抄録
文部科学省が毎年行っている調査からは,特別支援教育の対象となる障害のある児童生徒は,毎年増加傾向にあることが確認できる。具体的には,平成29年度調査によると,義務教育段階の全児童生徒数が約980万人と減少傾向にある中で,特別支援教育の対象児童生徒数は41万7千人と増加傾向にあり,義務教育段階の全児童生徒の4.2%にあたる。また,義務教育段階において,特別支援学校に在籍している児童生徒を除いた特別支援教育対象の児童生徒数は約34万5千人であった。内訳としては,特別支援学級に在籍していた児童生徒は約23万6千人(2.4%)であり,通常の学級に在籍する児童生徒のうち,通級による指導の対象となっている者は10万9千人(1.1%)であった。これらの人数は10年間で,それぞれ,2.1倍と2.4倍の増加となっており,特別支援教育の対象となる児童生徒数は,今後も増加することが予測される。
一方,中央教育審議会答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(2016)では,「チームとしての学校」が求められる三つの背景の一つとして,「複雑化・多様化した課題を解決するための体制整備」が挙げられている。ここに記述されている具体的な課題としては,主に,いじめ・不登校等の「生徒指導上の課題解決」,「特別支援教育の充実」,「外国人児童生徒等への対応」がある。このことからも,今後は特別支援教育の視点を持ちつつも,特別支援教育の対象となる児童生徒のみならず,多様な教育的ニーズがある児童生徒も対象とした学校教育を創造することが求められていると言える。
ただし,中央教育審議会「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築(報告)」(2012)では,共生社会の形成に向けた「障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念」の重要性が明記されて,理念は唱えられてはいるものの,具体的な方策が追い付いていないことは否めない。
本稿では,学校教育活動全体の中に特別支援教育の視点を位置づけるとともに,通常の教育と特別支援教育をつなぐ土台となるような論考をしていきたい。