生物物理
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総説
アクチンのとりうるコンフォメーション
小田 俊郎
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2023 年 63 巻 3 号 p. 138-142

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Abstract

アクチンは,真核細胞において多様な役割を担う.アクチンの役割とその作動機構を分子レベルで理解するためには,アクチンの構造を知ることが不可欠である.現在までに,200以上のアクチンの構造が解明されている.これらの構造を用いて,アクチン分子がとりうるコンフォメーションを議論した.アクチンのコンフォメーションは,4つのグループG型,F型,C型,O型に分類される.G型は安定なコンフォメーションで,G型のアクチンはC型やF型に変換されることはほとんどない.C型は不安定でG型に容易に変換され,F型はG型との間に障壁があり,準安定なコンフォメーションである.

Translated Abstract

Actin plays a variety of roles in eukaryotic cells. To understand the roles of actin and its working mechanisms at the molecular level, it is essential to know the structure of actin. To date, more than 200 actin structures have been elucidated. Using these structures, adoptable conformations of actin are discussed. Actin conformations were classified into four groups: G-form, F-form, C-form and O-form. G-form is a stable conformation, and actin that adopts G-form is rarely converted to C-form or F-form. C-form is unstable and swiftly converted to G-form, and F-form is semi-stable with a barrier between itself and G-form.

1.  はじめに

アクチンは真核細胞に最も多量に含まれるタンパク質の一つで,単量体Gアクチンと繊維状重合体Fアクチンの二種の状態をとり(図1a, b),主に細胞質に局在するが核にも存在する.細胞質では細胞骨格として細胞の形態保持,細胞やオルガネラの運動などの細胞機能を担うことが多い.アクチン線維はアクチン結合タンパク質(以下ABP)によって組織化され,膜の裏打ちなどとして機能し,また,アクチンの重合・脱重合サイクル(トレッドミリング)はモータとして働く1)-4).一方,核では遺伝子発現や核膜形態の調節に関わり5),6),例えば,アクチンの重合が転写リプログラミングに必要であるとの報告もある.また,クロマチンの構造を変換させるINO80複合体のArp8モジュールにアクチンが一分子含まれていることが知られているが7),その役割はよくわかっていない.このように役割がわからないものがあるものの,ABPがアクチンの基本的機能―重合すること・ATPaseであること―を変調・統合させ,多様な機能を担っていると考えられる.

図1

アクチンの2つの状態とコンフォメーション.a.単量体Gアクチン(PDB ID: 1ATN),橙色矢印はクレフトの開閉運動,緑矢印はせん断運動(IDを止めたときのODの振動方向)を表す.b.線維状重合体Fアクチン(13個の分子で表示)c.Gアクチン(G型1J6Z)d.Fアクチン(F型7W50)e.コフィィン-アクチン(C型5UY8).白矢印はG型からそれぞれのコンフォメーションになるために必要なODの変位方向を表す.

これら種々の細胞機能におけるアクチンの役割を分子レベルで検討するためには,アクチンとABPの詳細な相互作用やその構造基盤を明確にする必要がある.1990年,アクチン-DNase I複合体の結晶構造が解明され8),アクチンがヌクレオチドを取り囲む2つの大きなドメインからなること,この2つのドメインがわずかに捻じれていることが示された(図1a).この2つのドメインは,現在,線維形成時に線維の外側となるOuter Domain(OD)と内側となるInner Domain(ID)とよばれる(OD;図1aの赤,ID;青).それ以来,多様なABP(例えば,プロフィリン,ゲルゾリン,コフィリン,Arp4,CAPなど)との複合体の結晶構造,それに加えてX線繊維回折法や低温電子顕微鏡によってアクチン線維の構造も明らかにされた.現在,200以上の立体構造がPDBに登録されている.ABPとの結晶では,アクチン側の結合部位に多様性があるにも関わらず,アクチンの全体構造はほぼ同一で,2価イオンやヌクレオチドの種類にもほぼ依らない(図1c;例外については後に記述).ところが,2009年,線維を形成したアクチンは2つの大きなドメインの捻じれが解消され,平板化したコンフォメーションであることが示された(図1d9),10).2018年,コフィリンが結合したアクチン線維の低温電子顕微鏡構造から,GアクチンともFアクチンとも異なる,より閉じたクレフトをもつコンフォメーションが発見された(図1e11),12).このように,アクチン分子にも多様なコンフォメーションが報告されるようになった.では,アクチン分子はどのようなコンフォメーションを取り得るのであろうか(構造空間をもつのであろうか).アクチン分子が構造変化しながら機能を発現するのであれば,この情報は重要であろう.

2.  アクチンコンフォメーションの多様性

アクチン分子の構造変化に関する研究は,結晶構造が決定された直後,主鎖の2面角を変数とする基準振動解析を用いて行われた13).その結果は,2つの大きなドメイン(IDとOD)がクレフトを挟んでせん断運動(図1aの緑矢印)と開閉運動(図1aの橙色矢印)を行うことを示している.これは,IDとODを剛体のように考えて配置変化を測れば,アクチンのコンフォメーションを表せることを期待させる.そこで,IDとODの位置と向きを精度よく決めるために,各ドメインの内部に剛体のように変形が無視できるコアを設定した.375個のアミノ酸からなるアクチンのIDのコアは,アミノ酸残基番号で147-166,171-194,205-209,237-238,251-322とした.一方,ODのコアは7-31,70-71,76-108,115-137,338-347,355-364とした.これは先行研究8)をもとに設定したが,コアを見つけ出す一般的な手法motion tree14)の結果もこの設定を支持する.ドメインの配置は,テトラメチルローダミンを結合させ,重合を阻害し結晶化されたアクチン(PDB ID: 1J6Z)を基準に決定した.このアクチンを基準としたのは,重合阻害に用いられたものが比較的小さくGアクチンの構造と見なせること,高分解(1.54 Å)で構造が決定されていること,GアクチンとFアクチンの構造変化を検討する以前の研究9)で使用されたことなどによる.まず,測定するアクチンを1J6ZのIDに重ね合わせ,次にODの重心を平行移動で一致させた.ODの重心移動は小さく,得られた分類に影響を与えない.最後にODを重ね合わせるために必要な3軸まわりの回転角を測定した.この回転角(α, β, γ)を用いてコンフォメーションを表す(図2a).

図2

a.アクチン分子のODの配置を決めるために定義された回転角(α, β, γ)15) 青(ID)と赤(OD)の部位がコアに相当する.b.クラスタリングにより得られた樹形図15).aとbは文献15より転載.

127個の高分解能アクチン構造の回転角に対して,群平均法によるクラスタリングを行った(図2b15).4つのクラスターに分けるのが妥当であると考えられる.クラスター1(F型とよぶ)は,線維を形成したアクチン(PDB ID: 2ZWH, 5JLF, 6DJMなど)とフラグミン-アクチン複合体(PDB ID: 7W50など)からなる.クラスター2(O型)は,リン酸カリウムやグリセロールの使用により基本格子の一軸が伸びたプロフィリン-アクチン複合体の結晶で,クレフトが大きく開いたもの(PDB ID: 1HLU, 3UB5)からなる.これら以外のプロフィリン-アクチン複合体はG型に含まれる.クラスター3(C型)は,コフィリンが結合したアクチン線維(PDB ID: 5YU8)とツインフィリン-アクチン複合体(PDB ID: 3DAW)からなる.ツインフィリンはコフィリンと同様にADF-Hドメインをもち,アクチンに結合する.クラスター4(G型)は,F型,O型,C型以外の結晶構造を含む大きな集団である.

αβγの3次元空間で,原点(PDB ID: 1J6Z)からF型クラスターへのベクトルとC型クラスターへのベクトルがほぼ垂直に交わることを見出した(図3aの緑軸).この2本のベクトルが張る2次元平面に射影したところ,4つのクラスターが明瞭に分離した縮約グラフが得られた(図3b).GF軸はG型からF型への構造変化(図1d)である平板化の程度を表す.値が大きいほど分子が平板化する.一方,GC軸はG型からC型への構造変化(図1e)であるクレフトの開閉の程度を表し,値が大きいほどクレフトは閉まる.F型(青),C型(赤),O型(橙),G型(黒)の中心位置は(15, –1.4),(–0.19, 5.2),(2.9, –12),(4.5, –3.1)となった.この構造空間に対してアクチン分子のエネルギー地形が想定される.

図3

a.(α, β, γ)で表されたアクチンの構造空間15).原点(PDB ID: 1J6Z)からF型への緑直線とC型への緑直線が直交する.b.2次元化されたアクチンの構造空間15) 青:F型,オレンジ:O型 赤:C型(コフィリン)黒:G型.c.G型クラスターとABP15) ピンク:DNase I 緑:ゲルゾリン マロン:プロフィリン ただし,赤にはGアクチンと結合したツインフィリンの点も含まれる.d.G型から開始した5回のMDシミュレーション(200 ns-500 ns)の軌跡から作られた分布図15).赤色が観察される頻度が高いことを示す.a-dは文献15より転載.e.F型から開始したMD(150-500 ns)によりF型を保持した例.f.F型から開始したMD(150-500 ns)によりG型に転移した例.g.C型から開始したMD(1-500 ns)によりG型に転移した例.

3.  コンフォメーション集団間の転移しやすさ

重合などのアクチンの機能はクラスター間の転移と考えられる.クラスター間の転移しやすさを評価するため,それぞれのクラスターに含まれるアクチンに500 nsの分子動力学(MD)シミュレーションを行い,その軌跡が各クラスターの領域を掃引できるか調べた.G型構造から始めた場合,G型クラスターに含まれるコンフォメーションの行き来は可能であったが,500 ns程度ではC型やF型に転移することはなかった(図3d).図3cに示すようにG型クラスターではABPに依存して局在しているので,ABPは揺らぐアクチンのコンフォメーションを固定化すると考えられる.一方,C型から始めた場合,すみやかにG型に転移した(図2g).また,F型からの場合,F型に滞在するもの(図2e)とG型に転移するもの(図2f)が見られた.F型やC型は,アクチンやフラグミン,コフィリンとの結合によって初めて安定化される.さらに,O型からの場合,どの領域にも到達しなかった.O型の結晶構造ではATPのリン酸部が通常の結合サイトからはみ出しており,MDシミュレーションにより結合サイトに戻ることはなかった.G型は安定な状態,F型はG型との間にエネルギー障壁をもつ準安定な状態,C型は不安定な状態と考えられる.

4.  コンフォメーションから見た重合・脱重合

ABPにより制御されるアクチンの重合・脱重合サイクルの流れは,「プロフィリン-Gアクチンがアクチン線維の端に結合してプロフィリンが解離し,取り込まれたアクチンは結合したATPを加水分解してリン酸(Pi)を放出し,ADP結合Fアクチン分子になる.このアクチン分子はコフィリンとの結合が亢進してコフィリン-Fアクチンとなり,それにより線維からの脱重合が促進され,コフィリン-Gアクチンになる」となる.プロフィリン-Gアクチンはクレフトがわずかに開いている(図3bのマロン).一方,コフィリン-アクチンはより閉じている(図3bの赤).これらは線維形成に必須な平板化したF型(図3bの青)とは相いれず,プロフィリンの解離や線維からの解離が促進されると期待される.

5.  アクチンの局所コンフォメーションの多様性

剛体と近似されるコアの外縁部には,ABPや他のアクチン分子が結合する柔軟な部位や2つのドメイン間の接触変形部位などがあり,多くの研究が行われてきた(Dループ,Wループ,Sensorループ,Pro-richループなど;図4a).上記と同様な手法を用いて,ループのコンフォメーションにも多様性が見出される.例えば,Wループ(165-172)の主鎖は,線維内で見られるものとそれ以外に分けられ,この差異はW169の側鎖の向きにより生じると考えられる(図4b).線維ではW169がB端側サブユニットのDループに取り囲まれ,鍵と鍵穴のような相互作用を形成し,アクチン線維の安定性に寄与すると考えられる(図4c16).ABPやアクチンの結合によるアクチン機能への影響を考えるとき重要な手がかりとなる.

図4

a.アクチン(PDB ID: 6DJM)のループ b.Wループ(162-175)のコンフォメーションとW169 緑:線維(PDB ID: 6DJM) 黄:Gアクチン(PDB ID: 1J6Z) 主鎖とW169の側鎖のみ表示.c.線維を構成する相互作用-P端側サブユニット(緑)のWループとB端側サブユニット(水色)のDループ.W169がDループに囲まれていることがわかる.表面表示.

6.  アクチンの構造研究 現在とこれから

電子線直接検知型・超高速CMOSカメラの普及は低温電子顕微鏡によるタンパク質複合体の構造解析を進化させた.Raunserグループ17)とPollardグループ18)は独立に3-4 Å分解能でアクチン線維の構造を報告し,サブユニット間の相互作用の詳細,重合に伴う構造変化の詳細などを明らかにした.2つのグループで電子密度マップに置かれたDループの形状に一致しない点もあるが,更なる分解能の向上により解決されると思われる.最近,前田グループはフラグミンを用いてF型に固定したアクチンの結晶構造を分解能(~1.15 Å)で決定し,その構造をもとにQM/MM法によりアクチンのATP加水分解反応機構を解明した19).線維端の構造に基づいた重合やアクチン線維のPi放出に関する原子レベルでの解析は,今後,行われるであろう.

これまでは,静的な結晶構造に基づいた議論を展開してきた.アクチンの構造は結合したヌクレオチドに依存せずほぼ同一であるが,ATP結合GアクチンとADP結合Gアクチンには物理化学的な違いがあり,これが生理機能に重要である.最近,RosenのグループはNMRの緩和分散法を用いて,アクチンのダイナミックスをマイクロ秒~ミリ秒の時間スケールで測定し20),ADP結合GアクチンとATP結合Gアクチンのダイナミックスに明瞭な差があることを示した.このような動的構造(構造動態という)の理解なしに,これ以上,機能についての理解は進まない.

この総説原稿にコメントをいただいた前田雄一郎客員教授(名古屋大,岡山大)に感謝します.

文献
Biographies

小田俊郎(おだ としろう)

東海学院大学教授

 
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