生物物理
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書評
生命科学が変わる!タンパク質の構造・機能の基礎から研究テーマ例まで
倉光成紀,増井良治,中川紀子[著] 大阪大学出版会,2024年3月29日,B5判,262ページ,定価3,300円(税込)
菅瀬 謙治
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2025 年 65 巻 2 号 p. 120

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期待以上に得るものが多かった本である.授業のネタがあれば良いという軽い気持ちで読み始めたが,構造生物学や生物物理学の初学者にも非常に有益な情報が詰まっていた.タンパク質の構造と機能に焦点を当て,生命現象を化学反応として理解するための基礎から最新の研究成果まで幅広くカバーしており,著者の豊富な研究経験と深い洞察が随所に表れている.特筆すべきは,研究者としての姿勢や考え方も学べる点である.

本書は,DNAからタンパク質合成までの基礎的な内容から始まり,段階的に理解を深められる構成となっている.第1章ではセントラルドグマを通じて「生きていること」の素晴らしさを概観し,第2章では生命現象を定量的に理解するための基礎知識が提供されている.第3章ではタンパク質の立体構造形成や安定性に関する説明が行われ,第4章では酵素反応の定常状態解析を通じて酵素の機能を解明している.第5章では,酵素タンパク質の構造と機能に関する現状と未解明部分が議論され,最後の第6章では細胞全体で働くタンパク質群が取り上げられている.

また,数式を用いた理論的な説明だけでなく,実験プロトコルやソフトウェアの使用方法,さらにはクイズまで盛り込まれており,読者の興味を持続させる工夫が随所に見られる.とくに著者が「わかっていないこと」にも率直に触れている点が印象的で,今後の研究の可能性にも考えを巡らせる内容となっている.本書は,構造生物学や生物物理学を学ぶ学生はもちろん,すでに研究に携わっている若手研究者にとっても,新たな視点や研究のヒントを得られる貴重な一冊となるだろう.また,高度な内容でありながら,著者の丁寧な説明と工夫により,生命科学に興味を持つ一般読者にとっても,生命の神秘と科学の魅力を感じられる書となっている.

 
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