生物物理
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総説
線虫の温度応答メカニズム:タンパク質による刺激受容が個体応答を引き起こすまでの道筋を暴く
薮内 翔森 雪永金村 菜々子久原 篤
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2025 年 65 巻 3 号 p. 140-144

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Abstract

温度は生物にとって重要な環境情報の一つである.本稿では,C. elegansにおいて,温度応答に関わるメカニズムである温度順化と低温耐性に注目し,特に最近見つかった新規の温度感受性GPCRや,温度順化に関わる腸の脂肪蓄積を制御する全身性の神経回路などの最新のトピックを紹介する.

Translated Abstract

Temperature is one of the most important environmental information for animals. Animals survive and thrive by adapting through various mechanisms, including sensory transduction, to the environmental temperature. In C. elegans, the mechanisms involved in temperature response underlying temperature acclimation and cold tolerance have been relatively recently elucidated. In this review, we describe the recent discovery of novel thermosensitive GPCR and systemic body-wide neural circuit coupled with intestinal fat storage that are involved in temperature acclimation. (Y.S, M.Y., and K.N.: equally contributed)

1.  序論

生物が生存と繁栄を繰り返す上で,変化する環境への適応は必須である.なかでも温度は遮断できない環境刺激であり,これに対する適切な応答に関わる分子・生理機構については未知な部分が多く残っている.本稿では,モデル動物である線虫C. elegansの「低温耐性・温度順化」の解析を通して発見された新規の温度受容体GPCR(Gタンパク質共役型受容体)と全身周回性の神経回路・組織ネットワークについて概説する.線虫における生体情報処理の機構はヒトまで共通する点も多く,進化的に保存された脳・神経メカニズムへの波及が期待される.

2.  線虫における低温耐性・温度順化の機構

線虫の温度への応答現象は複数知られているが,低温耐性と温度順化の現象を指標とした解析は,最近進展の目覚ましい研究分野である.低温耐性とは,例えば25°Cで飼育した線虫の野生株は2°Cに48時間曝されると死滅するのに対し,15°Cで飼育した個体は2°Cに曝されても生存できる現象である1).また,薬理学的スクリーニングから低温耐性を増強する薬剤が見つかっている2).一方で温度順化とは,例えば,25°Cで飼育した線虫は2°Cに曝されると48時間で死滅するが,25°Cで飼育された個体を15°Cに3時間置くことで,2°Cで生存できるようになる現象である3)図1).

図1

線虫の低温耐性と温度順化.

低温耐性・温度順化に関与する複数の温度受容ニューロンやその分子生理機構が幾つか見つかってきており,なかでもASJ,ADL,ASGの3対の頭部の温度受容ニューロンの関与がわかってきた(図24),5).ASJ感覚ニューロンは,光やフェロモンの感知に関与するニューロンとして知られてきたが,温度受容ニューロンとしても機能する1).ASJ温度受容ニューロンでは,環状GMP依存性チャネル(CNGC)であるTAX-4に依存してCa2+が細胞内に流入することでニューロンが発火する1),6).これによりASJのシナプスからインスリンが分泌される.インスリンは,腸や神経系のインスリン受容体で受容される.最終的にFOXO型転写因子の核移動が負に制御され,遺伝子発現の調節が起こることで,体の膜脂肪酸組成のうち不飽和脂肪酸の割合が変化し,低温耐性が負に制御される1)

図2

線虫の低温耐性に関わる3対のニューロンと腸.

ASG温度受容ニューロンでは,DEG/ENaC型機械刺激受容体の一つであるDEG-1が温度センサー分子として働くことで,低温耐性が正に調節される7).また興味深いことに,DEG/ENaCはヒトでも温度受容体として機能していた(図27)

ADLと呼ばれる温度受容ニューロンではtransient receptor potential(TRP)チャネルであるOCR-1,OSM-9,OCR-2が発現しており,OSM-9とOCR-2の複合体が温度受容体として機能することでADLを活性化させる8)-10).しかし,このOSM-9/OCR-2複合体の温度応答性は非常に弱いため,TRPチャネル以外の温度センサー分子が機能していると考えられてきた(図29).さらに最近の研究により,動植物に共通した温度耐性の分子機構11),温度受容体GPCR12)や,温度順化の調節に関わる新規の神経回路13)が見つかってきた.

3.  温度受容体GPCR SRH-40による温度順化の制御

これまで,ADL温度受容ニューロンで発現している温度感受性TRPチャネルであるOSM-9とOCR-2の温度応答性は,温度感受性TRPチャネルとして性質が良く調べられているヒトのTRPV1に対して約1/10ほどと非常に弱いものであることから,ADLではTRP以外の温度センサー分子の存在が示唆されていた(図29).OSM-9とOCR-2は嗅覚ニューロンAWAにおいて,匂い情報伝達におけるプライマリーチャネルとしても機能する.この際AWAにおいてOSM-9とOCR-2は,その上流の匂い受容体であるGPCR三量体Gタンパク質αサブユニット(Gα)からの情報を受け取っている.

そこでADLにおいてもOSM-9とOCR-2の上流に温度受容体として機能するGPCR が存在する可能性が考えられた9).この仮説に基づき,RNAiを用いて約1700個のGPCR遺伝子のうち,約1000個のGPCR遺伝子を各々ノックダウンし,その線虫の低温耐性を測定した12).その中から,とりわけ低温耐性が低下したGPCR遺伝子53個について,緑色蛍光タンパク質GFPを用いて発現細胞を同定したところ,16個がADLまたはASJ,もしくはその両方で発現していた12).これらの遺伝子のうち幾つかのノックアウト系統を作製したところ,srh-40変異体では温度順化の遅延が見られた12).具体的には,15°Cで飼育した後に25°Cの温度刺激を与え,2°Cに曝した際の生存率が,野生型では10%であるのに対して変異体では40%まで上昇する異常を示した(図3A).さらに,SRH-40はADLの温度感覚ニューロンに特異的に発現しており,srh-40変異体のADL特異的に野生型SRH-40を発現させると,srh-40変異体の温度順化が遅れ生存率が上昇する異常が回復した(図3A12).このことからADLにおけるSRH-40が温度順化に必要であることが示唆された.

図3

A.srh-40変異体の温度順化.B.srh-40変異体のADLの温度応答性.図は文献12より引用.

srh-40変異体のADLニューロンの温度刺激に対する神経活動をカルシウムイメージングで測定したところ,野生型と比較してsrh-40変異体ではADLにおける温度応答性が低下していた12).このADLの温度応答性の低下は,srh-40変異体のADL特異的に野生型SRH-40を導入すると野生株のレベルまで回復した(図3B).

さらに,SRH-40を野生株のADLで過剰発現させると,ADLの温度応答性が増大した.この表現型はADLに発現するGαであるEGL-30のノックダウンによって抑えられた12).このことから,EGL-30が遺伝学的にSRH-40の下流で機能していると考えられる.

SRH-40が温度受容に関与しているかを実証するために,温度上昇には反応を示さない線虫の味覚ニューロンASEにSRH-40を強制的に発現させてカルシウムイメージングで温度応答性を評価したところ,SRH-40を発現させたASEは温度上昇に強く反応を示すようになった12).それに対し,ASEで発現しているGα GOA-1およびGPA-3,グアニル酸シクラーゼ(GC)GCY-5,cGMP依存性チャネル(CNGC)TAX-4を欠損した変異体では,SRH-40をASEで強制発現させてもASEの温度応答が見られなかった12).これらの結果は,SRH-40が温度上昇に応答して,ASEのGα,GC,CNGCを活性化することを示している.

SRH-40が温度受容体として機能するかを調べるために,ショウジョウバエのS2R+培養細胞でSRH-40を強制的に発現させ,温度受容シグナル伝達の再構築解析を行った.カルシウム感受性色素Fura2を用いて,温度刺激後のS2R+培養細胞内のカルシウム濃度の変化を定量化した12).S2R+培養細胞に,SRH-40,GOA-1,TAX-4/TAX-2を共発現させると温度応答性が顕著に上昇したため12),GPCR SRH-40は温度受容体として働くことが示唆された.これらのデータから,ADL温度受容ニューロンにおいて,GPCR SRH-40が温度受容体として働き,線虫個体の温度順化に関与することが示唆された.

4.  温度順化における神経-腸連関サーキットによる腸内脂肪代謝

線虫の低温耐性は飼育された温度に起因して変化する.同様に,線虫は過去に飼育された温度を記憶して温度勾配上で飼育温度に移動する温度走性行動を示す.この温度走性にはcAMP response element-binding(CREB)が関与している.CREBは哺乳類まで保存された転写因子であり,記憶・学習に関与している.CREBは線虫の温度走性に関わっているため,温度順化にもCREBが関わるかを調べた(図413).線虫においてCREBはcrh-1遺伝子にコードされ,その変異体では,温度順化の遅延があった.この異常は,crh-1変異体のほぼ全てのニューロンで正常なcrh-1遺伝子を発現させることで回復した.温度順化においてCREBが機能するニューロンを同定するために,多数のプロモーターを組み合わせて,crh-1変異体に対しcrh-1遺伝子を2対のニューロンで発現させた際に,crh-1変異体の温度順化の遅延が野生株と同程度に回復した.これらの2対のニューロンは,頭部に存在し温度を感知するASJ感覚ニューロンと,同じく頭部に存在し多くのニューロンと接続しているハブ介在ニューロンとして知られているRMGであった.したがって,野生株ではCREBのASJとRMGにおける機能が正常な温度順化の成立に必要であることが示唆された13).しかし,ASJ感覚ニューロンとRMG介在ニューロンは直接的に接続された神経回路を構成しておらず,ASJから伝達される温度シグナリングは,未同定のニューロンをブリッジしてRMGに伝達される可能性を考えた.線虫では神経コネクトームデータベースが公開されており(http://wormweb.org/neuralnet#c=BAG&m=1),その情報をもとにASJからRMGにブリッジするニューロンの候補を選抜し,それらのニューロンに,神経伝達を人工活性化するプロテインキナーゼCの構成的活性化フォーム(PKCgf)を発現させた.尾部に細胞体が位置するPVQニューロンのシナプス伝達を人工活性化すると,crh-1変異体と類似した温度順化異常が引き起こされた13).シナプス情報伝達は低下しても過活性化しても,神経回路活動の低下を引き起こすことがあるため,PKCgfによりPVQを含む温度応答性の神経回路の活動が低下し,crh-1変異体と類似した表現型が見られた可能性がある.

図4

温度順化の神経回路と神経-腸連関の分子モデル.線虫の写真は文献13より引用.

そこで,温度感知するASJ感覚ニューロンがPVQ介在ニューロンを活性化しているかについて,カルシウムイメージングによる生理学的解析を行った13).まず,線虫全体に温度変化を加えた際にPVQは温度応答を示した.このPVQ の温度応答性は,ASJの温度受容情報伝達に関わるCNGC に異常をもつtax-4変異体において顕著な低下が見られた.つまり,野生株の温度順化において,頭部に位置するASJが尾部に位置するPVQを制御していたのである13).PVQは神経伝達物質であるグルタミン酸を神経伝達に使用しているため,尾部のPVQ介在ニューロンが分泌するグルタミン酸が頭部のRMG介在ニューロンの活性を変化させているかを調べた.グルタミン酸をシナプス小胞に取り込む役割を果たす小胞性グルタミン酸輸送体VGLUT(EAT-4)の機能がPVQ介在ニューロンで低下すると,温度順化の異常が引き起こされた.同様に,RMG介在ニューロンにおいてAMPA/カイニン酸型グルタミン酸受容体であるGLR-4/5をノックダウンすると,同じく温度順化の異常が確認された13).つまり,ASJ温度受容ニューロンが温度を受容すると,尾部のPVQニューロンを活性化し,PVQのシナプスからグルタミン酸が分泌され,頭部に位置するRMGニューロンのGLR-4/5がそれらを受容することで,PVQ-RMG間の温度シグナリングが行われると考えられる(図413)

RMGがどのような生理現象をコントロールし,アウトプットである温度順化を制御しているかを調べた.これまでに,腸の脂肪代謝において,神経ペプチド(FLP-7)と腸にあるその受容体(NPR-22)が,腸内の脂肪分解酵素(ATGL-1)を活性化することが知られている14).ATGL-1はトリアシルグリセロール(TAG)リパーゼであり,脂肪滴に保持されているTAGをジアシルグリセロール(DG)と遊離脂肪酸に分解する働きをもつことから,ATGL-1の活性化により脂肪分解が起こる.GFPを用いたレポーター遺伝子の発現解析から,ATGL-1の遺伝子は15°Cより25°Cの時に発現レベルが上昇することがわかった13).次に,中性脂肪を赤色に染める色素(オイルレッドオー)を用いて,腸内の中性脂肪を測定した.それらを比較したところ,15°Cで飼育した野生株よりも25°Cで飼育した野生株の方が,腸の中性脂肪量が減少していた.このことから,ATGL-1の発現が25°C飼育時に上昇し,腸内の中性脂肪分解が促進すると考えられる13).この飼育温度依存的な中性脂肪量の変化は,FLP-7とNPR-22が欠損した場合には見られなくなった.さらに,FLP-7とNPR-22の変異体では,温度順化に異常があった13).そのため,RMGからの温度シグナリングに依存して,FLP-7が分泌されると考えられた(図4).

これらをまとめると,温度順化において,温度受容ニューロンでの温度受容をきっかけに,頭部から尾部,尾部から頭部へと全身をめぐる神経回路が高温飼育時に腸に作用し,腸内脂肪分解が起こる13).この神経-腸連関サーキットによる腸内脂肪代謝が温度順化に重要である.

5.  展望

本稿において,最近見つかってきた温度受容体としてSRH-40を紹介した.GPCRは線虫からヒトまで広く存在しているが,SRH-40の明確なホモログは,現在のところヒトでは見つかっていない.一方で,ヒトにおいても精子の温度走性に光受容体GPCRであるオプシンが関わることが報告されているが,このオプシンが直接温度を受容することは報告されていない.そのため,ヒトにおける温度受容体GPCRの発見は温度受容の新しい分野の開拓に繋がる可能性がある.

ADLにおいてSRH-40とTRPチャネルOSM-9/OCR-2が各々欠損した変異体では,ADLの温度応答性が低下するが,想定外にもそれらの温度受容体を全て欠損した三重変異体では,ADLの温度応答性は正常であった12).このことから,ADLにおいて未知の温度センサーが存在し,その活性は,既知のセンサーの存在に応じて変化する可能性がある.ADLにおいて複数の温度センサーが温度情報を統合や区別している機構についても興味深い.

謝辞

下記の研究助成に深謝致します.PRIME AMED(24gm6510004h0004, 25gm6910014h0002), JSPS(24H01255, 24H02022, 24K02070,JP22H04925),甲南学園平生太郎基金科学研究奨励助成,旭硝子財団,ノーリツぬくもり財団,上原記念生命科学財団,中外創薬科学財団,ホーユー科学財団

文献
Biographies

藪内 翔(やぶうち しょう)

甲南大・院自然科学統合ニューロバイオ研院生

森 雪永(もり ゆきな)

甲南大・院自然科学統合ニューロバイオ研院生

金村菜々子(かなむら ななこ)

甲南大・院自然科学統合ニューロバイオ研院生

久原 篤(くはら あつし)

甲南大・院自然科学統合ニューロバイオ研教授

 
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