生物物理
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談話室
40-50年後の次世代生物物理学者の皆さんへ
IUPAB2024実行委員および日本生物物理学会理事会
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2025 年 65 巻 2 号 p. 84-100

詳細

はじめに

2024年6月に開催されたIUPAB2024は,世界50カ国以上から2000人近くの参加者を集めた素晴らしい会となりました.本稿では,IUPAB2024および関連イベントの企画や運営に関わった皆さんに,それぞれの企画の経緯の記録をお願いしました.40~50年後に再び日本でIUPABが開催される際の次世代の生物物理学者の皆さんへのエールとしたいと思います.

1.  IUPAB2024全体のコンセプトと運営

はじめに

本稿は,IUPAB2024の誘致から計画・実施まで一貫して関わって来た者として,本学会を牽引する次世代の方々に引き継ぐ意味があると思われる我々の記憶・記録を簡潔に記したい.ここでは特に,本大会の背景に関する内容と,運営に関わる部分について記す.

会議概要

IUPAB2024 Kyoto大会は2024年6月24日から28日まで,“Rocking Out Biophysics!”というテーマのもと,計10つのPlenary talkおよびKeynote talk,41のSymposium,19のスポンサーセミナー,Congress dinnerをはじめとする多彩なSocial eventを実施した.加えて,生物物理若手の会主催による前夜祭IUPAB2024 Eve Fest,市民講演会,Hands-on trainingなどの関連行事も行われ,非常に充実したコンテンツとなった(表1).

表1

大会プログラム概要

Plenary/Keynote lecture Plenary 3,Keynote 7
学術シンポジウム 41
若手賞受賞講演 1
スポンサーセミナー 19(BP・モーニングセミナー)
Social event 5(Congress dinnerなど)
関連行事 (Hands-on-training course,Eve Fest,市民講演会)

この充実したプログラム内容に加えて,本学会の国際担当をはじめとするメンバーの活発な働きかけによって,当初想定を大きく上回る参加人数となった.その統計データを表2に示す.

表2

IUPAB2024Kyoto大会の概要

日付 2024年6月23日~28日
主催団体 IUPAB及びBSJ
会場 京都国際会議場
参加者数 1,918名
性別 女性438名,男性1,287名,その他
参加国数 52
口頭発表 216名(海外135名,国内81名)
ポスター 1,135名(海外339名,日本796名)
出展社数 38

経緯

本大会の経緯を遡ると少なくとも10年以上前となる.有志メンバーからなる準備委員会が2013年に発足し,IUPAB大会誘致活動から活動を開始した.2014年IUPABブリスベン大会では,2020年大会を沖縄で開催することを提案した.この提案は惜しくもブラジル大会案に敗れた*1.しかし,続く2017年のIUPABエジンバラ大会では京都開催を提案し誘致に成功した.その後,パンデミックで1年延期となった2021年のIUPABフォス・ド・イグアス大会を経て,今回の2024年大会となった.

背景(国際化戦略)

本大会は,日本生物物理学会の長期にわたる国際戦略の一つのマイルストーンであり,開催自体がゴールではない.生物物理学は本質的に学際性を有しており,本学会員の国籍や所属組織のボーダレス化もゆっくりとではあるが進んでいる.加えて,将来の少子化を考えると本学会の学術活動の量と質を維持するためには,本学会をより国際化した生物物理学のプラットフォームへと変貌させる必要がある.私の知る限りこの戦略を明文化したものは存在しないが,本学会の歴代会長・副会長が綿々と繋いできた重要な理念である.この理念は,本学会が他学会に先駆けて国内年会を英語化したことや*2,アジア諸国やオーストラリアとの二国間交流シンポジウムという形で具現化している.IUPABにおいては永山國昭氏が2008-2011のIUPAB会長を務め,最近では西坂崇之氏がIUPAB理事およびABA会長を務めている.IUPAB2024も,この国際化戦略の中で位置付けられている.

コンセプト“Rocking Out Biophysics”

前号の永山・片岡氏の原稿で紹介されている通り,日本がIUPAB大会を主催するのは今回が2回目である*3.初回は1978年であり,今回と同じ京都国際会議場で開催された.1978年大会の趣旨は,世界で行われている当時最新の生物物理学を知ることであった.これに対し2024年大会の趣旨は,上述の国際化戦略の沿った逆のベクトル,すなわち「海外の研究者に日本の生物物理学研究と本学会の文化を発信する」ことをコンセプトとした.

IUPAB2024はパンデミック後初めてのIUPAB大会となる.zoomに慣れてしまった人々を京都まで呼ぶためには,充実したコンテンツもさることながら,全体を貫くコンセプトが重要であるということになった.そこで,有志メンバーでの意見交換会および実行委員会での議論の末*4,本大会のテーマを,“Rocking Out Biophysics!”とした(図1).ここには,生物物理学が目指す「物理化学的な視点と技術で生命科学を革新する」という意味と,日本生物物理学会の文化である「科学会議をお祭りのように楽しむ」という2つの意味が込められている.まず,このテーマを本学会員へ浸透させるために,前年度の2023年名古屋年会の総会シンポジウムで「Rockな生物物理」に関する意見交換会を行った.しかし,若干上滑りな感じもあり,会員からどのような評価であったかは怖くて聞いていない.

図1

IUPAB2024のテーマ.

さて,IUPAB2024では,“Rocking Out”な雰囲気を盛り上げるためにギターを模したコンセプトイメージ*5図1)の大型のポスターを各所に配置した.また,テーマ曲を京都出身バンドであるくるりのRock’n’ Rollとし,セッションやシンポジウム開始前に会場に流した.加えて,Plenary talkおよびKeynote talkが開始される直前の空き時間に,各speakerの好きな楽曲を会場に流した(図2).さらに,Congress dinnerを含めてほぼすべてのSocial eventでは,ミュージシャンに生演奏をしてもらった.生物物理の多様性を象徴するようにRock,FusionそしてJazzや雅楽まで多彩なmusicianに演奏をしてもらった(図3).

図2

学術プログラムの様子.安藤教授によるPlenary talk(上段左),ポスター発表(上段右),口頭発表(下段).

図3

演奏してくれたアーティストたち.開会式でのAUN&HIDE(上段左),歓迎会でのFuyuko(上段右),夕食会でのAUTO-CORD(下段).

運営

10年にわたるこのプロジェクトは,以下の3つの委員会によって計画・実施されてきた.

1.IUPAB誘致WG(2013年-2017年)

2.IUPAB2024準備WG(2018年-2022年)

3.IUPAB2024実行委員会(2022年-2024年)

1および2は,定義された会というより生物物理学会の有志が集まって組織された.1と2はメンバーが流動的であったため,その名前をここには挙げることができないが,野地・田端・永井の3名はこのプロジェクトの最初期から最後まで担当した.

IUPAB実行委員会は,初期は機動的に運営したいと考え少ないメンバーでスタートし,会期が近づくにつれ増えてくるタスクと連動させる形で実行委員メンバーを主に公募で増員した.さらに,複雑化するタスクを整理するため,その役割を明確化することを目的に幾つかの委員会を設置した.最終的には以下のような組織とした.

・Executive organizing committee

・Scientific program committee

・Finance committee

・Sponsorship committee

・Public relationship committee

・Poster committee

・OMOTENASHI committee

・Public lecture committee

・Eve Fest committee

主だった委員会の活動についは,本稿の後半で述べるためここでは詳細は述べないが,通常の年会では設置しない本大会に特徴的な委員会として,OMOTENASHI committeeおよびPublic relationship committeeを挙げたい.OMOTENASHI committeeは,本大会のコンセプトである“Rocking Out Biophysics!”に沿って各Social eventを企画・実行した.例えば,京都のお酒を用意して大好評だったKyoto nightの成功はこの委員会の努力によるものである.Public relationship committeeは若い実行委員から構成され,本大会の情報を積極的に発信するために主にSNSを通した情報発信をしてもらった.大会前から会期中までリアルタイムに楽しい情報を発信してもらい,会を大変盛り上げもらった.また,「生物物理若手の会」による自主企画である「IUPAB2024 eve fest」(以降,イヴフェスタと呼ぶ)をサポートするための委員会も設置した.イヴフェスタも大変に盛況だったそうである.情報発信とイヴフェスタは,今後も続けると良いのではないかと考える.

最後に,このような多彩な企画を実現するために必須となる財政についてコメントしたい.今回の総予算は最終的に約1.4億円となった.そのうち,寄付金や企業等による協賛金は7000万円であり,残りは主に参加費である.予算総額は当初1.1億円を予定していた.これでも通常年会よりはるかに大きな額である.そのため,協賛プログラムに関する説明会を2度にわたって実施したが,募集後の申込みは大変に低調であった.当初は大赤字を覚悟したが,実行委員メンバーおよびに本学会の有志メンバーによる働きかけのおかげで,最終的に協賛金および参加者も想定を超えることに成功した.この大きな協賛金は,本学会メンバーの努力もあるが,日頃本学会と交流のある企業・財団・諸団体による理解と協力によるものである.私たちは,学会は研究者だけの組織ではなく,企業メンバーと共に形成するエコシステムであると考えている.これも本学会の大きな財産である.この関係性も大切に維持していきたい.

まとめ

IUPAB2024の評価を私自身ではできないが,仮に本学会や生物物理学のコミュニティにとって価値のあるイベントになったとすれば,日本生物物理学のオープンな雰囲気と会員全員のご理解とご協力によるものである(図4).また,協賛などを通してサポートしてくれた各企業・財団・諸団体の応援によるものでもある.そしてもちろん,今回のプロジェクトに参加してくれた全メンバーの努力によるものである.本当は各メンバーを紹介したいが,スペースがそれを許さない.しかし,謝辞の意を含めてメンバー全員がリストされているIUPAB2024のサイトをここに示す*6

図4

Conference dinner後の集合写真.

野地博行(東京大学大学院工学系研究科)

田端和仁(東京大学大学院工学系研究科)

*1  2014年誘致活動自体は参加者に好評だったが,投票権を持つ各国代表へのロビー活動は難航した.一つの大きな要因は,ブラジル大会案をラテン系諸国が一丸となって推したのに対し,日本がアジア諸国をまとめきれなかった点にあった.その象徴が,当時のIUPAB会長であり中国生物物理学会会長のRao氏がIUPAB総会での「アメリカ軍基地がある沖縄開催は危険である」という発言である.2014年当時,今以上に日中の政治的衝突が激しかった.これは,政治と独立と考えられがちな学術のコミュニティにおいても国際政治の影響を露骨に受ける事例とも言える.なお,これを教訓に2017年誘致では会場を京都に変更し,アジア各国に対してはABA(アジア生物物理連合)および二国間交流シンポジウムを通じて京都大会誘致への支援の下地を作った.

*2  2000年過ぎに本学会の理事会で大きな議論があり,一時的なより戻しもありながらも2005年ごろには年会は英語化されたと記憶する.

*4  実行委員の永井健治氏と田端和仁氏とのニセコ会議においてRockという基本方針が定まり,実行委員の由良氏からの助言でRocking Outというフレーズに確定した.

*5  F1-ATPaseの立体構造および永井氏から提供されたPC12細胞における有芯小胞の蛍光イメージをもとに知り合いのデザイナーの佐藤暁子さんに作成してもらった.

2.  理事会の役割

2023年から24年期の日本生物物理学会の会長と副会長を務めるに当たり,髙橋,坂内と西坂はIUPAB2024を成功させること,それにより,学会の国際化をさらに進めることを,我々の活動の最も大切な目標と設定しました.本学会は,他の学術団体に先駆けて2006年に年会の発表を英語に統一しました.またIUPABの誘致と準備の努力を継続してきました.我々の方針は,これらの努力を継承するものです.本稿では,2023-24年期の理事会がIUPAB2024の開催に果たした役割をまとめ,本学会の将来を展望したいと思います.

2017年に野地博行さん(東京大学)が中心となって本学会がIUPAB大会の招致に成功した時,多くの皆さんは,期待と共に不安も感じたのではないでしょうか.以前の我々にとって,IUPABとは1978年に京都で開催された伝説的なイベントであり,HuxleyやHendersonなどの研究者が夏の学校にも参加したことなど,当時の学会の思い切った企画の凄さを思い知らされるイベントだったと思います(ノーベル賞を受賞する研究者も学生と一緒に合宿し議論を楽しむのだという生物物理学の楽しさを再認識した上での指摘です).そのような会を企画できるだろうか,予算は大丈夫かという不安を誰もが持ったのではないかと思います.

この不安に立ち向かい,揺るぎない方針設定と細やかな状況判断により準備を進め,誰もが大成功と認めるIUPAB2024をやり抜いたのは,野地さんや田端和仁さん(東京大学)を中心とした実行委員会の皆さんです.魅力的なテーマ設定と統一感,考え抜かれた講演プログラム,パフォーマンスに彩られたおもてなしイベント,新しいハンズオンセッションの企画など,実行委員会の成果は多岐にわたります.数々の新しいイベントにより,参加者は特別感と高揚感を持ったのではないでしょうか.新たな伝説となるIUPAB2024を成功させた実行委員会の皆さんの努力を,心から称賛したいと思います.

本学会の理事会は,IUPAB2024実行委員会の要請に基づいて,IUPAB2024開催における金銭的な支援を,厳正な議論を経た上で行いました.第一に,学生会員の参加費補助を行いました.本学会の通常の年会では,学生会員の参加費は低く設定されています.一方でIUPAB2024は国際学会であり,参加費用を高く設定する必要があります.そこで,本学会の学生会員の希望者のうち117名について参加費補助を行いました.補助の対象者は,一つの研究室あたり最大二人として研究内容とは関係なく決めました.補助の総額は351万円になります.また,2024年初頭に発生した能登半島地震の被災地に近い研究機関に所属する学生会員数名の参加費も支援しました.

第二に,IUPAB2024に参加する外国人学生や外国人若手研究者に日本の優れた研究手法を学んでいただくためのハンズオンセッションの参加者補助を行いました.林久美子さん(東京大学)中心に企画されたハンズオンセッションは,IUPAB2024の開催地決定の際に招致委員会がアピールした公約でもあります.理事会では,ハンズオンセッションに参加する外国人学生の国内分の旅行費用の支援を行いました.この総額は500万円でした.これらの支援金は必要経費と考えていましたが,結果的にIUPAB2024の会計から返金される予定です.

本学会の理事会は,さまざまなイベントを企画し,金銭的な支援以外にもIUPAB2024開催に寄与しました.本学会の特徴は,学生や博士研究員が年会の主役であり,若手を応援するイベントが多いことではないかと思います.この雰囲気をIUPAB2024でも維持するため,以下の協力を行いました.i)「IUPAB2024学生・若手研究者ポスター賞」の選考.これは,IUPAB2024に参加したすべての学生と若手研究者を対象としました.ii)本学会の若手会員を対象とした「生物物理学若手研究者賞」の選考シンポジウムの実施.iii)学会の全参加者が参加できる「男女共同参画シンポジウム」と「キャリア支援シンポジウム」の開催.iv)生物物理学会若手研究者の会が主催するイヴフェスタへの資金援助.これらのイベントの詳細は,それぞれの担当者による報告を参照されてください.イベントを担当された皆さんや,審査を担当された皆さんのご努力にお礼を申し上げたいと思います.

以上のまとめとして,2つのメッセージを書かせてください.第一は,本学会は面白いサイエンスを議論するための前例のない企画を,50年も前から継続して仕掛けてきたということです.こんなことをやったら面白い,こんなプレゼンがあったら楽しいという企画があれば,前向きに試すことが本学会の伝統と思います.一方で,通常の年会において,例年通りの企画や発表が単に繰り返されている部分はないだろうかという視点も,忘れてはならないと思います.

第二に指摘したいのは,本学会の国際化の努力は間違っていなかったということです.IUPAB2024の成功は,年会の英語化の努力の集大成とも言えるのではないでしょうか.将来の本学会は,日本人会員による日本(だけ)の学術のための活動の場ではなく,広く世界の,特にアジア地区の研究者が集う場となり,それにより日本や世界の学術をより豊かにする姿が望ましいと考えます.IUPAB2024の成功は,本学会がそのような姿に変わりつつあることを示しています.

髙橋 聡(東北大学多元物質科学研究所)

坂内博子(早稲田大学先進理工学部)

西坂崇之(学習院大学理学部)

3.  財政とスポンサー

IUPAB2024の最終決算はまだであるが,24年9月現在の収支報告によると収入・支出ともに1億4千万円.大きな赤字も黒字もなく均衡の取れた決算になりそうで財務担当一同ほっとしている.IUPAB2024は通常年会の2倍近い会期の国際会議であるため,予算も通常年会の3倍程度が見込まれた.この規模の予算となる学術会議開催の機会はそうあるわけではないが,今後のために財務関連の動きと反省をまとめておきたい.

予算編成に当たっては,国際会議を開催する上で最低限必要な事項の予算を見積もり,そこにやりたいイベントに必要な予算を積み上げて全体予算を作成し,その後の収入状況に応じてイベントの拡大・縮小を行うことを基本とした.まずは支出で大きな割合を占める会場関係費を固める必要がある.そこで22年3月末までに各候補会場のラフな見積もりと下見を行い,京都国際会館に決定した.次に,実際の予算の積み上げには経験豊富な国際会議運営業者の力が必要である.そこで,いくつかの業者にコンタクトを取り,22年5月にコンペを実施し,運営・予算管理を委託する業者をコンベンションリンケージ社(以下リンケージ)に決定した.以降,予算案の作成は業者が行い,我々はその内容をチェックし修正することで予算管理を行った.プログラムやイベント等の形が見えてきた22年末から予算編成を本格化し,協賛金・助成金の目標金額や参加費の原案を決め,23年3月に予算書原案を作成した.

会場が決まれば会議開催の骨子となる支出は半ば自動的に積み上がる.そこに実行委員会メンバーが実施したいプログラムやイベントを提案し,実施予算を追加する.すると必要な収入が見えてくる.収入を多く獲得すれば,提案された内容の多くが実現できるので,我々の活動の中心は如何に収入を得るかということになる.そこで,22年末からスポンサー獲得に向けた動きを本格化した.他学会の年会に参加した際には,企業展示ブースを回り,IUPAB2024のチラシ配布と趣旨説明を行い,協賛の準備に向けて社内調整を行っていただくよう依頼した.23年6月には協賛趣意書の作成と各企業担当者の連絡先の情報収集を開始した.リンケージからの原案と過去の趣意書に基づいて協賛プランを作成した.今回はこれまでに実施したプランに加えてモーニングセッションの協賛,2日目夕のKyoto Nightへのブース出展,トラベルアワード協賛,X(旧ツイッター)での広報といったプランを新たに追加した.協賛趣意書は23年8月に完成し,協賛実績のある企業に加えて可能性がありそうな企業にも協賛趣意書を送付して,9月末にはオンラインで企業説明会を開催した.また,9月開催の国際会議に参加した委員が企業ブースを回りIUPAB2024の協賛趣意書(英語版)を配布し協賛の陳情を行った.しかし,協賛申し込みの出足は非常に鈍かった.当初は,複数の協賛プランを組み合わせてディスカウントするパッケージプランとして4つの大型プラン(ダイヤモンド,ゴールド,シルバー,ブロンズ)のみを用意していたが,一つも応募はなかった.一方で,小型~中型のパッケージプランの要望が寄せられた.そこで,新たに22のパッケージプランを追加し,23年11月に開催された名古屋年会で実行委員会メンバーが企業ブースを回り,IUPABでの協賛依頼を行った.また,実行委員会メンバーや生物物理関係者から,個人的に繋がりがある企業に対して協賛の働きかけをしてもらった.さらに,野地大会委員長からも各企業にトップセールスをかけてもらった.このような活動が実り,最終的に目標協賛金額3700万円を超える協賛金収入を達成できた.

今回の場合,予算収入の半分は参加費であるが,参加登録の出足も鈍く,かなりやきもきした.参加費の決定については後述するが,Early Birdで一般参加費5万円と設定したため,想定から100名減ると500万円の収入減となる.例年,登録数は締切間際に一気に増えるとわかっていても,1週ごとに報告される登録数のあまりの少なさに祈るような気持ちになった.しかし,Early Birdの登録締切後,24年5月に予算の最終チェックを行ったところ,有料参加者が1000名を超えることがわかり,収入面での心配がなくなった.最終的には,有料参加者が想定より300名以上多い1300名超になった.また,300名を超える非会員の有料参加があり,収入面はもちろんのこと,学会の広がりという面でもありがたい結果になった.

以上,財務関連の動きを時系列に沿ってまとめたが,ここからは気づいた点や反省点についていくつか記しておきたい.

・協賛趣意書作成の始動が遅かった.協賛趣意書の送付が開催日の10ヶ月前だったのに対し,多くの企業は1年以上前から協賛する学会を選び予算を組むとのことである.22年末には実行委員会メンバーが他学会の年会で企業ブース回りをしてIUPAB2024の案内を始めていたのだが,この時点では協賛趣意書ができておらず,社内での具体的な予算措置に至らなかった企業も多かったと思われる.企業側が計画的に協賛できるように,早めに協賛趣意書を作ることが重要である.特に国際会議は通常年会より会期が長く協賛金も高いので,企業側もそれなりの準備が必要である.協賛趣意書が必要なタイミングなど,あらかじめ企業にヒアリングするのも良いのではないか.

・協賛プラン設定は妥当だったのか?国際会議で参加者も例年より多く見込まれること,京都国際会館の利用料が高額なこともあり,通常年会より価格を高めに設定した.特に,展示ブース価格は,大会期間が長い(5日間)ことを考慮して通常の2倍程度に設定した.しかし,出展側からすると,長期間で宿泊費も増えるので,通常年会より大幅な負担増となり,不満が聞かれた.

・展示会場はポスター会場と一体であったが,ブースとポスターが近すぎて,ブースを見てもらえない,ポスターを見ている人が高額機器にぶつかりそうで怖かった,という意見があった.ただ,ポスター・展示会場が狭く感じられたのは,参加者数が想定以上という嬉しい誤算の結果でもある.また,ポスターセッション以外の時間はほとんど人が来なかったという不満も聞かれた.

・参加者に対するBPセミナー申込締切のタイミングが早過ぎて,企業から参加者へのeメールでのBPセミナー広告が締切後になったという不満が聞かれた.BPセミナーを出す企業のeメール広告のタイミングには配慮すべきだった.

・これまで協賛実績がなかった企業からも協賛いただくことができ,今後も継続して協賛していただけるとありがたい.

・新しく試みたKyoto Nightへのブース出展については,参加企業の反応はポジティブなものだった.

・参加費の設定については,例年の年会参加者数,海外からの参加者数,参加費が高くなることによる減少数を勘案し,参加者数を1300名(一般700名,招待300名,学生300名)と想定した.前回のIUPABエジンバラ大会の参加費は一般480ポンド,学生290ポンドであったが,円安や国内の経済状況を考えると,これと同程度(一般で日本円7-8万円)にすると国内参加者が大幅に減ることが予想された.参加費を1万円下げると想定有料参加者数は1000人なので計算上は1000万円減収になるが,そもそも来てもらえなければ収入にはならないし,参加者が少ない大会にはしたくなかった.そこで,参加費を抑えて参加者を増やす方向で学会理事会にも相談し,赤字覚悟での参加費設定(一般5万円,学生3万円)とした.また,参加支援のための方策を学会理事会にお願いし,BSJ学生参加費支援措置もしていただいた.学生の参加発表を促すこのような支援措置は今後も学会予算で措置していただけるとありがたい.

・参加申し込みと会期の年度が異なるため,いわゆる「予算の年度またぎ問題」が発生することが演題募集開始後に判明した.そこで演題登録時の参加費を24年度予算で支払えるように4月15日までに支払い可とする制度を急遽導入したが,これは早い段階で気づいておくべきことだった.

・実施に当たっての情報収集を開始した21年8月は,ちょうどコロナの第5波が来ており,当初はオンライン参加も想定しておく必要があった.しかし,本格的なオンライン参加の導入は膨大な予算が必要となるため,最終的には会期後のon demand配信に止めることとした.オンラインサービスをどこまで行うかについては,費用対効果の面から今後も議論の必要があると感じた.

終わってみれば,財務的には問題なく開催することができたが,スポンサーの獲得においては,最後に関係者の個人的な働きかけに頼った部分が多分にある.お声がけいただいた方々にはこの場を借りて感謝すると共に,もう少し組織的・継続的な働きかけを強化し,個人プレーに頼らない体制をより構築できれば,安定した運営が可能になると思う.

今田勝巳(大阪大学大学院理学研究科)

永井健治(大阪大学産業科学研究所)

今村博臣(山口大学大学研究推進機構)

4.  プログラム編成

IUPAB2024大会においては,実に36ものサイエンスセッションが開催されました.ここにポスターセッション・プレナリーやキーノート講演・協賛シンポジウム・ハンズオンセッション,さらには男女共同参画シンポジウムといったイベントもプログラムに加わり,国際大会として稀に見る充実した内容となったかと思います.筆者である西坂はプログラム編成委員長として,サイエンスセッションのすべてと,アジア生物物理連合のシンポジウムの準備を行いました.ここでは前者の大まかな進め方について,次の世代に向けた記録をまとめておきたいと思います.

まず初めにセッションのたたき台を作成すべく,4人の研究者(女性2名男性2名)に編成委員として加わっていただきました.計5人でzoomによる会議とメールで議論を重ね,2022年4月には,委員の中でセッションのトピックの大枠を決定できました.大会の2年以上前でしたが,これから詰めていく作業の膨大さを考えると早過ぎる準備ということは決してありませんでした.

ここからしばらくは委員長一人の役割に移り,次の段階である海外Advisory Board Memberの選定に着手しました.意外に思われるかも知れませんが,Boardとして誰に加わっていただくかは,大会を成功させるためにとても重要なプロセスです.卓越したspeakerの選出のみならず,海外各国からの,特に若い人たちの参加を積極的に促してもらえるかどうかもBoardにかかっているからです.そこで今回は,近隣のアジア諸国の生物物理学会の会長や要人に連絡を取り,各団体から1名のBoardを推薦してもらうことにしました.“Boardは学会全体を代表する立場の人間である”という形式を取ることで,その後の運営にも大変プラスに働いたように思います.またアジアのみならず,ヨーロッパや南米からの参加者も促すため,基本的にはIUPAB議員全員にBoardに加わっていただきました.アジアのIUPAB議員については,日本の私と豪の2名だけですが,他には世界各国に10名の議員がいます(全員が世界全体の投票で選出されています).そういった方々の力も借りることにしました.そしてBoardが決まった国から適宜,講演者と座長の推薦をお願いしていきました.

並行して編成委員の中で,日本側の座長の候補者を各セッションごとに挙げていき,座長を引き受けていただけるかどうかの打診をし始めました.基本的な構成としては,一つのセッション中で座長を2名とし,日本側の座長を1名,海外からの座長を1名と設定しました.2名の座長すべてを海外から招待することも可能だったかとは思いますが,プログラム編成の運営を確実にする上で,どうしても1名は日本語のやり取りをできる人を設けたい,という私の判断がありました.

ここで改めて述べておくべきことなのですが,実は私自身,国際学会の準備に委員として携わるのは初めての経験でした.本来であれば経験者に指導を仰ぎながら,効率よく準備を進めるべきだったのかも知れませんが,私個人が何年もかけて形成してきたさまざまな国とのコネクションとネットワークを把握しているのは私自身しかいません.やや強引なきらいもあったと思うのですが,大枠の部分については自身の直感に頼るしかなかろうと考え,今回のような進め方になった次第です.

2022年9月には大よその推薦者のリストが出そろったのですが,Boardからは合わせてセッションに関するコメントもいただきました.編成委員の中で議論を進めながら新しいセッションも立ち上げ,丁寧に対応する作業を進めていきました.また想定を超える数の講演者が推薦された2つのセッション(‘Protein Structure to Function’と‘Single Molecule Biophysics’)については,今回のIUPAB大会における重要な分野であると判断し,枠を1つから2つにするという思い切った変更も進めました.

2023年4月になった時点で,海外から推薦された講演者候補のリストを,お引き受け頂いた日本側の座長に手渡しました.ここから日本側の座長は,ペアとなる海外の座長を決定し,その方と相談しながら自身の担当するセッションの講演者を選んでいく作業に本格的に入っていったことになります.私を含めた5人のプログラム編成委員は,その作業に関する相談を受けたり,場合によっては連絡等の具体的なサポートもしながら座長に協力していきました.そしてセッションのfinalizeに当たっては,国際学会として充実した形にするため,講演者の少なくとも半分は海外の方であること,また座長も含めセッションを構成する登壇者のジェンダーバランスにもご配慮いただくことをお願いしました.

海外の座長や講演者の決め方については,日本側の座長の方々を信頼し,皆さんのご意見を最優先する形で各々のセッションが組み上がっていきました.希望があった時は私個人が海外に直接連絡を取り,リストにある研究者との橋渡しをお手伝いしたことも多々ありました.とはいえ分野によっては,講演者を選ぶ過程においてずいぶんとご苦労のあったセッションも出てこざるを得なかったように思います.私の力不足で十分なサポートができなかったセッションに関しては,今でも本当に申し訳なく思っています.また日本側の講演者についても,そのセッションを担う座長を信頼して人選をお任せしました.すべてのセッションにおいて,トップノッチの講演会が実現できたのはひとえに座長の方々の献身のおかげです.この場を借りて,皆さまに心から感謝の意を伝えたいと思います.

あまり多くの方が意識しなかったのではと想像しますが,今回のIUPAB大会において,各セッションにおける講演者の発表数・発表時間はあえて統一されていません.これは国際学会においては大変珍しいことです.上記のような過程によって,多くの裁量権を座長に持っていただいたからこそ実現できた,とても贅沢な構成だったと言えます.聴衆の方々に,セッションごとの個性のようなものも楽しんでいただけたのであれば,編成委員冥利に尽きるというものです.

さて大会が近くなると,予想しなかった数々のトラブルが噴出し,その対応にギリギリまで追われることになりました.本稿は苦労談を披露する場所ではありませんので詳細は省きますが,例えば分野を代表する研究者であるにも関わらず講演者から漏れた重鎮が見つかったり,後から自薦で講演を希望する先生も現れたりしました.何人かの座長の方々に発表枠を調整して頂いたり,また急遽キャンセルのあったスロットに滑り込ませられたという偶然にも助けられ,結果的には大事に至りませんでした.当時は青くなりながら電話やメールのやり取りに忙殺されましたが,終了した今となっては良い思い出です.

最終的には海外からの講演者135名,日本の講演者81名となり(ハンズオンも含む),国際学会の名に相応しい構成が実現できたのではと自負しています.男女比は3:1となりましたが,これは日本生物物理学会全体としてもまだまだ改善すべき課題だと感じています.またプログラム編成そのものと直結する内容ではありませんが,アジア諸国・欧米諸国のさまざまなキーパーソンとの繋がりも強固となり,今後の日本生物物理学会の国際化に貢献できる資産がさらに膨らみました.実際,今回の大会においても,それらの方々への働きかけが参加数の底上げに繋がったと強く感じています.

最後になりますが,プログラム編成委員を引き受けていただいた杉田有治さん(理化学研究所),坂内博子さん(早稲田大学),大浪修一さん(理化学研究所),西山朋子さん(京都大学)に心から感謝したいと思います.4人の英知と献身がなければ,IUPAB2024のサイエンスセッションはここまで素晴らしいものに決してならなかったでしょう.また大会長の野地さんをはじめ,愛すべき大会実行委員の皆さまには,どれだけ感謝しても感謝し足りません.国際大会のプログラム編成という大事な役割を拝命することで,研究者としてはもちろん,人間として貴重な成長の機会を得ることができました.I love you ALL!

西坂崇之(学習院大学理学部)

5.  広報

IUPAB2024では,会期前および会期中に公式SNSアカウントを利用した広報活動を行いました(図5).2023年5月の実行委員会でSNSを利用した広報活動の提案があり,そこから公式アカウントを整備して運用を開始しました.広報担当委員として中村と三田が公式アカウントの運用を行いました.広報活動に際して,IUPAB2024のスローガン“Rocking Out Biophysics”とクールなメインビジュアルが決定していたことで,広報活動が非常にやりやすかった点は強調しておきたいところです.

図5

公式Xアカウント@iupab2024_kyoto.

X(旧Twitter),Facebook,Instagramと3つのSNSアカウントを開設しましたが,結果的には大部分がXを通じての広報活動となりました.特にFacebookについては,ほとんど運用実態がない状態になってしまったのは少し悔やまれます.運用に携わったのが2名と少数だったことなどを考えると,初めから一つのプラットフォームに絞るのが正解でした.

主力となったXアカウント@iupab2024_kyotoでは,確定した招待講演やハンズオントレーニング企画の内容を短文でまとめたものや,重要な締切日(演題登録,ハンズオンや各種アワードへの応募など)の告知と締切直前のリマインドなどをポストするというのが大会期間前の運用スタイルとなりました.各種締切や大会会期の直前には投稿の頻度を上げることで参加者の注意を惹こうという運用を試みましたが,どの程度の効果があったかは不明です.Xの予約投稿システムには予約の上限があったため,定期的にマニュアルで予約投稿の操作が必要となりました.早めから予算を確保し,有料ツールを活用してこの辺りの操作を効率化するなどの工夫があると格段に運用が楽になると思います.

一方大会期間中の運用は,複数会場で並行して行われるプログラムの進行を実況中継的にポストする(開始30分前をめどに各プログラムの講演者情報などをポスト)という運用に切り替えました.各会場間の行き来に階段の昇降などで多少時間と手間がかかることや,せっかくの豪華スピーカー陣の講演の聴き漏らしを防ぐ役に立てばという思いで運用しました.また,SNSの特長であるライブ感を出すためにも各会場の現状をポストするなどの運用も並行して行いました.

大会終了後すぐに,公式アカウント宛に参加者からプログラムの進行を逐一ポストしていたことへの感謝のメッセージがDMやコメントで届き,上記の大会期間中の運用については一定の手応えを得ることができました.

大会を終えて,広報活動に関連して感じたことのうち,主なものを以下にまとめます.

① 今後このような国際学会の運営においてSNSの活用はより重要になってくるでしょう.情報化がますます進めば,ホームページを開設して情報を載せておく,という受動的な方法では情報拡散ができなくなると強く感じました.今回は1年前からのSNS運用でしたが,より早い時期から運用を開始し,関連研究者や学会との繋がりをフル活用する必要があったと思います.

② 広報担当の人員は広く浅く確保した方がいいと感じました.今回は中村・三田の2名のみでしたが,うち1名(中村)はSNSアカウントを開設したのもIUPAB公式アカウントとほぼ同時というポンコツぶりだったので,実質1.5名くらいでの担当でした.担当委員のスケジュールが合わずポストが遅れるなどの事態も時折ありました.また,大会当日は複数の部屋でシンポジウム等が平行するため,学生やより若手などSNSに習熟したメンバーを加えて5~6名での運用が適切だったかもしれません.

③ 特に学会会場の状況をポストする際などに問題になりますが,スライドやポスターなどに掲載された研究成果をSNSなどで拡散するという行為について,禁止あるいは積極的な利用の両面から考える必要があると思います.これは学会運営というより研究業界全体として考慮すべき点です.

④ 前項目に関連して,国際学会の実行委員会として,事前にSNSの利用についての公式な立場をはっきりと表明しておかなければなりません.公式アカウントでは何を発信するのか,という点についても同様に,事前に実行委員会全体で共通認識を共有しなければならないと思います.例えばポスター会場での白熱したディスカッションについて写真入りでポストする場合,今回は写真掲載についての同意を取りながら行いました.しかしこの場合,被写体の選択にバイアスが生じやすいという問題があります.国際学会では国内学会より一層,ダイバーシティや公平性への配慮が必要となるため,このバイアスが重大な問題となる可能性があります.これらの点について事前に議論を尽くすことが今後の学会運営では必要になるはずです.

⑤ ホームページの仕様などについて,過去の国際学会の運営を通したノウハウの蓄積がほとんど存在しなかったのは驚きであり,広報関係では最大の反省点だと思います.演題登録のシステムなど,各種国際学会で重要な機能は共通しています.利用しやすいシステムの構築やその再利用,学会の告知や準備で用いる定型文の英語表記などのリスト化などのリソース整備は,日本国内での国際会議の効率的な運営を進める上で緊急の課題です.権利問題など困難な点はあるかと思いますが,関係する皆様に再考をお願いしたいと思います.

反省点の多い振り返りになりましたが,広報担当として今回のIUPAB2024は総じて非常に楽しい経験となりました.後年振り返った時に,本当に実りの多い国際学会だったと言えるよう,今後もできる限りの貢献をしたいと思います.そして次世代の生物物理学者の皆さんには,IUPAB2024を超える国際的な研究会の開催と,世界に開かれた日本生物物理学会の発展を期待しています.

中村秀樹(京都大学白眉センター)

三田真理恵(産業技術総合研究所)

6.  ポスター賞の表彰

例年の日本生物物理学会の年会においては,優秀な発表を行った学生会員を表彰するために「日本生物物理学会学生発表賞」を設けています.しかしIUPAB 2024では,学会員のみを対象とした学生発表賞の授賞は行わず,一般演題としてポスター講演を行った学生および学位取得後5年以内の若手の研究者を対象としたIUPAB 2024 Student and Early Career Researcher Poster Awardを学会理事会とIUPAB 2024実行委員会が設けることとしました.また,この賞の選考方法については,幅広い研究分野や地域からの若手の演者をエンカレッジするためにどのような形式が良いか,実行委員会で議論を重ねました.その結果,特に一般参加者も選考に参加することでポスター発表を盛り上げることを強く意識して,最終的には「参加者全員が投票を行う形式」を採用することになりました.4日間のポスター発表期間の前半の3日間に対象となる演題を集め,参加者全員が上限10票の投票権を持ち投票を行い,その集計結果に基づき,実行委員会の中の賞選考委員が研究分野や地域のバランスを考慮して最終的な受賞者を決定することとしました.

実際に対象となったポスター発表件数は501件,投票に参加した参加者は1746名にもおよびましたが,投票用のインターフェイスをプログラムや要旨集を閲覧するためのWebシステムに組み込むことでスムーズに投票と集計を行うことができました.また,国際学会とはいえ,日本からの参加者が多数となること,発表義務日も3日間にわたることなどから,投票結果に偏りが出ることも懸念されましたが,受賞件数145件のうち日本を所属機関とする演者からの演題が120件,海外からが25件と,演題全体の地域割合から考えても大きな偏りが出ることもなく,公平な選考になったと考えています.海外の受賞は,Australia 3件,China 6件,France 1件,Germany 1件,India 1件,Indonesia 8件,Malaysia 8件,Norway 1件,Poland 2件,Portugal 4件,Sri Lanka 1件,Taiwan 2件となりました.

また,一般演題の中から各シンポジウムにセレクションされた優秀な演題を対象として,賞選考委員の選考に基づいて授賞される賞も設けられました.米国生物物理学会の提供により,学生による優秀な演題に送られるBPS-IUPAB Student Awardが4件,公益財団法人中谷医工計測技術振興財団の提供により,学生および若手研究者の優秀な演題に送られるNakatani Foundation Awardが10件,それぞれ授賞されました.

授賞者の表彰式は,BPS-IUPAB Student AwardとNakatani Foundation Awardについては4日目のカンファレンスディナーの中で,Student and Early Career Researcher Poster Awardについては,最終日のクロージングセレモニーの中でそれぞれ盛大に行われ,受賞者には惜しみない拍手が送られました.

日本生物物理学会の年会では今回のStudent and Early Career Researcher Poster Awardのように参加者全員の投票により受賞者を選考する賞の設置の機会は今まではなく,IUPAB 2024での賞の選考方法には賛否両論もあったかと思います.しかしながら,参加者からは多くの演題を聞き国際的な交流を広げる良い機会になった,投票を考える上でいつもとは違った視点での議論も行えた,などの声も聞かれました.また,実行委員会が特に意識した,IUPAB 2024を参加者が一体となって盛り上げる,という点では大きな成功を収めたと考えています.今回の選考方法の導入の試みは,今後の日本生物物理学会の活性化の考える上でも大変貴重な経験となったと感じています.

相沢智康(北海道大学理学部)

西坂崇之(学習院大学理学部)

7.  おもてなしと音楽

直接会って時と場を共有することの大切さは,2020年から数年にわたるコロナ禍で我々が深く学んだことの一つである.このことは50年前も,またこれから50年先も(我々の主体が人工知能でなく生物である限り)真実であり続けると思う.コロナ禍の間,地球上のそれぞれの場所でLocked Inされていた世界中の研究者たちがRocking Outする絶好の機会として,このIUPAB2024が開催された.そこに求められる“おもてなし”とはなんだろう.国際学会に限る必要はない.おもてなしで一番大切なことは,心が通い合うことだ.招く側と,招かれる側の心の行き交いだけではない.お互いに見知らぬ参加者たちの心の壁を取り除く,会場におけるさまざまな演出や心くばりが,何よりもIUPAB2024のおもてなしには必要だった.その演出として,IUPAB2024にはいつも音楽があった.それはレクチャーの会場に,ホールに,そしてさまざまなソーシャルイベントに.音楽は,人々の心を一つにする.ロックをIUPAB2024のテーマにしたいという野地さんの思いの一つも,そこにあったのだろう.

2024年6月24日から始まった会期中,京都国際会館にはさまざまなジャンルのミュージシャンが日ごとに入れ替わり,我々はその都度耳にする生演奏にひきこまれ,鳥肌を立てた.6月24日のオープニングセレモニーでAUN & HIDEが奏でる三味線や和太鼓,篠笛のノリよく力強いリズムに,参加者の期待は限りなく高まっただろう(図6).初日の夜に開催されたウェルカムレセプションでは,京都の歌い手Fuyuco.の演奏があった.ロックの旋律にのせたFuyuco.のつき抜けるように美しい歌声は,京都の夜の会場に響きわたった.

図6

オープニングセレモニーで弾けるAUN & HIDEの演奏.

会期2日目,6月25日の夜に開かれた懇親会Kyoto Nightでは,京都大学の学生からなるジャズバンド,Dark Blue New Sounds Orchestraによる爽快なDuke Ellingtonの調べをバックに参加者同士の会話は盛り上がり,また,日本酒の杯をあけるスピードも,幾分速くなっていたように思う.Kyoto Nightは,開催地京都の地酒を中心とした日本酒を,日本内外からの参加者で共に楽しむ懇親会として企画された(図7).よく知られたように,シンポジウムの語源である古代ギリシャ語のσυμπίνεινとは“共に酒を飲む”という意味である.我々おもてなしチームは1年前から“この準備のために”しばしば洛中や伏見の酒蔵を訪れた.Kyoto Nightで振る舞われた日本酒の多くは,おもてなしチームが自分の足と舌で確かめた.数百年にわたる長い伝統を堅持する傍らで,ワインなど海外の酒造りに触発された多様な日本酒文化の深さと美味しさを,国内外の参加者が自ら,周りの参加者と共に楽しむことができるよい機会になったと思う.

図7

Kyoto Nightにて,おすすめの酒を吟味する.

会期4日目,6月27日のカンファレンスディナーでは,同志社大学雅楽会による雅楽演奏と,京都で活動するロックバンドAUTO-CORDによる演奏があった.ロックを軸にしたIUPAB2024のカンファレンスディナーで,千年を越える古い歴史と伝統を持つ京都の雅楽を取り入れたアイディアには,少し説明が必要かもしれない.が,なんのことはない.1年前,京都であった実行委員会の夜,たまたま地下鉄のお向かいに座った野地さんがふと顔を上げて「雅楽とか,いいんじゃないスか」と言った言葉が発端である.雅楽に縁のない我々おもてなしチームは,同志社大学の学生サークルに雅楽会があることをつきとめた.我々の仕事は,同志社雅楽会の指導をされている市比賣神社の飛騨大富先生にお会いして,正座で雅楽のいろはをじっくり教えていただくところから始まった.そんなこともあり,カンファレンスディナーの始まりと共に奏でられた最初の演目である越天楽の笛の音を耳にして,思わず目頭が熱くなった(図8).飛騨先生曰く,雅楽は世界最古のオーケストレーション,生演奏でなければ味わうことができない音で構成されているとのことである.カンファレンスディナーも宴たけなわのタイミングで始まった京都のロックバンドAUTO-CORDの演奏は,IUPAB2024のテーマであるRocking Outの花火を打ち上げるような大音響で,会場はさらに盛り上がった.京都大学や同志社大学などの学生による音楽が演奏されたことは,学生の街,京都で行われたこと,そして若い活力を強く印象付けた.また音楽で人々の心を一つにすると同時に,その演奏されたジャンルの多様性はRocking Outのコンセプトと一貫したものになったと思う.

図8

同志社雅楽会の雅なる調べに誘われて始まったカンファレンスディナー.

50年後の生命科学やその研究スタイルは,2024年の現在とは随分違うものかもしれない.それは個人研究ではなく,大規模データに基づく世界的な大型共同プロジェクトが主体かもしれない.どんなスタイルの科学であれ,新しい発想や問いが,国際学会などで共に時間と場所を共有する,個々人の交流から生まれるものであってほしい.そして,世界に通じるおもてなしの心が,その交流を促すものであり続けて欲しいと思う.最後に,我々と共に今回のIUPAB2024においておもてなしの心を持ってさまざまな相談や準備に加わってくださった原田慶恵さん(阪大),永井健治さん(阪大),三田真理恵さん(産総研),そして,藤田神奈子さんをはじめとするコンベンションリンケージのみなさまに深く感謝したい.

谷 知己(産業技術総合研究所)

細川千絵(大阪公立大学大学院理学研究科)

下林俊典(京都大学iPS細胞研究所)

野地博行(東京大学大学院工学系研究科)

8.  イヴフェスタ

2024年6月23日(日),IUPAB2024本会の前日に開催されたイヴフェスタに,生物物理学を志す100名を超える国内外の若手研究者が京都産業大学に集結した.当日はあいにくの雨だったが,翌日からの本会に負けない熱気に溢れた英語でのディスカッションが行われ,大いに盛り上がった.イヴフェスタは若手の会が中心となって企画されたIUPAB2024の前夜祭であったが,いったいどのようにして彼らはこの前夜祭を成功に導くことができたのだろうか?限られたリソースと時間や人員ではあったが,その過程を紐解きながら,今後40~50年にわたり日本生物物理学会が安泰であることを確信させるイベントとなった,その裏側を紹介する.

ことの発端は,昨年の10月にオンラインで開催されたIUPAB2024 実行委員会に遡る.実に46年ぶりとなる日本開催のIUPAB2024を盛り上げるべく,大会スローガンは,“Rocking Out Biophysics”に決定され,会期中には多くの企画が設けられ,その企画内容について話し合われた.その場で筆者は,若手主体の企画がないことに気づいた.というのも,1978年に京都で開催されたIUPAB1978では,当時若手の会に所属していた柳田敏雄先生(大阪大学栄誉教授)と片岡幹雄先生(奈良先端科学技術大学名誉教授)らが中心となり,「国際夏の学校」を同時期に開催し,後にノーベル賞を受賞するような海外の著名人を招いて交流するイベントを行った経緯があったからである.

とはいえ,すでに会期中は過密スケジュールであったため,「前日であれば海外の先生方もあらかじめ来日しているだろうし,招待しやすいだろう」という西坂崇之先生(学習院大)のご助言もあり,とりあえず若手の会主体でイヴフェスタを開催する方向で進めてください,とのことになった.こうして,筆者はイヴフェスタの担当として若手の会と協力しながら企画を進めることとなった.

夏の学校から得た経験とスキル

若手の会は毎年8~9月に開催される夏の学校に照準を当て,会期のおよそ1年半前から人員集めや予算獲得に向けた活動を行っている.昨年の10月には,すでに多くの若手の会の学生が夏の学校のコアメンバーとして準備に取り掛かっていた時期である.したがって,今回のイヴフェスタは,言ってしまえば夏の学校とは全く別に,100名規模の研究会(しかも英語)を開催することとなり,人員集めや企画準備が非常に困難であることが予想された.しかし実際は,若手の会現会長の高橋大地さん(岡山大学)と前会長の杉浦雅大さん(トロント大学)の手腕により,若手の会から15名の少数精鋭の学生がイヴフェスタ実行メンバーとして集まった.筆者が特に感心したのは,実行メンバーが揃った段階で即座にDiscordというコミュニケーションアプリを活用し,イヴフェスタで実際に行う企画内容について議論が交わされた点である.そして,1.招待講演,2.グループディスカッション,3.ポスターセッション・懇親会という企画の方向性が決まるとすぐに担当割を行い,仕事を細分化して企画準備が迅速に進められたことである.

イヴフェスタの宣伝方法も実に戦略的であった.IUPAB2024本会のHPが開設された時点では,イヴフェスタ自体がまだ存在していなかったことや,前例のない新たな試みであったことから,効率的に認知度を向上させることが集客のカギを握っていた.広報担当は,SNSの一つであるX(旧Twitter)を活用してイヴフェスタの告知や招待講演者の紹介スライドを発信させることで,認知度の向上につなげた.告知の投稿スケジュールも綿密に練られ,日本と海外両時間帯に一定のペースで投稿するため,Xの予約機能を利用した.また,ハッシュタグや参加登録数を周知することで集客の活性化を図った.さらに,日を追うごとにSNSを通じて参加者同士のコミュニケーションのプラットフォームも構築され,参加者の結束が高まっていく様子も伺えた.

次世代に受け継がれていく生物物理魂

冒頭で述べたように,イヴフェスタは大盛況であった.当初の目的は,IUPAB本会の前に,国際会議に参加経験のない学生が堅苦しくない場で一流の外国人研究者と交流し,国際的なハードルを下げ,本会を楽しんでもらうことだった.しかし,実際には,筆者の想像をはるかに超え,拙い英語ながらも一歩も引かずに外国人研究者と活発に議論を交わす学生の姿が見られた.ポスターセッションや懇親会でも,分野を越えて外国人と積極的に交流する学生が多く,この勢いはIUPAB本会にも引き継がれた.

以上,イヴフェスタ開催の舞台裏を紹介したが,若手の会を中心とした若手研究者および学生の行動力は目を見張るものがあり,海外の研究者に向けて日本の生物物理学会に所属する若手研究者のプレゼンスを示す意味でも,重要な会となったと思う.なお,イヴフェスタの詳細については,「若手の会だより~IUPAB eve fest.開催報告~」をご覧いただければ幸いである*7

片山耕大(名古屋工業大学大学院工学研究科)

9.  若手奨励賞

経過報告と受賞者

若手奨励賞の世話役としての業務は全体のスケジューリングから始まります.生物物理学会の場合,スケジューリングについては学会事務局の経験豊富な担当者から手厚いサポートが受けられますので(末吉建太さま,今回もありがとうございます!),世話役が変わってもシステムが安定的に運用される仕組みになっています.今回もスケジュールに沿って若手奨励賞の公募開始を周知することになったわけですが,第62回京都年会(IUPAB2024)が第61回名古屋年会(2023年11月)から7ヵ月後の開催ということもあり,応募者数が例年よりも減ってしまうのではないかという不安を抱えながらのスタートになりました.

世話役に課された次のタスクは審査員の確保です.生物物理が扱う幅広い分野からの応募に対応できるように,若手奨励賞の審査員は10分類(タンパク質構造,タンパク質物性,核酸,細胞生物課題,光生物学,筋肉分子モーター,膜,生物情報学,イメージング,脳)のいずれかをご専門とされ,かつその他の周辺分野についても広い見識をお持ちの先生方を選考しています.過去の審査員履歴を参照しつつ,審査員が特定の人物に偏ることがないよう,そして性別やキャリアなどについても多様性が確保できるように努めています.

審査員の選考が終わって一段落した頃に若手奨励賞の応募が締め切られました.我々の心配をよそに,第62回年会では学生26名を含む計56名からの応募があり,その数は昨年度の42名を上回るものでした.応募者の皆さま方はもちろんのこと,積極的な応募を促してくださった関係者の皆さま方に改めて感謝致します.

例年通り,受賞候補者の選考は2段階で進められました.1次審査では,10名の審査員が書面による個別評価を行います.世話役はすべての応募書類に目を通した上で,それぞれの応募に対して専門分野が近い複数名の審査員を割り当てます.応募総数にも依存しますが,審査員の皆さまには20~30件の応募書類を短い期間中に評価していただくことになります(審査員の先生方ありがとうございます).1次審査の合計評点をもとに,2024年度も計10名の若手招待講演賞受賞候補者を選考することができました.

候補者を年会2日目(通例は年会初日)の若手招待講演シンポジウムにご招待し,英語による発表と質疑の内容をもとに2次審査を行いました.本学会の若手奨励賞が2段階選考を採用しているのは,研究業績や書面上のアピールだけではなく,当日の発表から垣間見える候補者の貢献度や独自性を重要視しているためだと思います.

若手招待講演シンポジウムが他の一般的なシンポジウムと違うところは,開演前にちょっとした緊張感が漂っているところでしょうか.登壇者の皆さまの緊張感はもちろんですが,実は,世話役や審査員も同じくらい緊張しています.候補者の皆さんが実力を発揮できるよう,フロアからの質問やコメントを促しつつ,質疑1件あたりの時間を柔らかく調整していかなくては…(世話役・座長).必ずしも自分の専門ではない分野のかつ最先端の発表に対して英語でうまく質問できるだろうか…(フロア).ところがいざ講演が始まると,各演者から繰り広げられる先端的な研究成果や効果的なプレゼンテーションに圧倒され,開演前の緊張感はどこに行ったのやら,生物物理学会らしい活発な質疑応答が展開されていきました.シンポジウムの終了直後,その熱気や余韻の冷めやらぬまま2次審査が実施され,5名の若手奨励賞受賞者が選考されました.

若手奨励賞受賞者

大岡紘治(東大)

「統計力学モデルと拘束シミュレーションによるタンパク質のフォールディング自由エネルギー 地形全体にわたる詳細構造の予測」

高橋大地(岡山大)

「スピロプラズマ遊泳の力発生装置を構成する 2 つの細菌アクチンのクロストーク」

西原 諒(産総研)

「SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の擬似ルシフェラーゼ活性」

早川雅之(中央大)

「細胞キラリティが生み出すキラルな構造:遊走細胞系に現れるスパイラルパターン」

李 洪杰(岡山大)

「Oxygen-evolving photosystem II structures during S1-S2-S3 transitions」

若手招待講演賞受賞者

石井秀弥(QST)

「Myosin and tropomyosin-troponin complementarily regulate thermal activation of striated muscles」

作田浩輝(東大)

「水/水の相分離により生じる細胞サイズ液滴内での微小管-キネシン複合体の自発的な対流生成」

峯岸美紗(京大)

「マイクロハイドロゲルビーズを用いた閉じ込め環境下のがん細胞休眠の大規模解析」

柚 佳祐(神戸大)

「光圧を用いたαシヌクレイン単一液滴の時空間的形成と老化機構の解明」

生物物理学会は2005年に若手奨励賞を設け,2024年までに計100名の若手奨励賞受賞者(20周年!),計45名の若手招待講演賞受賞者(2016年設置)を輩出してきました.世話役の交代に際して軽微な引継ぎ業務こそありますが,歴代の先輩方のご努力もあって,安定的に運用できるシステムとして確立されつつあるように思います.一方で,応募・審査の過程で当初想定していなかった局面に遭遇することもありました.若手奨励賞が学会員にとってより良い制度として引き継がれていくよう,今後の課題などを整理した上で次の世話役にバトンタッチしたいと思います.

今回は以下の方々に審査をお願いしました.協力いただきました審査員の皆様に感謝いたします.

1次審査員

田中良和(東北大),矢木真穂(名市大),前島一博(遺伝研),渡邊直樹(京大),浅井智広(立命館大),原口武士(千葉大),渡邊千穂(広島大),奥村久士(分子研),藤田克昌(阪大),久原 篤(甲南大)

2次審査員

田中良和(東北大),上久保裕生(奈良先端大),前島一博(遺伝研),渡邊直樹(京大),井上圭一(東大),矢島潤一郎(東大),新津 藍(理研),光武亜代理(明治大),飯野亮太(分子研),細川千絵(大阪公大)

秋山修志(分子科学研究所)

受賞者発表までの運び

IUPABは世界の各国を巡る4年ごとの国際大会です.開催においては,主催する国もしくは地域の母体となる学術団体が,その定期的な年会と合同で行うというのが一般的になっています.すると当然ながら,ローカルな年会における従来のイベントを,如何に国際大会に(なるべくなら自然なカタチで)組み込むかというのが,大会主催者側にとって大きな課題になるわけです.

2024年に日本生物物理学会(以下BSJ)がIUPAB大会を主催するに当たり,BSJ若手奨励賞をどう位置付けるかについては,さまざまな問題点が予想されました.この賞は毎年の年会の花形であるので,国際学会とマージするとはいえ,募集そのものを行わないという選択肢はないだろう.しかし国際学会という建てつけの中で募集の対象者をBSJ会員に絞るというのは適当なのか.募集期間は例年のほぼ半分,さらには授賞式の発表をいつ行うか,他の賞とのバランスはどうするか,などなど,解決すべき難題がいくつもあり得たわけです.

さて2024年の大会では,その主要実行委員の一人である西坂(本項の著者)が,学会の副会長も兼ねているという状況で本格的な準備が始まりました.同じ人が複数の役を兼ねることについては何らかの弊害が必ずあるものですが,今回について言えば,実行側と理事側の調整が容易になり,特に若手奨励賞の運営においてうまく働いたのではないかと感じています.

「国際学会においてBSJ会員だけを対象にした賞のシンポジウムおよびその授賞式を行うというのは,海外からの参加者から見れば独りよがりと感じられてしまう可能性は避けられない.だが,そこをあえて『日本の生物物理学会のレベルの高さを世界に伝えられる貴重な機会である』と捉えることにしよう.」まずこの考え方を基本とし,通常の年会と同じ規模と応募形式で進めることとしました.これまでの若手賞シンポジウムのプレゼンにおいて,質疑も含め英語しか認めてこなかったという歴史がこの判断を後押ししたことになります.また第60回年回より私が設けた“若手奨励賞受賞者のうち1名に与えられるIUPAB賞”ついては,他のIUPABを冠する賞との混乱が避けられないと判断し,今回は見送ることになりました.来年の63回年会からは再びこの賞を復活させる予定です.

予期せず難しかったのは,受賞者を発表するタイミングです.通常の年回では,懇親会を締めくくる盛り上げ役となってくれたイベントですが,しかし今回の懇親会はBSJ単独ではありません.IUPAB参加者全体が対象になっています.その懇親会でローカルな賞の受賞者を読み上げるというのは,国際大会としてバランスが悪いのでは,という重要な論点が持ち上がりました.

苦慮したのですが,やはり栄えある若手賞受賞者の方々には,ぜひ懇親会の壇上に上がって欲しい,という私個人の思い入れを最優先させてもらいました.発表イベントを例年より簡素化したり(受賞者からのコメントと表彰式の授与を割愛),さらには他の幾つかの賞と連続する形で記念撮影を行うなどの工夫をしながら,対応することになりました.最終的には,国際学会の懇親会という体裁を崩すことなく,IUPAB大会においてもBSJ若手賞発表を会のハイライトの一つに入れ込めたのではないかと思っています.

以上については,私がほぼ独断で判断し運営した内容ですが,幸いなことに,関わってくださった方々からの強い反対意見はありませんでした.ほぼ普段通りの枠組みの中で,ご担当いただいた理事の秋山さんと事務局の末吉さんにも,存分にそのお力を発揮していただいたように思います.

さて当日の懇親会は,進行役の谷さんが流暢な英語でスムーズに進めてくださいました.雅楽の演奏やIUPAB会長の挨拶,余興や歓談も終わり,最後に受賞者の発表を西坂がBSJ副会長の立場で取り行いました.マイクさえ渡されれば司会の独壇場となりますので,聴衆と自分のテンションを上げていき,若手奨励賞の受賞者を気持ちよく読み上げて壇上に誘導.BSJ会長の高橋さんとの記念撮影に引き続いて,中谷財団と米生物物理学会の受賞者の報告.すべての記念撮影を終了した後は,『TAKAさんなら何かしてくれるよね?』という野地大会長の熱い視線を意識しつつ,壇上周辺の参加者に何度も“Yeah!!!”と叫んでもらって会の熱気は最高潮へ.私の“Biophysics ROCKS!”の絶叫と共に,懇親会は無事にクロージングへ向かいました.

今回の若手奨励賞につきまして,運営と審査に関わってくださった,すべての皆さんに感謝します.そして受賞者5人の皆さん,本当におめでとうございます.また何より,若手賞に応募してくださった56名の皆さんに,心からのエールを送りたいと思います.皆さんは文字通り,日本の,そしておそらくは世界の生物物理の未来です.これからも研究を心から楽しんでください.

西坂崇之(学習院大学理学部)

10.  男女共同参画および若手支援イベント

日本生物物理学会の理事会では,IUPAB2024において男女共同参画と若手支援を目的とした2つのシンポジウムをBPセミナーとして(ランチョンセミナーとして)企画しました.これらは通常の年会でも実施される企画ですが,各国からの参加者が集まる機会を活かしたイベントとすることを目指しました.

第一の男女共同参画シンポジウムは,中谷医工計測技術振興財団の後援をいただいて6月25日に実施しました.企画と準備は髙橋(東北大学),小嶋(名古屋大学)と藤原(長岡技大)で進め,シンポジウムのタイトルを「Unveil the Spark: Explore the Decision Moment to become Biophysicists!」としました.企画には原田慶恵さん(大阪大学)から多くのアドバイスをいただきました.当日の参加者は80名程度で,約半数がポスドクや博士・修士の大学院生,残りの半数が助教・准教授・教授層でした.

イベントは二部構成とし,第一部はElizabeth Hindeさん(University of Melbourne,オーストラリア),原田さん,Heeyoun Bunchさん(Kyungpook National University,韓国)にパネリストとして登壇いただき,企画チームがインタビューを行いました.パネリストに事前に行ったアンケートの回答から印象深いコメントをスクリーンに映写し,「研究者として最高の瞬間はいつか」,「最も困難だった時期をどう乗り越えたか」,「困難な時に感謝した支援はあったか」などの質問に対する説明をお願いしました.また,「Life in a line graph(人生折れ線グラフ)」を描いていただき,議論をビジュアルに進める手助けとしました.

この企画に,パネリストの皆さんは覚悟を持って応えてくださったように思います.多くの成果を出されている皆さんが,かつて大変な困難を経験されてきたこと,困難を個人の努力と偶然の機会や手助けを活かして切り抜けてきたことなどを隠さずに話していただきました.この時この場所で一度だけ集まる会だからこそ話せる話題ではなかったかと思います.皆さんの話に,ドキュメンタリーを見るような感動を覚えました.

第二部は,参加者を8人程度のグループに分け,若手参加者には年長の研究者に質問をしてほしい,年長の研究者には若手をエンカレッジしてほしいと伝え,自由に話していただく時間としました.英語での話し合いがスムーズに進むように,以下の方々にファシリテーターをお願いしました:新井宗仁さん(東京大学),井上雅代さん(九州工業大学),山城佐和子さん(京都大学),木下佳昭さん(理研),柳川正隆さん(東北大学),髙橋浩さん(群馬大学),三好洋美さん(東京都立大),宮田真人さん(大阪公大),真壁幸樹さん(山形大学),須藤雄気さん(岡山大学).参加者には第一部の余韻が残っていて,話しやすい気持ちになっていたのではないかと思います.多くのグループが,予定時間が終わっても話し込んでいました(図9).

図9

男女共同参画シンポジウムの様子:(上)前半のパネルディスカッション.左からHindeさん,Bunchさん,原田さん.後方は髙橋.(下)後半のグループディスカッション.

本イベントは,各国の男女共同参画状況を比較したいと考えてスタートしましたが,準備の過程でさまざまなアイディアが生まれ,若手支援,国際交流,世代交流などの目的も組み合わさりました.参加者に対する事後アンケートによると,「パネリストの話が印象的だった」,「異なる分野の研究者と新しいつながりを持つことができた」,「他国の学生と話すことできた」,「シニア研究者の話が聞けてよかった」などの意見をいただき,盛りだくさんの目的は果たされたのではないかと思います.時間に追われながらの準備でしたが,素晴らしいパネリストと,ほとんど説明なしにイベントの意義を理解いただいたファシリテーターの皆さんのご協力もあり,感動的なイベントが達成できたことに,企画チームは心から感謝しています.

第二の若手支援シンポジウムは,「Beyond Borders: Insights into International Employment Opportunities」というタイトルで,中根(電通大)と西坂崇之さん(学習院)が責任者となり,大学院人材の就職キャリア支援を手がける株式会社アカリクの神中俊明さんに協力をいただき,6月28日に実施しました.IUPAB2024に参加している若手研究者や学生のキャリア構築の一助となるように,国際的なキャリアの展望や日本企業での外国人学生の就職機会などのトピックについて話題が提供されました.参加者は150名ほどでした.

シンポジウムでは,大学院後に海外で働くことの利点や欠点など,日本の学生が海外でキャリアを求める時のポイント,海外の学生が日本で働く際に気をつけることについて,実例を交えて紹介されました.また,日本の大学院における就職活動の現状,海外の学生の採用事例,採用慣行における事例についても紹介されました.セミナーの話題は日本の厳しい就職状況が強調されており,もう少し前向きなメッセージが必要であったという意見もありましたが,希望だけではなく,キャリア支援企業の分析で現実を伝えるというバランスも重要との意見もありました.就職活動の状況は年々移り変わることがあり,企業のリクルート担当や学生の意見も取り入れつつ,今後も継続的な議論をしていく必要があると思われました.

若手支援として,本シンポジウムだけでなく,「個別キャリア相談会」も実施しました.ポスター会場にブースを設けて,学会参加者とアカリクの社員とキャリアについていつでも相談を受けることができる場所を提供しました.このブースの来訪者は100名ほど,相談者数が23名ほど,そのうち半数以上が博士学生でした.年会では同様の支援をこれまで何度も実施してきましたが,今回は英語でキャリア支援のセミナー・相談を実施したこともあり,特に海外大学院に在学している学生の訪問が多かったことも印象的でした.

髙橋 聡(東北大学)

小嶋誠司(名古屋大学)

藤原郁子(長岡技術科学大学)

中根大介(電気通信大学)

11.  ハンズオンセッション

IUPAB2024では,ハンズオンセッションという新しい企画を実施しました.これは,IUPAB2024に参加する国内外の若手研究者に,生物物理学の新しい研究技術を学ぶ機会を提供するプログラムです.この企画は,国内だけでなく,日本の優れた研究を海外にも普及したいという野地さんの発案によるもので,IUPAB2024の開催地決定の際に招致委員会がアピールした公約でした.ハンズオンセッションの実施は,林久美子さん(東京大学)が担当して準備が進められ,国内6カ所において開催されました.日本を含む28カ国から総勢66名がセッションに参加しました.ハンズオンセッション詳細*8,およびセッション参加者によ体験レポートがBiophysisc and Physicobiology誌に掲載されています.

12.  市民講演会

IUPAB2024最終日の6月28日夕方,京都大学理学研究科セミナーハウスにて,IUPAB2024市民講演会「理論研究者のみた新型コロナウイルス感染症」を開催しました(図10).演者として,感染症伝播の数理解析を専門とし,新型コロナウイルス感染症対策で活躍されてきた京都大学医学研究科の西浦博氏と,スーパーコンピュータ「富岳」等を用いたタンパク質の計算機シミュレーションを専門とし,新型コロナウイルスのスパイクタンパク質についてのシミュレーション研究をされてきた理化学研究所計算科学研究センターチームリーダーの杉田有治氏をお迎えしました.

図10

IUPAB2024市民講演会「理論研究者のみた新型コロナウイルス感染症」.

西浦氏は,数理モデルに基づいて感染症疫学のデータを分析する専門家です.新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に,毎日のようにテレビ等に出演されました.ご講演では,流行の推移を振り返りつつ,集団感染の状況と,その後に取られた対策がどのように数日間の感染状況の変化に影響を与えたかについて,生々しいデータや具体的なエピソードを交えながらお話しいただきました(図11).そして,感染状況が職種や年齢に依存して変化していった様子がわかるデータに感銘を受けました.当時の混乱していた状況を思い出しながら,今の日本にはこのような解析のできる人材が不足しているという指摘も印象的でした.

図11

西浦氏によるご講演.

杉田氏は,言うまでもなくタンパク質等の分子動力学シミュレーション研究で世界をリードする生物物理学の研究者です.新型コロナウイルス感染症パンデミックの中,分子シミュレーションの立場からの貢献を検討し,スーパーコンピュータ「富岳」を用いてウイルス感染で主要な働きをするスパイクタンパク質の動態のシミュレーション研究に取り組まれました.講演では,スパコン発展の歴史からそれを用いたシミュレーション研究の現状と共に,スパイクタンパク質の構造変化の動態を解説されました.さらにルシフェリンがスパイクタンパク質によって発光するという発見とその応用の可能性を紹介されました.

聴衆は一般の来場者と京大生で,両方の講演に熱心に聞き入り,講演後には多くの質問が寄せられました.講演会終了後も,大学生数人が杉田氏を囲んで長時間質問を続けていたのが印象的でした.

高田彰二(京都大学理学部)

寺川 剛(京都大学理学部)

 
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