2025 年 65 巻 4 号 p. 192-196
アクチン細胞骨格は核や紡錘体の配置制御や細胞運動を駆動する.本稿では細胞質抽出液を封入した油中液滴の中で観察された,様々な動的アクチン骨格の自己組織化現象を概説する.得られた結果をもとに細胞内でのアクチン骨格形成と機能発現の制御,アクチン骨格分子の力を介した細胞内空間認識メカニズムについて考察する.

The actin cytoskeleton drives various biological functions, including intracellular positioning of the nucleus and mitotic spindle, and cell motility. To gain physical insights into the regulatory mechanisms, we use water-in-oil droplets containing cytoplasmic extracts as a model system. We successfully reconstituted the symmetric/asymmetric positioning of a nucleus-sized object and actomyosin-based cell motility. A combination of physical modeling and molecular perturbation experiments identified the key physical parameters responsible for these processes, highlighting the roles of mechanical interactions among cytoskeletal proteins in organizing intracellular structures and biological functions.
細胞は主にタンパク質でできている.質量比で比較すると,水の次に多い成分がタンパク質であり,その後に脂質,核酸と続く.個々のタンパク質分子の視点に立って細胞内の世界を想像すると,その世界は非常に広大なことに気付く.この広大な細胞内空間において,分子自身の数百倍以上もある巨大な構造や動的秩序が組み上がる仕組みは自明ではない.なぜなら分子は近接する者同士の物理的接触を通じてしか“コミュニケーション”が取れない.それにも関わらず何らかの仕組みで広大な空間を認識し,適時適所で細胞スケールの構造や機能を自己組織化している.この何らかの仕組みとは一体どのようなものか? この謎に迫ることで,分子という物質的基盤の上に生命が成立している仕組みが見えてくるはずである.
著者は細胞運動や分裂など生命に本質的な機能を司るアクチン細胞骨格に着目し,細胞で見られる構造や秩序が人工下で再構成される条件を探るという構成的手法により,分子から生命機能が自己組織化する仕組みの解明に挑んできた.本稿では,細胞サイズの閉鎖空間にタンパク質溶液を封入したカプセルを人工細胞と呼ぶことにし,人工細胞で見られる様々な自己組織化現象を通して,細胞内でのアクチン骨格形成と機能発現の制御,さらには分子間の力学的相互作用に基づいた細胞内空間認識メカニズムについて議論する.
分子から個体までのあらゆる階層において,対称性は生命の重要な概念である.本稿では細胞内の対称性に着目する.例えばマウスの卵母細胞では,細胞核や紡錘体の配置が細胞の中央あるいは縁に精密に制御されており(図1),この制御が狂うと重篤な先天性欠損症を引き起こす1).いずれの配置制御もアクチン骨格が担っていることが示唆されており,核配置については細胞質アクトミオシンの収縮力の不均一性が生み出す圧力勾配によって核が中央に運ばれるモデル2)が提案されている.紡錘体の配置については,細胞質アクトミオシンが生み出す細胞質流動3)あるいは細胞膜との間に形成されたアクトミオシンネットワークの収縮4)により紡錘体が縁に運ばれるモデルが提案されている.しかしアクトミオシンという同一の分子セットが,細胞の中央あるいは縁という異なる場所に構造物を配置する仕組みを包括的に説明するモデルは提唱されておらず,制御の仕組みには謎が残る.

マウス卵母細胞における配置制御.アクチン骨格により細胞核は中央へ,紡錘体は縁に配置される.
細胞骨格による機能発現メカニズムに迫る方法として,人工細胞を用いた構成的手法が提案され発展してきた.その源流は1990年代に遡る.宝谷,宮田らは精製チューブリンや精製アクチンをリポソームに封入し,微小管やアクチン線維の重合に伴う膜変形に初めて成功した5),6).その後,様々な形状の微細加工ウェルや油中液滴に封入する方法も開発され7),8),タンパク質の種類や濃度だけでなく,空間の大きさや形状も自在に制御できるようになってきた.本研究では,様々な再構成実験で有用性が示されているアフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵から抽出した細胞質を用いることにした9).細胞質抽出液は精製タンパク質混合液と比べて組成が非常に複雑であるが,細胞質の物性を再現できるという利点がある.既知の濃度の精製タンパク質を添加することで,精密な分子摂動を与えることも可能である.本研究では微小管の寄与を除くための重合阻害剤とアクチン線維を可視化する蛍光プローブ,さらにATP再生系を加えて2時間以上動的な状態が保たれるようにした抽出液を用いた.
この抽出液を脂質膜で包まれた油中液滴に氷上で封入し(図2a),温度を上げてアクチン重合を促すと,まずは液滴内全域でアクチンネットワークが形成され,すぐにネットワーク全体が収縮した(図2c).これにより分散していたオルガネラが集められ,1つのクラスターを形成した(図2b).続いて液滴の縁から中央に向かう周期的なアクチン波が発生し(図2d),この波は2時間以上持続した10).アクチンは主に縁付近で重合し,中央付近で脱重合するサイクルが繰り返され,定常状態が維持されていると考えられる.周期波が発生するメカニズムの詳細は紙面の都合上割愛させていただくが,興味のある読者は著者らの最近の報告11)を参照されたい.

細胞質抽出液を封入した油中液滴.(a)実験系の模式図.解析しやすいように液滴をカバーガラスで挟んでディスク状にし,2次元系とみなせるようにした.(b)明視野像.(c,d)タイムラプス蛍光像.アクチン線維の分布をTMR-Lifeactで可視化した.スケールバー:100 μm.
油中液滴は,脂質膜の組成を自由に変えられる利点とサイズ依存性を容易に調べられる利点がある.リポソームも同様の利点があるが,膜組成とサイズのいずれもリポソームより自由度が高い.サイズ依存性を調べてみると,クラスター配置は液滴の直径に強く依存し,大きな液滴では中央に,小さな液滴では縁に配置されるという興味深い現象を発見した(図3a).著者らはクラスターを細胞核や紡錘体を単純化したオブジェクトとして解釈し,アクチン細胞骨格がクラスターの配置を制御する仕組みを調べることにした10).クラスターの位置が中央か縁のどちらかで安定するという観察結果から,クラスターには中央に運ぶ力と縁に運ぶ力という2つの相反する力が働いており,それらの効果の大小関係が配置を決定しているという綱引きモデルを立てた(図3b).クラスターを中央に運ぶ力は,液滴の縁から発生する向心性の周期波が生み出していると考えた.一方で,クラスターが縁に移動する際には,クラスターと縁との間にブリッジ状のアクトミオシンネットワークが形成される様子が観察されたため,ブリッジの収縮がクラスターを縁に引き寄せていると考えた.ここで,ブリッジ形成は細胞質中のアクトミオシンがクラスターと膜を1本のネットワークで繋ぐ確率的なプロセスである点に着目した.このプロセスはパーコレーション(percolation)と呼ばれる体系化された物理現象の枠組み12)で解釈でき,ブリッジ形成にかかる特徴的な時間τは,クラスターと縁との距離,すなわち液滴の直径Dの増加とともに指数関数的に増大することが理論的に予想される(図3c,赤線).一方でアクチン波の周期Tは,Dと弱い比例関係しかないことを実験で確認した(図3c,青線).従ってアクチン骨格による綱引きモデルが正しいと仮定すると,τとTが交差する転移点D*でクラスターを中央に運ぶ作用と縁に運ぶ作用の大小関係が逆転し,配置対称性が破れる描像が描ける.

2種類のアクチン骨格の“綱引き”による配置制御メカニズム.(a)サイズ依存的な配置対称性の破れ.(b)綱引きモデル.(上)縁で発生し中央に向かう周期的なアクチン波によってクラスターは中央に運ばれる.(下)細胞質中で疎に分布したアクチン線維同士が架橋タンパク質で確率的に繋がりはじめ,クラスターと縁を繋ぐブリッジが形成されると,クラスターは縁に引き寄せられる.ブリッジが完成する前にアクチン波が発生すると,波は細胞質中の線維を取り込みながら進行し,細胞質中の線維は一掃されるので,途中まで進んでいたブリッジ形成は初期状態にリセットされる.(c)綱引きモデルで転移点が決まる仕組み.アクチン波生成とブリッジ形成にかかる特徴的時間の短い方で配置が決まる.(d)分子摂動によるモデルの検証.線維の長さを変化させるタンパク質を加えて転移点のシフトを計測し,数理モデルとの整合性を確認した.
綱引きモデルの確からしさを検証するために,アクチン線維の長さを変化させる実験を行った(図3d).アクチン線維を長くするとτは短くなるので,より大きな液滴でもクラスターを縁に運ぶ作用が強くなるはずである.従ってアクチン線維を長くすればD*は大きくなり,逆にアクチン線維を短くすればD*は小さい値にシフトすると予測された.そこで長いアクチン線維の形成を促進するforminあるいはアクチン線維を切断するgelsolinを細胞質抽出液に加え,転移点D*を測定した.いずれの実験も予想される方向にD*が変化し,さらにその変化は数理モデルと定量的に一致した.なお,この程度のアクチン制御タンパク質の添加では波の周期はほとんど変化せず,ブリッジ形成に対して選択的に摂動を与えたことを確認した.
マウス卵母細胞の紡錘体とアクチン動態観察から,forminが細胞質中で形成するアクチンネットワークが紡錘体極と細胞膜を繋ぎ,ミオシンによる収縮で膜に近い方の極を手繰り寄せることで,紡錘体が細胞の縁に運ばれるというモデルが提案されていた4).本研究で明らかにしたブリッジ形成によるクラスターの配置制御は,卵母細胞で観察されている現象及び提案されているモデルと定性的に合致している.従って本研究は,紡錘体の配置メカニズムにパーコレーションに基づく物理的理解を与える研究と位置付けられる.一方でアクチン波による配置制御は細胞での観察例がなく,アクチン波に着目した研究が期待される.
綱引きモデルによると,対称性を破るためにはブリッジと膜との接着も重要なパラメータとなる.この予測の検証として,ブリッジと膜の接着を強めるためにPI(4,5)P2を人工細胞の膜に埋め込んだ.PI(4,5)P2はWASPファミリータンパクを介してアクチン重合核形成因子のArp2/3複合体と結合したり13),アクチン線維の架橋タンパク質であるα-actininと結合し14),アクチン線維と膜の接着を強めると期待される.PI(4,5)P2の作用を観察したところ,予測通り大きな液滴でもクラスターが縁に配置されるようになり,綱引きモデルを補強する結果を得た.それだけでなく,上下のカバーガラスで挟まれた隙間を,まるで動物細胞が這い回るように液滴が動く現象を発見した15).
動物細胞の細胞運動は大別して2つの仕組みによって駆動される.1つ目は葉状仮足(lamellipodia)と呼ばれる平たい突起によって駆動される運動モードで,アクチン重合が膜を押し広げることによって前進する(図4左).2つ目はコルテックス(cortex)と呼ばれる膜直下のアクトミオシンの網目構造によって駆動される運動モードであり,アクトミオシンの収縮力が動力源と考えられている(図4中).細胞外基質に推進力を伝えるためには,どちらの運動モードも細胞接着斑(focal adhesion)を形成する必要があると長らくの間考えられてきた.しかし近年,コルテックス駆動の運動モードの中で,接着斑を形成しなくても運動できる運動モードが発見された16)(図4右).この運動モードは始原生殖細胞や免疫細胞が生体組織内で移動するときに使われていることや,がん細胞が浸潤や転移するときに使われていることが最近の研究で明らかになりつつあり,発生学・医学的重要性からも注目されている運動モードである.細胞膜表面との物理的な摩擦によって細胞外基質に推進力が伝達されると考えられているが,アクトミオシンの収縮力が細胞の並進運動に変換される仕組みは未解明な点が多い.複雑なタンパク質構造体である接着斑の形成を伴わないシンプルな運動様式であることから,真核細胞の運動様式として最も原始的であるという議論もある17).

細胞運動の分類.アクチン重合で膜を押すモード(左)とアクトミオシンの収縮で動くモード(中右)で分けられ,さらに細胞接着斑の有無で後者は二分される.
PI(4,5)P2を加えたときに観察された液滴の自発運動(図5a, b)は,接着斑を必要としない細胞遊走を単純化したモデル系として見なせると著者らは考えた15).クラスターが縁付近に配置されると,クラスター側のアクチン波はすぐにクラスターに到達して吸収されるため,結果として周期的なアクチン波は,クラスターから離れた側からクラスター側に向かう一方向性の波となった.そして液滴はアクチン波と逆の方向に進行した(図5c, d).この波は遊走細胞の先端から後方に流れるアクチン流動(retrograde flow)と見かけ上類似しており,遊走中の細胞では細胞核が後方に配置されることも,クラスターの配置と類似している.

アクトミオシンが駆動する細胞運動の再構成.(a)実験系の模式図.脂質膜にPI(4,5)P2を加えた.(b)明視野とアクチン蛍光のタイムラプス画像と,その(c)キモグラフ.(d)アクチンの密度勾配により収縮力の勾配が生じ,前後極性が維持される仕組み.スケールバー:100 μm.
まずは液滴の運動を駆動している分子を特定するために各種阻害剤を用いた実験を行い,アクトミオシンが運動を駆動していることを確認した.さらに液滴の運動速度とアクチン波の伝搬速度との間には正の相関関係が見られたことから,アクチン波が推進力を生み出していると予測された.そこでアクチン波が液滴を推進する仕組みを探るため,液滴とカバーガラスとの間に小さな蛍光ビーズを挟み込んでその動きを観察し,PI(4,5)P2の有無で比較した.PI(4,5)P2を加えた場合,アクチン波が液滴の運動方向の後方に流れる過程で蛍光ビーズを後方に運んだ.PI(4,5)P2を加えない場合,PI(4,5)P2があるときと同様にアクチン波が発生するものの蛍光ビーズは動かず,液滴も動かなかった.この結果はPI(4,5)P2を介してアクチン波の収縮力が脂質膜に伝わり,液滴が駆動されていることを示唆する.
運動速度は人工細胞がカバーガラスとの接点で生み出す推進力(摩擦力)と,人工細胞が溶媒(油)から受ける抗力の釣り合いで決まる(図6a上).後者は溶媒の粘性やガラスの間隔などの幾何学的パラメータに強く依存するはずである.そこで力の釣り合いの式を流体力学に基づいて解き,液滴の運動速度Vと溶媒の粘性や幾何学的パラメータの関係を表す式を導出した(図6a下).この式に含まれるパラメータのうち,アクチン線維と脂質膜との相互作用の強さを特徴づけるα以外の値は全て実験で測定できる.αは幾何的な拘束条件や溶媒の粘性とは独立したパラメータと考えられるため,モデルが正しければ,ガラスの間隔や油の粘性を様々に変えて測定した運動速度のデータを同じαの値でフィッティングできるはずである.実際,実験データを同じαの値で正確にフィッティングできたことから(図6b),モデルを支持する結果を得た.

運動速度の拘束条件依存性.(a)力の釣り合いの模式図と,釣り合いの式から導出された液滴の運動速度の関係式.(b)実験データとモデルの比較.実験データは直径が100-200 μmの液滴の運動速度の平均値.エラーバーは標準偏差.
モデルが正しければ,アクチン線維と膜を繋ぐ分子さえあれば,分子の詳細によらず液滴が動くと予測される.そこでPI(4,5)P2のかわりにNi-NTAとHis-tagの結合を利用してアクチン線維と膜を繋ぐ実験を行った.具体的にはNi-NTAが結合した人工脂質を膜に埋め込み,細胞質抽出液にはHis-tagを融合したWASPあるいはα-actininを添加して液滴の動きを観察した.いずれの条件でもアクチン波の対称性の破れと液滴の並進運動が観察され,モデルの妥当性が示された.この結果は,アクチン線維と膜の相互作用が細胞の遊走速度を制御する重要なパラメータであることを示唆する.
本稿で紹介した2つの研究では,いずれも再構成系の利点を活かしたサイズ依存性の解析と分子摂動による数理モデルの検証を有機的に連携させることで,人工細胞内でアクチン骨格が示す現象の物理的理解を得た.前半では向心性の周期的なアクチン波と,膜との間に確率的に形成されるブリッジの2種類の動的なアクチン骨格構造が拮抗する作用を生み出し,綱引きのように配置対称性を制御するメカニズムを提唱した11).後半ではアクチン線維と膜との接着を強めると,綱引きの結果アクチン波の空間対称性が破れ,収縮力が脂質膜を介してガラス基板に伝わることで並進運動が駆動されるメカニズムを提唱した15).これらの発見は細胞骨格分子が互いに結合・解離しながら,力を介して細胞内の広大な空間を認識することで,核や紡錘体の配置を操作したり,細胞スケールの前後極性を生み出し維持する機能を持つことを示唆している.
再構成系は実際に細胞内で働いている分子を用いた「実空間シミュレーション」と言い換えることができる.着目している生命現象のエッセンスを抽出し,一種の理想化を行えるのが利点であり生物物理学との親和性が高い.再構成技術の発展により,様々な生命現象の解明への貢献が期待される.
本研究は主に九州大学の前多裕介博士(現京都大学),坂本遼太博士課程学生(現台湾中央研究院),早稲田大学の田邉優敏修士課程学生(研究当時),シンガポール国立大学の平岩徹也博士(現台湾中央研究院),国立遺伝学研究所の島本勇太博士の協力のもと行われた.この場を借りて皆様に感謝申し上げる.