抄録
『華厳経』は「入法界品」「十地品」「性起品」などの単独先行経典がある構想のもとに集められ、そこに新たに諸品が付加されてまとめられた経典である。そのことを踏まえ本論文では、『華厳経』に説かれる仏身観は二身説に基づいたものであるとされてきたが、このことは諸品に共通するものであるのか、また、諸品間で法身の語は同義で使用されているのかを検証した。その結果、「入法界品」「十地品」で説かれていた法身の用例と「性起品」やその他諸品での用例との間で差異を認めることができた。特に仏陀跋陀羅訳の六十華厳に特徴的な用例を確認することができた。
さらに、『華厳経』に登場するヴァイローチャナについて、釈迦牟尼と同体であるという説や、釈迦牟尼を色身、ヴァイローチャナを法身と呼ぶ説などがあるが、それらの説に関して、諸品、諸訳間の比較によって検証した。『華厳経』全体としては釈迦牟尼からヴァイローチャナへ書き換えられたりと、釈迦牟尼の名が説かれなくなっていったことなどが確認できた。