2025 年 4 巻 p. 17-25
本研究の目的は,商業施設と連携した地域コミュニティサロン(以下,作業教室)の参加者を対象に,プログラム終了後のアンケート結果を主観的側面から記述的に検討し,作業活動を中心とした作業療法の意義を明らかにすることである.地域在住の高齢者を対象に本学科の作業療法士の教員が講義と作業活動(レザークラフト,マクラメ,タイルモザイク)を組み合わせた全6回のプログラムを実施した.各プログラム終了後に,情動,心身機能,コミュニケーションと交流,環境の4領域25項目から構成される「作業活動に関するアンケート」(以下,アンケート)を行い,44名から回答を得た.設問1~24は記述統計で分析し,設問25(自由記述)はBerelsonの内容分析に基づいて検討した.その結果,記述統計では多くの参加者が作業教室を肯定的に評価していた.内容分析では〈作業活動の楽しさ〉,〈交流と社会参加〉などの《肯定的な体験》が93.4%を占め,作業教室により満足感の向上や社会参加の促進につながった可能性が考えられた.一方,〈作業活動の課題〉,〈加齢による健康状態への違和感〉といった《否定的な体験》も6.6%にみられた.これらの結果から,作業教室は参加者の情動的な充足,心身機能の活性化,コミュニケーションと交流の促進,生活環境への波及といった多面的な意義をもたらし,地域における作業療法の実践的重要性を根拠づける知見となった.今後の課題としては,参加者の身体的・認知的特性に応じた作業活動の段階づけや環境の支援体制の整備が必要である.また,本研究は対照群を設けていないことやアンケートの妥当性・信頼性が十分に検証されていない点に限界があり,研究デザインや評価尺度の精緻化が求められる.
The purpose of this study was to examine the subjective outcomes of participants in a community-based salon program, developed in collaboration with a commercial facility, to clarify the significance of occupational therapy centered on craft-based activities. The program, hereafter referred to as the “activity class,” targeted community-dwelling older adults and was implemented by faculty occupational therapists. It consisted of six sessions combining lectures with hands-on activities such as leathercraft, macramé, and tile mosaics. After each session, participants completed the “Questionnaire on Occupational Activities,” comprising 25 items across four domains: emotion, physical and mental functions, communication and interaction, and environment. Forty-four valid responses were obtained. Items 1–24 were analyzed descriptively, and Item 25 (open-ended responses) was examined using Berelson’s content analysis. Results showed that most participants evaluated the activity class positively. Content analysis revealed that categories such as enjoyment of activities and social interaction and participation accounted for 93.4% of responses, suggesting enhanced satisfaction and social engagement. Conversely, challenges of activities and discomfort related to aging health conditions were identified as negative experiences, representing 6.6%. These findings indicate that the activity class provided multifaceted benefits, including emotional fulfillment, activation of physical and mental functions, facilitation of communication, and positive influences on the living environment. Thus, the study highlights the practical significance of occupational therapy in community settings. Future tasks include tailoring activity levels to the physical and cognitive characteristics of participants and developing supportive environmental systems. Limitations include the absence of a control group and insufficient validation of the questionnaire’s reliability and validity. Refinement of research design and evaluation measures will be required to strengthen future investigations.
高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるよう,地域包括ケアシステムの整備が進められている[1].その中で,高齢者が人とのつながりを持ち,地域社会の一員として継続的に関わり続けられる「通いの場」の重要性が高まっている[2].「通いの場」においては地域コミュニティサロン等があり,その実施にあたってはリハビリテーション専門職等(以下,リハビリ専門職)の参画が期待されている[3].リハビリ専門職の中でも作業療法士(以下,OT)は,対象者の生活歴,興味,社会的役割などをふまえた作業活動を提供することで心身機能だけでなく心理的・社会的側面にも介入が可能な専門職である.地域コミュニティサロンにおける作業活動の実践としては,サロンへの参加が心理的・社会的側面に良好な影響をもたらす可能性が報告されており,地域住民の交流促進や認知症予防にも寄与することが期待されている[4].しかし,既存の研究の多くは高齢者の心身機能の向上を客観的指標から検討したものが中心であり[5–7],対象者の主観的体験に焦点を当てた研究は限られているのが現状である.
本学科では,2022年度より地域の商業施設と連携し,地域在住の高齢者を対象に講義と作業活動を組み合わせた地域コミュニティサロン(以下,作業教室)を実施してきた.2023年度には,第1報として,OTを対象に作業教室の観察視点を抽出し,「作業活動に関するアンケート」(以下,アンケート)を作成した[8].これを踏まえ,2024年度は,作業教室の参加者(以下,参加者)を対象にアンケートを実施した.本研究は,第1報で作成したアンケートを実際の参加者に実施し,作業教室における作業活動の意義を検証した第2報である.
本研究の目的は,作業教室の参加者を対象に,プログラム終了後に実施したアンケート結果を主観的側面から記述的に検討し,作業活動を中心とした作業療法の意義を明らかにすることである.得られた成果により,参加者が作業活動の意義や重要性を理解し,社会参加することで介護予防につながる可能性がある.
本論文では,以下の用語について,下記のように定義し使用する.
作業教室:商業施設内で実施した,講義と作業活動から成る全6回のプログラムの総称.
作業活動:作業教室で実施した手工芸等の具体的な活動を指し,本研究ではレザークラフト,マクラメ,タイルモザイクをいう.
表1に2024年度の作業教室の概要を示す.
| 回数 | 人数 | 講義 | 作業活動 |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 11 | 認知症予防と作業活動 | レザークラフト |
| 第2回 | 5 | 認知症予防と作業活動 | レザークラフト |
| 第3回 | 6 | 認知症予防と作業活動 | マクラメ |
| 第4回 | 8 | 認知症予防と作業活動 | タイルモザイク |
| 第5回 | 11 | 認知症予防と作業活動 | マクラメ |
| 第6回 | 6 | 認知症予防と作業活動 | タイルモザイク |
作業教室は,地域在住高齢者の社会参加の促進と介護予防を目的として行っている.高齢者の社会参加の促進および介護予防には,認知機能低下の予防,運動器の機能向上,栄養の改善,口腔機能の向上,閉じこもり予防,うつ予防など多様な手段がある[9].その中でも本研究は,認知機能低下の予防に焦点を当てたプログラムを実施した.
2)場所と募集方法場所は,商業施設内の地域交流広場で実施し,商業施設がアプリやチラシを通して参加者を募集する自由参加型の方式をとった.
3)内容各プログラムは1回ごとの完結型であり,本学科のOT 6名が認知症予防と作業活動の治療的意味を理解するための講義とそれに関連する作業活動(レザークラフト,マクラメ,タイルモザイク)を実施した.講義資料は,既存の認知症予防に関する文献を参考にして作成し,内容を統一した[10].
4)期間と時間配分期間は,2024年10月から2025年3月にかけて全6回(月1回)実施した.1回あたりの時間配分は約90分(講義30分,作業活動60分)であった.
2. 参加者対象は,2024年度に実施した作業教室の参加者47名である.そのうち研究の趣旨を理解し,アンケートの回答があった者とした.
3. 測定方法 1)アンケートの実施手順各プログラム(第1回~第6回)の終了後に,紙面でアンケートを配布し,その場で回収した.本研究では,各プログラム終了時点の回答データを集計対象とした.
2)アンケートの内容アンケートは,先行研究(第1報)において,作業教室の成果を測定することを目的に作成された.第1報では,2023年度に作業教室を担当したOT 5名を対象に,作業教室における作業活動の観察視点に関する自由記述を収集し,得られた記述データから内容分析を行った.その結果,「情動」,「心身機能」,「コミュニケーションと交流」,「環境」の4つの観察視点と25の設問が生成され,アンケートを作成した[8].本研究(第2報)では,そのアンケートを2024年度に開催した作業教室の参加者に実施し,アンケートの回答を記述的に検討した.
アンケートの内容は,設問1~10は「情動」,設問11~14は「心身機能」,設問15~19は「コミュニケーションと交流」,設問20~24は「環境」に関する領域であり,4件法(1:あてはまらない,2:ややあてはまらない,3:ややあてはまる,4:あてはまる)にて回答する.設問25は作業活動に関する感想・意見を自由記述にて回答する.また,前述した設問とは別に,参加者の基本情報として年齢,性別,参加回数を収集した.表2にアンケートの設問を示す.
| 設問 | |
|---|---|
| 1.作業活動を楽しんだ | 14.作業活動を理解できた |
| 2.作業活動で成功体験を得た | 15.参加者同士と交流がもてた |
| 3.作業活動に不安があった | 16.大学のスタッフと交流がもてた |
| 4.作業活動に興味・関心をもった | 17.商業施設のスタッフと交流がもてた |
| 5.作業活動で満足感が得られた | 18.自分の考えを伝えることができた |
| 6.作業活動で達成感が得られた | 19.会話がはずんだ |
| 7.作業活動に意欲的に参加できた | 20.日課としている作業活動がある |
| 8.作業活動に主体的に参加できた | 21.作業活動は難しかった |
| 9.作業活動を自分なりに工夫した | 22.作業活動を自宅などでも続けたい |
| 10.作業活動を自分なりにこだわった | 23.作業活動に手伝いが必要だった |
| 11.作業活動で手の運動になった | 24.作業活動をする場所や機会がある |
| 12.作業活動でうまく道具を操作できた | 25.作業活動に関する感想・意見 |
| 13.作業活動に集中できた | |
設問1~10は「情動」,設問11~14は「心身機能」,設問15~19は「コミュニケーションと交流」,設問20~24は「環境」に関する項目.
アンケート実施期間は,2024年10月15日から2025年3月4日までであった.
5. 分析方法分析は,定量的分析と定性的分析を行った.以下にそれぞれの分析方法を示す.
1)定量的分析(1)参加者の概要
参加者の基本情報(年齢,性別,参加回数)は記述統計にて算出した.
(2)アンケートの設問
設問1~24は,「4:あてはまる」,「3:ややあてはまる」を肯定的な回答,「2:ややあてはまらない」,「1:あてはまらない」を否定的な回答とし,それぞれについて記述統計を用いて算出した.
2)定性的分析(1)作業活動に関する感想・意見
設問25(自由記述)は,Berelsonの内容分析に基づいて定性的分析を行った.この分析方法は記述されたテキストを体系的に表す方法である[11].以下に分析の手順を示す.
①記録単位の抽出
文脈が理解しやすいように参加者1名の記述内容を一文脈単位とし,研究のための問い「作業療法の成果」を表す内容を含む単語と文章を一記録単位として抽出した.なお,記録単位は,同一の意味内容が重複する場合も,それぞれを独立した記録単位として抽出した.
②カテゴリ化
抽出された記録単位を意味内容の類似性に基づいて分類し,内容を反映するカテゴリ名を付与した.
③記録単位数の算出
各カテゴリにおける記録単位の出現頻度と割合を算出した.
6. 定性的分析の信用性内容分析の信用性を確保するために,調査者トライアンギュレーションを用いた.これは複数の研究者が,同一のデータを分析・解釈する方法であり,データの偏った解釈の可能性を減らすことができる[12].本研究では地域や高齢期での実践経験が豊富な3名のOTにて分析した.
7. 倫理的配慮アンケートは無記名で実施し,個人が特定されないように留意した.本研究は,びわこリハビリテーション専門職大学研究倫理委員会の承認(承認番号:BR25002)を得て実施した.
作業教室には延べ47名が参加し,そのうち44名からアンケートの回答が得られた(回収率:93.6%).性別は,男性4名(9.1%),女性40名(90.9%)であった.年齢層は,70代が最も多く24名(54.6%),次いで80代が11名(25.0%),60代が7名(15.9%),50代が2名(4.5%)であった.参加回数は,1回の参加が25名(56.8%),2回以上の参加が19名(43.2%)であった.表3に参加者の概要を示す.
| 人数 | 割合(%) | ||
|---|---|---|---|
| 年齢 | 50代 | 2 | 4.5 |
| 60代 | 7 | 15.9 | |
| 70代 | 24 | 54.6 | |
| 80代 | 11 | 25.0 | |
| 性別 | 男性 | 4 | 9.1 |
| 女性 | 40 | 90.9 | |
| 参加回数 | 1回のみ | 25 | 56.8 |
| 2回以上 | 19 | 43.2 | |
設問1~24の回答を表4に示す.なお,以下の数値は「4:あてはまる」または「3:ややあてはまる」と肯定的に回答した割合を表している.
| 設問 | Mdn(IQR) | 肯定的 回答率(%) |
否定的 回答率(%) |
|---|---|---|---|
| 1 | 4.0(4.0~4.0) | 100 | 0 |
| 2 | 4.0(4.0~4.0) | 100 | 0 |
| 3 | 3.0(1.0~3.0) | 50.0 | 50.0 |
| 4 | 4.0(4.0~4.0) | 97.7 | 2.3 |
| 5 | 4.0(4.0~4.0) | 100 | 0 |
| 6 | 4.0(4.0~4.0) | 100 | 0 |
| 7 | 4.0(4.0~4.0) | 97.7 | 2.3 |
| 8 | 4.0(4.0~4.0) | 97.7 | 2.3 |
| 9 | 4.0(3.0~4.0) | 95.5 | 4.5 |
| 10 | 4.0(3.0~4.0) | 95.5 | 4.5 |
| 11 | 4.0(4.0~4.0) | 100 | 0 |
| 12 | 4.0(3.0~4.0) | 97.7 | 2.3 |
| 13 | 4.0(4.0~4.0) | 97.7 | 2.3 |
| 14 | 4.0(4.0~4.0) | 100 | 0 |
| 15 | 4.0(3.0~4.0) | 88.6 | 11.4 |
| 16 | 4.0(4.0~4.0) | 95.5 | 4.5 |
| 17 | 4.0(3.0~4.0) | 86.4 | 13.6 |
| 18 | 4.0(3.0~4.0) | 97.7 | 2.3 |
| 19 | 4.0(3.0~4.0) | 95.5 | 4.5 |
| 20 | 4.0(3.0~4.0) | 86.4 | 13.6 |
| 21 | 2.0(1.0~3.0) | 43.2 | 56.8 |
| 22 | 3.0(3.0~4.0) | 86.4 | 13.6 |
| 23 | 3.0(2.0~3.0) | 52.3 | 47.7 |
| 24 | 3.0(3.0~4.0) | 81.1 | 18.9 |
Mdn:中央値,IQR:第1四分位数-第3四分位数
肯定的回答率:4(あてはまる),3(ややあてはまる)の回答率
否定的回答率:2(ややあてはまらない),1(あてはまらない)の回答率
「1.作業活動を楽しんだ」,「2.作業活動で成功体験を得た」,「5.作業活動で満足感が得られた」,「6.作業活動で達成感が得られた」は100%,「4.作業活動に興味・関心をもった」,「7.作業活動に意欲的に参加できた」,「8.作業活動に主体的に参加できた」は97.7%,「9.作業活動を自分なりに工夫した」,「10.作業活動を自分なりにこだわった」は95.5%,「3.作業活動に不安があった」は50.0%であった.
2)心身機能(設問11~14)「11.作業活動で手の運動になった」,「14.作業活動を理解できた」は100%,「12.作業活動でうまく道具を操作できた」,「13.作業活動に集中できた」は97.7%であった.
3)コミュニケーションと交流(設問15~19)「18.自分の考えを伝えることができた」は97.7%,「16.大学のスタッフと交流がもてた」,「19.会話がはずんだ」は95.5%,「15.参加者同士と交流がもてた」は88.6%,「17.商業施設のスタッフと交流がもてた」は86.4%であった.
4)環境(設問20~24)「20.日課としている作業活動がある」,「22.作業活動を自宅などでも続けたい」は86.4%,「24.作業活動をする場所や機会がある」は81.8%,「23.作業活動に手伝いが必要だった」は52.3%,「21.作業活動は難しかった」は43.2%であった.
3. 自由記述の内容分析表5に自由記述の内容分析の結果を示す.30の文脈単位から61の記録単位が抽出された.意味内容の類似性に基づき,9つのサブカテゴリ,2つのカテゴリが生成された.以下,記録単位数が多い順にカテゴリの概要を示す.なお,本文中の表記は,サブカテゴリを〈 〉,カテゴリを《 》で示す.
| カテゴリ | サブカテゴリ | 記録単位 | 記録単位数 |
|---|---|---|---|
| 肯定的な体験(93.4%) | 作業活動の楽しさ | ・とても楽しかった | 17(27.9%) |
| 作業教室への期待 | ・次回も必ず参加したい ・イベントも2回目の参加です.次回も楽しみにしています ・月に1回でも通って学べる事を喜んで参加しています ・高次脳機能障害を患い,これからの取り組みの重要性を痛感している ・10日前に左手首を2カ所骨折し,ギプスを巻いての参加だった |
16(26.2%) | |
| 作品への満足感 | ・世界に1つの1点物ができてうれしい ・レザークラフトが作れて良かった ・前回もパラコードで作るボトルホルダーを3つ作り,愛用している ・今日もいいものができた ・自分の好みの作品ができて楽しかった ・毎回,達成感が得られて良かった |
7(11.5%) | |
| 交流と社会参加 | ・社会参加のきっかけとなり,継続してもらえるとうれしい ・スタッフとお話ができ,また参加したい ・隣の方の作品がとても良く,参考になった ・お隣の方とお話ができて良かった ・スタッフも丁寧に教えてくれて楽しめた ・友達ともおしゃべりしながら楽しく作業ができてうれしかった |
6(9.8%) | |
| 学びと技能の向上 | ・刻印がずれたが,何回かやってみたら上達するかもと期待している ・大変勉強になった ・毎回,いろんな事を教えていただける ・タイル並べにこだわった ・指先の運動になった |
5(8.2%) | |
| 作業活動のしやすさ | ・作業が簡単で誰でもできるようになる ・材料があれば簡単にできるのでよかった ・スムーズにできた |
3(4.9%) | |
| 作品を持ち帰る喜び | ・孫にも作ってあげたい ・孫へのプレゼントができた ・自宅で作ってみようとワクワクした気持ちで持ち帰ることができた |
3(4.9%) | |
| 否定的な体験(6.6%) | 作業活動の課題 | ・材料をそろえるのが大変 ・少し大変だった ・少し不安があった |
3(4.9%) |
| 加齢による健康状態への違和感 | ・年齢のためか理解と行動が一致しない | 1(1.6%) |
《肯定的な体験》は,記録単位数が最も多かったのは〈作業活動の楽しさ〉で,次いで〈作業教室への期待〉,〈作品への満足感〉,〈交流と社会参加〉,〈学びと技能の向上〉,〈作業活動のしやすさ〉,〈作品を持ち帰る喜び〉のサブカテゴリから構成された.〈作業活動の楽しさ〉には「とても楽しかった」などの肯定的な感情を含む回答が多く,〈作業教室への期待〉には「次回も必ず参加したい」といった継続的な参加を希望する回答が多かった.〈作品への満足感〉では「世界に一つの一点物ができてうれしかった」などの完成した作品への満足感や達成感に関する回答が多かった.また,〈交流と社会参加〉は,「お隣の方とお話ができて良かった」といった参加者同士やOTとの交流の広がりに関する回答であった.〈学びと技能の向上〉には「指先の運動に良かった」,「大変勉強になった」などの作業活動を通して新しい知識や技能の習得に関する回答であった.〈作業活動のしやすさ〉では作業工程が簡単で取り組みやすいといった回答であった.〈作品を持ち帰る喜び〉は「孫へのプレゼントができた」など家庭や地域での交流につながる回答であった.
2)《否定的な体験》(4記録単位:6.6%)《否定的な体験》は,〈作業活動の課題〉,〈加齢による健康状態への違和感〉のサブカテゴリから構成された.〈作業活動の課題〉では「材料をそろえるのが大変」,「少し不安があった」など,作業活動の準備や作業活動の実施に伴う負担感や不安に関する回答であった.〈加齢による健康状態への違和感〉には「理解と行動が一致しない」といった認知面の影響により作業活動の遂行に困難さを示す回答であった.
本研究のアンケート結果から,参加者の多くが情動,心身機能,コミュニケーションと交流,環境の各側面において肯定的に評価していることが示された.
本研究では,作業活動に加えて,作業活動の治療的意味や健康との関連性について理解を深めるための講義を組み合わせた点が特徴である.参加者は作業活動が健康にどのような影響を及ぼすのかを学ぶことで,自身の健康と照らし合わせながら作業活動に取り組むことができた.このプロセスは,参加者が主体的な行動を促す契機になったと考えられ,ヘルスリテラシーの概念とも一致している.ヘルスリテラシーとは,健康情報を入手して,理解して,評価して,活用できる力と定義されており[13],健康行動の基本となる能力である[14].先行研究では,島谷ら[15]が,専門職による講義を含む活動により,高齢者のヘルスリテラシーの維持に寄与し,健康づくりや社会参加の促進につながる可能性を示している.また,川又ら[16]は,健康と作業に関するヘルスリテラシーを作業リテラシーと位置づけ,講義とそれに関する実践的な活動を一体的に提供する意義を示している.本研究においても,参加者が講義によって得た知識を実際の作業活動で活用したことで,作業活動への意味づけが深まり,作業活動が単なる趣味活動ではなく,自らの健康に肯定的な影響を与える手段として認識された可能性がある.さらに自由記述の内容分析では《肯定的な体験》が全体の93.4%を占めており,この傾向は定量的な結果とも一致していた.
これらのことから作業教室は,講義と作業活動を一体的に提供したことにより,参加者の理解や行動に変化をもたらし,情動,心身機能,コミュニケーションと交流,環境の各側面に肯定的な影響をもたらしたと考えられる.
2. 否定的側面と改善の示唆自由記述の内容分析では,割合としては少数ではあるものの一部の参加者から《否定的な体験》が全体の6.6%に認められた.〈作業活動の課題〉としては「材料をそろえるのが大変」,「少し不安があった」といった記述が挙げられ,作業活動そのものよりも付随する環境条件が負担となる可能性が示された.作業教室が自由参加型であることを踏まえると,材料や道具などの準備の容易さや作業手順の明確さは,参加を継続する上での重要な要因になると考えられる.さらに,「理解と行動が一致しない」という記述からは,加齢による認知面の低下が作業活動の遂行に影響していることが推察された.作業活動の治療的活用には対象者の機能レベルに応じた細かな段階づけが医療の場での作業療法と同じく重要であるとされている[17].したがって,地域における作業活動であっても,参加者の身体的・認知的特性に応じた作業活動の難易度の段階づけや環境的な支援体制を整える必要がある.今後の改善策としては,材料や道具をあらかじめ簡便に用意して提示すること,作業工程を図や写真などでわかりやすく示すことなどが考えられる.これらの取り組みによって,参加者が安心して作業教室に取り組める環境を整えられる可能性がある.
3. 作業活動を中心とした作業療法の実践的意義本研究で得られた肯定的評価と否定的評価を踏まえると,講義と作業活動を組み合わせた作業教室は,参加者に多面的な影響をもたらしていたと考えられる.特に楽しみ,興味・関心,満足感といった情動に関する設問で高い評価が得られたことから,作業活動によって得られた成功体験は有能感を高め,作業活動そのものに対する内発的動機づけを促進した可能性がある.また,本研究で用いたレザークラフト,マクラメ,タイルモザイクは巧緻動作や認知機能を必要とする作業活動であり[18],参加者の心身機能に良好な影響を与えたことも推察される.さらに,自由記述より「社会参加のきっかけとなり,継続してもらえるとうれしい」や「孫にも作ってあげたい」といった回答からは,作業活動が社会参加の促進や家庭内における役割の再構築にもつながる可能性もうかがえる.先行研究においても,高齢者を対象とした作業活動の治療的効果として,満足感や有能感の向上[19],身体・認知機能の維持・改善[20, 21],社会的交流の促進[22]が報告されており,本研究の結果とも一致している.これらのことから,作業教室は参加者の情動的な充足,心身機能の活性化,コミュニケーションと交流の促進,生活環境への波及といった多面的な影響をもたらす可能性があり,地域における作業療法の実践的意義を示す知見となった.
4. 本研究の限界と課題本研究の結果から,作業教室が参加者に肯定的体験をもたらす可能性が示唆された.しかし,研究デザインやアンケートの内容にはいくつかの制約があり,解釈の一般化には限界がある.第一に,本研究では,対照群の設定や介入前後の比較を行っていないため,得られた成果が作業教室そのものによる成果かどうかを明確に評価するには限界がある.今後は,準実験的研究デザインを用いて群間比較や前後比較を行うことで成果の検証を行う必要がある.第二に,本研究で使用したアンケートは,筆頭筆者らの先行研究を基に独自に作成したものであり,妥当性や信頼性の検討は十分とはいえない.したがって,今後は,Delphi法や因子分析による妥当性の検討,信頼係数による信頼性の検討に加え,項目反応理論を用いた各設問の精緻な検証を行い,アンケートの精度を高めていく必要がある.第三に,今後の展望として,本研究で対象とした地域在住の高齢者に加えて虚弱高齢者や中高年層など対象者層を拡大し,地域資源や多職種と連携した継続的な支援の枠組みを構築することで,作業教室の効果を持続させ,地域全体の介護予防に資することが期待される.
本研究では,認知症予防に関する講義と作業活動を組み合わせたプログラムを実施し,アンケート調査によって参加者の主観的評価を記述的に検討した.その結果,参加者は情動,心身機能,コミュニケーションと交流,環境の各側面において,多くが肯定的に評価していたことが明らかになった.一方で,一部の参加者からは作業活動の難易度や健康状態への不安も示され,作業活動の実施に伴う課題も認められた.これらの所見は,地域における作業活動を中心とした作業療法の意義を示すとともに,今後のプログラムの調整や環境的支援の必要性を示唆するものである.
本研究の実施にあたり,ご協力を賜りました商業施設のスタッフの皆様,ならびに作業教室にご参加いただいた地域の皆様に心より深謝申し上げます.
本研究に関して,開示すべき利益相反はない.