アクチンは,真核細胞において多様な役割を担う.アクチンの役割とその作動機構を分子レベルで理解するためには,アクチンの構造を知ることが不可欠である.現在までに,200以上のアクチンの構造が解明されている.これらの構造を用いて,アクチン分子がとりうるコンフォメーションを議論した.アクチンのコンフォメーションは,4つのグループG型,F型,C型,O型に分類される.G型は安定なコンフォメーションで,G型のアクチンはC型やF型に変換されることはほとんどない.C型は不安定でG型に容易に変換され,F型はG型との間に障壁があり,準安定なコンフォメーションである.
細胞先導端のアクチン重合は,押す力を発生する「重合モーター」と考えられてきた.この力の発生を説明するブラウンラチェット機構がラメリポディア先端で稼働するかについて,検証した研究を紹介するとともに,同機構が細胞のメカノセンサーとなり,外力を細胞運動のための情報に変換している可能性について解説する.
遊走する細胞の形状には種を超えた特徴があり,直進性,探索性に関連する運動様式と深く結びついている.その変形ダイナミクスの数理的と,実際の顕微鏡画像データとの比較についての最近の進展を紹介する.
タンパク質のリン酸化は,非構造領域(IDR)で高頻度に生じる.この事実は,リン酸化によるタンパク質機能制御が,従来の「立体構造特異性」のみでは説明しきれないことを示す.本稿では,IDRにおけるリン酸化が,電荷ブロックを形成・消失させることで液-液相分離を促進・抑制するという新しい仕組みを概説する.
本来のタンパク質機能を維持したままで細胞種選択的に受容体を操作する細胞操作技術として,我々は配位ケモジェネティクス法を開発した.本稿では,代謝型グルタミン酸受容体(mGlu1)への本手法の適用および小脳スライス切片での細胞種選択的なmGlu1の活性化について紹介する.
microRNA(miRNA)は,その小ささとは裏腹に,相補的な配列を持つ遺伝子の発現を抑えるという大きな役割を果たしている.本稿では,これまでの手法とは異なり,miRNAによる遺伝子サイレンシングを1細胞・1分子レベルで解析することが可能な,新規イメージング法について概説する.
運動性細胞は,狭い生体組織中を素早く移動し,免疫系やガン転移等の生体機能を担う.細胞運動の背景に普遍的な力学的原理はあるのだろうか.我々は,運動性細胞の特徴を抽出した「人工細胞」を開発し,空間的な拘束条件の下で成り立つ運動速度と駆動力の関係式を見出した.実験結果の再現,運動機構,展望について論じる.
線虫C. elegansは温度への応答機構として,飼育温度に合わせて低温耐性を変化させる温度馴化機構を持つ.本稿では,線虫の神経系と腸が連関することで腸の脂質量の変化を引き起こし,線虫の温度馴化を調節する温度応答メカニズムについて紹介する.
環状ペプチドの膜透過係数および膜透過メカニズムを明らかにするための分子動力学シミュレーションプロトコルを開発した.正確な予測を行うためには修飾されたペプチド結合のcis-trans異性化のサンプリングおよび,ペプチドが膜中でほぼ完全に脱水和されるような膜モデルの選定が必要であった.
KIF5Aは細胞内でカーゴ輸送を行うモータータンパク質である.2018年にKIF5Aの遺伝子変異が筋萎縮性側索硬化症(ALS)を引き起こすことが報告された.本稿では最近明らかになってきたALS変異型KIF5Aタンパク質に関する研究結果を紹介する.
光化学系II(PSII)は光誘起電子移動によって酸素を発生させるタンパク質である.PSIIは発色団の吸収が著しく重なっており,過渡種の区別が難しく,その励起状態ダイナミクスは盛んに議論されている.著者らは,スペクトルの複雑性を克服するため二次元電子振動分光を応用し,複雑な電子移動経路を明らかにしたので,ここで紹介する.
概日リズムはアロステリーに基づくタンパク質の機能制御によって支えられている.時計タンパク質KaiCでは,ATP加水分解とリン酸化/脱リン酸化を担う2つのドメインがアロステリックに相互制御しており,概日リズムの自律的に振動する性質,周期・活性が温度に依存しない性質,分子間で同調する性質が実現されている.