生物物理
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トピックス(新進気鋭シリーズ)
microRNAによる遺伝子サイレンシングの1分子解析
元起 寧那泊 幸秀小林 穂高
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2023 年 63 巻 3 号 p. 160-162

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Abstract

microRNA(miRNA)は,その小ささとは裏腹に,相補的な配列を持つ遺伝子の発現を抑えるという大きな役割を果たしている.本稿では,これまでの手法とは異なり,miRNAによる遺伝子サイレンシングを1細胞・1分子レベルで解析することが可能な,新規イメージング法について概説する.

1.  はじめに

microRNA(miRNA)は,タンパク質をコードしないわずか22塩基ほどの小さなRNAである1).その小ささとは裏腹に,miRNAは相補的な配列を持つ標的遺伝子の発現を抑えるという重大な役割を果たしている2).ヒトゲノムには500種類ほどのmiRNA遺伝子が存在しており,タンパク質をコードする遺伝子の60%以上がmiRNAの標的になるとも見積もられている.従って,miRNAによる遺伝子サイレンシングについて理解を深めることは,生物学における重要課題の一つと言える.しかしながら,1993年にmiRNAが発見されてから今日に至るまで,miRNAによる遺伝子サイレンシングは主に「バルク」の解析系によって研究が行われてきた.すなわち,数多の細胞から回収した数多の分子の総和について解析が行われてきた.そのため,miRNAによる遺伝子サイレンシングが,1細胞・1分子レベルでどのような挙動を示すのかといった生物物理学的な側面については,長年にわたり謎に包まれている.そこで我々は,こうしたmiRNAの未知の側面にアプローチするべく,miRNAによる遺伝子サイレンシングを1細胞・1分子レベルで可視化する新規イメージング法を開発した3).本稿では,本手法の原理と解析実例について概説する.

2.  イメージング法の原理

miRNAはArgonauteタンパク質(AGO)と結合し,RNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれる複合体を形成することで遺伝子サイレンシングを実行する2).具体的には,RISCは,miRNAを介して相補的配列を持つ標的mRNAに結合し,その翻訳を抑制する.その後,標的mRNAは脱アデニル化され,分解される.そのため,miRNAによる遺伝子サイレンシングを1細胞・1分子レベルで可視化するためには,①標的mRNA,②翻訳ペプチド,③RISCの3要素を,細胞内において1分子レベルでイメージングする必要がある.そこで我々はまず,これを可能にする人工的なレポーターmRNAを構築した(図1).本レポーターmRNAの特徴は第一に,single-molecule FISH(smFISH)と呼ばれる手法4),5)(1種類のmRNAに対して40種類ほどの蛍光プローブをアニールさせる手法)により,mRNA自体を1分子感度で可視化することができる.第二の特徴として,本レポーターmRNAのORFには,SunTagと呼ばれるペプチド6)がコードされている.SunTagはGCN4と呼ばれる因子のエピトープが24回連続したペプチドであり,かつGCN4エピトープはフォールディングを必要としない.そのため,GCN4抗体を用いた免疫染色により,リボソームから出てきたばかりの翻訳ペプチドを1分子感度で可視化することができる.第三の特徴として,本レポーターmRNAの3ʹUTRには,miRNAの標的配列が挿入されている.具体的には,本手法で使用したヒトU2OS細胞において最も多く存在するmiRNA(miR-21)の標的配列が8ヶ所挿入されている.そのため,AGO抗体を用いた免疫染色により,mRNA上のRISCを高感度で可視化することができる.以上の原理により,mRNA・翻訳ペプチド・RISCの3要素を1分子レベルで細胞内イメージングすることが実際に可能となった(図2).

図1

miRNAによる遺伝子サイレンシングを1分子レベルで細胞内イメージングするための原理.

図2

mRNA・翻訳ペプチド・RISCの3要素の細胞内イメージング.

イメージングデータを解析するにあたっては,まず,XY平面だけでなくZスタックも取得することで,3Dデータを取得する.次に,取得した3DデータをFISH-quantと呼ばれるアルゴリズム7)で処理することで,シグナルの検出・定量・座標抽出を行う.最後に,シグナル間の3D距離を計算することで,3D共局在解析を走らせる.これにより,細胞内の全ての1分子mRNAについて,その翻訳状態とRISC結合状態をin situで定量解析することが可能となる(それぞれのmRNAには空間情報が紐づいている).さらに,本手法で用いるレポーターmRNAは,薬剤誘導性のプロモーターによりその転写が厳密にコントロールできるよう工夫されている.そのため,転写を誘導してから特定の経過時間においてイメージングを行うことで,mRNAに時間情報を紐づけることも可能である.このように,本手法は,miRNAによる遺伝子サイレンシングを1細胞・1分子レベルで可視化するだけでなく,その時空間的な情報についても抽出できるようになっている.そのため,例えば「mRNAが核内で転写され,核外輸送の後に細胞質で翻訳され,最終的には分解される」という一連の流れの中で,「いつ・どこで」RISCがmRNAに結合し,その翻訳を抑制するのかといった解析も可能である(時空間解析の実例については,4節で後述する).

3.  mRNA・翻訳・RISC結合の1分子解析

本イメージング法により,実際にmRNA・翻訳ペプチド・RISCの3要素を1分子レベルで可視化・解析した結果,miRNAによる遺伝子サイレンシングについて,多くの新しい知見が得られた3).その一例としては,細胞内の1分子mRNAを翻訳状態とRISC結合状態を指標として4つのクラス[❶RISC陰性の非翻訳mRNA,❷RISC陰性の翻訳mRNA,❸RISC陽性の非翻訳mRNA,❹RISC陽性の翻訳mRNA](図3)に分類し定量解析した結果,「RISCは,翻訳されていないmRNAよりも,翻訳されているmRNAを好んで結合する」ことが明らかになった.具体的なデータとしては,非翻訳mRNAより翻訳mRNAの方が,RISC陽性率もRISCシグナル強度も共に高いことが見出された.なお,RISCの1細胞あたりの分子数は,例えば我々が使用したU2OS細胞では15,000分子ほどと見積もられており,その発現量は高くない.そのため,RISCの役割がmRNAの翻訳抑制であることを踏まえると,RISCがそもそも翻訳されていないmRNAに結合するのは,貴重なRISCの無駄遣いとも言える.従って,本イメージング法によって見出された,「RISCは翻訳されているmRNAを好む」という新しい知見は,極めて理にかなったものと解釈することができる.現状,RISCがどのような仕組みで翻訳中のmRNAを選択するのかについては明らかでないものの,例えば「翻訳中のmRNAではリボソームによってmRNAの構造が解かれるため,RISCがmRNAにアクセスしやすくなる」といった可能性が考えられる.こうした可能性については,今後検証していきたい.

図3

細胞内の1分子mRNAを翻訳状態とRISC結合状態を指標として4つのクラスに分類する解析実例.

4.  mRNA・翻訳・RISC結合の時空間解析

上述したように,RISCはmRNAの翻訳を抑制する複合体である.そのため,もしRISCがmRNAに結合後,即座にその翻訳を抑制するのであれば,RISC陽性mRNAの大部分は非翻訳mRNAとして観察されるはずである.しかしながら,上記のmRNAを4つのクラスに分類した1分子解析では,むしろRISC陰性mRNAよりRISC陽性mRNAの方が,翻訳率も翻訳強度も共に高かった(この結果は,RISCが翻訳されているmRNAを好むことに起因すると考えられる).こうした事実から,RISC結合と翻訳抑制の間には,知られざる「タイムラグ」があることが示唆された.そこで,薬剤誘導性のプロモーターによりレポーターmRNAの転写を誘導し,薬剤処理後0分,30分,60分においてイメージングを行うことで,RISC結合から翻訳抑制までのタイムラグについて検証した.その結果,まず,RISC結合は薬剤処理後0分(mRNAの大部分はまだ核内にいるが,一部は細胞質に出てきている時間)の細胞質において高効率で観察された.すなわち,RISC結合はmRNAが核外輸送されると即座に起こることが判明した.しかしながら,この時点では翻訳状態については変化が認められず,翻訳抑制は薬剤処理後30分以降で初めて観察された.従って,1分子解析の結果を裏付けるように,RISCがmRNAに結合後,その翻訳を抑制するまでには,実は30分ほどのタイムラグが存在することが明らかになった3).この興味深いタイムラグがどのようにして生じているのかについては,今後検証を進めたいと考えている.

5.  今後の展望

これまでの「バルク」の手法とは大きく異なり,本イメージング法では,miRNAによる遺伝子サイレンシングを1細胞・1分子レベルで解析することが可能である3).さらに,各々の細胞の各々のmRNAには,空間情報(細胞内の3D座標・局在)と時間情報(転写後の経過時間)が紐づいており,時空間的な解析も可能である.従って,本手法は,miRNAによる遺伝子サイレンシングが「いつ・どこで」起こるのかという重要な側面に対して,1細胞・1分子の両レベルからのアプローチを可能にするという点で,今後有用なツールとなることが期待される.我々自身も,本イメージング法を武器に,miRNAによる遺伝子サイレンシングの知られざる生物物理学的な側面について,開拓を進めていきたいと考えている.

末筆ながら,本手法を開発するにあたっては,Robert H. Singer博士(Albert Einstein College of Medicine及びHHMI Janelia Research Campus)から物心両面での多大なるご支援をいただいた.この場をお借りして,心より感謝申し上げたい.

文献
Biographies

元起寧那(もとき ねいな)

東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程

泊 幸秀(とまり ゆきひで)

東京大学定量生命科学研究所教授,東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

小林穂高(こばやし ほたか)

JSTさきがけ専任研究者,東京大学定量生命科学研究所 特任講師

 
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