抄録
本稿は,これからの学校教育を支える教師の実践知の創造に向けた一つの視座として,教師の実践の場や環境に影響を及ぼし得る教育行政のトップリーダーとしての教育長の学びについて検討することを目的とする。
教師の実践知をめぐってなぜ教育長に焦点を当てるのか。教師の実践知を論究する上で対象となる主たる人や場は,教師自身,教師―子ども関係,校内外の同僚との関係(学習コミュニティ)である。しかし,教師が実践知を獲得し,成長する場としての職場とは,特に公立学校であれば,学校の設置・管理,教育・学習の在り方に制度的責任を有する教育行政(教育委員会),いわば外的条件との関係は無視できない。むしろ,教育行政の在り方は,学校,教師に大きな影響を及ぼし得ることが考えられる。具体的に言えば,例えば,学力政策に力を入れる教育委員会であるならば(こんにち,多くの教育委員会がそうであろうが),学校・教師の取り組みの状況をつぶさに知り,積極的な手立てを打つであろう。この時,学校・教師の自主的・自律的な実践を尊重することを重視する方向性もあれば,ある方法なりフォーマットの適用を強く求める方向性もあろう。つまり,教師の実践知は,制度としての学校の条件整備的役割を担う教育行政との関係を抜きにして考えることは難しい。言うまでもなく,教育行政の最高責任者たるトップリーダーは教育長である。
そこで,本稿では,筆者が教職大学院において取り組んでいる教育長の育成や研修に関する実践を事例として取り上げ,トップリーダーとしての教育長の学びのあり方について検討し,「学び続ける教育長」の一端を提案したい。