びわこ健康科学
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原著論文
滋賀県作業療法士版職業キャリア成熟測定尺度の作成
嶋川 昌典
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2024 年 3 巻 p. 22-32

詳細
Abstract

本研究の目的は滋賀県で働く作業療法士の職業キャリア成熟を測定する尺度の作成である.対象は滋賀県作業療法士会員113名であった.方法は狩野らの先行研究に倣い,項目反応理論を用いて尺度を作成し,先行研究の看護師版職業キャリア成熟尺度で採択された質問項目との比較を行った.結果,三因子12項目で測定される「滋賀県作業療法士版職業キャリア成熟測定尺度」を作成した.このモデルの適合性はComparative Fit Index (CFI) = 0.943,Root Mean Square Error of Approximation (RMSEA) = 0.0795と,一定のばらつきはあるものの適切と言える値を示した.滋賀県作業療法士版と看護師版で採択された共通の質問項目は7,異なる質問項目は5であった.キャリアの成熟に関して滋賀県作業療法士版は自身の生活のあり方に関する項目が採択され,看護師版は職種の誇りに関する項目が採択された.本研究の課題は,対象者が滋賀県に限定されているため,採択された質問項目に地域特性が内在している可能性があること,本尺度の妥当性の検証,用いた統計ソフトの妥当性の検証が必要である.

Translated Abstract

The purpose of this study was to create a scale to measure the career maturity of occupational therapists working in Shiga Prefecture. The subjects were 113 members of occupational therapists in Shiga Prefecture. The method was based on the previous study by Kano et al., and a scale was created using item response theory, and the questions adopted in the previous study's Career Maturity Scale in Nurses were used. A comparison was made with the items. As a result, we created the “Shiga Prefecture Occupational Therapists Version Career Maturity Scale” which is measured using three factors and 12 items. The suitability of this model was Comparative Fit Index (CFI) = 0.943 and Root Mean Square Error of Approximation (RMSEA) = 0.0795, which are values that can be considered appropriate despite some variation. There were 7 common question items adopted for the Shiga Prefecture occupational therapist version and the nurse version, and 5 different question items. Regarding career maturation, the Shiga Prefecture Occupational Therapists version had an item about how they live their lives, and the Nurse version had an item about pride in their profession. The issues of this research are that since the target audience is limited to Shiga Prefecture, regional characteristics may be inherent in the adopted question items, verifying the validity of this scale, and improving the statistical software used. Validity verification is necessary.

はじめに

本研究の目的は,滋賀県で働く作業療法士の職業キャリアの成熟を測定する尺度(以下,滋賀県作業療法士版)の作成である.方法は,先行研究の「看護師版職業キャリア成熟尺度」(以下,看護師版)[1]の作成方法を倣う.作成した滋賀県作業療法士版と看護師版の質問項目を比較し,専門職間のキャリアの成熟に関する捉え方の差異を明らかにする.

我が国の作業療法は医療領域の中で誕生し,福祉,そして今後は地域にフィールドを展開していくことが推奨されている[2].多様な対象者とフィールドで作業療法士が活躍できるようになるには,一定のキャリアが成熟している作業療法士による牽引は必要不可欠である[3].キャリアの成熟に関しては,経験年数や学歴,協会認定資格(認定作業療法士や専門作業療法士)の取得有無などが指標となると考える.また,作業療法士のコンピテンシーも示されており(例えば,米国[4],アイルランド[5]),一定の到達レベルを確認することができる.コンピテンシーを計測する尺度としては,エビデンスに基づいた専門的推論を測定する尺度[6]や初心者を対象とした臨床能力評価ツール[7]が開発されている.本研究は,このような指標の一つとして,作業療法士のキャリアの成熟を示す尺度開発を目指し,予備的調査として,滋賀県で働く作業療法士を対象とした職業キャリア成熟測定尺度の作成を行う.

本研究で作成を試みたキャリア成熟尺度の基本となる概念はドナルド. E. スーパーのキャリア概念である.スーパーは,キャリアは職業と単一的に捉えるのではなく,人生全般の役割(例えば,職業人,家庭人,地域住民など)の発達過程として捉えられているのが特徴である[8, 9].この概念は作業療法士の養成課程で重要とされている「therapeutic use of self」とも共通している.それは,作業療法士自身の人格的な発達が,作業療法士と対象者との治療関係の基盤になるという考えである[10, 11].先行研究で,スーパーの概念を用い,一般成人版の尺度が開発され[12],この尺度を看護師版に検証したのが狩野らの報告[1]である.

本研究の意義は,作業療法士と看護師は専門性の基盤となる学問体系が似ている[13]ことから,キャリア成熟の尺度を比較することで職種間でのキャリアの成熟に関する捉え方の特徴が明らかになると考える.今後,作業療法士のキャリア成熟を測定する尺度作成のための基礎的データになると考える.

方法

1. 本研究の調査解析対象と調査期間

1.1  調査解析の対象者

調査対象は滋賀県作業療法士会の会員とした.滋賀県作業療法士会は7つの各圏域で地域活動部局をもっており,その部局の統括者に調査協力を依頼した.調査時の対象者の母集団は342名であった.この中で,回答が得られた113名を解析に用いた.

1.2  調査期間

調査期間は,2022年9月29日から10月10日であった.

2. 調査解析方法

2.1  調査依頼方法

地域活動局の統括局長と各圏域の部局長に事前連絡のうえ,調査趣旨の説明と協力を依頼した.調査はGoogleフォームを用いた.

2.2  倫理的配慮

Googleフォームの冒頭部分に調査の目的,調査の背景,調査票の概要,調査の期間,および調査の回答に関する説明と同意を記し,調査への参加協力を得た.回答者の氏名,所属は無記名である為,回答後の撤回はできないこと,回答し送信したことで本調査に同意したものとみなすこと,分析は筆者の研究室にて行い,結果は学術公表することを記した.尚,本調査の学術公表にあたり,びわこリハビリテーション専門職大学研究倫理審査委員会に申請した.人への侵襲的な調査研究ではないため,データ保管,発表時の匿名性を保つことを条件に承諾された.

3. 調査解析内容

3.1  調査解析の項目

基本属性は年齢,性別,臨床経験年数,現所属の勤続年数,最終学歴とした.

質問項目は先行研究[1, 12]の尺度を参考とした.具体的には「あなた」もしくは「看護師」の部分を「作業療法士」に変更した.調査解析に用いた項目は,「キャリア関心性」に関する9項目,「キャリア自律性」に関する9項目,「キャリア計画性」に関する9項目の計27項目とした.調査解析に使用したこれらの項目を1に示した.

表1 

調査に用いた質問項目(Table 1: Question items used in the survey)

1. 自分のこれからの作業療法士生活には大変関心をもっている
2. 作業療法に役立つ情報を積極的に収集するようにしている
3. 自分は何のために働いているかあまり考えたことがない(R)
4. これからの作業療法士生活をより充実したものにしたいと強く思う
5. 作業療法に関係する本や雑誌などはほとんど読まない(R)
6. 作業療法士生活の設計は自分にとって重要な問題なので真剣に考えている
7. どのように働くべきかということはあまり気にならない(R)
8. 充実した作業療法士生活を過ごすために参考となる話は注意して聞いている
9. どうすれば作業療法士生活をよりよく送れるのか考えたことがある
10. 自分の職業生活を主体的に送っている
11. 作業療法士生活の送り方には自分で責任をもつ
12. 働いていてもつまらないと思うことがしばしばある(R)
13. 自分から進んでどんな作業療法士生活を送っていくのかを決めている
14. 作業療法士生活が充実しないのは大半は周囲の環境によると思う(R)
15. 作業療法士生活で難しい問題に直面しても自分なりに積極的に解決していく
16. 周りの雰囲気に合わせて作業療法士生活を送っていけばよい(R)
17. 充実した作業療法士生活になるかどうかは自分の意志と責任によると思う
18. これからの作業療法士生活を通してさらに自分自身を伸ばし高めていきたい
19. これからの作業療法士生活について自分なりの見通しをもっている
20. これからの作業療法士生活で取り組んでみたいことがいくつかある
21. 作業療法士生活の設計はあるけれどそれを実現するための努力は特にしていない(R)
22. 自分が望む作業療法士生活を送るために具体的な計画を立てている
23. これからの作業療法士生活で何を目標とすべきか分からない(R)
24. 希望する作業療法士生活が送れるように努力している
25. これから先の作業療法士生活のことはほとんど予測がつかない(R)
26. 今後どんな作業療法士生活を送っていきたいのか自分なりの目標をもっている
27. 自分が期待しているような作業療法士生活をこの先実現できそうである

注釈)1~9は「キャリア関心性」の質問項目,10~18は「キャリア自律性」の質問項目,19~27は「キャリア計画性」の質問項目.Rは逆転項目の質問項目を意味する.

3.2  キャリア成熟度の評価基準

キャリア成熟は「0点:全くあてはまらない」「1点:あまりあてはまらない」「2点:どちらともいえない」「3点:ややあてはまる」「4点:よくあてはまる」の5件法で求め,得点が高いほど,キャリア成熟度が高くなるよう得点化した.また,逆転項目(以下,R)は「4点;全くあてはまらない」から「0点:よくあてはまる」とした.

3.3  解析方法

解析は狩野ら[1]に倣い,以下の手順で行った.

① モデルの適合性の評価

対象者から得られたデータを「キャリア関心性」,「キャリア自律性」,「キャリア計画性」を含む三因子斜交モデルと,これらを一次因子としキャリア成熟度を二次因子とする三因子二次因子モデルを仮定し,これらの因子構造モデルがデータにどの程度適合するかを評価した[1].解析はJamovi(ver.2.3)[14]を用いて確認的因子分析を実施し,モデルの適合性はComparative Fit Index(以下,CFI)とRoot Mean Square Error of Approximation(以下,RMSEA)で評価した.CFIは「0.95以上で非常に良い適合」,「0.9未満は不適合」を示し,RMSEAは「0.05未満で非常に良い適合」,「0.1以上で不適合」とされ,CFIが0.9以上,RMSEAが0.05以上0.1未満であれば,モデルはデータに適合していると判断される[15].

尚,Jamoviは,それを用いた共分散構造分析の解析方法[16],社会科学領域の統計教育ツールや統計初学者にとって利用しやすいツールという報告[17],解析手法として用いた報告[18, 19]がある.

② 質問項目の圧縮

①で仮定した因子構造モデルが適切な適合性を示した場合には,統計解析は終了とし,適合性が不適切であると判断された場合には,予め各因子に割り当てられた項目を圧縮する[1].圧縮に際しては,項目反応理論(Item Response Theory以下,IRT)を用いて各因子について一次元性と順序性を備えた項目を選定する[1].IRTに先立ち,内的整合性が高い項目を選ぶために同時複数項目削減相関係数法Corrected Item Total Correlation(以下,CITC)[20]を採用し,その数値が0.3以下の項目を削除するものとした[1].IRTはランダム抽出を前提とせず,項目の困難度や識別力はサンプルから独立し,困難度は項目への回答の難しさを,識別力は潜在特性の変化に対する項目の感度を意味する[1].項目特性関数モデルには2パラメータ・ロジステックモデルを仮定する[1].分析にはExametrika(ver.5.5)[21]を使用し,サメジマの段階反応モデルを採用した.識別力が0.5以下の項目,または困難度が4以上の項目は除外する[1].さらに,困難度が類似する項目ペアについては,識別力が低い項目を削除する[1].

尚,解析に用いたExametrikaは作業療法関連の雑誌の中で統計解析手法として報告[22, 23]されている.

③ モデルの再評価

削除された質問項目の適合性は,再度Jamoviを用いてCFIとRMSEAで再評価し,測定尺度の信頼性はCronbach’α係数で評価する[1].Cronbach’αは0.00~1.00の値をとる中で,最低でも0.70以上は必要,0.8以上あることが望ましいと判断される[24].

本研究では,収集した113のデータセットに欠損値はなく,全てを分析対象とした.

結果

1. 対象者の基本属性

分析に用いた対象者113名の平均年齢34.5 ± 8.6歳,男女比は男性54名(47.8%),女性59名(52.2%)であった.臨床経験の平均は10.3 ± 7.6年,最終学歴は専門学校62名(54.9%),短大2名(1.8%),大学45名(39.8%),大学院4名(3.5%)であった(2).

表2 

対象者の属性(Table 2: Attribute of target person)

年齢 平均34.5 ± 8.6歳(範囲21~53歳,SD8.6)
性別 男性 54 47.8%
女性 59 52.2%
臨床経験年数 1~5年(1年未満) 42(4) 37.2%
6~10年 23 20.4%
11年以上(20年以上) 48(18) 42.5%
最終学歴 専門学校 62 54.9%
短大 2 1.8%
大学 45 39.8%
大学院 4 3.5%

2. モデルの適合性の評価

「キャリア関心性」9項目,「キャリア自律性」9項目,「キャリア計画性」9項目からなる三因子二次因子モデルの適合性は,CFI = 0.744,RMSEA = 0.100であり統計学的に不適切な範囲にあった.それぞれの下位因子別にみた確認的因子分析においても「キャリア関心性」CFI = 0.841,RMSEA = 0.147,「キャリア自律性」CFI = 0.865,RMSEA = 0.0914,「キャリア計画性」CFI = 0.916,RMSEA = 0.100となった.以上から適合性が低いため,IRTを用いて質問項目の圧縮を試みた.

3. 質問項目の圧縮

3.1  キャリア関心性

キャリア関心性の全9項目のCITCを求めると0.3以下の項目が複数見られた項目は「3:自分は何のために働いているかあまり考えたことがない」と「7:どのように働くべきかということはあまり気にならない」であった(3-1).この時点で項目3と7は除外とした.次にIRTにより,識別力と困難度を算出し,識別力が0.5以下,困難度の絶対値が4以上を示した項目を除外対象とした.識別力と困難度で該当する項目はなかった.次いで,困難度の数値が類似した項目組に着目し,「1:自分のこれからの作業療法士生活には大変関心をもっている」,「5:作業療法に関係する本や雑誌などはほとんど読まない」,「6:作業療法士生活の設計は自分にとって重要な問題なので真剣に考えている」は項目曲線が類似しているため識別度の高い「6」を採択した.「8:充実した作業療法士生活を過ごすために参考となる話は注意して聞いている」と「9:どうすれば作業療法士生活をよりよく送れるのか考えたことがある」は項目曲線が類似しているため識別度の高い「8」を採択した(4-1).以上より「2」「4」「6」「8」を採択した.

3.2  キャリア自律性

キャリア自律性の全9項目のCITCを求めると0.3以下の項目が複数見られた項目は「12:働いていてもつまらないと思うことがしばしばある」,「14:作業療法士生活が充実しないのは大半は周囲の環境によると思う」,「15:作業療法士生活で難しい問題に直面しても自分なりに積極的に解決していく」,「16:周りの雰囲気に合わせて作業療法士生活を送っていけばよい」,「17:充実した作業療法士生活になるかどうかは自分の意志と責任によると思う」であった(3-2).次にIRTにより,識別力と困難度を算出し,識別力が0.5以下,困難度の絶対値が4以上を示した項目を除外対象とした.この時点で「14」は識別力が0.297であり除外,「15」と「17」は困難度が算出できない項目(対象者からの回答の選択がなかった)があっため除外した(4-2).以上より「10」「11」「13」「18」を採択した.

表3 

質問項目間の相関行列(Table 3: Correlation matrix between question items)

表3-1 

キャリア関心性について(About career interest)

1 2 3 4 5 6 7 8 9
1
*2 0.506
3 -0.010 0.163
*4 0.638 0.523 0.094
5 0.351 0.708 0.181 0.374
*6 0.641 0.581 0.098 0.534 0.406
7 0.123 0.114 0.441 0.205 0.110 0.198
*8 0.562 0.621 0.182 0.563 0.470 0.624 0.241
9 0.477 0.462 0.248 0.392 0.321 0.605 0.324 0.507
表3-2 

キャリア自律性について(About career autonomy)

10 11 12 13 14 15 16 17 18
*10
*11 0.530
12 0.409 0.293
*13 0.590 0.458 0.184
14 0.059 0.056 0.406 -0.000
15 0.302 0.260 0.136 0.254 0.018
16 0.173 0.160 0.118 0.283 0.071 0.351
17 0.199 0.221 0.006 0.225 0.029 0.192 0.216
*18 0.465 0.310 0.268 0.387 0.033 0.208 0.260 0.316
表3-3 

キャリア計画性について(About career planning)

19 20 21 22 23 24 25 26 27
19
*20 0.450
21 0.317 0.297
*22 0.484 0.425 0.451
23 0.286 0.458 0.437 0.461
24 0.526 0.454 0.417 0.573 0.376
25 0.283 0.280 0.223 0.315 0.460 0.181
*26 0.569 0.645 0.265 0.541 0.533 0.546 0.399
*27 0.424 0.497 0.185 0.362 0.267 0.438 0.235 0.495

*は採用質問項目

3.3  キャリア計画性

キャリア計画性の全9項目のCITCを求めると0.3以下の項目が複数見られた項目は「21:作業療法士生活の設計はあるけれどそれを実現するための努力は特にしていない」と「25:これから先の作業療法士生活のことはほとんど予測がつかない」であった.この時点で「21」と「25」は除外とした(3-3).次にIRTにより,識別力と困難度を算出し,識別力が0.5以下,困難度の絶対値が4以上を示した項目を除外対象とした.識別力と困難度で該当する項目はなかった.次いで,困難度の数値が類似した項目組に着目し,「19:これからの作業療法士生活について自分なりの見通しをもっている」,「20:これからの作業療法士生活で取り組んでみたいことがいくつかある」,「24:希望する作業療法士生活が送れるように努力している」は項目曲線が類似しているため識別度の高い「20」を採択した.「22:自分が望む作業療法士生活を送るために具体的な計画を立てている」と「23:これからの作業療法士生活で何を目標とすべきか分からない」は項目曲線が類似しているため識別度の高い「22」を採択した(4-3).以上より,「20」「22」「26」「27」を採択した.

表4 

各質問項目の識別力と困難度(Table 4: Discrimination power and difficulty of each question item)

表4-1 

キャリア関心性について(About career interest)

質問項目 識別力 困難度1 困難度2 困難度3 困難度4
1 1.309 -1.934 -1.616 -0.739 0.472
*2 1.516 -2.104 -0.927 -0.235 0.893
3 0.713 -2.372 -0.861 -0.351 0.893
*4 1.209 -2.372 -1.807 -1.247 0.281
5 1.265 -1.616 -0.654 -0.011 1.156
*6 1.430 -2.104 -0.927 -0.145 0.798
7 0.733 -2.372 -1.114 -0.522 0.768
*8 1.326 -2.104 -1.407 -0.893 0.829
9 1.213 -2.104 -1.407 -0.768 0.768
表4-2 

キャリア自律性について(About career autonomy)

質問項目 識別力 困難度1 困難度2 困難度3 困難度4
*10 1.412 -2.104 -0.893 0.078 1.200
*11 1.113 -2.372 -1.807 -0.829 0.573
12 0.811 -1.703 -0.627 -0.011 1.297
*13 1.482 -1.807 -0.861 0.281 1.247
14 0.297 -1.539 -0.927 0.145 1.470
15 0.962 -1.470 -0.497 0.962
16 1.039 -1.703 -0.654 0.235 1.200
17 0.623 -1.200 0.167
*18 1.304 -2.372 -1.703 -1.035 0.423
表4-3 

キャリア計画性について(About career planning)

質問項目 識別力 困難度1 困難度2 困難度3 困難度4
19 1.319 -1.616 -0.547 0.423 1.934
*20 1.391 -1.807 -1.156 -0.423 0.997
21 1.012 -1.703 -0.710 0.304 1.407
*22 1.281 -1.407 -0.122 0.768 1.934
23 1.256 -1.350 -0.145 0.398 1.539
24 1.362 -2.372 -0.893 0.100 1.407
25 0.915 -0.997 0.212 0.927 2.372
*26 1.469 -1.934 -0.829 -0.122 1.407
*27 1.140 -1.807 -1.073 1.035 2.372

*は採用質問項目

4. モデルの再評価

「キャリア関心性」4項目,「キャリア自律性」4項目,「キャリア計画性」4項目それぞれに対し,一因子モデルを仮定し,確認的因子分析を行なった.「キャリア関心性」CFI = 1.00,RMSEA = 0.00,「キャリア自律性」CFI = 1.00,RMSEA = 0.00,「キャリア計画性」CFI = 1.00,RMSEA = 0.00であった.また,各因子に所属する4項目の信頼性をCronbach’s α信頼係数で検討した結果,「キャリア関心性」0.838,「キャリア自律性」0.773,「キャリア計画性」0.792であった.

採択した12の質問項目の三因子斜交モデルの確認的因子分析を行なった.結果,モデルのデータ適合度はCFI = 0.943,RMSEA = 0.0795であり,統計学的に許容できる範囲であった.最後に,「キャリア関心性」「キャリア自律性」「キャリア計画性」を一次因子,「キャリア成熟度」を二次因子とする三因子二次因子モデルのパス図は1となった.

図1パス図(Fig. 1: path diagram)

本調査解析結果(5)から,滋賀県作業療法士版と看護師版との採択された質問項目の差異は以下となった.「キャリア関心性」の滋賀県作業療法士版は「これからの作業療法士生活をより充実したものにしたいと強く思う」と「充実した作業療法士生活を過ごすために参考となる話は注意して聞いている」を採択し,看護師版は「どのように働くべきかということはあまり気にならない(R)」と「どうすれば看護師生活をよく送れるのかを考えたことがある」が採択された.「キャリア自律性」の滋賀県作業療法士版は「作業療法士生活の送り方には自分で責任をもつ」を採択し,看護師版は「働いてもつまらないと思うことがしばしばある(R)」が採択された.「キャリア計画性」の滋賀県作業療法士版は「自分が望む作業療法士生活を送るために具体的な計画を立てている」と「今後どんな作業療法士生活を送っていきたいのか自分なりの目標をもっている」を採択し,看護師版は「これからの看護師生活について自分なりの見通しをもっている」と「これからの看護師生活で何を目標とすべきか分からない(R)」が採択された.これ以外の7項目は共通していた.

表5 

「滋賀県作業療法士版職業キャリア成熟測定尺度」と「看護職者の職業キャリア成熟測定尺度」(狩野ら)の比較(Table 5: Comparison of “Career Maturity Scale for Shiga Prefecture Occupational Therapists” and “Career Maturity Scale in Nurses” (Kano et al.))

1. 作業療法に役立つ情報を積極的に収集するようにしている(◯)
2. これからの作業療法士生活をより充実したものにしたいと強く思う
3. 作業療法士生活の設計は自分にとって重要な問題なので真剣に考えている(◯)
4. 充実した作業療法士生活を過ごすために参考となる話は注意して聞いている
5. 自分の職業生活を主体的に送っている(◯)
6. 作業療法士生活の送り方には自分で責任をもつ
7. 自分から進んでどんな作業療法士生活を送っていくのかを決めている(◯)
8. これからの作業療法士生活を通してさらに自分自身を伸ばし高めていきたい(◯)
9. これからの作業療法士生活で取り組んでみたいことがいくつかある(◯)
10. 自分が望む作業療法士生活を送るために具体的な計画を立てている
11. 今後どんな作業療法士生活を送っていきたいのか自分なりの目標をもっている
12. 自分が期待しているような作業療法士生活をこの先実現できそうである(◯)
看護職者の職業キャリア成熟測定尺度(狩野らの先行研究から抜粋.筆者が作成)
1. 看護に役立つ情報を積極的に収集するようにしている(◯)
2. 看護師生活の設計は自分にとって重要な問題なので真剣に考えている(◯)
3. どのように働くべきかということはあまり気にならない(R)
4. どうすれば看護師生活をよりよく送れるかを考えたことがある
5. 自分の職業生活を主体的に送っている(◯)
6. 働いてもつまらないと思うことがしばしばある(R)
7. 自分から進んでどんな看護師生活を送っていくのかを決めている(◯)
8. これからの看護師生活を通してさらに自分自身を伸ばし高めていきたい(◯)
9. これからの看護師生活について自分なりの見通しをもっている
10. これからの看護師生活で取り組んでみたいことがいくつかある(◯)
11. これからの看護師生活で何を目標とすべきかわからない(R)
12. 自分が期待しているような看護師生活をこの先実現できそうである(◯)

注釈)滋賀県作業療法士版,看護師版ともに1~4は「キャリア関心性」の質問項目,5~8は「キャリア自律性」の質問項目,9~12は「キャリア計画性」の質問項目.Rは逆転項目の質問項目,(◯)は共通項目を意味する.

考察

本研究の結果より,作成を試みた三因子12項目で測定される本尺度はCFI = 0.943,RMSEA = 0.0795と統計学的に概ね良好な適合性を示した.したがって,本尺度はキャリアが成熟したと考える滋賀県で働く作業療法士の特徴を評価できる尺度であると考える.

次に滋賀県作業療法士版と看護師版との採択された質問項目について考察する.共通する7つの質問項目の特徴は,専門的な知識技術の収集に関する能動性,職業生活における計画性と真剣さ,キャリアコントロール,自己成長への意欲,具体的な目標設定・未来への楽観性と自己効力感を問われる項目であった.滋賀県作業療法士版も看護師版も専門職としての自己のあり方を問われる項目が成熟度の尺度として妥当と認識されたためと考えた.質問項目の差異から考えられることは,滋賀県作業療法士版は,「生活の充実感」,「自分が望む作業療法士としての生活」,「自分なりの目標」の項目が採択されており,生活の充足感もキャリア成熟に必要と考える傾向があったと考えた.諸外国では10年以上前から,作業療法士の燃え尽き症候群に関する報告[25, 26]がなされており,キャリアが成熟していることと滋賀県で働く作業療法士自身のワークライフバランスは何らかの関係があるのかもしれない.我が国でも作業療法士自身のウェルビーイングの改善に関する報告[27]もあり,滋賀県で働く作業療法士のキャリアの成熟にはライフワークバランスは重要な要因であると考えられた.

一方,看護師版は,「働き方」,「やりがい」,「看護師としての目標のあり方」を問う質問項目が採択されていた.逆転項目の質問が採択されていることからも(5,看護師版の3,6,11),看護師の方が職業生活における自身のあり方,その満足感に対しての拘り,専門職としての誇りが強く,それがキャリアの成熟度を測る項目に必要と捉える傾向があったと考えた.看護師は自分の職種の誇り,同僚からの尊重が職種アイデンティティを増加させ,協力行動を増加させる[28].また,看護師版の対象者の94.9%が女性(滋賀県作業療法士版は対象者の52.2%が女性)ということから,対象者が結婚出産などの人生選択を踏まえた職業,キャリア選択を長期的に考えて回答していたと考えられる.女性は社会的意義を実感できる仕事,その面白みや充実感を感じることでキャリア自己効力感を感じる報告[29]からも,看護師としてのアイデンティティを感じ,それによりキャリア自己効力感を感じることがキャリアの成熟に関係していると考えた.

まとめると,本研究で作成した滋賀県作業療法士版と看護師版のキャリアの成熟の尺度の項目を比較した結果,キャリアの成熟に関して,滋賀県で働く作業療法士のキャリアの成熟は自身の生活様式の充実感や満足感が関与している可能性があり,看護師は職種や働き方への拘りが関与していると考えた.

最後に,本研究の限界や課題について記す.一つ目は,対象者が滋賀県で働く作業療法士のみに限局しており,結果に地域性が影響していることは否めないことである.全国の作業療法士がキャリアの成熟に関して,自身の生活様式を大切にしているか,はサンプル数を広げることで確認することが必要である.また本解析で用いた項目特性関数のモデル,2パラメタ・ロジステックモデルはサンプル数が200以上必要という報告もある[30].そのため,より洗練した作業療法士のキャリアの成熟尺度を開発するためには,サンプル数の確保と全国的な調査は必要と考える.二つ目は,本結果は滋賀県作業療法士版と看護師版とで採択された質問項目の比較にしか過ぎないため,尺度の妥当性の検証は不十分である.今後,全国の作業療法士を対象としたキャリア成熟尺度を開発していく場合,別の尺度との相関関係,今回の結果を加味するとすれば,人生の満足度や充実感を問う心理尺度(例えば,主観的幸福感尺度[31, 32])との相関を検証することが必要と考える.そうすることで,尺度の妥当性[33],併存的妥当性を検証することに繋がると考えた.三つ目は,統計解析に用いたオープンソフトの妥当性の検証である.Jamoviは国外での報告はあるが,Exametrikaは国内のみの報告であり,信頼度のある統計ソフトを用いた妥当性の検証をしていくことが必要と考える.

結語

1. 三因子12項目からなる「滋賀県作業療法士版職業キャリア成熟測定尺度」を作成した.この尺度に高い評価値を示す滋賀県で働く作業療法士は,自身の個人特性を活かした,キャリアが成熟した作業療法士と評価ができる.

2. 採択した質問項目は,先行研究の看護師版と比較すると7項目が共通,5項目が異なる質問項目が採択された.その差異を検討した結果,滋賀県で働く作業療法士は自身の生活様式の充実感や満足感が自身のキャリアの成熟と関係していると捉える傾向がある.

3. 本研究の限界や課題として,(1)今回の調査解析の対象者が滋賀県に限定しており,地域性の問題を解決できていない,(2)本尺度の妥当性の検証,(3)他の統計ソフトを用いた妥当性の検証,などが挙げられる.

謝辞

本調査の遂行にあたり,ご協力をいただきました滋賀県作業療法士協会会員の皆さま,ご推敲を頂きました千住秀明先生にこの場をお借りして,深く感謝申し上げます.

該当する利益相反は存在しない.

文献
 
© © びわこリハビリテーション専門職大学
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