な作用を示す.PG受容体の構造生物学によるシグナル伝達の分子機構の解明は創薬にも貢献する.

Prostaglandins (PGs), lipid mediators, exert various effects in vivo through receptor-mediated signal transduction, and the elucidation of the molecular mechanisms of signal transduction by structural biology of PG receptors is expected to contribute to drug discovery. We have elucidated the molecular mechanisms of ligand binding mode, signal transduction mechanism, and G protein selectivity through structural analysis of PG receptors. In this paper, we would like to introduce the structure and function of GPCRs revealed through structural biology of PG receptors.
プロスタグランジンE2受容体はGタンパク質共役受容体(G protein coupled receptor: GPCR)スーパーファミリーのクラスAに属し,7回膜貫通領域を持つ膜タンパク質である1).GPCRはほぼすべての生理現象に関わっており,現在上市されている医薬品の約30%がGPCRをターゲットとしていることから創薬ターゲットとしても知られている.GPCRは,細胞内の様々なシグナル伝達因子(Gタンパク質,アレスチン,キナーゼなど)と相互作用して複合体を形成し,シグナルを伝達する.その過程で様々な反応状態を経ており,このようなGPCRのシグナル伝達の詳細な分子機構の理解,さらには構造情報をもとにした創薬開発(Structure based drug design: SBDD)に構造生物学的手法は有用な情報を提供できる.これまでに多くのGPCRの構造が決定され,特にGタンパク質シグナルの伝達機構の反応ステップの詳細を明らかにしてきた.大まかには,GPCRは作動薬の結合しないアポ状態から作動薬結合による活性化状態へ構造変化し,活性化したGPCRはGDPが結合して不活性状態にあるGタンパク質と複合体となる状態を経る.GPCR-Gタンパク質複合体はGタンパク質からのGDPの乖離を促進し,Gタンパク質にGTPが結合するとGPCRから乖離する.その後,下流のシグナルを活性化することで細胞内機能を発現させる(図1)2).GPCRのX線結晶構造解析では,良質な結晶を得るために高収率かつ高い熱安定性に加え,結晶化を促進する融合体の位置の検討など,結晶化に適したコンストラクトスクリーニングに膨大な時間と経費,労力が必要である.特に熱安定性を高める変異体のスクリーニングが試みられ,いくつかGPCRに共通する変異が発見されている.拮抗薬や逆作動薬はGPCRの構造を不活性状態に安定化する効果が期待され,実際GPCRのX線結晶構造の多くは不活性型で構造決定されてきた.GPCRは作動薬が結合すると膜貫通領域(Transmembrane: TM)の5番(TM5)と6番(TM6)が大きく開き,一般的に構造はフレキシブルになるため,結晶化しづらい状態になるものが多い.作動薬結合状態で構造が決定された例もあるがアポ状態もしくは不活性型に近い状態での構造決定が多い.活性型状態での構造決定はGタンパク質かGタンパク質を模倣した抗体との複合体で達成されている3).近年ではクライオ電子顕微鏡単粒子解析(Cryo-electron microscopy single particle analysis: Cryo-EM SPA)の高分解能化により,GPCR-Gタンパク質複合体での迅速な構造決定が可能になった4).2017年のノーベル化学賞の対象となったこの技術はX線結晶構造解析と異なって結晶化の必要がないため,GPCRにおいては上述したような高収率および結晶化のための融合体の導入位置の検討などのサンプル調製への時間,経費,労力が大幅に削減され,迅速な構造決定を可能にした.X線結晶構造解析によりGPCR-Gタンパク質複合体構造を決定する過程でGタンパク質からヌクレオチドが外れたアポ状態がGPCRと安定な構造を形成することを発見したことも,Cryo-EMによるGPCR-Gタンパク質複合体の構造決定の促進に大きく貢献している.GPCRは単体では分子量50 kDa程度の小さな膜タンパク質であり,当初は高分解能の構造解析が可能か懸念されたが,抗体と結合したGタンパク質(100~120 kDa)との複合体形成などの工夫もあり,現在では3 Å分解能を超える高分解能の構造決定が可能になった5),6).界面活性剤のミセルに覆われたGPCRにGタンパク質という大きな可溶性領域が結合することによって形に特徴が生まれ,電顕データの解析に有効に働いたと考えられる.我々はこれらの構造解析技術を駆使してGPCR,特にプロスタグランジン受容体の構造をいくつか決定したので本稿で解説したい.

GPCRのGタンパク質活性化機構.
プロスタグランジン(PG)は生理的,病理的な刺激に応じて産生,分泌されるオータコイドであるプロスタノイドの一種である.プロスタノイドは細胞膜リン脂質からホスホリパーゼA2によって切り出されたアラキドン酸から様々なプロセスを経て数種のプロスタノイド(PGD2, PGE2, PGF2α, PGI2, TXA2)が生合成される脂質メディエーターであり,様々な生理的作用に関わっている.PG受容体のうちPGE2に特異的に結合する受容体はEPと命名され,さらにEPは種々のPGE類似化合物に対する反応性の違いにより4種類のサブタイプ(EP1, EP2, EP3, EP4)に分類される.Gタンパク質は大きくGi/o,Gs,Gq/11,G12/13の4種類分類されるが,EP受容体の各サブタイプが共役するGタンパク質はそれぞれ異なる1).EP1はGq,EP2/EP4はGs,EP3はGiにそれぞれ主要に共役する(図2).我々はこれまでにEP3,EP4の様々な反応状態の構造決定に成功し,リガンド結合様式やシグナル伝達機構,Gタンパク質選択性について検討したので,以下に解説する7)-9).

リガンド結合様式の情報については,内在性リガンドであるPGE2が結合した活性型EP3およびEP4(Gsが結合した複合体),阻害薬であるONO-AE3-208が結合した不活性型EP4のX線結晶構造情報と変異体による薬理学的解析によって重要なアミノ酸を明らかにした8).プロスタグランジン受容体を含めた脂質を受容するGPCRの構造生物学的研究を通じて明らかになったことは,脂質リガンドは細胞膜側から受容体内に進入する分子機構という点である.多くのGPCRは細胞外側から受容体のオルソステリック部位(内在性リガンドが結合する部位)に直接リガンドが進入可能であるが,例えばEP4は細胞外にその侵入を阻止するように細胞外ループ2と呼ばれるβヘアピン構造が蓋をしている(図3A:点線で共役するGタンパク質の種類ごとに囲っている).不活性型EP4構造ではONO-AE3-208はTM1とTM7の間の,クラスAに見られる一般的なオルソステリック部位よりは膜側に結合しており,一部は脂質二重膜に接していたことから,リガンドは細胞膜から進入して受容体に結合すると考えられた.PG受容体はシグナル伝達に重要なアミノ酸残基として7.40(BW番号)のアルギニン残基が知られていた.構造情報からONO-AE3-208とPGE2はやはりこのアルギニン残基と相互作用しており,それぞれのカルボニル基とイオン結合していることが明らかとなった(図3B, C).PGE2結合状態のEP3のX線結晶構造では,PGE2は7.40のアルギニンと結合し,EP4に結合したONO-AE3-208と異なりPGE2のω鎖はオルソステリック部位に伸びていた.面白いことにEP3の結晶構造では7.40のアルギニン側鎖には受容体の外部に存在する膜構成成分のリン脂質が結合していた.この構造からPGE2は細胞膜に入り,脂質二重膜中を移動してPG受容体の7.40のアルギニン残基に細胞外から結合し,その後受容体内にTM1とTM7の間から進入して受容体を活性化するという分子メカニズムが考えられた(図3C).

A.EP受容体の細胞外から見た図.βヘアピンがオルソステリック部位を塞いでいる.B.拮抗薬結合型EP4受容体構造.拮抗薬はTM1とTM7の間に結合する.C.内在性作動薬内在性作動薬PGE2結合型EP3受容体構造.作動薬はオルソステリックサイトに結合.D.PGE2結合状態EP3,EP4と6.48のアミノ酸の位置関係.E.EP3,EP4に対するGタンパク質のN末端ヘリックスの相対位置.A-E.PGE2結合型EP3(PDB ID: 6AK3,赤紫色),Gi結合型EP3(PDB ID: 7WU9,灰色),不活性型EP4(PDB ID: 5YWY,緑色),Gs結合型EP4(PDBID: 7D7M,水色).
こうやって結合した内在性作動薬PGE2がどのようにして受容体を活性化するのか?リガンドの電子密度がよりはっきりしている不活性型EP4構造とEP3活性化様構造を比較することによって考察すると,他のクラスA GPCRで共通して活性化に重要と言われている6.48のトリプトファン残基周辺の構造変化に起因していることがわかった.EP3の6.48はトリプトファン残基にPGE2のω鎖の先端が相互作用し,TM6を押し出すことによって構造変化し,Gタンパク質が結合できる活性化状態に移行すると考えられた(図3D)7),9).しかし,EP4では6.48はセリン残基であり,EP4-Gs複合体構造と比較するとPGE2と相互作用していない.EP4のPGE2結合による直接的な活性化メカニズムは依然不明のままである.
GPCRは複数のGタンパク質,アレスチンなどのシグナル伝達因子を活性化して生体機能の調節に関与しているが,同じ作動薬で複数のシグナルを伝達することもできる.創薬という観点から見ると,治療に効果的なシグナルとそうでないシグナルがある場合,効果的なシグナルのみを伝達する薬剤の開発を目指したい.GPCRの構造生物学によってすべてのGPCR-シグナル伝達因子複合体の構造を決定することができれば,それぞれのシグナル伝達経路の分子機構の詳細を理解できる.さらにこれらの構造情報を比較することにより,特にリガンドの結合様式の相違を薬剤開発にフィードバックし,シグナル選択的な薬剤の開発に貢献できると我々は考えている.PG受容体のGタンパク質複合体構造は,我々はこれまでにPGE2結合状態でのEP3-GiおよびEP4-Gs複合体の構造解析に成功し,ZhangらのグループはEP2-Gs複合体の構造決定に成功している.これらの構造を比較することにより,GPCR全般に共通して興味が持たれるGタンパク質の選択性について議論することができたので以下に説明したい.
EP3-Gi複合体構造はすでに結晶構造解析で決定した活性化様PGE2結合型EP3構造と重ね合わせると,Gタンパク質が結合することによって細胞内第2ループ(ICL2)が外に開く構造変化が見られたが,受容体のTM領域はほとんど一致した.EP3は恒常活性が高く,アポ状態でもGタンパク質と結合できる構造を形成していると考えられ,PGE2結合状態が活性化状態と同じ構造を形成するものと考えられた.次に,Giと共役するEP3と,Gsと共役するEP2/EP4の間にGタンパク質の選択性についての分子機構を明らかにした.PGE2結合状態のEP3-Gi,EP2/EP4-Gs結合状態の構造を比較すると,EP2/EP4-Gsの全体構造は酷似していたが,EP2/EP4-GsとEP3-Gi構造を比較すると受容体に対してGタンパク質のC末端αヘリックスの向きが異なっていた(図3E).このことはGiとGsに結合する受容体のアミノ酸残基の違いがあることを示唆している.そこでそれぞれの受容体とGタンパク質の相互作用するアミノ酸残基を比較して変異体を作製して薬理学的に解析したところ,Gi,GsのC末端のαヘリックスと相互作用する受容体のアミノ酸残基は双方ともにシグナル伝達に重要であることがわかった(図4).さらに,2つの箇所でGi,Gsのシグナルに差が出る場所が見つかった.一つは,すでにマウスのPG受容体で薬理学的解析によって報告されているICL2の34.51のアミノ酸残基である.この位置はEP3ではヒスチジン残基(H34.51)で,EP2/EP4ではチロシン残基であり,EP3においてこの残基をチロシン残基に置換すると本来活性のないGs活性が観測された.構造情報ではEP3のH34.51はGiのL194,T340と相互作用し,EP4のY34.51はGsのH41,F376と相互作用する.EP3のH34.51Y変異体はGsのH41,F376と相互作用できるようになり,この位置残基の置換でGsシグナル活性を示すことが可能になったと考えられた.他のGsと共役するGPCRでは34.51のアミノ酸がチロシンもしくはフェニルアラニンなどの芳香族アミノ酸であることが多く,Gsシグナル活性に重要であることが知られている.もう一つはEP3のTM5にある5.68のアルギニン残基(R5.68)である.この位置はEP4ではメチオニン残基(M5.68)であった.EP4においてM5.68R変異体のGsシグナル活性を測定すると活性が阻害された.M5.68はGsのQ384,R385と相互作用するが,M5.68R変異体はR385のアルギニン残基同士の立体障害もしくは電荷の反発によって相互作用しづらくなることが,活性の減少の原因だと考えられた.EP2の構造をEP4と重ね合わせるとEP4の5.68の位置はEP2では5.66であり,メチオニン残基であった.これらのことからPG受容体では5.68のアミノ酸はGsと共役する受容体はメチオニン残基である必要があり,アルギニン残基ではGsと共役できないことがわかった.これによりGタンパク質の選択性が生じると考えられた(図4).

EP3受容体のGタンパク質選択性に関わるアミノ酸残基.ICL2の34.51およびTM5の5.68の位置のアミノ酸はそれぞれGs,Giのシグナルに影響を与え,Gタンパク質の選択性を生み出す.
この2つのアミノ酸についてPG受容体と同様にサブタイプごとにGi/o,Gsと選択的に共役するGPCRとしてドーパミン受容体がある.ドーパミン受容体はD1からD5まで5種類のサブタイプがあり,これまでにD1-Gs,D2/D3-Gi複合体構造を決定している.34.51,5.68について検討すると,PG受容体と同様に34.51のアミノ酸残基ではGiと共役するD2,D3はメチオニン残基およびバリン残基と言った側鎖の小さいアミノ酸である一方,D1ではフェニルアラニン残基であった.5.68もD2,D3ではアルギニン残基で,D1ではグルタミン残基であった10),11).このようにPG受容体だけでなくドーパミン受容体でもこれらの部位はGタンパク質の選択性に寄与していることが示唆され,他のGPCRでも同様の性質を示す可能性が考えられた.GPCRはGタンパク質と相互作用するアミノ酸のうち,選択性を生み出す部位が存在し,Gタンパク質シグナルを制御している.
GPCR-Gタンパク質複合体のCryo-EM SPAはGPCRの構造生物学にパラダイムシフトを起こした.結晶構造解析のサンプルほど構造が均一なサンプルでなく,少ないサンプル量で構造決定が可能になったことが大きな要因である.一方,アレスチンシグナルはGPCRをリン酸化するGRKキナーゼとの相互作用を経て伝達されるが,GPCR-GRKおよびGPCR-アレスチン複合体構造はGPCR-Gタンパク質複合体構造ほど報告例がない.その理由は,GPCR-Gタンパク質複合体と異なり,安定な複合体の調製が難しいことが考えられる.現状ではCryo-EM SPAであっても過渡的な複合体の構造決定は困難である.GPCR-Gタンパク質複合体では様々な複合体安定化技術が開発されているので,アレスチンやGRKについてもすべてのGPCRに応用できる技術開発がなされることが求められる.すべてのシグナル伝達因子とGPCRの複合体構造の決定はGPCRのシグナル伝達の全貌を明らかにする上,副作用のないシグナル選択的医薬品の開発に有用な情報を提供しうる.構造生物学の進展によって医薬品開発の加速が期待される.
最後に,PG受容体の構造解析に取り組んできた森本和志助教(現九州大学),豊田洋輔博士(現清華大学),野島慎五さんをはじめ,関西医科大学医化学講座,京都大学医学研究科分子細胞情報学講座の皆様のご協力,ご尽力に深く感謝いたします.