2020 年 2020 巻 49 号 p. 67-83
名古屋市博物館所蔵の「吉田翁虫譜(小塩五郎写本・四巻仕立て)」(原本は、尾張藩士で「嘗百社」の幹部でもあった吉田高憲(平九郎, 号雀巣庵, 1805–1869)の作)のうち、第一巻に含まれる「蜂(はち)譜」(二十二丁)について、現代の視点から詳細な解析および同定を行った。その結果、概して写実的に描かれてはいるものの、全形図133 個体(部分図や巣、巣材、獲物などを除く)のうち、種レベルでの同定が可能なものは33 個体30 種であった。各種の生活や習性については詳しい記述がなされている一方、その配列や呼称などには規則性はみられず、西洋での系統分類のような視点は存在していない点が窺えた。描かれた種構成からは、当時の尾張から三河地方における、平野から丘陵地にかけてのハチ相や生息環境(里山)の一端も読み取れる。