びわこ健康科学
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原著論文
  • 大野 一樹, 髻谷 満, 髙尾 聡, 森 広輔, 松村 佑介, 川原 一馬, 大松 峻也, 豊田 裕規, 千住 秀明
    2023 年 2 巻 p. 1-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/08
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    背景:肺非結核性抗酸菌症(non-tuberculous mycobacterial pulmonary disease; NTM-PD)患者では,運動耐容能の低下が報告されているが,その要因は不明である.本研究では,同患者における運動耐容能の関連因子および予測因子について検討した.

    方法:NTM-PD患者150名を対象に,Incremental shuttle walk testにより運動耐容能を評価し,予測歩行距離の割合(% predicted incremental shuttle walk test distance; %ISWD)を算出した.その他の臨床指標として,Body mass index(BMI),大腿四頭筋力,握力,罹病期間,呼吸機能(%1秒量,%肺活量),modified Medical Research Council Dyspnea Scale(mMRC),Chronic obstructive pulmonary disease assessment test(CAT)の評価を実施した.また,%ISWDと各評価項目の関連を単変量解析で検討し,%ISWDを従属変数,単変量解析で有意な相関を認めた項目を独立変数とした重回帰分析を行い,%ISWDの予測因子を検討した.

    結果:平均ISWDは443 m,平均%ISWDは88%であった.単変量解析では,ISWDとBMI,%肺活量,%1秒量,%握力との間に有意な正の相関があり,年齢,罹病期間,mMRC,CATとの間には有意な負の相関が認められた.重回帰分析では,年齢,%肺活量,%握力,mMRCが%ISWDの予測因子として抽出された.

    結論:NTM-PD患者における運動耐容能の予測因子は,年齢,握力,呼吸困難,%VCが運動耐容能の予測因子であった.

原著論文(短報)
  • 園田 悠馬, 川又 敏男
    2023 年 2 巻 p. 10-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/08
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    スフィンゴ脂質の生合成の第1段階の重要な酵素であるセリン・パルミトイル転移酵素のサブユニット(SPT2)のヒト脳局在について,健常高齢者とアルツハイマー型認知症(AD)患者剖検例を用いて免疫組織化学染色にて定性評価した.健常コントロール脳では,SPT2はニューロンの細胞質および核に局在していた.AD脳では,SPT2はニューロピル(ニューロン間網状組織部),老人斑の変性神経突起,細胞内神経原線維変化(iNFT)などの特徴的病理像の部位へと主な局在が変化していた.二重免疫蛍光染色によって,NFTにおいてSPT2とタウタンパク質(HT-7)の共存が示された.さらに,反応性アストロサイトにおいてSPT2とグリア線維性酸性蛋白,ならびに軸索においてSPT2とリン酸化ニューロフィラメントタンパク質の共存性が示された.本研究結果は,AD患者のNFT形成などの疾患特異的病理変化におけるSPT2の関与を示唆している.

事例研究
  • 園田 悠馬, 寺井 淳, 佐藤 隆彦
    2023 年 2 巻 p. 17-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/08
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    近年,把持力補強を目的としたソフトロボットグローブが脳卒中患者などの日常生活の自助具として導入されているが,ゴルフなどのスポーツおいても有効である可能性がある.しかし,ゴルフスイングの運動力学的解析は,健常アスリートに焦点が当てられており,障害者における知見が不足している.本研究では脳卒中後左片麻痺を持つ障害者のレクリエーション・ゴルフのための予備的評価として,ソフトロボットグローブを用いたゴルフスイングの運動力学的データを取得した.ゴルフ未経験の健常者2名(男性,右利き)がボランティアで参加し,光学式三次元動作分析装置と各足1枚ずつの床反力計を用いて,反射マーカーからクラブのヘッドスピード[m/s]を記録した.また,インパクト局面での足部の運動力学的データとして,水平距離(スタンス幅)[mm]と鉛直床反力[N]が抽出された.左手にソフトロボットグローブを装着したスイングでは,インパクト局面でヘッドスピードと左軸足の床反力に有意な増加を示した.さらに,ソフトロボットグローブを装着することによるパワーアシストで,Borg CR-10 scaleも4から2~3へ軽減され,良好なスイングが認められた.また,脳卒中後左片麻痺患者(男性,右利き,Brunnstrom stage上肢V・手指IV)で,シミュレーターを用いて計測したところ,左手にソフトロボットグローブを装着したスイングでは,ヘッドスピードと推定飛距離が有意に向上した.したがって,ソフトロボットグローブは,片麻痺ゴルファーの把持力補助において有効なウェアラブルデバイスとして利用できる可能性が示唆された.今後,症例集積研究にて有効性を明らかにする必要がある.

原著論文
  • 野田  亨
    原稿種別: 原著論文
    2024 年 2 巻 p. 25-38
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/30
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    現在,日本で使用される内臓に関する解剖学用語は,そのほとんどが古代日本にもたらされた漢方医学で用いられていた用語を基本として,それらに,後に新たに日本で発案された「膵」や「結腸」などの造語が加わったものである.そうした漢語による内臓に関する用語が伝わる以前の古代日本で使用されていた大和言葉による内臓に関する語彙を収集した.ヒトの内臓の名称について,江戸時代の国学者である本居宣長は,彼の著書である古事記伝の中で,上代では内臓は全て「キモ」と呼ばれていたと主張している.しかし平安時代に編まれた倭名類聚抄には,既にいくつかの臓器にそれぞれ異なる日本固有の大和言葉(和名)の名称があり,これらは「からぶみ(漢文)」由来とは考え難い.本稿では,こうした内臓に関する大和言葉による語彙を古事記,日本書紀,万葉集などを含む日本の多くの古典的文字資料から収集した.特に平安時代や鎌倉時代に編まれたいくつかの古辞書からの訳語には多くの内臓に関する語彙を記載されており,それらをいくつかの器官系に分類した.そして主要臓器については,人体模式図との対応を行った.また内臓のうち,特に,心臓,肝臓,小腸,大腸などの大和言葉については,それらを用いて精神や感情表現を強調する用法が古代から存在しており,和歌の枕詞にもなっている.こうした観点からも考察を加え,古代日本人の内臓観を考察した.

オピニオン
  • 山田 久夫
    原稿種別: OPINION
    2024 年 2 巻 p. 39-46
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/03/30
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    著者のこれまでの経験をもとに,リハビリテーションの現状を見て感じとってきたことから,今後のリハビリテーション学,リハビリテーション職とその養成のあるべき姿について述べる.学校法人藍野大学の理念にある,Sym-medicalの単語は患者を中心としたチーム医療の在り方を指しているが,これは患者自身が指揮棒をふるうという,新しく深い意味合いを持っている.それを実践するためにどうすれば良いのか.もう1つの理念であるPhilo-sophiaという単語は,ギリシャ文明に由来するヨーロッパの大学の思想「Philosophy=科学」を反映している.医学という科学の歴史から考えると,国家資格を持つ医療職は学問体系をもとに養成されるべきである.学問体系の土台(礎石)に相当する「身体を知る科目」群すなわち生理学や解剖学は,研究上も教育上も極めて重要で,その上に「病気を知る科目」群,「リハビリテーション療法を学ぶ科目」群へと階層性をもって配置しなければならない.そして養成教育は,暗記型・知識習得型ではなく,体験型・理解型の教育を必要とする.医師養成システムにしても万全ではないものの,医学が学問体系を意識して目指してきた過程を参考にすることが重要である.また周辺領域の歴史的・社会的背景から学び取ることも重要である.

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