蘚苔類研究
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日本産ジャゴケ複合種を構成する3同胞種における染色体数と核型の研究
秋山 弘之平岡 照代井上 覚
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1998 年 7 巻 4 号 p. 105-108

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抄録
ジャゴケは苔類ゼニゴケ目ジャゴケ科に属し,北半球の温帯地域に広く分布している.日本においてもごく普通に見かける蘚苔類のひとつであり,また採取と栽培が容易なことから,生物学的研究の材料として広く用いられている.ジャゴケは世界に一種のみが存在すると見なされてきたが,その一方で生育基物の種類や周りの湿度などによって葉状体の大きさや厚さ,色などが著しく変異することも知られていた.アロザイム多型にもとづく近年の研究により,いわゆるジャゴケは形態が酷似した複数の種(sibling species;同胞種)から構成されていることが明らかとなった(Odrzykoski & Szweykowski 1991, Akiyama & Hiraoka 1994a).これらにはまだ正式な学名が与えられていないが,日本産の3種についてはそれぞれ,オオジャゴケ(ジャゴケJタイプ),ウラベニジャゴケ(ジャゴケFタイプ;以前のFSタイプ),そしてタカオジャゴケ(ジャゴケSタイプ:以前のTタイプ)という和名が与えられている(Akiyama & Hiraoka 1994b).本研究では,日本から見つかったこれら3同胞種について,雌雄の違いを含めてその染色体数と核型に違いが認められるかを調査した.その結果,染色体数については3同胞種の雌雄いずれにおいてもn=9で同数であること,また同じ核型(K=5V+2J+j+m)を有していることが明らかとなり,染色体の数と形態の面では分化していないことが判明した.これまでにジャゴケの染色体数の報告は数多くあるが,それらの多くがn=9である.その他にn=8あるいはn=10とするものもある(Table 2).これらの報告にみられる染色体数の違いは,もっぱらm染色体の数の違いによるものである.m染色体は,他の染色体に較べて著しく小さくその認識が困難なことから考えて,n=8あるいはn=10という報告はm染色体の数え間違えに起因するものではないかと推察される.
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1998 日本蘚苔類学会
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