2019 年 2019 巻 28 号 p. L175-L195
一社会にて複数の宗教が共存している状況が宗教の多元性と解するならば、宗教的多元主義は日本仏教においては問題とはならない。しかし多元的状況が、もしある種の危機を感じさせるとしたならば問題となろう。それは、従来仏教は武力とは無縁と言われてきたが、2017年9月、スリランカのイスラム系ロヒンギャの難民保護施設を過激な仏教僧らが襲撃したように、仏教も自宗教を守るためには例外ではないことが明らかとなったからである。現地で調査している須賀努は、このままでは百年後のスリランカはイスラム化されるだろう、と予測している。これはシンハラ仏教が撲滅することを意味している。宗教的多元主義は、このような問題との関係から考慮する必要がある。しかしそれはキリスト教文化圏から発せられたものであるため、仏教文化圏に生きる私たちにおいてはそれの構造を把握することが要となる。よって本研究は、仏教の観点からJ・ヒックが提唱した宗教的多元主義とは何かを考察する。