抄録
コケ植物は胞子が発芽するとまず原糸体が形成され,そこに生じた芽から茎葉体(配偶体)が分化する.コケ植物原糸体は構造が比較的単純であり,形態的特徴に関する観察が容易であるという特徴をもつ.これらのことから植物における器官分化のモデル系として利用されてきている(Bose et al. 2004, Rensing et al. 2008, Panigrahi et al. 2009).しかしこれまで用いられてきたヒョウタンゴケFunaria hygrometrica Hedw.やヤノウエノアカゴケCeratodon purpureus (Hedw.) Brid.あるいはヒメツリガネゴケPyscomitrella patens (Hedw.) Bruch & Schimp.には共通する欠点として,コロニー形成時に原糸体フィラメントが密集するため個々の原糸体の生長量を正確に計測しがたいこと,そして培養過程で芽の発生をコントロールすることができないことが挙げられる.今回これら欠点を克服できる新たな原糸体培養系をケヘチマゴケPohlia flexuosa Hedw.を用いて確立することができたので,以下に報告する.