2025 年 65 巻 3 号 p. 159-161
ゲノム編集ツールとして広く利用されているCas9やCas12aを動物個体に送達する場合,それらの遺伝子の大きさがしばしば問題となる.我々は,既存のCas9/Cas12で最小の酵素であるAsCas12fの分子改変によって,Cas9やCas12aと同等のゲノム編集活性を有する改変型AsCas12fを創出した.本稿ではその分子改変戦略について概説する.

原核生物のCRISPR-Cas獲得免疫機構に関与するCas9は,ガイドRNA(gRNA)と複合体を形成し,gRNAのガイド配列と相補的な二本鎖DNAを特異的に切断する1)(図1).ガイド配列は任意の配列に人為的に設計可能であることから,Cas9は生命の設計図であるゲノムDNAを自由に書き換えられる「プログラム可能な」ゲノム編集ツールとして,遺伝子治療や創薬,農作物の品種改良などにおいて広く応用されている.

Cas9およびAsCas12fの作用機序の概略.
Cas9を遺伝子治療に利用する場合,一般に,アデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターを用いてCas9を目的の組織に導入する.しかし,AAVベクターに搭載できる遺伝子の大きさは約4.5 kbが上限であり,Cas9は1368アミノ酸残基からなる大型な酵素であるため,AAVベクターへの搭載効率が低く,そのモダリティーが制限されるという大きな問題点が残されていた2).
2015年,Cas9とは分子系統学的に独立したファミリーのCasタンパク質として,Cas12aが発見された3).それ以降,Cas12aとはさらに分子系統学的に異なるCas12タンパク質が次々と発見され,現在までにCas12aからCas12nの14種類のそれぞれ異なるサブタイプとして報告されている.我々はこの多様なCas12のなかから,Acidibacillus sulfuroxidans由来のCas12f(AsCas12f)に着目した.AsCas12fは422アミノ酸残基から構成された,既存のCas9/Cas12タンパク質のなかで最小のエンドヌクレアーゼである4)(図1).したがってAsCas12fは,AAVベクターに効率的に搭載可能な,Cas9に代わる小型ゲノム編集ツールとして期待された.しかしながら野生型のAsCas12fは哺乳類細胞内においてほとんどDNA切断活性を示さないという問題点があった.そこで我々は,構造生物学,および合成生物学の二分野融合的なアプローチによる分子改変によって,AsCas12fの哺乳類細胞における活性を向上させ,小型ゲノム編集技術基盤を確立することを目指した.
AsCas12fの改変にあたり,まず,小型AsCas12fによるDNA認識・切断機構の詳細な分子基盤を得るために,我々はクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析によって,AsCas12f-gRNA-標的DNA三者複合体の立体構造を決定した5).
得られた立体構造から,AsCas12fはCas9とは異なり,二分子のAsCas12f分子(AsCas12f.1,およびAsCas12f.2)が一分子のgRNA分子と結合して,非対称な二量体構造を形成していることが明らかになった(図2).AsCas12f二量体はrecognitionローブ(REC)とnucleaseローブ(NUC)からなる二葉構造を形成しており,gRNA-標的DNAヘテロ二本鎖はRECとNUCの間に形成された溝に収容されていた.gRNAは配列から予測された二次構造とは異なり,二つのシュードノット(PK1, 2)および五つのステム(Stem1-5)から構成されていた(図2).

AsCas12f-gRNA-標的DNA三者複合体の全体構造(左),およびgRNAの全体構造(右).Stem 5はdisorderしていた.
構造情報の取得と並行して,我々はAsCas12fを構成するN末端からC末端までの各アミノ酸残基を,それ以外の19種類全てのアミノ酸に置換したAsCas12fライブラリーを作成した.その際,AsCas12f遺伝子の下流にgfp遺伝子を組み込んだ.このレンチウイルスを,gfp遺伝子領域を標的とするガイドRNAを発現するHEK293T細胞株にトランスダクションした.この系では,まずGFP蛍光を有する細胞をソーティングすることで,AsCas12f変異体が搭載されたレンチウイルスが感染した細胞のみを選別できる.その後数日間培養すると,AsCas12f変異体によるDNA切断効率の強弱によって,細胞のGFP蛍光消失の強弱が連動するようになっている.このような網羅的なライブラリーの活性評価を,発現ホストのフェノタイプと共役させることで行う実験系は,Deep mutational scanning(DMS)と呼ばれる.我々は,上述の系を用いることで世界に先駆けてCRISPR-Cas酵素に対するDMSを実現した5)(図3).その結果,AsCas12fの細胞内におけるゲノム編集活性を20%以上向上させる点変異を約200個同定することに成功した.

AsCas12fライブラリーに対するDMSの概略図.
DMSによって得られた,点変異によるAsCas12f活性向上変異体はいずれも,Cas9と比較すると依然として低活性であった.そこで我々は,DMSによって得られた点変異を組み合わせることで,AsCas12fのさらなる活性向上を目指した.その際,DMSによって得られた活性向上変異アトラスと,単粒子解析によって得られた構造情報双方を考慮(変異同士が立体障害を起こさないようにするなど)し,変異を組み合わせていくことで,野生型と比較して10倍以上の活性を有するAsCas12f四重変異体(以下,enAsCas12f)の作成に成功した.
さらに,AsCas12fタンパク質の改変に加えて,gRNAの改変にも着手した.我々は,AsCas12fのgRNA中のStem 3およびStem 4が完全に溶媒に露出しており,AsCas12fタンパク質とほとんど相互作用していないことに着目し(図2),これらの領域をトランケーションし,短いリンカーでそれ以外の領域を連結させた改変型gRNAを作成した.予想外なことにこの改変型gRNAは野生型と比べて哺乳類培養細胞中において高い発現量を示し,それに伴いenAsCas12fによるゲノム編集効率を向上させた.最終的に,enAsCas12fおよび改変型gRNAを組み合わせたシステムは,哺乳類培養細胞中においてCas9と同等のゲノム編集活性を示した(図4).

enAsCas12fおよび改変型gRNAによるゲノム編集活性評価.
本研究で開発したenAsCas12fシステムは,Cas9の1/3以下の大きさでありながらCas9と同等のゲノム編集活性を有する小型ゲノム編集ツールとして,今後の遺伝子治療分野における強力な技術基盤となることが期待される.