生物物理
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総説
非熱的なゆらぎが分子モーターキネシンを加速させる
有賀 隆行立石 圭人富重 道雄水野 大介
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2023 年 63 巻 2 号 p. 86-90

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Abstract

生きた細胞内では,熱ゆらぎだけでなく非熱的なゆらぎもアクティブに生み出されていることが近年明らかになった.本稿では,生体分子モーターのキネシンに細胞内の非熱的なゆらぎを模倣した外力ゆらぎを加えた結果,高負荷下で速く動くようになったという私たちの最近の発見と,その理論的・生理学的解釈について解説する.

Translated Abstract

Kinesin-1, a molecular motor that transports intracellular vesicles, has been proposed to achieve efficient unidirectional movements, by utilizing thermal fluctuations. However, our previous study revealed that kinesin was less efficient than expected, by measuring the work/dissipation during their motion in vitro. We thus hypothesized that kinesin is optimized for the intracellular environment, rather than for in vitro experimental conditions. This review briefly describes the difference between in vitro and in cells, focusing on nonthermal fluctuations that occur in living cells. We then introduce our recent findings that kinesin moves faster under external force fluctuations that mimic the intracellular environment.

1.  はじめに~キネシンのゆらぎと効率~

生体分子が働くミクロな世界では,ゆらぎが大きな役割を担っている.特に微小管上を歩行しながら細胞内で小胞などの荷物を輸送する生体分子モーターであるkinesin 1(以下,単にキネシンと呼ぶ)は,環境の熱ゆらぎを積極的に利用することで,効率よく方向性のある運動を取り出していると古くから提唱されてきた1).近年では,その頭部が熱ゆらぎによって激しくゆらいでいることも実際に確認され2),キネシンのふたつの頭部でのATP加水分解によって環境の熱ゆらぎを整流する運動モデルが裏付けられつつある3)

一方,私たちは,運動している1分子のキネシンからの散逸を計測することで,エネルギー入出力の定量を試みた4),5).その結果,キネシンの運動ではATP加水分解から得られた入力の自由エネルギーの約80%は荷物へと伝達されず,分子内部で消費されていることを見出した.この結果は,あたかもキネシンの運動効率がとても悪いようにみえている6).しかし,細胞内で荷物を運ぶために何億年と進化してきたキネシンが,ただ単に効率が悪いとも考えにくい.そこで私たちは,キネシンは顕微鏡観察で用いているin vitroの実験環境ではなく,彼らが実際に働く場である生きた細胞内環境に最適化されているのだろうと仮説を立てた5),7)

本稿では,従来の顕微鏡観察で行ってきたin vitroの実験条件と生きた細胞内との間での顕著な相違点として,細胞内のみに存在する「非熱的なゆらぎ」に着目して簡単に解説する.続いて,運動中のキネシンに細胞内を模倣した外力のゆらぎを与えた結果,キネシンが速く動くようになったという私たちの最近の知見8)について紹介する.

2.  細胞内の非熱的なゆらぎ

細胞内の物質は,原核細胞では熱ゆらぎによって受動的に拡散し,真核細胞では分子モーターによって細胞の随所へと能動的に運ばれる.これが,従来の教科書的な描像である.しかし,生きた細胞内では非熱的なゆらぎが引き起こされ,能動的にも拡散していることが,原核9)および真核細胞10),11)で示された.このゆらぎは細胞内のエネルギー源を枯渇させると極端に弱まることが観察された.したがって,熱運動する水分子の衝突によって生じるブラウン運動(図1a)とは異なり,細胞によって代謝活動依存的に作られるアクティブなゆらぎである(図1b).

図1

a)熱ゆらぎとb)細胞内の非熱的なゆらぎの模式図.c)広い裾野をもつレビィの安定分布(実線),単純なガウスゆらぎの分布(破線),および数値的に生成し切り詰められたレビィゆらぎの分布(〇).

各種の阻害剤を用いた観測の結果10),真核細胞における非熱的なゆらぎは,主として細胞骨格を構成するアクチンと分子モーターであるミオシンによって生成されることが分かっている.アクトミオシンの再構成系でも非熱的なゆらぎが観測され,アクチンネットワーク構造の中に散りばめられたミオシンが力の双極子として働き,合力としてゆらぎを生み出すモデルが提唱されている12).こうしたアクトミオシンによって作られる非熱的なゆらぎは,熱ゆらぎでみられる単純なガウス分布とはまったく異なる統計的な性質を示した.その分布形状は,数学的にはレビィ(Lévy)の安定分布(図1c)と呼ばれる非ガウス型の分布に似ており,大きく裾野が広がっていた.このような非熱的なゆらぎの存在は,これまでのin vitroでの分子モーター研究ではまったく考慮されてこなかった.そこで私たちは,この「非熱的なゆらぎ」がキネシンの運動に影響を与えるのではないかと着想した.

3.  キネシンに人工的な力のゆらぎを加える

キネシンへの非熱的なゆらぎによる影響の検証には,歩行中のキネシンへの任意の外力操作を可能とした1分子力学応答顕微鏡4),5)を用いた(図2a).ここでは,細胞内でみられた非熱的なゆらぎを顕微鏡下で再現するため,レビィ型の分布にしたがって確率的に変動するシグナルを数値的に生成し,直径0.5 μmの粒子とトラップ焦点間の距離(Δx)を変動させて外力のゆらぎとした.トラップ焦点を動かす範囲は,光ピンセットの技術的限界により粒子の中心から後方に100 ± 100 nm以内に収まるように切り詰めた(図1c).これにより,進行方向と逆向きに引っ張る一定の平均外力(負荷;F0)に加えて,最大でもそれと同じ振幅までに制限された外力ゆらぎFnが加えられる.本条件でのキネシンは約–5.5 pNでストールするため,F0として–1 pNから–5 pNの負荷を用いた.数学的に厳密なレビィ分布は無限に広い裾野をもち,ゆらぎの分散も発散するが,これはごく稀にあり得ないほど大きい力を生成することを意味する.そのような外力は現実には実現しないため,私たちが生成した外力ゆらぎは,むしろ細胞内で実現されている非ガウスゆらぎに近いといえる.以下ではこのゆらぎを単に「レビィゆらぎ」と呼ぶ.

図2

キネシンのゆらぎ応答計測.a)1分子力学応答計測系.QPD:4分割フォトダイオード,FPGA:プログラム可能なロジック回路,AOD:音響光学素子.Δxは粒子中心とトラップ焦点の距離を示す.b)外力にレビィゆらぎを加えたキネシンの加速.各マーカーは平均の一定外力(負荷:F0)を示す.c)サイン波ゆらぎによるキネシン加速の周波数依存性.

一定の外力(負荷)に加えて,様々な大きさをもつレビィゆらぎを運動中のキネシンに与えた際の速度変化を図2bに示す.各マーカーはそれぞれ異なる平均負荷(F0)を示し,横軸はゆらぎの大きさを標準偏差として示している.外力にゆらぎを加えた場合と加えなかった場合の平均速度の比を相対速度として表すと,特に高負荷下において,ゆらぎが大きくなると共に増加する傾向がみられた.すなわち,外力にゆらぎを加えるとキネシンが加速する現象が確認された.

キネシンに加えたレビィゆらぎは,数値的に生成したために周波数依存性のない白色雑音となっていた.しかし,実際の細胞内でみられる非熱的なゆらぎは大きな周波数依存性をもっている10),11).そこで,キネシンの加速現象におけるゆらぎの周波数依存性を調べるため,様々な周波数のサイン波ゆらぎを外力に加えて,平均速度の変化を測定した(図2c).キネシンの運動に対する線形応答範囲を超える振幅で外力にサイン波ゆらぎを加えたところ,平均速度が変化して約200 Hzにピークをもつ特徴的な周波数依存性を示した.この結果は,キネシンの加速現象がゆらぎの周波数特性に強く依存することを示している.

4.  数理モデルによる加速現象の検証

観察された加速挙動をより詳細に調べるため,既に確立したキネシンの数理モデル4),5)を用いて数値シミュレーションを行った(図3a, b).キネシンは複雑な反応スキームをもつが,ここでは外力に依存しない遷移(速度定数:kc)と外力に依存する遷移(kfkb)で連結されたふたつの内部状態へと単純化した速度論モデルを用いた(図3a).kfkbは,以下に示すアレニウス(Arrhenius)型の外力依存性をもつ(図3c13)

図3

キネシンの数理モデルシミュレーション.a)キネシンの速度論モデル.b)プローブ粒子のモデル.c)前ステップの反応速度定数kfの負荷依存性(実線)とイェンセンの不等式の概念的説明(破線と矢印).d)キネシンの負荷と速度の関係(●)と理論によるフィッティング曲線(実線).e)レビィゆらぎによる加速現象.各マーカーは平均の一定外力(負荷:F0)を示す.f)サイン波ゆらぎによる加速の周波数依存性.実線は理論解析による(本文参照).

  

k f,b Fm = k f,b 0 exp df,b Fm kBT (1)

ここで,k0は外力が0のときの速度定数,kBはボルツマン定数,Tは絶対温度,Fmはモーターに加えられる外力,dは外力応答を特徴づける距離を示す.下付きのfおよびbは,それぞれ前方および後方へのステップ過程を示す.

実験では,キネシンの運動はプローブ粒子を介して観察され,光ピンセットによる外力も粒子に加えられる.その粒子とキネシンのモーター部位は,糊として用いるHisタグ抗体に加えて,ストークと呼ばれる尾部と頭部を結ぶ長いコイルドコイル領域をリンカーとして接続されている(図2a).そこで粒子の運動は,ステップサイズd = 8 nmごとにジャンプする点として表現されたキネシンに,弾性をもつ線形ばねで連結された粒子のランジュバン方程式で記述した(図3b).

  

Γ ddt xp = K xm - xp + Fp + ξ (2)

ここでΓは粘性抵抗,Kはストークのばね定数,xmxpはそれぞれキネシンと粒子の位置を表す.粒子への外力Fpは,一定外力(負荷)F0と,平均0のゆらぐ力Fnから成る.ξは白色ガウス型の熱ゆらぎであり,平均0,分散は2kBTΓで与えられる.

キネシンの速度論モデルで用いた5つのパラメータ kf0 ,  kb0 ,  kc ,  df ,  db は,キネシンの負荷速度関係に理論式をフィッティングさせることで得た(図3d).また,ストークのばね定数と粘性抵抗は,加水分解できないATPアナログを基質として微小管に固定したキネシンに繋がれたプローブのゆらぎから算出した.これらすべてのパラメータは外力にゆらぎを加えていない条件で実験的に決定したにもかかわらず,数値シミュレーションによりレビィおよびサイン波ゆらぎを加えた結果は,共に実験結果を忠実に再現した(図3e, f).

光ピンセットを用いた計測(図2)では,与えられるゆらぎの最大値が実験的制約により一定外力と同程度までに制限されていたが,シミュレーションであれば制約を超える条件で行うことができる.アクトミオシンの最大力は30 pNに達するため14),外力を±30 pNという生理的に妥当な範囲に拡張した条件でシミュレーションを行った.その結果,外力のゆらぎによって,平均負荷が高い条件であってもin vitroの無負荷条件と同程度に高い速度を達成できていた(図4a).

図4

a)生理的なゆらぎ条件下での数理モデルシミュレーション.各マーカーは平均の一定外力(負荷:F0)を示す.b)キネシンのゆらぎ誘導加速現象の模式図

5.  ゆらぎに誘導される加速現象の理論解析

この加速現象は,以下に示すイェンセン(Jensen)の不等式で定性的に説明できる.

  

kF k F , (3)

ここで,〈 〉はアンサンブル平均を表し,kは式(1)で示したアレニウス型の外力依存性をもつ速度定数である.このkは外力Fを引数にもつ指数関数であるため,Fに関する(下に)凸関数となっている.kが凸関数であれば,Fが変動したときの平均速度 kF は,平均のFの平均値が一定外力として加わったときの速度 kF よりも大きくなることが,イェンセンの不等式により一般に示される.図3cに下に凸なk(F)の関数形状と,Fが破線の範囲でゆらぐ際に kF の値が大きくなる概念的な説明を矢印で示した.ただし,この説明だけでは,図2cでみられた加速現象の周波数依存性を説明できない.

実験では,細胞内の小胞と同程度の大きさをもつ粒子を介して力の変動を加えており,キネシンに対しては弾性をもつリンカーを介して間接的に力が伝達されている.このとき,高い周波数の力の振動は,粒子とリンカーの応答により減衰するはずである.解析的に解ける例として,単純なガウスゆらぎを加えた際の,力の伝達による減衰も考慮した加速応答の理論推定値を,図3eの実線として示した.驚くべきことに,この実線は外力として加えたゆらぎの非ガウス性を考慮していないにもかかわらず,レビィゆらぎを適用したシミュレーション結果をパラメータの補正なしに再現できていた.また本稿では割愛するが,ガウス型の外力ゆらぎを加えた実験でも同様の結果が得られている.ちなみに,これらの非熱的なゆらぎを単純に温度換算すると数万度と非現実的な値となる.ただし,このゆらぎはあくまでも粒子の進行方向という一自由度のみに外力として加えられたものである.全原子のもつ全自由度に等しくエネルギーが分配される温度上昇とは,単純に比較ができないことに注意が必要である.これらの結果から,少なくとも今回の実験条件の下では,キネシンの加速現象が主にゆらぎの標準偏差(2次のモーメント)のみに依存しており,分布の形状(高次のモーメント)の影響は小さいといえる.

リンカーを介した力の伝達を考慮すると,サイン波ゆらぎでみられた周波数依存的な加速現象の高周波数側での減衰も説明できる.しかし,力の変動がキネシンに十分に伝達されるはずの低周波数領域でさえ,加速が減衰する傾向がみられていた(図2c).詳細は割愛するが,この低周波数における減衰はキネシンの速度論モデルに基づいて解釈でき,高周波数側での減衰と組み合わせることで,サイン波ゆらぎでみられた周波数依存性を定量的に再現できた(図3f実線).高周波数側と低周波数側での減衰挙動における理論的背景が異なることは,観測された約200 Hzにみられる加速のピークが,共振や共鳴のような現象ではないことを示している.

6.  考察~加速現象の普遍性~

ここまでキネシンに外力のゆらぎを加えた際の挙動をみてきたが,同じく微小管上を逆向きに小胞輸送するダイニンにおいても,同様にゆらぐ力を加えた結果が報告されていた15).私たちがキネシンで用いた高速のレビィ型のゆらぎとは異なり,ダイニンを用いた実験では,2.5 Hzという比較的遅い周波数で単純に前後にゆらす外力を加えることによって,無負荷時よりも速く動く現象が観察された.一方,キネシンに同じ条件で前後にゆらす外力を加えると,外力のゆらぎに応じて逆に減速する挙動がシミュレーションで示された(図3fでは一定負荷も加えているため,常に後ろ向きの外力である点に注意).外力のゆらぎがモーターの反応サイクルよりも遅い場合,図3aに示す個々の反応素過程は,その時々に加えられた(一定とみなせる)外力Fに対応した反応速度定数をもち,モーター分子はその負荷に対応した速度で運動する.したがって,これらの対照的な挙動は,それぞれの負荷と速度の関係から説明できる.ダイニンは外力0付近で下に凸の形状をした負荷速度関係をもつことから,前後にゆらすと平均として速くなるが,キネシンでは外力0付近で上に凸の形状をもつため(図3d),前後にゆらすと平均として遅くなる.この結果から,前後にゆっくり振動させた際にダイニンでみられた加速現象は,分子に特異的な力学特性に依存した,ある意味普遍性のない現象だといえる.

一方,キネシンで観察された,比較的高い周波数領域での加速現象は,反応素過程におけるアレニウス型の外力依存性とイェンセンの不等式により説明できていた(図3c).本来,アレニウスの関係は化学反応速度の対数をとると温度の逆数と比例する関係を示したものであり,一般には環境の温度を上げれば反応は速くなる.この関係は反応前後間でのエネルギー障壁を乗り超えるのにかかる時間として解釈されるが,このエネルギー障壁の形状は外力を加えることで変化する13).キネシンでは,ステップを伴う素反応に逆向きに力を加えると,遅くなる状況が式(1)として表わされている.この外力と反応速度の関係は,細胞接着因子の解離速度の外力依存性として初めて提唱され16),タンパク質やRNAの折り畳み速度でも報告されている17),18).すなわち,分子モーターの運動には限定されていない.一般に細胞内で働くほぼすべての酵素は反応に構造変化を伴うため,その反応速度はアレニウス型の外力依存性をもつと期待される.このときイェンセンの不等式は普遍的に成り立つことから,キネシンで発見されたゆらぎに誘導される加速現象は,非熱的なゆらぎを生み出している細胞内で働く一般の分子機械に適用可能な普遍性をもっていると期待できる.

今回の実験では,外力のゆらぎのみをin vitroで再現した.しかし,実際の生きた細胞内はもっと混雑しており,高い粘性をもっている19).実験条件での一定負荷は,高粘性による抵抗と同一視できることから,細胞内のような混雑下でも外力のゆらぎを利用して高い速度が達成できると期待できる(図4b).しかし,細胞内の混み合いは,粘性を介した荷物への抵抗だけでなく,キネシンの個々の頭部の運動や,リンカーを介した力の伝達にも影響を及ぼすはずである.したがって,外力のゆらぎだけでなく細胞内の混み合いも模倣した,より細胞内に近い実験条件を開発することが次の課題となっている.

7.  まとめと展望

私たちは,細胞内でみられる非熱的なゆらぎを模倣した外力をキネシン分子に加えることによって,特に高負荷下で加速する現象を見出した.数理モデルシミュレーションから,混み合いにより負荷が高くなる細胞内のような条件下でも,キネシンは速く動くことができると予想した.さらに今回発見した加速現象は,ふたつの普遍的な理論式によって定量的に説明できた.このことは,細胞内で働く一般的な酵素が同様の加速現象,あるいは活性化機構を備えている可能性を示唆している.細胞内にみられる非熱的なゆらぎは単なるノイズではなく,分子の活性を高める 「生命の活力」 のようなものかもしれない.

この成果8)が発表されると,細胞内のゆらぎが分子の運動を助けているという紹介記事が書かれた20).しかし,本稿で紹介した加速現象は,まだ人工的な条件でのin vitro実験と,数理モデルからの推測に過ぎないことに注意する必要がある.実際に生きた細胞内で非熱的なゆらぎが分子の活性向上に利用されているかどうかは,より直接的な検証が必要である.また,キネシンに外力ゆらぎを加えた実験では,in vitroで無負荷時に計測された速度をさらに向上させることはできなかった.そのため,細胞内でキネシンによって輸送される小胞の速度が,in vitroで観察されるキネシンよりもはるかに速いという未解決問題は依然として残されている21).本稿では,in vitroでの実験環境を細胞内のような非熱的にゆらぐ環境に近づけつつ,普遍的な理論を用いて数理的に解析するというボトムアップアプローチを紹介した.この方法論は,生体分子の研究者がしばしば遭遇する,細胞内での挙動と試験管内での挙動との間にみられる不整合の理解を助けるだろう.

謝辞

本研究は,科学研究費補助金・新学術領域研究「発動分子科学」(JP21H00405),「生命の情報物理学」(JP22H04846),およびJSTさきがけ「細胞の動的高次構造体」(JP21461289)の支援を受けました.

文献
Biographies

有賀隆行(ありが たかゆき)

山口大学医学系研究科准教授(特命),およびJSTさきがけ研究員

立石圭人(たていし けいと)

山口大学医学系研究科

富重道雄(とみしげ みちお)

青山学院大学理工学部教授

水野大介(みずの だいすけ)

九州大学理学研究院教授

 
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