生物物理
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総説
アロステリック調節薬によるμオピオイド受容体の活性化機構
今井 駿輔嶋田 一夫
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2025 年 65 巻 3 号 p. 145-149

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Abstract

鎮痛作用を司るGタンパク質共役型受容体μオピオイド受容体(MOR)の活性発現機構を,溶液NMR法を用いて解明した.MORは活性の異なる3構造間の平衡状態にあり,アロステリック調節薬はこのうち最も活性の高い構造の存在比を上昇させることで従来のリガンド単独では達成できないレベルにMORの活性を高める.

Translated Abstract

The μ opioid receptor (MOR) is a G protein-coupled receptor that plays a crucial role in analgesia. We used solution NMR spectroscopy to investigate the activation mechanism of MOR in the presence of an allosteric modulator, BMS-986122, and identified that MOR exists in a dynamic equilibrium among three distinct conformations with different levels of activity. BMS-986122 binds to the transmembrane domain of MOR and stabilizes the fully active conformation of MOR by preventing the closure of the transmembrane helix 6. These findings may contribute to the development of novel analgesics with improved efficacy.

1.  はじめに

Gタンパク質共役型受容体(G protein coupled receptor, GPCR)は,神経伝達物質やホルモンなどの細胞外刺激を受容して活性化すると,細胞内で3量体Gタンパク質と相互作用して細胞内シグナルを誘起する,7回膜貫通型のタンパク質である.GPCRは様々な生理応答とその制御を担い,現在承認されている医薬品の30%以上の結合標的でもあるため,その機能発現機構を理解することは,生物学的にも薬理学的にも重要な課題である.

GPCRには,リガンド非結合状態でも弱く細胞内シグナルを誘起する活性があり,これは基礎活性と呼ばれる.また,GPCRのリガンドは,その薬効度によって細胞内シグナルを最大限に誘起する完全作動薬,弱く活性化する部分作動薬,他のリガンドと競合的に結合するが活性を変化させない拮抗薬,シグナル伝達を基礎活性よりも抑制する逆作動薬に分類される.現在使用されているGPCR標的薬のほとんどは,内在性リガンドが結合する細胞外側ポケットに競合的に結合するオルソステリックリガンドであり,現在も様々なGPCRに対して新規オルソステリックリガンドの開発が試みられているが,既知リガンドを超える薬効度を有する薬が見つかることは稀である1).このことは,オルソステリックリガンドが達成できる薬効度には限界があり,多くのGPCRについて既知のリガンドですでに頭打ちとなっていることを示している.一方で,様々なGPCRについて,完全作動薬結合状態における活性が上昇するような点変異が数多く報告されていることは,それらのGPCRの活性が完全作動薬によっても十分には引き出されていないことを示唆する.実際,一部のGPCRについては,細胞外側ポケット以外に結合してGPCRの活性を上昇させるアロステリック調節薬が発見・報告されており,新しい作用機序を持つGPCR標的薬の候補として注目されている2)

溶液核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance, NMR)法は,時間軸の要素を含めた生体分子の立体構造(動的構造)を,その分子が機能を発揮している生理的なin situ条件下にて解析可能な分光法である.我々はこの溶液NMR法の特徴を活かし,GPCRの機能がどのように発現するのか,その機構を解析してきた.その結果,GPCRの機能を理解するためには,X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡解析で得られる静的なスナップショットとしての立体構造のみでは不十分であり,GPCRが実際に機能する条件下での動的構造の情報が必須であることが明らかとなってきた3).本稿では,主に脳幹や視床内側野に発現して鎮痛作用や報酬系を司るGPCRの一種であるμオピオイド受容体(mu opioid receptor, MOR)について,そのアロステリック調節薬であるBMS-986122が機能に直結する動的構造平衡を変調させることでその活性を増大させることを示した研究を紹介する4),5)

2.  MORの活性を規定する構造平衡の同定

MORへのオルソステリックリガンドやアロステリック調節薬の結合がその活性を様々に変化させる機構を理解するため,各リガンド結合状態におけるMORの活性と,その際の溶液NMRスペクトルの相関解析を行った(図1).NMRスペクトルの測定には,メチオニンメチル基を選択的に1H,13Cにて安定同位体標識し,他の残基を高度に2H安定同位体標識したMORを,昆虫細胞発現系にて発現・精製して用いた6).この標識法によって,MORのメチオニンメチル基の周辺の局所構造とその運動性を反映するシグナルを,高感度かつ部位特異的に検出することができる3),7).メチオニンはタンパク質中の出現頻度が2.5%程度と低いが,GPCRのような膜貫通タンパク質には比較的多く分布し,NMRシグナル同士の縮重を避けて分子中の所望の位置からのシグナルを部位特異的に観測できるという特徴がある3).NMR解析の結果,MORの6番目の膜貫通ヘリックス(TM6ヘリックス)の細胞内側に存在するM283に由来するNMRシグナルが3種の異なる化学シフト値を取ることが明らかとなった(図1c, d).TM6ヘリックスは,逆作動薬や拮抗薬が結合したGPCRの立体構造と,作動薬とGタンパク質が結合したGPCRの立体構造を比較した際に大きく構造が異なることから,GPCRの活性化機構への寄与が示唆される部位である.これらのシグナルの相対強度は,細胞外側ポケットに結合するオルソステリックリガンドの種類やアロステリック調節薬の有無によって変化し,複数のシグナルが同時に観測されることもある.この結果は,MORにはTM6細胞内側のコンフォメーションが異なる3種類の構造が存在し,溶液中ではこれらが互いに化学交換する動的構造平衡状態にあること,またそれらの存在比がMORのオルソステリックリガンドやアロステリック調節薬の結合により変化することを示している.さらに,これらのシグナルの強度とMORのGタンパク質活性化能との相関解析から,これら3個のシグナルが反映する構造は相対活性が0.00,0.64,1.00と大きく異なることが示された(図1e).以下ではこれら3種の構造をそれぞれ不活性化,部分活性化,完全活性化構造と呼ぶ.

図1

MORの活性とM283メチル基由来NMRシグナルの相関.(a)BMS-986122の化学構造(b)各種リガンド結合状態におけるMORの活性(c)完全作動薬結合状態MORとGタンパク質複合体の立体構造(PDB ID: 8K9K).M283はTM6ヘリックス細胞内側で,Gタンパク質との界面付近に存在する.(d)各種リガンド結合状態におけるM283メチル基のNMRシグナル.M283I,M283PA,M283FAはそれぞれ不活性化構造,部分活性化構造,完全活性化構造におけるM283のシグナルに対応する.(e)MORの活性を規定する動的構造平衡.MORは相対活性の異なる3構造の平衡状態にあり,その存在比が結合するリガンドによって変化する結果,全体の活性が規定される.文献4の図を改変.

以上より,動的平衡状態にあるこれら3構造の存在比が,結合するオルソステリックリガンドやアロステリック調節薬によって変化し,それによって見かけの活性が変化するというMORの活性制御機構が明らかとなった.この結果は,BMS-986122がMORの立体構造をより高活性なものに変化させるのではなく,MORに本来備わっている動的構造平衡に摂動を与え,完全活性化構造の存在比を高めることによってアロステリック調節薬として機能することを初めて示したものである.

3.  MORが取る3構造の構造的特徴

前項で同定された不活性化,部分活性化,完全活性化の3構造の特徴を理解するため,常磁性緩和速度増大(paramagnetic relaxation enhancement, PRE)効果を用いた実験を行った(図2).タンパク質溶液中に自由拡散する常磁性試薬(Gd-DTPA-BMA,図2a)が共存するとき,NMR観測対象となるタンパク質上のメチル基が溶媒に露出しているほど常磁性試薬からの強いPRE効果を受け,その結果NMRシグナルの線幅が増大し,シグナル強度が減少する.溶媒PRE法は,この現象を利用して,そのメチル基の溶媒露出度を定量する方法である.3構造に由来するM283の3個のシグナルM283I,M283PA,M283FAが同時に観測される完全作動薬DAMGO結合状態(図1d)において溶液PRE実験を行った結果,2 mM Gd-DTPA-BMAにおけるシグナル強度減少率は不活性化構造,部分活性化構造,完全活性化構造由来シグナルについてそれぞれ0.11 ± 0.25,0.33 ± 0.12,0.62 ± 0.17と算出された(図2a).この結果を,界面活性剤LMNGの末端に位置しミセル内部に遮蔽されているメチル基のシグナルの強度減少率0.36 ± 0.01と比較し,強度減少率が顕著に大きい完全活性化構造においてのみM283の側鎖メチル基が溶媒に露出することが示された.Protein Data Bankに登録されていた全7種類のオピオイド受容体の立体構造の調査より,M283はTM6ヘリックスの細胞内側領域が分子外側に開き,Gタンパク質結合部位が細胞内側に露出した構造においてのみ溶媒に露出することが確認されたことから,完全活性化構造においてMORはTM6細胞内領域が分子外側に開いた構造を取ることが示された(図2b).完全活性化構造においてTM6ヘリックスが開きGタンパク質結合部位が露出するという結果は,この構造がGタンパク質との相互作用に最も有利であり,相対活性が最も高いことを立体構造の見地から支持するものである.

図2

MORの溶媒PRE解析.(a)2 mMのGd-DTPA-BMA(inset)添加前後のM283由来シグナルの強度減少率.値が大きいほどそのシグナルに対応する構造においてM283のメチル基が溶媒に露出していることを表す.(b)拮抗薬結合状態MOR(PDB ID: 4DKL)および完全作動薬とGタンパク質が結合した状態のMOR(PDB ID: 6DDF)の表面表示.細胞内側から見た図を示している.青で示したM283の側鎖は,後者でのみ溶媒に露出している.文献4の図を改変.

4.  BMS-986122結合状態MORの立体構造解析

これまでの溶液NMR解析から,BMS-986122がMORの動的構造平衡に摂動を与え,TM6が開いた完全活性化構造の存在比を高めることによってその活性を増大させることが明らかとなった.BMS-986122がMOR上のどの部位に結合してこのような構造平衡の摂動が生じるのかを調べるため,BMS-986122結合状態におけるMOR-Gタンパク質複合体のクライオ電子顕微鏡解析を行った(図3a).その結果,BMS-986122はMORのTM3,TM4,TM5からなる膜貫通領域の溝に脂質膜側から結合することが明らかとなった.一方で,BMS-986122存在下と非存在下のクライオ電子顕微鏡構造を比較した結果,MORの主鎖構造はCα原子のr.m.s.d.が0.71 Åとほぼ同一であり,BMS-986122の結合に伴う変化は観測されなかった.この結果は,細胞内側にGタンパク質を結合させた上で氷中にて運動性を抑制した状態で行われるクライオ電子顕微鏡解析では,MORの活性を理解するのに重要な動的構造の情報が失われ,BMS-986122の有無にかかわらずMORがGタンパク質結合状態の構造に収束していることを示唆する.しかしながら,変異体解析や配列の保存性から活性に重要であることが知られている残基に特に着目して密度マップを比較すると,GPCRに高度に保存されたDRYモチーフの構成残基R167と,TM5ヘリックス上に存在しGPCR間で保存性の高いY254の間に,わずかながら有意な差が見出され(図3b),R167とY254の相互作用がBMS-986122によるMORの活性増大に関係することが示唆された.

図3

BMS-986122結合状態MORのクライオ電子顕微鏡解析.(a)BMS-986122および完全作動薬DAMGO結合状態MORと3量体Gタンパク質の複合体のクライオ電子顕微鏡マップ.Gタンパク質はGαi3,Gβ1,Gγ2からなる3量体である.scFv16はGタンパク質の構造安定化のために加えられた単鎖抗体.BMS-986122(赤)はMORの膜貫通領域に脂質膜側から結合する.(b)BMS-986122存在下(上)と非存在下(下)における密度マップの違い.BMS-986122存在下ではY254とR167の密度はつながっているが,非存在下では離れている(赤丸矢印).文献5の図を改変.

5.  BMS-986122による構造平衡摂動の分子機構

クライオ電子顕微鏡解析から見出されたR167とY254の相互作用がBMS-986122によるMORの活性増大に関係する可能性について,MORが活性を発揮する溶液中Gタンパク質非存在下における溶液NMR法にて解析した.Y254と同じTM5ヘリックス上にて構造上近接するM257のメチル基に由来するNMRシグナルを解析対象とし,その13C方向の線幅の磁場依存性を解析した(図4a).その結果,完全作動薬DAMGO結合状態におけるM257メチル基の線幅は1Hの共鳴周波数800 MHzと1 GHzの磁場強度においてそれぞれ65 ± 5,123 ± 5 Hzであり,その差は58 ± 10 Hzであったのに対し,DAMGOに加えアロステリック調節薬BMS-986122が結合した状態での線幅は89 ± 7,109 ± 12 Hzで差は20 ± 19 Hzであった.2種類の異なる磁場強度でのNMRシグナルの線幅の差は,観測対象メチル基のマイクロ秒–ミリ秒のタイムスケールでの運動性が大きくなるほど増大する.R167-Y254間の水素結合形成を抑制するY254F変異体を用いた実験と合わせて,MORのM257周辺の局所構造にはR167-Y254の動的な相互作用に由来するマイクロ秒–ミリ秒のタイムスケールの運動性が存在し,BMS-986122の結合はこの相互作用を安定化することでM257周辺の運動性を抑制することが明らかとなった.

図4

R167とY254の相互作用の溶液NMR解析.(a)左:BMS-986122結合状態MORのクライオ電子顕微鏡構造の拡大図.M257はY254近傍に存在する.右:磁場強度800 MHzと1 GHzにおけるM257の13C方向シグナル線幅の差.(b)左:BMS-986122結合状態MORのクライオ電子顕微鏡構造を細胞内側から見た図.右:野生型およびY254F変異体のM283のNMRシグナル.M283I,M283PA,M283FAはそれぞれ不活性化構造,部分活性化構造,完全活性化構造におけるM283のシグナルに対応する.Y254F変異体では,M283FAが消失し観測されなくなっている.文献5の図を改変.

BMS-986122の結合によるR167-Y254の相互作用の安定化が,MORの活性を変化させる構造機構を解明するため,両残基間の相互作用がMORの活性を規定する3構造間平衡に及ぼす影響を解析した.R167-Y254間の相互作用が消失するY254F変異体のM283シグナルの解析を行った結果,Y254F変異体では,DAMGO結合状態においてもDAMGOとBMS-986122が結合した状態においても,完全活性化構造を反映するシグナルが全く観測されなくなり,野生型と比較して部分活性化構造のシグナルは弱く,不活性化構造を反映するシグナルは強く観測された(図4b).M257シグナルの解析結果と合わせて,溶液中,Gタンパク質非存在下におけるR167,Y254間の動的な相互作用は,TM6が開いた完全活性化構造を安定化するストッパーの役割を果たし,BMS-986122のTM3への結合がこれら2残基の相互作用を安定化すると完全活性化構造の存在比が増大するという分子機構が明らかとなった.

6.  まとめ

本研究で明らかとなったMORの活性発現の分子機構を図5に示した.MORはGタンパク質非存在下では相対活性の異なる3構造間の構造平衡にあり,細胞外ポケットに結合するオルソステリックリガンドによってその存在比が変化することで全体の活性が規定される.アロステリック調節薬BMS-986122は,TM3,4,5ヘリックスが形成する膜貫通領域のポケットに脂質膜側からTM3に結合する.このとき,TM3ヘリックス上でBMS-986122とは反対側の分子内部に存在するR167と,TM5ヘリックス上に存在するY254の相互作用が安定化されると,TM6が閉じにくくなり,その結果TM6が開いた完全活性化構造の存在比が高くなる.

図5

MORの活性を規定する動的構造平衡.MORは不活性化,部分活性化,完全活性化の3構造間の平衡状態にあり,相対活性の異なるこれらの存在比が結合するリガンドによって変化することで全体の活性が変化する.完全活性化構造においてはTM6細胞内側が開いており,Gタンパク質結合部位が露出している.R167とY254が相互作用するとTM6が閉じにくくなり,完全活性化構造が安定化する.BMS-986122はTM3に結合することでこの相互作用を安定化し,完全活性化構造の存在比を増大させるアロステリック調節薬である.文献5の図を改変.

既知リガンドの中で最大の薬効度を有する完全作動薬であっても,単独ではMORの完全活性化構造の存在比は19%にすぎない(図1e).このことは,細胞外側ポケットへのリガンド結合に伴う構造変化を,TM6ヘリックス細胞内側領域の分子外側への動きに変換することが困難であることを示唆する.アロステリック調節薬は,脂質膜側からMORに結合することでこの動きをオルソステリックリガンドとは異なる方向から安定化し,それによって完全活性化構造の存在比を高める.R167とY254はclass A GPCRに広く保存された残基であるため,脂質膜側から相互作用し両残基間の相互作用を強化しTM6ヘリックスの開構造を安定化するという戦略は,MORのみならず他のGPCRにも広く適用可能であると期待される.本研究から得られた知見が,MORや他のGPCRのアロステリック調節薬の合理的開発に活用されることに期待したい.

文献
Biographies

今井駿輔(いまい しゅんすけ)

理化学研究所生命医科学研究センター生体分子動的構造研究チーム上級研究員

嶋田一夫(しまだ いちお)

理化学研究所生命医科学研究センター生体分子動的構造研究チームチームリーダー,広島大学副学長,東京大学名誉教授

 
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