生物物理
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緑色蛍光タンパク質を元にした赤色蛍光タンパク質の開発
今村 博臣, 今田 勝巳
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2026 年 66 巻 3 号 p. 159-161

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Abstract

緑色蛍光タンパク質(GFP)と赤色蛍光タンパク質(RFP)は,全体構造は非常に似ているものの,自己触媒反応によって異なる構造の発色団を形成する.今回,GFPの改変によってRFPを創り出すことに初めて成功し,改変前後の立体構造を比較することで,異なる構造の発色団が作られる仕組みが見えてきた.

1.  はじめに

下村脩博士がオワンクラゲAequorea victoriaから発見した緑色蛍光タンパク質(GFP)とそのファミリーは,生体イメージング研究の基盤を築き,生命現象の解析に大きく貢献してきた.蛍光タンパク質は,自身のアミノ酸残基の一部を自己触媒的に変化させて発色団を形成するため,遺伝子導入のみで細胞を蛍光標識できる.局在シグナルや他のタンパク質と融合すれば,細胞内でのタンパク質やオルガネラの動態を可視化できる.更に,蛍光タンパク質を基盤としたバイオセンサーの開発により,細胞内イオン,代謝物,酵素活性の動態解析も可能になった.1990年代の終盤以降,オワンクラゲ以外の海洋生物からも新たな蛍光タンパク質が見つかり,緑色だけでなく,赤色や橙色等の長波長の蛍光を示すタンパク質が得られた.これら天然タンパク質を起点とした工学的改変により,多様なスペクトル特性をもつ蛍光タンパク質が開発され,多重蛍光イメージングやフェルスター共鳴エネルギー移動解析等に広く利用されている1).

蛍光タンパク質の発色団はβバレル構造内部を貫通するヘリックスの中央付近に位置する3つの連続するアミノ酸残基(X-Tyr-Gly:Xは主に小型~中型残基)が変化して作られるが,GFP型(青~黄緑)と赤色蛍光タンパク質(RFP)型(橙~深赤)では,発色団の構造に明確な違いがある(図1A).GFP型では,主鎖の環状化とTyr側鎖のCα-Cβ間の二重結合の形成によって発色団が形成する.一方,RFP型では上記に加えて発色団の最初のアミノ酸残基主鎖が酸化されてN-アシルイミンが生成し,GFP型よりもπ電子共役系が広がった発色団が形成される.発色団形成における酸化ステップには酸素分子が必要であり,GFP型では1分子,RFP型では2分子の酸素が消費される2).ところが,酸素分子の結合部位を含め,GFP型とRFP型でこのような反応の違いが生じる仕組みについてはほとんど理解が進んでいなかった.意外に思われるかもしれないが,これまで変異導入によって蛍光タンパク質のスペクトル特性を改変する試みが盛んに行われてきたにも関わらず,GFP型蛍光タンパク質のRFP型への改変は実現していなかった.その大きな理由として,RFPのグループが進化的にGFPから離れていることが挙げられる.しかし,もし変異導入によってGFPからRFPを創り出すことができれば,蛍光タンパク質開発におけるブレークスルーとなるだけでなく,RFP型発色団が形成する仕組みについての有用な洞察が得られるはずである.今回,筆者らはサンゴ由来のGFPであるAzamiGreen(AG)をRFPへと改造することに成功した3).その改造プロセスおよび得られた構造的知見等について紹介する.

図1  (A)発色団の構造.(B)AzamiGreenからAzamiRed1.0への2次元蛍光スペクトルの変化(文献3より改変して転載).

2.  GFPからRFPへの改造

最大励起波長を492 nmに,最大発光波長を505 nmにもつAG4)は,代表的なRFPであるDsRed,eqFP578およびeqFP611と分子進化系統樹上で比較的近い関係にある(相同性約50%).まず,上記の3つのRFP間で保存性が高いがAGでは保存されていないアミノ酸残基がRFP型発色団の形成に重要だと考え,これらの残基をRFP型に置換したAG変異体を作成した.最初に得られた変異体AzamiRed0.1は,緑色と赤色の双方の蛍光を併せもち,GFP型の発色団とRFP型の発色団が混在している状態であると考えられた.そこで,RFP化に貢献しない変異を元に戻しつつ,新しい変異を導入していくことで,AzamiGreenから29個のアミノ酸残基が置換されたRFPであるAzamiRed1.0(AR1.0)を得ることに成功した(図1B).AR1.0は最大励起波長571 nm,最大発光波長606 nmであった.驚いたことに,AR1.0の蛍光量子収率は,最大発光波長が600 nmを超えるRFPとしては最高水準の0.65を示した.このことは,GFPの改変が高性能のRFPを開発する有効な方法となりうることを意味している.AR1.0に入った29個のアミノ酸置換を一つずつ元のAGの配列に戻してみると,多くの場合でスペクトルの大きな変化は見られなかったが,60,62,65,66,69,105,107,158,および159番目のアミノ酸残基を戻した変異体ではRFPピークが減少したりGFPピークが現れる等,大きくスペクトルが変化した.このことから,これら9箇所のアミノ酸置換は,AGのRFP化に非常に重要であると考えられる.これらの重要なアミノ酸置換のうち半数以上は発色団を形成する62-64番目のアミノ酸残基の前後に集中していた.では,これらのアミノ酸置換によってGFPであるAGの立体構造にどのような変化がもたらされたのだろうか?

3.  GFPとRFPの構造の違い

この疑問を明らかにするため,筆者らはAGとAR1.0の立体構造をX線結晶構造解析により決定した.AR1.0の主鎖構造は全長にわたりAGとほぼ重なっていたが,発色団直後のSer-65とLys-66では大きく逸脱していた.特にAR1.0のSer-65は主鎖の位置だけでなく側鎖の向きもAGのAsn-65から大きく変化していた(図2A).その結果,発色団のN-アシルイミンの二重結合を形成するMet-62のN-Cαに,Ser-65側鎖が近づいていた.このAR1.0のSer-65は,DsRedにおいてN-アシルイミン形成に関与することが示唆されているSer-69に相当する5).これらの変化に加えて,AR1.0の発色団近傍では大規模な相互作用ネットワークの組み替えが生じていた.これらの相互作用の変化は,発色団前後のアミノ酸置換に加えて,主にS105Q変異とI107T変異によって引き起こされており,RFP型発色団の形成に有利に働きそうなものも含まれていた.例えば,RFP型発色団のN-アシルイミンが形成する際には,Met-60のCαがsp2混成軌道になるのに伴って,直前のPhe-61主鎖のコンフォメーションが変化する必要がある.AGではPhe-61の主鎖カルボニル酸素は,水分子との水素結合を介して周囲との水素結合ネットワークに組み込まれているために向きが強く固定されていた.一方で,AR1.0のPhe-61の主鎖カルボニル酸素は,水素結合ネットワークから外れているため,N-アシルイミン形成に伴うコンフォメーション変化が可能になっていた(図2A).

図2  AzamiGreenとAzamiRed1.0の立体構造の違い.

大規模な相互作用ネットワークの組み替えがもたらすもう1つの大きな変化は発色団近くの空洞の形成である(図2B).上で述べたように,RFPはN-アシルイミンを形成するために1分子多くの酸素分子を消費するが,その酸素分子がどこに結合するのかは不明であった.AGではThr-69の側鎖OγがArg-66側鎖のグアニジノ基と水素結合することによって,Arg-66側鎖が大きく湾曲してGlu-211とイオンペアを形成し,その結果AGの発色団直上のスペースはArg-66によって埋められていた.一方,AR1.0ではThr-69がIleに,Arg-66がLysに置換されることで両者の相互作用は消失し,AR1.0のLys-66側鎖は大きな湾曲は示さずに,Glu-211ではなくGlu-144とイオンペアを形成していた.その結果,AGでArg-66が埋めていた部分は,AR1.0では大きな空洞となっていた(図2Bの点線で囲われた部分).AR1.0のこの空洞には複数の水分子が入っていたことから,酸素分子も十分入り込める大きさである.他のRFPの結晶構造を調べてみると,大部分のRFPも同様の空洞をもっていた.更に興味深いことに,eqFP578とeqFP611の結晶構造ではこの空洞に結晶化で用いた添加剤が入り込んでいた.このことは,この発色団近傍の空洞は,蛍光タンパク質の外部から様々な分子が入り込めることを強く示唆している.筆者らは,RFPのN-アシルイミン形成に必要な酸素分子はこの空洞に入る可能性が高いと考えている.

4.  GFP由来RFPを用いた蛍光イメージング

蛍光タンパク質を他のタンパク質と融合して用いる場合は,融合相手のタンパク質本来の機能や局在を妨げないように,蛍光タンパク質自身はオリゴマー化しないことが一般的に求められる.AR1.0は,元となったAGと同様に4量体であった.多くのRFPの場合と同様に,AR1.0に対して単量体化する変異を導入したところ,蛍光が完全に消失してしまった.詳細は割愛するが,蛍光が消失してしまったAR1.0の単量体化変異体に対してランダム変異や部位飽和変異等を組み合わせることで,赤色蛍光が回復したmARs1を開発した.mARs1は,励起最大波長は571 nm,発光最大波長は598 nmであり,精製タンパク質レベル(ゲル濾過クロマトグラフィー)および細胞レベル(OSERアッセイ)で単量体として振る舞うことが確認された.次に,mARs1に様々なオルガネラ局在化シグナルあるいは特定の細胞内構造に局在するタンパク質と融合させて培養哺乳類細胞に発現させ,蛍光顕微鏡でイメージングを行ったところ,全ての場合で期待された細胞内局在を示した(図3).以上のことから,GFPから創り出したRFPも細胞イメージング用の蛍光タグとして十分機能することが確認された.

図3  mARs1を用いた細胞内構造の可視化(文献3より改変して転載).

5.  おわりに

短い波長の光は細胞毒性が高いうえ,厚みのある組織では散乱や吸収の影響を受けやすいため,長波長の光を利用するRFPには大きな需要がある.一方で,RFPについては改善の余地がまだ多く残っている.一般的に,蛍光タンパク質は明るいほど使いやすいが,フォールディングや発色団形成の速さ,pHや光褪色に対する耐性等も重要な要素である.しかし,これら全ての要素を高いレベルで満たすRFPはまだ存在しない.今回の結果を踏まえると,今後GFPから高性能なRFPが開発できる可能性も十分にあるだろう.現在研究に利用されているRFPの大部分は,DsRed,eqFP578,eqFP611を元に開発されたものであるため,配列の多様性はそれほど高くないが,GFPベースのRFP開発によって多様性が高まることで,高性能なRFPの開発に繋がることも期待される.また,今後は人工知能等を活用して高性能な蛍光タンパク質をデザインする研究も活発になると予想されるが,その場合にもGFPからRFPを創り出すことで見えてきた発色団形成の鍵となる構造情報が重要となるはずである.

文献
Biographies

今村博臣(いまむら ひろみ)

山口大学大学研究推進機構教授

今田勝巳(いまだ かつみ)

大阪大学大学院理学研究科教授

 
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