生物物理
Online ISSN : 1347-4219
Print ISSN : 0582-4052
ISSN-L : 0582-4052
トピックス
ストレスファイバーの流動性とその力伝達機構
勝田 紘基平田 宏聡
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 65 巻 5 号 p. 270-272

詳細
Abstract

アクトミオシンの束構造であるストレスファイバーにおいて,アクチン線維間の架橋タンパク質がミオシン活性に伴う構成線維の流動を抑制していることが明らかとなった.これにより,ストレスファイバーに沿ったミオシン収縮力の伝達効率が向上し,細胞外基質への牽引力の印加と基質硬度の感知に寄与することが示唆された.

1.  はじめに

細胞内に形成される細胞骨格は,細胞の形態形成,細胞運動の駆動・調節,生化学シグナルの生成・伝達など広範な細胞機能に関与している.細胞骨格の1つであるアクチン線維は単量体のアクチンが重合した直径約8 nmのらせん状線維である.アクチン線維が発達している筋細胞では,アクチン線維はミオシン線維とともに収縮性の束構造である筋原線維を形成し,アクチンとミオシンの両線維が互い違いに並んだ周期的なサルコメア構造を有する.同様の構造は筋細胞以外の接着性細胞においても見られ,ストレスファイバーと呼ばれる,10-30本のアクチン線維が束状に集合したファイバーを形成し,ファイバーに沿ってcontractile unitと呼ばれるサルコメア様の繰り返し構造が観察される.ストレスファイバーは筋原線維と同様にアクチン線維とミオシン線維の滑り運動によって収縮力(アクトミオシン収縮力)を生み出すとともに,その端部の連結した構造体に力を伝達している.特に,細胞の足場となる細胞外基質と細胞との間の超分子接着構造である接着斑の細胞質側にはストレスファイバーの末端が結合しており,ストレスファイバーから接着斑に伝達された収縮力は,細胞外基質に対して牽引力として作用する.この細胞外基質に対する牽引力は,細胞の変形や移動を駆動するのみならず,細胞外基質の硬度や幾何学的形状などの物理的特性を細胞が検知するのにも関わっている.この検知の結果生じる現象の例として,非一様な硬度分布をもつ細胞外基質上に接着した細胞がより硬い基質領域へ向けて遊走するdurotaxisが挙げられる1).さらに細胞外基質の硬度は幹細胞の運命決定にも関与しており,間葉系幹細胞は柔らかい(0.1-1 kPa)基質上では神経細胞様に,硬い(25-40 kPa)基質上では骨芽細胞様に,中程度の硬度(8-15 kPa)の基質では筋芽細胞様に分化する2).このように,ストレスファイバーで発生した収縮力の接着斑および細胞外基質への伝達は細胞機能の発現と維持に極めて重要である.

ストレスファイバーは,アクチン線維およびミオシン線維に加え,α-actininやfilamin,fascinなどのアクチン線維間を架橋するタンパク質によって構成される粘弾性体である(図1).ストレスファイバーが粘弾性を有することは,高出力のレーザー光を集光してストレスファイバーを切断すると,ファイバーが速やかに弾性力により短縮したのち,ゆっくりと一定長にまで短縮するクリープ現象を示すことからも理解できる.アクチン線維からなるネットワーク構造の物性測定は,精製分子を用いたin vitroでの再構成研究を中心として行われてきた.アクチンネットワークにアクチン架橋タンパク質を混合すると弾性が上昇し,硬くなる3).これは化学合成ポリマーにおいて,架橋剤の添加量を増加した場合と同様の結果である.一方,アクチンフィラメントが束となったストレスファイバーにおいて,アクチン架橋タンパク質がファイバーの形成や物性,安定性におよぼす影響についてはほとんど検討されてこなかった.筋原線維やストレスファイバーでの主要なアクチン架橋タンパク質としてα-actininがある.α-actininは逆平行の二量体を形成し,アクチン結合ドメイン,カルモジュリン様ドメイン,スペクトリンリピートを有するタンパク質である.本稿では,α-actininを中心とするアクチン架橋タンパク質がどのようにストレスファイバーでの収縮力伝達に寄与し,細胞周囲の物理的特性の検知やそれに対する細胞応答にどのような影響をおよぼすか,我々の最近の知見を踏まえて議論する.

図1

接着細胞のストレスファイバーおよび接着斑の模式図.ストレスファイバーはアクチン線維,ミオシン線維やアクチン架橋タンパク質により構成されており,端部は接着斑に接続している.

2.  アクチン架橋タンパク質はストレスファイバーの流動性を調節している

アクチン架橋タンパク質の細胞機能への影響を解析するため,我々はα-actininの全アイソフォームを恒常的にノックダウン(KD)したマウス筋芽細胞株を作製した.細胞表面を原子間力顕微鏡にて走査すると,細胞膜下にストレスファイバーがある部分は周囲より弾性率の高い直線パターンとして描出される.これによりストレスファイバー領域の弾性率を測定すると,α-actinin KD細胞においてその弾性率が顕著に低下していた4).一方で,蛍光タンパク質融合ミオシンIIを細胞に導入してストレスファイバーの観察を行ったところ,α-actininのKDによりストレスファイバーのサルコメア構造の周期性は失われていたが,ストレスファイバーの形成そのものや細胞内での分布には顕著な変化が見られなかった.

ストレスファイバーの細胞内での動態を明らかにするため,アクチン線維に結合するペプチドLifeActに蛍光タンパク質を融合したF-アクチンプローブ,および蛍光タンパク質融合ミオシンIIを発現させ,ストレスファイバーのダイナミクスをライブイメージングにより観察した.その結果,α-actinin KD細胞では,ストレスファイバーを構成するミオシンII,アクチン線維のいずれについても,ストレスファイバーに沿った流れが対照細胞と比較して顕著に上昇していた4)図2).また,アクチン結合ドメインを欠失した変異型α-actininを発現させ,内在性のα-actininと二量体を形成させることでアクチン線維間の架橋を阻害すると,変異型α-actininの発現量の増加とともにストレスファイバーの流動速度が上昇した4).ストレスファイバー内の流れの駆動がミオシンのモーター活性によるものかどうか検証するため,BlebbistatinによるミオシンATPase活性の阻害,もしくはホスファターゼ阻害剤Calyculin Aによるミオシン調節軽鎖のリン酸化の促進を介して,ミオシンのモーター活性をそれぞれ抑制/亢進させたところ,ストレスファイバー内の流動速度はミオシンモーター活性の亢進時には大きくなり,抑制時には小さくなった4)

図2

ストレスファイバー中の蛍光標識したミオシンのタイムラプスイメージング.GFP融合ミオシンIIを発現する細胞についてストレスファイバーの観察を行った.矢尻部に注目すると,α-actinin KD細胞のストレスファイバーに沿ったミオシンIIの移動量がコントロール細胞のものより大きいことがわかる.スケールバー:5 μm.

以上のことから,α-actininによるアクチン線維間の架橋は,ストレスファイバー中のミオシン活性に伴う構成線維の流動を抑制していることが明らかとなった.

3.  ストレスファイバーの流動化はアクトミオシン収縮力の伝達効率を低下させる

ストレスファイバーはその流動化に伴い,ストレスファイバーと周囲の細胞質との間に粘性摩擦を生じ,その摩擦応力は流れ速度の上昇とともに大きくなるであろう.また,ストレスファイバーが流動化することで,ストレスファイバー内部の構成要素間での滑りも大きくなる.流動化に伴うこれらの効果はエネルギーの散逸をもたらすとともに,アクトミオシン由来の収縮力のストレスファイバーに沿っての伝達効率を低下させると予想される.このことを検証するため,弾性ゲル上に細胞を培養し,ゲルの変形の大きさとゲルの弾性率から細胞の牽引力を推定する牽引力顕微鏡法によって,細胞から細胞外基質に伝達される牽引力を測定した.その結果,我々の予想通り,α-actinin KD細胞においては,ミオシンの活性は低下していないにも関わらず牽引力が顕著に低下していた4).アクトミオシン収縮力の伝達についてさらに調べるため,ホスファターゼ阻害剤Calyculin Aを処理することでミオシン活性を上昇させると,対照細胞では細胞外基質への牽引力が増大したが,α-actinin KD細胞ではそのような変化が生じなかった.このことは,α-actininの発現量が低い状況ではアクトミオシンの発生する収縮力が増大しても接着斑および細胞外基質へと力が伝達されないことを示唆している.別のアクチン架橋タンパク質であるfilamin Aの発現低下細胞においても細胞外基質への牽引力が低下することが報告されており5),アクチン架橋タンパク質がアクトミオシン由来の収縮力の伝達を担保する上で重要であると考えられる.

ストレスファイバーの末端と細胞外基質とをつないでいる接着斑は,引張力が負荷されると成長し安定化する6).接着斑タンパク質であるzyxinの接着斑への局在は接着斑の引張負荷に強く依存することが知られているが7),α-actininのKDによりzyxinの接着斑への集積が大幅に低下した.このことから,アクチン架橋タンパク質によるミオシン収縮力伝達の調節は接着斑の制御にも関与していることが示唆される.

4.  アクトミオシン収縮力の伝達効率変化は細胞機能にどのような影響をもたらすか?

アクトミオシン収縮力のストレスファイバーに沿っての伝達効率の低下は,細胞による細胞外基質の物理的特性の検知にも影響するであろうか? 上述の通り,細胞が細胞外基質の硬度を検知するには,アクトミオシン収縮力によって細胞外基質を変形させる必要がある.一方で,硬い細胞外基質ほどアクトミオシンによる収縮力の発生を増大させるというフィードバック機構の存在も知られている8).α-actinin KD細胞において,異なる硬さの細胞外基質上で細胞の基質牽引力を測定すると,対照細胞,α-actinin KD細胞いずれにおいても基質硬度の上昇とともに牽引力は増加したが,牽引力はどの基質硬度においてもα-actinin KD細胞の方が小さかった.さらに,対照細胞とα-actinin KD細胞の牽引力の差は基質硬度が上昇するにつれ拡大していた.異なる基質の硬さに対する細胞応答をさらに調べるため,柔らかい基質上(2.3 kPa)とガラス上(数十GPa)で細胞の遊走速度を比較した.α-actininの発現量に関わらず遊走速度は柔らかい基質上での方が大きかったが,遊走速度の基質硬度への依存性はα-actininの発現抑制により顕著に低下していた4).これらの結果は,ストレスファイバーにおけるアクチン架橋が細胞外基質の硬さの検知に関与していることを示唆している.細胞外基質の硬さは細胞の生存,増殖や,幹細胞の分化や遺伝子発現に影響することが知られており,このような多様な細胞機能に対してα-actininをはじめとするアクチン架橋タンパク質がどのように関わっているのか,今後の研究で明らかにすべき重要な課題である.

5.  今後の展望

本稿では,α-actininに着目した我々の研究結果を中心に,アクチン線維間の架橋タンパク質がストレスファイバーでの力の伝達効率を上昇させることを紹介し,力の伝達効率変化が細胞機能におよぼす影響について議論した.α-actininやfilaminなどいくつかのアクチン架橋タンパク質には,細胞外からの生化学的/物理的刺激に応答するセカンドメッセンジャーであるCaイオンやホスファチジルイノシトール2リン酸(PIP2)が結合し,アクチン線維への結合親和性が変化する.細胞外からの刺激によりストレスファイバーの流動性と力伝達効率がモジュレートされる可能性や,それによって細胞運動や細胞外基質硬度への感受性が調節される可能性について,今後の検証が待たれる.

文献
Biographies

勝田紘基(かつた ひろき)

岡山大学学術研究院医歯薬学域システム生理学助教

平田宏聡(ひらた ひろあき)

金沢工業大学バイオ・化学部生命・応用バイオ学科教授

 
© 2025 by THE BIOPHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
feedback
Top