昨年4月より関東支部長を務めさせていただいています創価大学の池口雅道です.よろしくお願いいたします.生物物理学会で初めて発表したのが1984年横浜国立大学で開催された第22回年会で,それ以来40年間会員として活動しています.本年度で第62回を迎える生物物理学会年会の歴史に比べて,関東支部発表会は歴史が浅く,本年3月に開催された発表会で13回目(http://www.biophys-kanto.org/past.html)になります.ポスターではなく口頭発表の形式をとっており,深い議論を交わす目的で日本語での発表,質疑を原則としています.また,一つの会場で全員が同じ発表をじっくり聞くという形態も重視しており,私たち年配者には昔の年会を思い起こさせる発表会になっています.若い方々はご存知ないかもしれませんが,かつては大学のキャンパスが年会の会場になっており,分野別に教室に分かれて,全発表者が口頭で発表していました.自分の研究と近いものだけではなく,会場で次々と発表される色々な話を聞いていると随分勉強になったものでした.さて,昔話はこれくらいにして,3月に開催された支部会の報告に移りましょう.
第13回関東支部会発表会は2024年3月6日,7日の二日間に渡り,東京理科大学・神楽坂キャンパス・富士見校舎(写真1)で行われました.世話人代表の東京理科大学の梅村和夫先生,会場運営にご尽力いただいた鞆達也先生ならびに学生の皆さんにこの場を借りて改めて御礼申し上げます.

会場となった東京理科大学・富士見校舎
発表会では全体で41件の発表があり,若い方たちが活発に質問されていたのが印象に残りました(写真2).支部会発表会では講演7分で質疑3分のA発表と講演14分で質疑6分のB発表のどちらかを選ぶことができます.ある程度まとまった研究をじっくり議論したい場合はB発表を,予備的な研究だが反応を見たいなどの場合はA発表をといった具合です.41件の発表のうち8件がB発表でした.また,学部3年生の発表が3件,4年生の発表が13件ありました.学部学生の発表が多いのも支部会の特色です.開催時期がちょうど卒業研究発表の時期に近く,学内の卒業研究発表のために用意したスライドをそのまま使えるのもメリットの一つかもしれません.この記事をご覧になった研究室のPIの皆さんも次回,ご自身の研究室の学部生を押し出してみてはいかがでしょうか.

発表会場の様子
参加者の所属としては関東圏の高専,大学がほとんどですが,今年は生物物理若手の会,副会長の藤井真子さんが遥々神戸から参加してくれました.生体膜を模倣した人工的な脂質二重膜を規則的に配列させる技術に関する自身の発表に加えて,若手の会が企画しているIUPAB2024前夜祭のプロモーションもしてくれました.
関東支部会では座長を希望するあるいはやってもよいという方(学生も含む)は,事前参加登録の際に意思表示してもらうようにしています.座長も若い人たちに引き受けてもらい,若手の積極的な参加を促すためです.今年もあまり手を挙げてくれる人はいませんでしたので,博士を取得されている若手の方に個別に依頼しました.お引き受けいただいた皆様,ありがとうございました.先にも述べましたように発表に対する質問については,学生さんが積極的に質問してくれるようになったと思います.今度はぜひ座長にも挑戦してみてください.
発表内容としてはタンパク質の構造,物性,機能に関する発表が比較的多かったでしょうか.他には細胞生物学的な研究,生体膜関連,光生物学関連など多彩な内容です.興味深かったのはある学部学生の発表で,データ解析に用いるプログラムをChat-GPTに作らせたというのがありました.指導教員の先生に伺ったところ,その学生はプログラム言語に関する知識がほとんどなかったそうです.自分がやりたい計算の内容を要求仕様書のようにChat-GPTに指示すると,数回のやり直しで目的に叶うプログラムを作ってくれたそうです.「ついにここまで来たか!」と感嘆しました.こうなると「果たして大学生にプログラミングを教える必要はあるのだろうか」と考えてしまいます.私自身が長年関わってきた「タンパク質の折りたたみ問題」(天文学的な数の可能なコンフォメーションの中から最安定な天然構造を探す問題)を解くこと,つまりアミノ酸配列からタンパク質の立体構造を予測することは難しかった訳ですが,2020年にDeepMindのチームによって開発されたAlphaFold2は深層学習の手法を用いて,これまでよりも格段に優れた立体構造予測能力を示しました.一瞬「X線結晶構造解析やNMR,クライオ電顕による手間のかかる構造解析は要らなくなるの?」と思わせました.実際にはまだまだ手間のかかる実験による構造解析は必要ですが,いずれは不要になる時代が来るのかもしれません.
全体としては,今回初めて参加された研究室も多数あり,嬉しかったですが,関東エリアには多数の大学があることを考えますと,もっと様々な研究室から発表があっても良いだろうと思います.ここ数年,参加研究室が固定化しつつあると感じており,支部会で発表することにいかに魅力を持たせるかが課題であると感じています.
第一日の夕刻には発表会場と同じ建物にて懇親会が開催されました(写真3).52名の方に参加いただき,ふんだんな料理とお酒で会話が盛り上がっていました.昨年度3年ぶりの対面開催と同時に懇親会も開催しましたが,今年はさらに参加者も増え,コロナ前の賑わいが戻ってきた気がします.生物物理学会の懇親会といえば料理の争奪戦がつきものですが,昨年と同じく料理が余るほどで,ハラル料理の準備など,きめ細やかな対応をいただいた梅村先生をはじめとする会場運営の皆様に感謝申し上げます.

懇親会場での集合写真
2日目の昼食前には総会を開催しました.この数年,「支部会が独自の銀行口座を持っているのは生物物理学会の隠し口座と見られないか」との懸念から,支部会をどのような位置付けにするかが議論されてきました.支部会を生物物理学会とは独立の組織にするとか,支部会は独立の銀行口座を持たず,支部発表会を開催する度に生物物理学会から費用を支出して開催するとか,いくつかの案がありました.高橋生物物理学会会長からは各支部で,どうするのが望ましいか議論くださいとの依頼を受けていましたので,総会ではこの点について議論しました.結論としては,関東支部としては,これまで通り独自の銀行口座を維持しつつ,支部として活動したいという方向で意見が一致しました.
来年の支部会発表会ならびに懇親会は,井上圭一先生のお世話で,2025年3月4,5日に東京大学の柏キャンパスにある物性研究所での開催を予定しています.多くのご参加をお待ちしています.