生物物理
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トピックス
複製フォークにおけるヒストンH3/H4リサイクリングの分子メカニズム
長江 文立津村山 泰斗寺川 剛
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2025 年 65 巻 6 号 p. 315-317

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Abstract

ヌクレオソームを構成するヒストンへの化学修飾は,DNA配列を変えずに遺伝子発現を制御する情報(エピゲノム)として機能する.本稿では,DNA複製時に親由来のヒストンが再利用され娘DNA上にヌクレオソームが再形成されるヒストンリサイクリングの分子機構を明らかにした研究について紹介する.

1. はじめに

ヌクレオソームは真核生物ゲノム構造の基本単位であり,4種類のヒストン(H3/H4/H2A/H2B)からなるヒストン8量体に147塩基対のDNAが約1.7周巻きついて形成される複合体である.ヌクレオソームは,特定のDNA領域へのタンパク質のアクセスを制限したり,ヒストンへの化学修飾を介して転写因子をリクルートしたりして,遺伝子発現を調節し,細胞の機能を制御する役割を持つ1).細胞分裂後も親細胞の機能を娘細胞に受け継ぐためには,ヒストンの修飾状態(エピゲノム)が適切に継承される必要がある2)

DNA複製時には,DNA複製装置(レプリソーム)がゲノムDNA上に形成され,複製フォークという構造を作る.複製フォークが複製起点から一方向に進行してヌクレオソームと衝突すると,ヌクレオソームが一時的に解体され,親DNA鎖由来のヒストンが遊離する.その後,これらのヒストンはリーディング鎖またはラギング鎖のいずれかに再結合する.この過程はヒストンリサイクリングと呼ばれる(図12).さらに,ヒストン修飾酵素が,すでに修飾された親由来のヒストンに結合し,その近傍にある新生ヒストンに同様の修飾を施す2).これにより,ヒストン修飾のパターンが回復し,親細胞と同様のエピゲノム状態が再構築される(図1).したがって,ヒストンリサイクリングはエピゲノム継承の第一段階として機能する.

図1 対称的なヒストンリサイクリング.リサイクリング後,ヒストン修飾酵素が新生ヒストンを修飾して,ヒストン修飾のパターンを回復させる.

2. 対称的なヒストンリサイクリング

このように,ヒストンリサイクリングはエピゲノム継承において重要な役割を果たす.しかし,リーディング鎖とラギング鎖のいずれにも等しくヒストンがリサイクルされる仕組みについては未解明の部分が多い.

親細胞のエピゲノム情報を2つの娘細胞に正しく継承するためには,2本の新生鎖に等しくヒストンがリサイクルされる(対称的リサイクリング)必要がある(図1).近年のゲノムワイドシーケンシング技術の発展により,ヒストンリサイクリングの対称性を定量的に測定できるようになった3)-5).その結果,レプリソームのサブユニットや,ヒストンと結合する機能を持つタンパク質(ヒストンシャペロン)が,ヒストンリサイクリングの対称性を制御することが明らかになった.さらに,これらのタンパク質が複数の異なる経路を介してヒストンをリサイクルすることが示された.これらの発見から,ヒストンリサイクリングの対称性は複数の経路のバランスによって維持されていることが示唆された.しかし,ヒストンリサイクリングはレプリソームとヌクレオソームの衝突によって瞬時に生じる過渡的な現象であり,その詳細な分子機構を実験的に捉えることは困難である.そこで本稿では,粗視化分子動力学シミュレーションにより明らかになったヒストンリサイクリングの分子機構を紹介する.

3. ヒストンリサイクリングの分子シミュレーション

レプリソームは,複数のタンパク質から構成される巨大な分子機械である.複製フォークの先頭では,CMG複合体(Cdc45, Mcm2-7, GINS)が二本鎖DNAを開裂し,DNAポリメラーゼが一本鎖DNAを鋳型として相補鎖を合成する.特に,リーディング鎖を合成するDNAポリメラーゼε(Pol ε)はCMGに直接結合し,複製フォークの進行を担う重要な複合体を形成する.Replication Protein A(RPA)は,主にラギング鎖の一本鎖DNAに結合し,DNA消化酵素による切断からDNAを保護する.安定した複製フォーク構造を構成する最小のタンパク質群(CMG, Pol ε, RPA)だけでも全原子数は約10万個に達する.そのため,全原子を明示的に扱って長時間のダイナミクスを計算することは困難である.そこで本研究では,1アミノ酸を1粒子で表現するAICG2+モデル6)と,1ヌクレオチドを3粒子で表現する3SPN.2モデル7)図2A)を用いて,複製フォークとヌクレオソームの粗視化モデルを構築した(図2B).

図2 複製フォークにおけるヒストンリサイクリング.(A)粗視化分子モデル(B)H3/H4(青)がラギング鎖(マゼンタ)あるいはリーディング鎖(シアン)にリサイクルされる代表的なトラジェクトリ.(C)DNA複製反応後,DNA消化酵素処理を施した複製産物のゲル電気泳動像.(D)Cdc45と結合している状態のH3/H4の代表構造.(E)Cdc45との結合を介したリサイクリング経路と介さない経路における,リーディング鎖,ラギング鎖へのリサイクルが観察された割合.

先行研究5)により,レプリソームのサブユニットであるMcm2のN末端テールが親ヒストンと結合することが示されている.また,ヒストンH3/H4がDNAに結合してテトラソームを形成する過程は,ヌクレオソーム形成の初期段階であり,最終的なヌクレオソームの配置の決定因子となると考えられている.そこで本研究では,レプリソームがMcm2のN末端テールを介してH3/H4と結合し,新生鎖上にテトラソームを形成するまでの過程に着目した.

まず,Mcm2が直接H3/H4をリーディング鎖またはラギング鎖に結合させる過程を観察した(図2B).この結果は,複製フォークにおいて,Mcm2が親DNA鎖上のH3/H4と結合すれば,自発的に新生鎖へH3/H4をリサイクルできることを示唆する.次に,複製フォーク単体でヒストンを新生鎖にリサイクルできるかどうかを検証するため,試験管内で再構成した複製フォークをヌクレオソームと衝突させる実験を行った.実験の結果,複製産物をDNA消化酵素で処理すると,新生鎖上にヌクレオソームが形成されたことを示す約150 bpのバンドが検出された(図2C).したがって,シミュレーション結果と一致して,複製フォークとヌクレオソームとの衝突時に,複製蛋白質複合体が,ヒストンを親DNA鎖から解離させて,新生鎖上にヒストンを再結合させることが実証された.

4. Cdc45との結合を介したヒストンリサイクリング

シミュレーションのトラジェクトリを詳細に解析した結果,H3/H4は新生鎖に結合する前に,レプリソームのサブユニットCdc45の,酸性アミノに富む天然変性領域(酸性ループ)と相互作用していることを発見した(図2D).このCdc45との結合がヒストンリサイクリングに及ぼす影響を調べるため,リサイクリングが観察されたトラジェクトリを解析し,Cdc45との結合を介するリサイクリング経路と,Cdc45非依存的なリサイクリング経路に分類した.その結果,Cdc45との結合を介する経路では,ヒストンは主にリーディング鎖にリサイクルされ,Cdc45非依存的な経路では,ヒストンは主にラギング鎖にリサイクルされていた(図2E).以上の結果から,Cdc45はH3/H4との結合を介して,2本の新生鎖のどちらにヒストンをリサイクルするのかを制御していることが示唆された.

5. RPAによるラギング鎖へのリサイクリング制御

ラギング鎖は岡崎フラグメントとして断続的に合成されるため,複製フォークの進行に伴いラギング鎖の一本鎖DNA領域は0-2000 ntの範囲で変化する8).その変化に応じて,ラギング鎖に結合するRPAの数も増減する.RPAの数がラギング鎖へのヒストンリサイクリングに与える影響を解析するため,RPAの数を0,1,2個に変化させてシミュレーションを行った(図3A).その結果,RPAの数が増加するほど,ラギング鎖へのヒストンリサイクリングが顕著に抑制されることが示された(図3B).RPAは,フォークジャンクションに近いラギング鎖DNA領域に結合して,立体障害によってH3/H4とラギング鎖の接触を物理的に妨げることで,リサイクリングを抑制していると考えられる(図3C).以上の結果から,ラギング鎖へのヒストンリサイクリングは,ラギング鎖上のRPAの数によって制御されることが示唆された.

図3 RPAによるラギング鎖へのリサイクリング制御.(A)ラギング鎖にRPAが結合していない状態(左),1つ結合した状態(中央),2つ結合した状態(右)の代表構造.(B)RPAの数が0,1,2個の状態における,リーディング鎖,ラギング鎖へのリサイクルが観察された割合.(C)RPAによるラギング鎖へのリサイクリング阻害の模式図.RPAがフォークジャンクションに近いラギング鎖領域へのH3/H4の結合を阻害する.

6. おわりに

粗視化分子動力学シミュレーションにより,CMG,Pol ε,RPAのみを含む系において,ヒストンリサイクリングの分子機構を可視化することに成功した.本研究のシミュレーション結果は,Cdc45とRPAがそれぞれヒストンのリーディング鎖およびラギング鎖へのリサイクリングを制御する可能性を示唆している.一方で,本稿で紹介したシミュレーション系には,ヒストンリサイクリングに関与する複数のタンパク質3)-5)(レプリソームのサブユニットPol α,Ctf4,Mrc1,Csm3/Tof1,ヒストンシャペロンFACT)が含まれていない.したがって,これらのタンパク質が関与するリサイクリング経路は未だ未解明である.

ヒストンがリーディング鎖とラギング鎖に対称的にリサイクリングされるメカニズムを理解するためには,複数のヒストンリサイクリング経路を包括的に解明する必要がある.本稿で紹介した粗視化分子動力学シミュレーションによる分子機構の可視化と,次世代シーケンシングを用いたヒストンリサイクリングの対称性解析を統合することで,対称的なヒストンリサイクリングの包括的な理解が深まることが期待される.

文献
Biographies

長江文立津(ながえ ふりっつ)

京都大学大学院理学研究科博士課程

村山泰斗(むらやま やすと)

国立遺伝学研究所染色体生化学教室准教授

寺川 剛(てらかわ つよし)

京都大学大学院理学研究科准教授

 
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