生物物理
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総説
高速原子間力顕微鏡による電位依存性ナトリウムチャネルの開閉構造と分子間相互作用の解析
角野 歩炭竈 享司柴田 幹大入江 克雅
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2025 年 65 巻 6 号 p. 301-304

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Abstract

電位依存性Na+チャネル(Nav)は急峻な活動電位の発生に必要不可欠だが,Navの開閉構造や,Nav間相互作用の詳細は不明だった.我々は,高速原子間力顕微鏡により,Navが閉じると電位センサーがポアドメインから離れて他のNavの電位センサーと二量体化することを発見した.この現象は,Navの協同的開口をもたらす分子実態の候補となる.

Translated Abstract

Understanding voltage-gated sodium (Nav) channels is significant since they generate action potential. Nav channels consist of a pore domain (PD) and a voltage sensor domain (VSD). All resolved Nav structures show VSDs that tightly interact with PDs; however, it is unclear whether VSDs attach to PDs during gating under physiological conditions. Recently, we observed structural dynamics of three different voltage-dependent NavAb by high-speed atomic force microscopy. Surprisingly, VSDs dissociated from PDs in the resting state and dimerized between channels. This dimerization would be a potential explanation for the facilitation of cooperative activation in the rising phase of the action potential.

1. はじめに

我々の体内では活動電位が常に駆け巡っており,そのおかげで思考や運動をはじめとする様々な生命活動を行う.活動電位は,細胞膜のイオンの透過性が時々刻々と精密制御されながら変化することで形作られる.電位依存性イオンチャネルは,細胞膜内外の電位の変化に応じてイオンの通路(ポア)を開閉し,細胞膜のイオン透過性を制御することで,活動電位の形成に関わっているため,電位依存性イオンチャネルの動作機構の解明は生理学・生物物理学分野の最重要課題の1つと言える.

このチャネルが働く分子機構を明らかにするため,これまでに,各種構造解析(X線結晶構造解析や低温電子顕微鏡の単粒子解析など)が盛んに行われてきた1)-3).それらの先行研究の結果から,電位依存性チャネルはイオンの通り道を作るポア領域が中心にあり,4つの膜電位を感知する領域(電位センサー)が,ポア領域に結合したまま機能していると考えられてきた(図1a).しかし,様々な技術的困難さにより,イオン透過経路が閉じた静止状態(この総説では説明を簡単にするため閉状態と記載する.)の分子構造は不明点が多く,特に生理的に近い条件で開閉するチャネルの構造は不明だった.一方で,電位依存性K+チャネルの分子動力学計算では,静止状態において電位センサーがポアから解離すると予測されたが,実験的な検証はされていない4).また,電位依存性Na+チャネル(Nav)が協同的に開くことで活動電位が急峻に発生するという説があるが5),協同性を生み出す分子機構も,ほとんど不明だった.今回我々は,膜タンパク質のナノスケールの表面構造と動態を室温で観察できる高速原子間力顕微鏡(高速AFM)6)を用い,脂質膜中のNavの開閉構造を可視化した(図1b7)

図1 NavAbの構造(PDB ID: 4ekw)と高速AFM観察の模式図.(a)NavAbの分子構造.膜貫通ヘリックスS1-S4は電位センサー,S5-S6はポアドメインを構成する.ホモ4量体化して中心にイオンの通り道を作り,その周囲に巻き付くように電位センサーが存在する.(b)ポア領域の細胞内側を基板に固定してAFM観察した.文献7の図を改変.

2. 閉状態では電位センサーがポア領域から解離する

Navは構造が比較的単純なNavAbを用いた.一般的なNavは24本の膜貫通ヘリックスと膜外領域によって構成されるが,細菌由来のNavAbは膜外領域が小さく,また6本の膜貫通ヘリックスがホモ4量体化してチャネルを形成する.チャネルを形成する様式がタンデム構造かホモ4量体かという違いはあるが,電位センサーとポアドメインという電位依存性チャネルとしての基本構造は共通である8).まず,Navの構造を閉状態および開状態で観察するために,開口の電位依存性を遺伝子操作により変化させた変異体のNavAbを作製した.0 mVにおいて野生型チャネルは開いており,E32Q/N49K変異体では閉じている.これらのNavAbを単離精製し,AFM基板に固定,さらに脂質膜に再構成して高速AFM観察した.ここで,チャネルのポアドメインの細胞内側にHis-tagを導入し,Ni2+修飾したマイカ基板に固定してから脂質膜に再構成しているため9),チャネルの側方拡散を抑えつつも電位センサーは動きうる状態である(図1b).

高速AFM観察すると,野生型,変異体ともに,ポア領域に相当する4つの粒子が四角に並んだ構造が観察された(図2).これは想定通りだが,興味深いことに,電位センサーに相当する粒子が開状態ではポア領域に常に結合していたのに対し(図2a-d),閉状態ではポア領域から離れた位置に存在することがわかった(図2e-h).閉状態では電位センサーが動きやすいために不鮮明だが,時間平均像(図2f)や局在AFM像(図2g10)では,ダンベル状の構造がポア領域から数nm離れた位置に存在するのがわかる.よって,開状態では従来の通説通りに電位センサーがポア領域に強く結合しているが(図2d),静止状態では解離する(図2h)ことが高速AFM観察より明らかになった.

図2 電位依存性Na+チャネルNavAbの高速AFM観察.(a, e)開および閉状態のNavの高速AFM観察結果,黒矢印と白矢印はS1-S2およびS3-S4ヘリックスにそれぞれ対応する粒子,(b, f)a,eの時間平均画像,(c, g)a,eの局在AFM画像,(d, h)観察した構造の模式図.中央の4つの大きい円がポア領域,周囲の小さい円が電位センサーを表す.同系色の円は同じタンパク質由来.文献7の図を改変.

3. 閉状態では電位センサーが二量体を形成する

さらに予期せぬ発見があった.閉状態のNavの観察において,解離した電位センサーが近くの別のチャネルから解離した電位センサーと会合したような構造が多数観察された(図3a).生体内には電位センサーのみで機能するH+チャネル(Hv)が存在するのだが11),Hvは生体内で二量体構造を形成することが知られている12).我々は,既に論文で報告されていたHvの二量体構造と,Navの電位センサーの構造13)を組み合わせて電位センサーの二量体の構造モデルを作成した(図3b).この構造について1マイクロ秒の分子動力学計算を行い,得られた100枚のスナップショットから時間平均AFM像を生成した.こうして計算したAFM像(図3c, d)は高速AFMで観察した構造と類似していたため,閉状態ではポア領域から離れた電位センサーが二量体化すると結論付けた.

図3 閉状態でポア領域から解離した電位センサーの二量体化.(a)高速AFMで捉えた構造,黒い点は粒子の中心,(b)電位センサーの二量体の構造モデル,(c)bの構造のAFMシミュレーション像,(d)bとcの重ね合わせ.文献7の図を改変.

4. 電位センサーが二量体を形成する生理的意義

先に紹介した情報を統合すると,NavAbの電位センサーは,閉状態においてポア領域から離れるのみならず,まるでチャネル同士を架橋するかのように二量体化するということである.では,この現象は生理的なチャネルの密度で起こりうるのであろうか?有髄神経におけるNavは,軸索のランビエ絞輪で高密度(1500分子/μm2)に集積する14).我々は,今回発見した閉状態のNavのサイズ(直径約20 nm)の粒子が上記の密度でランダムに分布する場合の様子をモンテカルロ法によりシミュレーションし(図4),分子が接触する確率を計算した.

図4 閉状態のチャネルが生理的密度でランダムに分布した様子のモデル.閉状態のチャネルを直径20 nmの円として,1000 nm × 1000 nmの範囲にランダムに配置した.文献7の図を改変.

まず,他の1つ以上のNavと接触する確率をチャネル密度に対してプロットすると,密度の上昇に伴って接触確率が上昇し,生理的密度(1500分子/μm2)においては84%ものNavが他のNavと接触すると見積もられた(図5左).開状態のチャネルの直径(10 nm)で同様に接触確率を計算すると37%であり,閉状態での確率の半分以下であった.さらに興味深いことに,1500分子/μm2の密度において他の4つのチャネルと接触する確率は,閉状態で12%程度,開状態では0.1%程度であった(図5右).この結果は,5-15%程度のチャネルが強い協同性を持つことが活動電位の形成に重要であるという理論的研究15)と関連があるように思われる.

図5 チャネルが接触する確率の見積もり.閉および開状態のチャネルをそれぞれ直径20 nm,10 nmの円としてモデル化し,異なるチャネル密度でランダムに配置した場合の接触確率.他の1つ以上(左)および4つ(右)の分子と接触する確率.文献7の図を改変.

5. まとめと展望

以上をまとめると,本研究で見つかった閉状態のNavの電位センサーの二量体化は,生理的条件においても起こりえるだろう.Navの協同的に開口することが活動電位の速い立ち上がりに重要だという理論研究がある一方,その分子間相互作用の実態は長年不明だったが,今回我々が発見した,閉状態における電位センサーのポア領域からの解離と二量体化は,活動電位の発生過程におけるNavの協同的な開口機構の分子実態である可能性がある(図67)

図6 Navの協同的開口の分子機構.閉状態ではポア領域から解離した電位センサーが二量体化してチャネル間ネットワークを作り,チャネルが開く際に一斉にネットワークを切断する.文献7の図を改変.

実は,多くの電位依存性チャネルが生体内でナノスケールのクラスターを形成し,連動して開閉する現象が見つかっているが,その詳細な分子機構はわかっていない16).ポア領域と電位センサーにより構成される電位依存性チャネルの基本的構造は,ほぼ全ての電位依存性チャネルに共通である.つまり,今回発見した閉状態における電位センサーの二量体化は,他の電位依存性チャネルでも同様に起きている可能性が十分ある.また,二量体の界面に存在するアミノ酸残基に変異が入るとチャネル間相互作用が変化し,活動電位の波形を変形させる可能性があるため,本研究がチャネルの機能障害に由来する疾患の治療薬開発の新たな指針となることを期待する.

謝辞

本稿で紹介する研究を遂行するにあたり,金沢大学ナノ生命科学研究所の安藤敏夫教授,古寺哲幸教授,梅田健一特任助教に一部の実験設備や制御ソフトウェアを共有していただきました.この場を借りて,心から感謝を申し上げます.本総説で使用した図は,文献7の図を一部改変したものです.

文献
Biographies

角野 歩(すみの あゆみ)

京都大学大学院生命科学研究科准教授

炭竈享司(すみかま たかし)

京都大学大学院生命科学研究科特定講師

柴田幹大(しばた みきひろ)

金沢大学ナノ生命科学研究所/新学術創成研究機構教授

入江克雅(いりえ かつまさ)

和歌山県立医科大学薬学部准教授

 
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