2025 年 65 巻 6 号 p. 310-314
細胞内でのエボラウイルスのヌクレオカプシド形成過程の構造的理解を目的とし集束イオンビームミリングとクライオ電子トモグラフィーを組み合わせ,細胞内でのヌクレオカプシドの形成過程を可視化することで得られた知見を紹介する.また,細胞内クライオ電子トモグラフィーの現状と課題,今後の展望についても考察する.

Filoviruses like Ebola and Marburg cause lethal hemorrhagic fevers. The nucleocapsid (NC) forms through nucleoprotein (NP) polymerization along the genome with VP24 and VP35. Using cryo-electron tomography, we reveal the first in-cell complete NC structure at 9 Å resolution and identify the previously unknown 3rd NC layer composed of the NP-VP35 complex. This NP’s C-terminal region maintains spacing between NC bundles in cells and is linked to the viral matrix protein in the virion. Comparing in-cell and in-virion NCs shows further condensation in the virions. The assembly interfaces of NC identified here are highly conserved among all five pathogenic filoviruses, offering promising targets for broad-spectrum antivirals.
従来,生体分子の解析には,X線結晶構造解析,核磁気共鳴法などを用いる際,対象分子を細胞から単離・精製することが必須であった.近年広く用いられているクライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)の単粒子解析でも,基本的には精製された生体分子の構造解析が行われている.しかし,実際の細胞内で,タンパク質は多様な分子と相互作用しながら,常に変化する環境下で機能している.このような背景を踏まえると,タンパク質の機能を構造的に理解するためには,細胞内での構造解析が理想である.
クライオ電子線トモグラフィー(Cryo-ET)では,ウイルスや単離された細胞小器官などの不均一かつ厚みのある試料(300~400 nm)を対象とし,電子顕微鏡内で試料を傾斜させながら得られた電子線投影像(連続傾斜像)から,三次元再構成像(トモグラム)を得る.しかし,細菌や真核細胞の中心部は厚すぎるため,電子線透過性に優れる300 kVのクライオ電子顕微鏡を用いても,十分な分解能を得ることができないという課題があった.
近年,この課題を克服する技術として,集束イオンビーム加工(FIB-milling)を用いて凍結細胞の一部に厚さ100~200 nmの切片を作製し,Cryo-ETを用いることで,高解像度で細胞内部を観察することが可能になった1)(図1).また,蛍光顕微鏡を組み合わせた光電子相関顕微鏡法(CLEM)を用いて,特定の領域,分子を同定することで,より効率的に標的分子を観察することも可能である2).さらに,サブトモグラム平均化という細胞内に点在する数千,数万の標的タンパク質の三次元像を平均化する手法を用いることによって,現在では数オングストローム(3~9 Å)の分解能で細胞内タンパク質構造解析が可能になっている.

エボラウイルス(EBOV)やマールブルグウイルス(MARV)を含むフィロウイルスは,重篤な出血熱を引き起こし最大90%に達する致死率を示す3).フィロウイルスのヌクレオカプシド(NC)は,紐状のウイルス粒子の中心に存在する,ウイルスRNAゲノムと複数のウイルスタンパク質からなる複合体(図2A)である.NCは,ウイルスゲノムの複製と転写を担うとともに,宿主の抗ウイルス免疫反応を抑制する成分も含んでいる.NCは,一本鎖ウイルスRNAゲノムに直接結合するヌクレオタンパク質(NP)に加え,VP24,VP35,VP30,およびRNAポリメラーゼLで構成されている.ウイルスゲノムの転写,複製およびNCの形成は,宿主細胞の細胞質内に形成されるウイルス封入体内で行われる.完成型NCは,マトリックスタンパク質VP40との相互作用によって細胞表面でウイルス粒子に取り込まれる.なお,ウイルス粒子表面には宿主細胞への取り込みに必須な糖タンパク質GPが発現している.

これまで,細胞内におけるNCの構造変化に対する理解は限られていた.その理由は従来のクライオ電子顕微鏡では,NP-RNA複合体などの組換えタンパク質4)や細胞から出芽した精製ウイルス粒子5)といった,厚みの限られた試料のみが観察可能であったためである.しかし,ウイルスは細胞内で複製・組立されるため,その増殖過程を正しく理解するには,細胞内でのタンパク質構造解析が理想的である.
NPはRNAと結合しポリマーとしてらせん構造を形成するN末端コア領域(1-405残基),天然変性領域(424-644残基),そしてすでにX線結晶解析で構造が明らかにされたC末端ドメイン(645-739残基)の3つのドメインからなる.
我々は,FIB-millingと組み合わせたCryo-ET(図1)を用いて,NCの主要構成タンパク質である,野生型NPもしくはC末領域を欠損したNPΔ601-739とVP24およびVP356)を共発現した細胞内でのNCの可視化を行った.さらにサブトモグラム平均化を用いることで,NPΔ601-739-VP24-VP35から構成される細胞内NCの三次元構造を解析し,平均分解能9 Åの完成型細胞内NCのEMマップを得ることに成功した(図2)7).このマップと既存の結晶構造を組み合わせることで,これまでのウイルス粒子内のNC構造解析5)では同定されていなかったVP35のC末端ドメイン(VP35CTD)とVP35のN末端結合領域(VP35N-terminal BP)と複合体を形成する第3のNP(NPcore#3-VP35N-terminal BP)が同定できた.これは,近年のサブトモグラム平均化ソフトウエアの進歩に加え,NCの外層部位に注目して平均化を行ったことにより,局所解像度の改善が可能となったためである.我々の結果からエボラウイルスのヌクレオカプシドは,RNAゲノムと結合したオリゴマー化NPが形成するらせん構造の最内層,フィロウイルスに特有で宿主免疫を抑制する機能を持つVP24からなる中間層,およびVP35-NP複合体から構成される外層という三層構造を持ち,2種類の異なるコンフォメーションを示すNPを含む,極めてユニークな構造を有することが明らかになった.さらに,今回得られたウイルスタンパク質の相互作用部位は,ヒトに対して病原性を示す5種すべてのフィロウイルス間で保存されていることが確認された.この知見は広範なフィロウイルスに対する抗フィロウイルス薬の開発に貢献でき得ると考えている.
NPの天然変性領域およびC末端ドメインは,様々なウイルスタンパク質との相互作用に重要な領域であるものの,NC内におけるこれらのドメインの位置および構造は不明であった.
我々はC末端領域が欠損したNPΔ601-739-VP24-VP35からなるNCと全長NPを含むNP-VP24-VP35からなるNCの細胞内局在,構造比較を試みた(図3).その結果,NPΔ601-739由来のNCの分子モデル(図2)は全長NP由来のEMマップに良好にフィッティングし,全長NP-VP24-VP35 NC特異的に見られるEMマップ領域は認められなかった(図3D)7).これらの結果は,NPのN末端コア領域以外の天然変性領域とそれに続くC末端ドメインは非常に柔軟性が高く,サブトモグラム平均化では可視化が困難であることを示唆している.

全長NPおよびNPΔ601-739からなるNCは,細胞内で束状構造を形成した.しかし,NC間の距離には差が認められ,全長NPでは14 nm,NPΔ601-739では2 nmであった(図3B, C).このことからNPのC末端領域(601-739残基)はNCのさらなる外層を占めていると推測できる(図3D, E).さらに,この推定は,NPのC末端約100残基がマトリックスタンパク質と相互作用し,ウイルス粒子への取り込みに不可欠であるというこれまでの報告とも一致する.
細胞内NCの分子モデル(図2)と既知のウイルス粒子内NCのクライオ電子顕微鏡マップ5)を基に,ウイルス粒子内の完成型NCの分子モデルを構築することに成功した7).ウイルス粒子内ではNCは一回転あたり75 Åのピッチ(ヘリックス軸に沿った高さ)を有していたのに対し,細胞内NCは85-87 Åのピッチを示した(図4).この比較から,NCはウイルス粒子への取り込み過程でさらに凝縮されることが示唆された.現在,このNCのさらなる凝縮にはNPとVP40マトリックスタンパク質の相互作用が関与していると仮定し,その分子メカニズムの解明に向けて研究を進めている.

次に,正常細胞には感染せず安全に取り扱うことが可能なエボラウイルス感染システム(EBOV-GFP-ΔVP30)8)を用いて,感染細胞内でのNC形成過程を可視化した(図5).EBOV-GFP-ΔVP30は,ウイルスの転写因子VP30の遺伝子がGreen Fluorescent protein(GFP)遺伝子に置換されており,外来のVP30を発現している細胞においてのみ,野生型ウイルスに類似した増殖が可能となる.また,GFPがウイルス封入体に局在することから蛍光顕微鏡を用いた光電子相関顕微鏡法(CLEM)により,ウイルス封入体の効率的な可視化が可能となった(図5A, B).

この結果,EBOV-GFP-ΔVP30感染細胞では,ほとんどの細胞小器官がウイルス封入体から隔離されていた(図5C-E).さらに,ウイルス封入体内部は,完成型NCに加えて,緩やかに巻かれたNP-RNA前駆体で満たされていた(図5D-G).この前駆体は,NP/RNAに加えてRNAポリメラーゼL,ポリメラーゼ補助因子でもあるVP35および転写因子VP30が結合した複合体であり,RNAゲノムの転写および複製が活発に行われている場であると推定される9).
最後に,これまで得られた知見を基にEBOVにおける NCの形成過程の模式図を図6に示す.

現在では,FIB-millingによる細胞切片作製の自動化が進み,多くの研究者にとって細胞内タンパク質構造解析技術がより身近な技術となりつつある.さらに近年では,線虫全体また,マウス,ヒト由来の組織からもFIB-millingを用いて試料作成が可能になり,組織内でのタンパク質構造解析へと応用が広がっている10)-12).
加えて,サブトモグラム平均化ソフトウエアの進歩13),ディープラーニングを活用したトモグラムからの細胞小器官やタンパク質複合体の自動認識14),構造変化に基づく分類技術15)など,解析の自動化と高精度化が進展している.
一方でAlphaFoldに代表される構造予測アルゴリズムの発展により,解像度の低いマップでも,予想構造とマススペクトロメトリーを用いた相互作用情報などと組み合わせるインテグラティブモデリング手法を用い,タンパク質複合体の構造モデルの構築が可能となってきた16),17).
それでもなお,現在のところ,細胞内または組織内のトモグラムで同定,解析可能なタンパク質は,巨大かつ特徴的な構造を有するものに限られている.この制約を打破するためには,光学顕微鏡におけるGFPのように,無傷の細胞内で標的タンパク質をクライオ電子顕微鏡下,一分子単位で検出できる遺伝的タグの開発が必要不可欠である.
現在,研究手法の改良や新規技術の開発が世界中で精力的に進められており,Cryo-ETを用いた細胞内タンパク質解析は,今後ますます幅広い生命科学分野において,強力な解析ツールとして活用されると期待される.
原稿にコメントを下さった木村香菜子博士(京都大学・医生物学研究所),笹嶋雄也博士(協和キリン株式会社),梶村直子さん(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)に感謝します.