生物物理
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総説
アクチン線維のゆらぎによるコフィリン結合制御
成田 哲博
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2025 年 65 巻 4 号 p. 183-187

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Abstract

コフィリンはアクチン線維を切断,脱重合することで,細胞内アクチン線維の重合,脱重合によるターンオーバーを大幅に加速する.アクチン線維へのコフィリンの結合は,アクチンのドメイン間ゆらぎ,D-loopゆらぎ,らせんゆらぎの三つのゆらぎに依存する.つまり,構造ゆらぎがタンパク質間の結合を直接制御している.

Translated Abstract

The cofilin family accelerates actin dynamics in the cell by more than 100 times, by enhancing severing and depolymerization. We predicted that fluctuations in the actin filament are essential for cofilin binding based on the cryo-EM structure of the cofilin-bound actin filament, and this has been confirmed by several recent studies with many collaborators. Three types of fluctuations—1) actin domain fluctuation, 2) D-loop fluctuation, and 3) fluctuations of the helical twist—regulate cofilin binding without altering the averaged structure. This highlights the importance of protein fluctuation, not only in understanding how cofilin functions, but also in broader biological contexts.

1.  はじめに

アクチンは重合して二本のストランドからなる線維をつくり,真核生物における様々な細胞機能に不可欠である.ヒトで量の多い骨格筋αアクチンと細胞質βアクチンはニワトリと1残基も変化していないことからもその重要性は明らかである.哺乳類,鳥類だけでなく,鳥類に繋がる獣脚類の恐竜,恐竜と哺乳類の共通祖先も間違いなく同じアクチンを持っている.これだけ長い数億年の進化の過程で1残基でも変異が入ると子孫が残せなかったわけである.

アクチンは,重合・脱重合という動的変化を通じて,生体内の多くの役割を果たしている.動的変化には,アクチン内部に結合したATPの加水分解が関与し分解とともにアクチンは線維として古くなる.つまり,古いアクチン線維はADPを結合している.

精製アクチンから重合した線維の脱重合は非常に遅く,細胞内ではコフィリンファミリーが線維切断,脱重合促進を介して百倍以上にアクチン線維の分解速度を上げることによってアクチンの動態を支えている.コフィリンは,ADPを結合した古い線維や,張力がかかっていない線維(細胞内では主にミオシンがアクチンに張力をかけている)によく結合する.いままでの研究から,このようなコフィリン結合制御が,平均構造(多くの場合ゆらぎの中心や滞在時間が特別に長い構造が相当する)の変化を伴わないアクチン分子構造(図2)のゆらぎの変化によるものであることがわかってきた(図1).分子のゆらぎが直接機能を制御している興味深い例であり,本稿で紹介したい.

図1

アクチンのゆらぎとコフィリン結合制御.

図2

アクチン構造.

2.  アクチンの三つの構造と二つの剛体領域

まず,アクチン分子の構造について概説する.アクチン分子は大きく二つのドメインに分けられ,それぞれInner Domain(ID),Outer Domain(OD)と呼ばれる(図2上,中).アクチン分子は単量体構造(G-form),線維構造(F-form),コフィリン結合構造(C-form)の三種類の構造をとる(図2上).この三種類の構造は,IDとODの間の相対角度が異なる.この構造変化の中でほとんど構造が変わらない領域がそれぞれのドメインにあり(ID剛体,OD剛体,図2下段右),正確にはこの剛体間の角度でそれぞれのformを定義できる1).これまで得られてきた構造の解析と,分子動力学シミュレーションから,いままで知られている全てのアクチン構造はこの三つに本質的に分けることができることが示されている2).もちろん単量体ではG-formが安定で,F-form,C-formは分子間結合の自由エネルギーによって安定化されている.

アクチン線維の中の分子間結合は主にID-ID結合とID-OD結合からなり,ID-OD結合はF-formの時だけ形成される(図2下).逆に言えば,ID-OD結合による自由エネルギー低下によって,アクチン構造は線維形成時にG-formからF-formへ変化する3)

3.  コフィリン結合

コフィリンが結合すると,アクチン線維の構造は大きく変化する.クライオ電子顕微鏡構造解析から,その構造の詳細が明らかになった1).コフィリンは同一ストランド内のアクチン2分子に同時に結合する.B端側の分子(B分子)のOD(F-site),P端側の分子のID,OD(G-site)が主な結合部位である(図3右).G-siteの結合が,二つのドメインの相対位置を固定し,アクチン分子をF-formからC-formへ変化させる.また,二つの分子に同時に結合することによって,分子間の配置を固定し,線維のらせんのピッチ(クロスオーバー長)を大幅に短縮する(図3左).しかし,G-site,F-siteの二つの結合サイトに同時に結合するにはアクチン線維の大きな構造変化が要求され,必要な活性化エネルギーがあまりに大きい.

図3

コフィリン結合アクチン線維構造.

4.  コフィリン結合モデル

私たちがコフィリン結合アクチン線維の構造から立てたモデルは以下のようなものである1),4)図4).コフィリンの結合様式(図3右)をよく見ると,コフィリンはB分子にはODで結合(F-site)するのみである.従って,F-siteの結合はアクチンのform(図2上)に依らず,F-formアクチンでも問題なくできる.まずコフィリンはF-formのB分子に結合するだろう.しかし,B分子がF-formのままではP分子とコフィリンはあまりに遠い(図4左端).しかし,B分子とP分子間のID-OD結合がたまに切れることがあれば,B分子のドメイン間のゆらぎが可能になる.ID-OD結合がなければアクチンはG-formが安定なので,B分子はG-formに向かってゆらぐだろう.そうすると,P分子とコフィリンが接近し,G-siteの一部に結合,コフィリンがP分子に安定して接近できるようになり,活性化エネルギーを乗り越えて完全なG-siteの結合が起こりやすくなる.このモデルはコフィリンの結合がアクチンのゆらぎに依存することを予測している.この後の研究により,コフィリン結合とアクチンのゆらぎの関係の詳細が明らかになってきた.

図4

コフィリン結合モデル.

5.  コフィリン結合とD-loopゆらぎ

このコフィリン結合モデル(図4)ではまず,コフィリン結合はID-OD結合の偶然の切断に依存する.ID-OD結合においては,D-loopを介した分子間結合が大きな役割を担う.D-loopはアクチン分子の中で例外的に大きなゆらぎを持つ領域で,アクチン単量体の結晶構造ではほとんど見えておらず,見えているものも互いに大きく構造がちがう(図5左上).D-loopには短い配列の中に三つのグリシンが保存されており,このゆらぎの大きさは意味があるものと考えられる(図5右上,とはいえアクチンはほかの部分も極めて保存性が高く,配列のほとんどはなんらかの意味のあるものである).そこで私たちはそれまで知られているアクチン線維構造から二つのグリシンをアラニンに変えてもID-OD結合を邪魔しないことを確かめ(図5左下),実際に変異体を作製することでD-loopのゆらぎを抑えることにした5)

図5

D-loopゆらぎ抑制とアクチン動態.

二つのグリシンをアラニンに変えた変異体では,アクチン分子間結合の強さを示す臨界濃度は変化しなかったが,線維の重合,脱重合速度が有意に低下した.それだけでなく,コフィリンの結合も大幅に低下した(図5右下).これはD-loopのゆらぎが低下することでID-OD結合切断の頻度が下がったと考えられ,私たちのコフィリン結合モデルと一致する.また,重合時にID-OD結合を迅速に形成するためにもD-loopのゆらぎが必要であると考えられ,D-loopのゆらぎはやはり意味のあるものであることが示唆される.同時にゆらぎの程度がタンパク質の機能を制御している明確な例となった.

6.  コフィリン結合とドメイン間ゆらぎ

コフィリン結合モデル(図4)においては,ID-OD結合が切れたあとのドメイン間のゆらぎも大事である.コフィリンはATP結合アクチンやADPPi結合アクチンよりもADP結合アクチンによく結合し,ATP加水分解が進んだ古い線維を分解する.この機構の説明には,F-formの結晶構造が役に立った.

アクチンのIDとODそれぞれにある剛体領域の相対角度によってformが定義できるということは,この相対角度を固定すればアクチン分子のformをコントロールできるということである.コフィリンとは別のアクチン線維切断タンパク質フラグミンのN末端ドメイン(F1ドメイン)がアクチンをF-formに固定することが発見され,F-formのAMPPNP,ADPPi,ADP状態の1.15Å分解能結晶構造解析に成功した6).三つの構造の間にほとんど変化はないが,AMPPNPのγリン酸,ADPPiのリン酸が二つのドメインを水素結合で繋いでいる様子が明らかになった.この結合がF-formを安定化している.一方Piが抜けてADP結合状態になると,その隙間は水分子で埋められ,ドメイン間の結合は大幅に弱くなっていた(図6).つまり,D-loopがはずれてID-OD結合がはずれても,ADPPi状態やATP状態であれば,リン酸によるドメイン間の繋がりによりF-formが安定化されているので,ドメイン間ゆらぎは起きにくくなり,そのままD-loopの再結合がなされる可能性が高い.しかし,ADP状態であればこの安定化はなくなるので,ゆらぎが起きやすくなる.その結果,G-formに向かいやすくなり,G-siteの結合をつくるチャンスが大幅に増えるのである.

図6

F-form結晶構造とリン酸によるドメイン間結合.

ATP加水分解前後のこのレベルの高分解能構造がそろった例はなく,今回の結晶構造からATP加水分解のQM/MM計算としていままでで最も正確なモデルを立てることもできたが,その詳細は本稿の内容からはずれるので,興味がある人は是非論文を読んでほしい6)

7.  コフィリン結合とらせんゆらぎ

アクチンに張力が加わるとコフィリンが結合しにくいことはよく知られている7).また,フォルミンはアクチン線維B端に結合して,B端における線維の伸長を助けるタンパク質だが,伸長に伴い線維を回転させる.この回転力が加わると,やはりコフィリンが結合しにくい(図7).これはどのように説明できるだろうか.

図7

外力によるコフィリン結合抑制と,張力によるクロスオーバー長分布変化.

ID-OD相互作用が切れると,リン酸によるF-form安定化作用がないADP状態のアクチンでは,より安定なG-formに向かおうとする(図4).しかし,ここでもう一つの要素がある.アクチン線維のらせんが通常のらせん(クロスオーバー長が36-38 nm)の分子のならびだと,コフィリンがP分子のODとクラッシュしてしまい,G-siteに近づくことができない.一方らせんがコフィリン結合型に近い短いクロスオーバーであれば,このクラッシュは大幅に減少する4).つまり,アクチン線維のらせんゆらぎによって,たまたま短いクロスオーバーを持った領域にコフィリンは結合しやすいと考えられる.

そこで,アクチン線維に力がかかった状態で,電子顕微鏡写真を撮影,アクチン線維のらせんゆらぎを直接計測してみた.フォルミンはアクチン線維のクロスオーバーを伸ばす方向に回転力が加わる.この回転力が加わると,アクチン線維のクロスオーバー長の分布から短い成分がほぼ見られなくなった8).磁気ビーズにアクチン線維を結合させて,磁石で引っ張ることでアクチン線維に張力をかけた状態で電子顕微鏡写真を撮影すると,クロスオーバー長の分布幅が張力をかけていない状態のおおよそ半分になった9)図7).これらは,コフィリンが,たまたまアクチンクロスオーバー長が短いときに結合するというモデルとよく一致する.つまり,コフィリン結合はアクチンのらせんゆらぎにも依存し,らせんゆらぎはアクチンにかかる外力によって変化する.このことによって,アクチンとコフィリンは力学センサーとして働いている.

8.  おわりに

ここまで,コフィリン結合が,明確な平均構造の変化を伴わない,D-loopゆらぎ,ドメイン間ゆらぎ,らせんゆらぎの三つのゆらぎに依存することを見てきた(図1).また,このゆらぎ依存は,なぜコフィリンがADP状態アクチン線維に結合するか,なぜ張力がかかったアクチン線維に結合しないかなど,コフィリンの基本的性質をよく説明する.

外力などの外的要因,ヌクレオチド状態などの内的要因によって構造ゆらぎの大きさは変化する.このような構造ゆらぎの変化によるタンパク質の性質変化は,まだ十分に研究されているとはいえない.しかし,構造変化は多くの場合なんらかのポテンシャルバリアを乗り越えなくてはならず,その応答は不連続である.一方,ゆらぎ自体が変化する場合には,より周辺環境にシームレスに応答できる.概日時計や繊毛運動の周期現象のような,構成分子が限られているにもかかわらず,分子が集団になると個々の分子の性質では説明できない現象を起こす例は多い.個々の分子の状態遷移は速度定数によるランダムなもので,これだけではどうやっても集団としての周期現象は説明できない.しかし,となりの分子の状態で速度定数が変化するようにすると,簡単なシミュレーションで周期現象を再現できる(図8).つまり分子の集団現象には,個々の分子がとなりの分子の状態や外力などの周辺環境によって性質を変えることが必要である.このような周辺環境への応答にアクチンで見られたような,ゆらぎの変化が重要な役割を果たしている可能性は非常に高いと考えている.

図8

分子集団現象シミュレーション.

文献
Biographies

成田哲博(なりた あきひろ)

名古屋大学理学研究科准教授

 
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