2025 年 4 巻 p. 26-33
本研究は,地域在住の高齢者を対象として作業療法学科の学生が主体となって実施した健康教室「フレイル予防/認知機能低下へのアプローチ」に関する実践報告であり,その初期的効果と参加者の反応について探索的に検討した.健康教室のプログラムは作業療法学科の教員・自治体職員による講義と学生主体のレクリエーションを含む体操で構成され,65歳以上の参加者49名を対象に計5回開催した.調査は,本研究で独自に作成した調査票および健康関連QOLを評価するMOS 8-Item Short-Form Health Survey(以下,SF-8)を用いて実施した.分析対象は3回以上を参加した22名(男性3名,女性19名,平均年齢76.9 ± 5.7歳)とし,Wilcoxonの符号付き順位和検定で前後比較を行った.その結果,「認知症への不安」に対する軽減(P = 0.08, r = 0.26)や「他の社会活動への参加率の向上」(P = 0.10, r = 0.24)において統計的有意差を認めなかったが,日常生活における認知症予防の実践頻度は有意に増加した.SF-8の全ての下位尺度では有意差は認められなかった.一方で「学生による体操の充実度」や「学生・参加者間の交流満足度」は高い評価を得ることができ,健康教室終了時には「認知症予防への実践」に対する頻度が向上(P = 0.03, r = 0.33)していた.このことから本事業は世代間交流の場としての一定の意義を有する可能性が示され,参加者が学生を見守る役割をもつことで活動への充実感を得られていたと考えられた.このような関係性をもとにした学生との交流の場は,高齢者の予防行動を促進する可能性が示唆された.今後の課題として講義内容の改善とともに,対面と遠隔支援を組み合わせたICT活用などの多様な実施形態の検討が必要である.
This study presents an exploratory examination of the initial effects and participant responses to a health education program titled “Approaches to Preventing Frailty and Cognitive Decline,” primarily conducted by occupational therapy students for elderly residents in the community. The program consisted of lectures by occupational therapy faculty and local government staff, along with student-led recreational exercise sessions. It was held five times for 49 participants aged 65 years or older. The survey was conducted using a questionnaire developed specifically for this study and the MOS 8-Item Short-Form Health Survey (SF-8) to evaluate health-related quality of life. An analysis included 22 participants (3 males and 19 females; mean age 76.9 ± 5.7 years) who attended three or more sessions. Pre- and post-program comparisons were performed using the Wilcoxon signed-rank test. The results showed no statistically significant differences in “reducing anxiety about dementia” (P = 0.08, r = 0.26) or “increasing participation rates in other social activities” (P = 0.10, r = 0.24). However, the frequency of practicing dementia prevention in daily life significantly increased. No significant differences were observed in any of the SF-8 subscales. On the other hand, “enrichment of exercises by students” and “satisfaction with interaction between students and participants” received high evaluations. By the end of the health classes, the frequency of “practicing dementia prevention” had increased (P = 0.03, r = 0.33). These findings suggest that the program may hold significant value as a venue for intergenerational exchange, with participants likely gaining a sense of fulfillment from their role of watching over the students. Such relationship-based interaction opportunities with students suggest potential for promoting preventive behaviors among the elderly. Future challenges include improving lecture content and exploring diverse implementation models, such as utilizing ICT that combines face-to-face and remote support.
厚生労働省は2014年の介護保険法改定の中で,地域における通いの場づくりを推進しており,地域共生社会を実現するための取り組みとしている[1].また,通いの場に参加することは後期高齢者の要介護リスクを抑制することも指摘されている[1].加えて自治体と教育機関が実施する高齢者大学といった取り組みも各地で実践されており,介護予防事業に世代間交流を取り入れた効果も報告されている[2].
環びわ湖大学・地域コンソーシアムの事業の一環である大学地域課題解決支援事業は,滋賀県内に立地する大学の持つ多様な知的資源の地域への還元を促進するとともに,県内14大学等に通学する約3万5千人の学生が地域課題の解決に貢献する活動である[3].同時に,これらを通して滋賀の人々や生活文化などの魅力に出会い,交流を深めることで,滋賀県に愛着を持ってもらうことを目指している.またこの活動は自治体における地域の課題解決に向けた,地域住民と大学との連携と共に,学生が主体となって活動する取り組みとされる.
本学作業療法学科(以下,OT学科)は2021年度より当事業に参画している.東近江市長寿福祉課と協働し,作業療法学科の在学生(以下,学生)とOT学科教員とともに地域在住の高齢者(以下,参加者)に対して「いきいき生活プロジェクト」と称して健康教室の事業(以下,本事業)を実施してきた.2年間が事業の期間と定められており,2022年度がその節目となる.2021年度からOT学科が行っているテーマが「フレイル予防/認知機能低下へのアプローチ」である.その中では,東近江市の保健師と本学教員がそれぞれに講義を行った後に,学生主体による集団体操を行うこととし,計3回を実施してきた.こういった取り組みは環びわ湖大学・地域コンソーシアムの目的とする「学生と地域住民が交流する場」として実践されてきた.
参加者に対する講義では,認知機能低下に対する知識の提供,そして体操では参加者自身が自宅で行える体操の実践と提案をしてきた.体操は認知症予防のための運動として近年注目されているコグニサイズ[4]を参考にCognition(認知)とExercise(運動)を組み合わせ,参加者が自宅や仲間内でも実施可能な活動となるよう,学生が構成を思案しつつ実施してきた.関連する先行研究では体操のみの効果が示されている[5, 6]ものの,本事業では認知症に関する講義もプログラムに組み込むことで,身体機能だけではなく社会生活や日常生活も向上することを期待していた.その結果,2021年度の取り組みからは学生との交流を楽しみにされる参加者だけでなく,学んだ内容を日常生活にて実践しているといった良好な意見が得られていた.しかし,試行的な初回の事業であったため講義や体操による参加者への影響や教室そのものの「交流する場」としての価値について検討することができていなかった.
このように,本事業の参加者に対するプログラムの成果については十分に検討されておらず,今後の効果的な実践の継続に向けて分析を進める価値がある.テーマに据えられるフレイルには身体的・認知的に限らず,社会的な要因も示されており[7],相互的に関連する多様な側面がある.そのため,本事業を通した関わりによって参加者の全体的健康感や活動意欲へと及ぼす影響について,探索的に検討を進める必要がある.したがって,本研究では2022年度の事業を通じて,学生や参加者間の交流に関する満足度とともに,日常生活への主観的健康感への影響について明らかにすることを目的とした.
本研究は,びわこリハビリテーション専門職大学研究倫理委員会の承認(承認番号BR22002)を得て実施した.参加者には書面にて研究の趣旨,倫理的配慮,個人情報保護について初回のプログラム開始前に十分説明し,同意書への署名によって同意を得た.また,調査票では記名式のため,回答結果は氏名と切り離して分析を行った.
2. 本事業の概要OT学科が担当する本事業では「フレイル予防/認知機能の低下に対するアプローチ」というテーマのもと,東近江市在住の65歳以上であり,且つ会場まで通うことのできる者を対象とし,計5回に亘って東近江市と協働して実施した.参加者の募集は本学と東近江市が協働して広報し,約40名の参加者を見込んで行われた.学生の募集は学内の掲示と各学年への口頭説明によって告知し,取組内容に同意が得られた学生が参加した.
プログラムは一回につき90分を予定し,前半には東近江市の保健師とOT学科教員による講義を約40分行った.保健師からは血圧や栄養といった一般的な健康管理について情報提供され,OT学科教員からは認知機能の低下を予防するための講義が行われた.その後,学生によるレクリエーションを含む体操を実施した.これらの講義や体操は参加者が自宅で行えるトレーニングや日常生活で実践可能な知識を提供した.
学生が実施するプログラムは認知機能の低下を予防することを目的に,日常で取り入れられる要素,交流や楽しめる内容について教員とともに構成を思案した.当日の学生が進行する場面では,不慣れな状況に対して参加者からの合いの手や意見なども多く聞かれ,非常に賑やかに場が進められた.2回目以降には,「勉強したことを家でやってみた」「私の地域サロンでもやってほしい」「認知症への理解に役立つ」といった意見もあり,参加者の多くは熱心にメモを取る様子が観察された.
なお,各回の取り組みの流れと具体的内容を表1,日程と講義内容を表2,学生プログラムの様子を図1に示す.
| 一回のスケジュール | 具体的内容 |
|---|---|
| 受付 | 保健師と本学事務にて対応 |
| 血圧測定 | 保健師と学生・教員が3個所に別れて対応 |
| 保健師による講義(約20分) | 栄養面,血圧管理などの全般的な健康管理に関する内容のほか,市が実施する通いの場や制度に関する紹介の説明. |
| 教員による講義(約20分) | 表2に示す. |
| 学生プログラム(約50分) | 各回では以下の内容を混合したプログラムを学生の司会・進行にて実施. ・ストレッチ体操,リズム体操 ・手足の運動や発声を同時に扱う脳トレ体操 ・プロジェクターに投影された画面を用いたゲームや体操 |
| 終了 | 次回の日程を確認し,順次解散する. |
| 実施日 | 講義 | 講義内容 |
|---|---|---|
| 10月15日 | 認知症検査について | 認知症に関する一般的知見の説明 検査内容の一部の体験 |
| 10月29日 | 認知症とお薬 | アルツハイマー型認知症に対する薬剤の動向と最新の知見 |
| 11月5日 | 匂いと認知症 | 嗅覚刺激による認知症予防の効果について説明 実際の検査用具を用いた体験 |
| 11月23日 | 感情と認知症 | 「笑い」による認知症予防の効果について説明 発声や表情の変化について体験 |
| 12月3日 | 私の認知症対策 | 日常生活活動の工夫による認知症予防の研究知見の紹介 これから行える活動を参加者・スタッフ間でグループワーク |

2022年10月15日から12月3日までの計5回開催される本事業に参加し,且つ研究の趣旨を理解し同意が得られた者とした.除外基準としては研究実施者と意思の疎通が取りにくく,回答や書字が困難な者,または研究参加により身体的および精神的に過度な負担がかかると判断される者とした.
4. 評価と調査 4.1 調査票本研究で独自に作成した質問項目(以下,調査票)は①氏名,②性別,③年齢,④認知症への不安度,⑤認知症予防の実践頻度,⑥他に参加している活動参加の頻度,⑦学生による体操の充実度,⑧学生との交流の楽しさ,⑨参加者同士の交流の楽しさ,⑩講義の理解度とした.なお,⑦~⑩の質問については終了時のみの回答を求めることとした.調査票の概要を表3に示す.
| 質問項目 | 回答形態と内容 | 調査時期 |
|---|---|---|
| ①氏名 | 記述 | 初回・修了時 |
| ②性別 | 記述 | |
| ③年齢 | 記述 | |
| ④認知症について不安 | 4件法(ある・時々ある・あまりない・ない) | |
| ⑤日常生活内で認知症予防のための運動を実践 | 4件法(毎日している・時々している・あまりしていない・していない) | |
| ⑥今回のプロジェクト以外に参加している活動 | 4件法(定期的に参加・不定期に参加・あまり参加しない・参加しない) | |
| ⑦学生による体操は充実した内容だったか | 4件法(充実した・概ね充実した・あまり充実していない・充実していない) | 終了時のみ |
| ⑧学生との交流は楽しかったか | 4件法(楽しかった・概ね楽しかった・あまり楽しくなかった・楽しくなかった) | |
| ⑨参加者同士の交流は楽しかったか | 4件法(楽しかった・概ね楽しかった・あまり楽しくなかった・楽しくなかった) | |
| ⑩講義について理解できたか | 4件法(できた・概ねできた・あまりできなかった・できなかった) |
高齢者の健康を測定する指標のひとつとして健康関連QOL(Health-related Quality of Life:以下,HRQOL)がある.HRQOLとは,健康が日常生活機能に与える影響や,本人が感じる健康度を定量化したものである.その代表的な評価法としてSF-8があり[8],質問項目は8項目(身体機能,身体的日常役割機能,体の痛み,全体的健康感,活力,社会生活機能,精神的日常役割機能,心の健康)の下位尺度で構成される.下位尺度は,一般国民における得点分布から算出された国民標準値に基づいたスコアリング法によって得点化されている.国民標準値は50.0点とされ,これを標準とした比較が可能である.また,身体的健康を示す身体的サマリースコア(以下,PCS)と精神的健康を示す精神的サマリースコア(以下,MCS)が算出され,得点が高いほど健康状態が良好とされる.
5. 分析方法SF-8の下位尺度はスコアリングシステムによって8つの下位尺度得点と,PCS,MCSの2つのサマリースコアを算出した.これらの結果と調査票の④~⑥の前後比較の検討にはWilcoxonの符号付き順位和検定を用いた.有意水準は5%とし,Effect sizeはr値(Z/
研究参加者は49名(平均年齢78.0 ± 6.2歳,男性9名,女性40名)であり,この内,事業に3/5回以上参加した22名(平均年齢76.9 ± 5.7歳,男性3名,女性19名)を解析対象とした.また,学生は3年生7名,2年生7名の計14名(男性7名,女性7名)が参加した.学生は性別や学年が混合した2グループに分かれ,当日に向けた準備を進めた.
2. 調査票調査票は日常生活における参加者の認知症への不安や予防の取り組みに加え,本事業の介入手段であった講義や学生・参加者交流の満足度を測る目的で独自に作成した.
前後比較を行った3項目では,④⑤では本テーマに即した設問とし,⑥では本事業を通じた他への活動範囲の拡大を期待した設問とした.その結果,「④認知症への不安」P = 0.08(r = 0.26),「⑤認知症予防の実践」P = 0.03(r = 0.33),「⑥本事業以外への参加」P = 0.10(r = 0.24)となった.調査票の結果を表4に示す.
| [調査票 項目] | 介入前(n = 22) | 介入後(n = 22) | P value | Effect size(r) |
|---|---|---|---|---|
| ④認知症への不安 | 3(3.0~3.0) | 3(2.0~3.0) | 0.08 | 0.26 |
| ⑤認知症予防の実践 | 2(2.0~2.8) | 2(1.0~2.0) | 0.03 | 0.33 |
| ⑥本事業以外への参加 | 2(1.0~3.8) | 2(1.0~2.8) | 0.10 | 0.24 |
※介入前と介入後の数値:中央値(25%~75%)
※Wilcoxonの符号付き順位和検定:p < 0.05で有意差あり
※Effect size (r):r > 0.10(小),r > 0.30(中),r > 0.50(大)
終了時のみの質問項目では,事業全体の充実感や満足感に関する設問とした.その結果,「⑦学生による体操の充実感」にて「充実していた15名(68.1%)」「概ね充実していた6名(27.2%)」「あまり充実していなかった1名(4.5%)」であった.「⑧学生交流の楽しさ」では「楽しかった21名(95.4%)」「概ね楽しかった1名(4.5%)」,「⑨参加者間交流の楽しさ」では「楽しかった15名(68.1%)」「概ね楽しかった7名(31.8%)」との回答であった.「⑩講義についての理解」では「理解できた5名(22.7%)」「概ね理解できた17名(77.2%)」であった.結果を図2に示す.

本研究では,身体的・認知的・社会的要因をもつフレイルの予防をテーマに掲げている.そのため,本評価では身体機能だけでなく,日常生活役割機能(身体・精神),全体的健康感,活力,そして社会生活機能への効果を期待した.SF-8は国民標準値が50.0点とされている.今回の結果では概ね全ての項目において,PCSを除く全ての項目で健康感や活動性が高い傾向にあった結果となった.全ての下位尺度で有意差は認めなかったが,「身体機能」P = 0.07(r = 0.28)と「全体的健康感」P = 0.15(r = 0.22)では小~中程度の効果を認めた.結果を表5に示す.
| [SF-8項目] | 介入前(n = 22) | 介入後(n = 22) | P value | Effect size(r) |
|---|---|---|---|---|
| 身体機能 | 48.7(45.7~54.3) | 48.7(44.7~54.3) | 0.07 | 0.28 |
| 日常役割機能(身体) | 54.9(47.8~54.9) | 54.9(47.8~54.9) | 0.32 | 0.15 |
| 体の痛み | 48.2(45.0~59.1) | 51.3(45.0~59.1) | 0.66 | 0.07 |
| 全体的健康感 | 52.7(52.7~60.0) | 60.0(52.7~60.0) | 0.15 | 0.22 |
| 活力 | 55.5(55.5~55.5) | 55.5(49.4~58.1) | 0.76 | 0.04 |
| 社会生活機能 | 55.2(49.2~55.2) | 55.2(47.3~55.2) | 0.52 | 0.10 |
| 日常生活機能(精神) | 55.2(49.0~55.2) | 55.2(49.0~55.2) | 0.88 | 0.02 |
| 心の健康 | 51.2(51.2~56.7) | 51.2(51.2~56.7) | 0.78 | 0.04 |
| 身体的サマリースコア | 48.7(44.7~54.8) | 47.4(43.9~54.3) | 0.50 | 0.10 |
| 精神的サマリースコア | 54.0(47.2~56.2) | 53.4(48.1~55.8) | 0.69 | 0.06 |
※介入前と介入後の数値:中央値(25%~75%)
※Wilcoxonの符号付き順位和検定:p < 0.05で有意差あり
※Effect size (r):r > 0.10(小),r > 0.30(中),r > 0.50(大)
本事業は準備から当日にかけて,滞りなく参加者に提供することができ,学生・市職員・教職員にとっても充実したものであった.研究参加者からの終了時では,非常に良好な回答が得られた.一方,前後比較では期待された程の成果を挙げることはできなかったが,調査票からは「⑤認知症予防への実践」には有意差を認めた.また調査票の「④認知症への不安」「⑥本事業以外への参加」,さらにSF-8の「身体機能」「全体的健康感」では小~中程度の効果を認めた.
本事業ではOT学科教員や学生,また参加者間の交流の場を通して,認知症への不安軽減や予防の実践とともに生活の範囲の広がりを期待した.今回の参加者では調査対象以外も含めて女性の参加者が多く,とりわけ予防的行動に関心が高い層が集まっていた.男性の参加が少ないという状況は,各地域で行われる介護予防事業への参加者傾向と類似していた.また,研究対象者は,参加登録の49名中22名(45%)が分析対象であった.これは本事業が事前登録による自由参加であったことから,必然的に健康意識や活動意欲が比較的高い層に偏った可能性が考えられる.このため,結果の一般化には限界がある.
終了時のみの調査からは「学生による体操の充実感」「学生との交流の楽しさ」では多くの参加者から良好な評価を得られていた.加えて,「参加者間交流の楽しさ」も次いで良好な結果を示していた.世代間交流を取り入れることは高齢者の身体機能の維持や健康行動の促進,さらには貢献意識の向上や社会参加の機会増加が期待されている[2, 9].また高齢者が若者とふれ合うことはポジティブな感情を抱きやすくなることが報告されている[10].ある場面では,司会進行がおぼつかない学生の様子に対して,高齢者が合いの手を差し伸べて支援する様子もみられており,互いに貢献し合う作用のもとで空間が成り立っていたものと推察される.こういった通いの場を通じた社会参加活動は,フレイル発症のリスクが有意に低減することが示されている[11]が,本研究では,学生との交流や体操,講義など複数の要素が組み合わされたプログラムであり,いずれが健康志向の向上に寄与したかを明確に区別することはできない.しかしながら,参加者からは「学生との交流が楽しかった」「体操が充実していた」といった肯定的な評価が多く得られたことから,心理的充実感や社会的関わりを通じて健康行動が促進された可能性が示唆された.今後は,学生との交流を伴う活動と運動プログラム単独などを比較することで,交流要素が健康行動に与える影響をより明確にする必要がある.また,本研究で示された「学生を見守る役割」や「世代間の相互貢献による充実感」は興味深い所見であったが,現状では観察による仮説的示唆に留まる.今後は自由記述や会話記録を収集し,SIERO-R[9]や世代間のふれ合いにともなう感情尺度[10]といった定性・定量的分析を取り入れることで,世代間交流が高齢者の心理的側面に与える影響について,より深く検討する必要がある.
調査票による効果では,本事業を通じて多くの参加者が「日常生活内における認知症予防を行なうようになった」という結果となった.こういった日常生活活動への行動変容につながった結果からは,前述した学生との関わりや,共に実施した体操やレクリエーションが参加者にとって取り組みやすい内容であった可能性がある.「講義についての理解」は概ね理解できたと回答した参加者が多かった.各回の講義では日常生活における多方面からの認知症予防への意味付けを重視した内容としたが,学生や参加者との交流に比較するとやや理解に及びにくい結果となったようであった.本事業では講義とともに,「楽しさ」や「交流」に重きを置いた学生による取り組みが一体となって実施されることが特徴である.したがって,講義や体操に学生との交流が加わることで,参加者の認知症予防に対する意識や実践意欲が高まった可能性がある.ただし,今回の研究デザインでは対照群を設けていないため,体操の効果と交流の効果を分離して評価することは困難である.この点を踏まえ,今後の研究では,交流の有無や活動内容を段階的に比較することで,どの要素が行動変容に寄与するかを検討していく必要がある.
調査票に加えて行ったSF-8では初回時と終了時の結果に差がない結果となった.その要因の一つに参加した高齢者の状況が国民標準値に近く,比較的活動性や満足度が高かったことが挙げられる.また多様な指標を持つSF-8では「身体機能,身体的日常役割機能,体の痛み,全体的健康感,活力,社会生活機能,精神的日常役割機能,心の健康」といった下位尺度で構成されている.そのため,HRQOLへの関与には生活時間における休息時間や活動に対する興味・関心など多様な生活や作業の認識を網羅する必要があったと考えられた[12, 13].調査票で効果が得られなかった「認知症への不安軽減」「他の社会参加への繋がり」という点も同様に,個人のみで行える認知症予防とは異なり,他者との関係性や地域参加の中で中長期的に変化するため本事業の実施期間や形態では限界があったと考えられた.本研究では統計的有意差は認められなかったものの,効果量としては小~中程度が示され,認知症予防行動において一定の傾向がみられた.また,SF-8の特徴には生活の質が低い対象者に効果的である側面がある[8]とされるが,今回の研究参加者の多くは国民標準値を上回っていたことから,いわゆる天井効果により変化が生じにくかったことも考えられる.
本事業は学生が主体となって地域課題の解決に貢献する活動である[3]ため,学生にとっては作業療法教育課程では学ぶことのできない貴重な経験となっている.ただし,通いの場の実施機関や頻度を多く提供することは,学生への負担を考慮する必要がある.本学近隣の地域では移動の手段に課題を抱える独居高齢者も多くなっており,共に実施を進める自治体も課題として抱えている状況である.昨今ではInformation and Communication Technology(ICT)を活用したフレイル予防の試みも報告されている[14, 15].学生の時間的制約と地域高齢者の課題を踏まえると,対面と遠隔を組み合わせたハイブリッド形式による交流も実践範囲の一つとして検討を進めていきたい.
本事業は大学地域課題解決支援事業の一環として,学生が主体となり「フレイル予防/認知機能低下へのアプローチ」をテーマとして行われた.本研究は,学生主体で実施した地域連携型健康教室の実践報告であり,効果を厳密に検証する研究ではなく,初期的知見を示した探索的研究である.その結果,参加者の主観的評価から,体操や講義に加えて学生との交流が高く評価され,認知症予防に関する実践頻度の向上がみられた.ただし,今回の結果は体操そのものの結果と交流の影響を区別できる設計ではなく,学生とのふれあいが健康志向を直接的に高めたと断定することはできない.しかしながら,世代間交流が心理的充実感や予防行動への意識向上を支える可能性を示唆する知見が得られた点は重要である.今後は,交流要素の有無を比較する研究デザインやICTを活用した多様な形態を通じて,より実証的に検討を進めたい.一方,健康関連QOLの変化は認められなかったことから,実施形態や期間の再検討とともに,参加者の生活や作業の認識についても細やかに把握する必要があると考えられた.本事業については地域課題とともに,実施する学生の時間的制約と踏まえ,多様な関わりの形を模索していきたい.
本研究は,環びわ湖大学・地域コンソーシアムの事業の一環である大学地域課題解決支援事業による助成金によって行われた.本事業の参加者ならびに東近江市長寿福祉課の皆様に感謝申し上げる.
本研究に関して,開示すべき利益相反はない.