佛教文化学会紀要
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論文
ṣaṭkoṭiko vādaḥ と ṣaṭpakṣī 再考
児玉 瑛子
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2019 年 2019 巻 28 号 p. L127-L160

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抄録

 ナーガールジュナに帰される『廻諍論』第2偈註では,空なる言明によるものの本性の否定が可能か否かをめぐり,ニヤーヤ学派と思われる対論者がṣaṭkoṭiko vādaḥと称して空性批判を展開する.これまでṣaṭkoṭiko vādaḥ研究においては,主に(1)JOHNSTON & KUNST校訂本(1948–51,JK本)による訂正の是非,(2)6支分からなる議論形式の解釈をめぐる問題が残されていた.本論文は(1)の解決を試みた前稿(児玉2019)の研究成果に基づいて(2)の問題,特に梶山雄一氏によるニヤーヤ学派のṣaṭpakṣīとの比較研究(梶山1984)を再考しようとするものである.
 以上の目的に対し,本論文では『廻諍論註』と『ニヤーヤスートラ』および『ニヤーヤバーシュヤ』の解読を行い,句頭の語句(atha / cet punaḥ)の相違を手がかりとしてṣaṭkoṭiko vādaḥの対論式化を試みた.その結果,ṣaṭpakṣīの特徴ともいうべき誤難(jāti)と敗北の立場(nigrhasthāna)の適用箇所に関していえば,ṣaṭkoṭiko vādaḥからṣaṭpakṣīへの読みかえは十分に可能であることが明らかとなった.さらに,ṣaṭkoṭiko vādaḥの対論式化に際して用いられる誤難は無区別相似(aviśeṣasama)であると考えられ,その定義と『廻諍論註』における無区別相似の用例検討に基づけば,空思想がニヤーヤ学派の体系において誤難論の中に位置づけられることが理解できる.

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