2024 年 64 巻 4 号 p. 222-223
初めまして.生物物理若手の会北海道支部長を務めております,武川祐一郎です.北海道支部には現在37名のメンバーが所属しており,若手会の地方支部の中で最大規模となっております.6年前は北海道支部はたった1名だったことを考えると1),この数年で北海道の生物物理の輪は大きく広がったと言えます.さて,この度2024年2月17日に北海道大学(以下,北大)にて,生化学若い研究者の会北海道支部および分子科学若手の会と合同でキャリアセミナーを開催しましたことをご報告させていただきます.
博士学生あるいは進学を考えている学生の多くは,経済的な不安とキャリアの不安に悩まされたことがあるでしょう.経済面に関しては,近年は博士学生を対象とした制度が充実しつつあります.一方で「自分はどういう道を歩んでいきたいんだろう?」のようにキャリアの漠然とした不安を解決してくれる機会は,需要はあるもののそう多くありません.実際,以前北海道支部が開催したセミナーでも,博士課程修了後のキャリアに強い関心が持たれていました2).かくいう私も「アカデミアに興味はあるけれど,生き残れるのか?」と頭を抱える日々….このような悩みに押しつぶされて才気あふれる研究者の卵が研究の世界を去るのはあまりに悲しいことです.そこで,悶々としている学生の皆様に活路を見出すきっかけになればという想いで,博士課程修了後のキャリアに焦点を当てたセミナーを企画いたしました.
本セミナーは生化学若い研究者の会北海道支部および分子科学若手の会と共同で主催しました.運営スタッフで話し合い,本セミナーは「海外留学」「企業とアカデミアの両方を知る」「男女両方の観点」という要素を主軸としました.そこで,若手の頃から北海道で生物物理に携わられ,現在も世界でご活躍されている3人の先生方にご講演いただきました.1人目は北大で博士号取得後にマックスプランク研究所でポスドクをされ,現在はカリフォルニア大学で補佐研究員としてご活躍されているChen Minghao先生(Zoom配信),2人目は北大で博士号取得後にみずほ第一ファイナンシャルテクノロジー株式会社に勤められ,現在は東京大学で助教としてご活躍されている秋田大先生,3人目は北大とモントリオール大学でダブル・ディグリー・プログラムにて博士号を取得され,現在は北大で助教としてご活躍されている中川夏美先生です(表1).
プログラムと講演者一覧
| プログラム(講演者) |
|---|
| 若手の会および夏学紹介(各若手の会代表) |
| ~カリフォルニアだより~ 博士課程進学を考えている君へ (Chen Minghao先生・カリフォルニア大学) |
| 会社員になった理由と,辞めてアカデミアに戻った理由 (秋田大先生・東大) |
| 多量体化を介したペプチドとタンパク質の機能制御 ~研究テーマを俯瞰して,専門を広く構える~ (中川夏美先生・北大) |
本セミナーは現地とZoom配信を用いたハイブリッド形式で開催し,遠方の方々でも気軽にご参加いただけるようにしました.また,ポスター掲示とSNSでの広報活動も精力的に行いました.その結果,大盛況だった前回セミナーの参加者数50名3)をさらに上回る91名の方々にご参加いただきました(図1).また,当初参加者の大半は博士課程学生や進学を考えている修士課程学生と想定していましたが,多くの学部生にも参加していただけたのは嬉しい誤算でした(図2).

セミナーでの集合写真.現地・オンライン参加者が集まり講演後に撮影.

参加者の人数内訳(全91人中).
本セミナー参加登録フォームにて先生方への質問を募集し,参加者の皆様から多くの質問をいただきました.先生方にはこの回答も含めてご講演いただき,活気と学びにあふれたセミナーになりました.
Chen先生のご講演では,先生のご経験を基に海外でのポスドクとして採用される流れやその際に気を付けるべきことなどをお話しいただきました.私の中では「自分のキャリアにストーリーを持たせる」という言葉が印象に残っています.また,キャリアに不安を抱える学生に向けて「その気持ちはよくわかるし,自分も不安な時もある」「失敗はたくさんあるけど,振り返って有意義だったと思えることが大切」など優しい言葉をかけていただきました.
秋田先生のご講演では,企業からアカデミアに戻ったきっかけやその時に感じたことなどをお話しいただきました.秋田先生は就職後にとある論文に魅了されたことをきっかけに研究の世界に戻ろうと決意したそうです.思い立ったが吉日,決意から1年も経たないうちにポスドクとして採用されたエピソードには驚きましたが,金銭面での不安をはねのけてとにかく研究をやりたい!という情熱とそれを実現する行動力に勇気をもらった参加者も多かったのではないでしょうか.
中川先生のご講演では,研究の話も交えつつ,ダブル・ディグリー・プログラムを含むご自身のキャリアについてお話しいただきました.ご講演のサブタイトルにもあるように「自分の研究テーマをひとまとまりにして,専門を広く構える」という指針が深く心に残りました.個人的には,就活でお祈りメールをもらっても「今後もよろしくお願いします!」とポジティブに返す姿勢が大変参考になりました.研究者は楽観的な方がよいとはよく言いますが,それは学生がキャリアを考えるうえでも同様なのだと思います.
一口にキャリアの悩みと言っても「就活はいつから始めるべきか」のような具体的な悩みだけではなく,輝かしい自分の将来を思い描くことができず,どこを目指せばいいかわからない,何に悩めばいいのかすらわからない,と漠然とした不安を抱えてもがき苦しんでいる人も多いと思います.本セミナーはそういった人たちが先輩方の経験談を基に自分なりの人生の答えを出すきっかけとなり,将来への不安を解消できればという想いで開催いたしました.実際,参加後アンケートでは,「とても参考になった」「参考になった」の回答率が100%であったことから,多くの方に響くセミナーをお届けできたと思います.
また,本セミナーは先述のとおり3つの若手の会が合同で主催し,多様なバックグラウンドを持つ方々からご参加いただきました.今後もぜひ関係を続けていき,分野を跨いだ同世代との交流に繋げていくことができればと思います.
本セミナーは主に猪子雅哉,佐藤芙由,柴垣光希,武井梓穂,武川祐一郎,田中綾一,野村亮斗(五十音順)の7名のスタッフで運営しました.スタッフをはじめ,準備に関わってくださった方や参加者の皆様に心から感謝申し上げます.特に,広報にご協力いただいた小松崎先生と研究室スタッフの皆様に深く感謝申し上げます.最後に,悩みを抱えた学生に魅力的なご講演で希望を与えてくださった3名の講師の先生方にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます.