地質調査研究報告
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東京低地北部における沖積層のシーケンス層序と古地理
田辺 晋石原 与四郎中島 礼
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2009 年 59 巻 11-12 号 p. 509-547

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抄録

 東京低地は,下総台地,大宮大地,武蔵野台地に囲まれた,主として利根川によって形成された沿岸河口低地であり,東京低地の北部における沖積層は,基盤形状や利根川の流路変遷の影響などによって,複雑な岩相と分布を有することが知られている.本研究では8本の沖積層ボーリングコア堆積物の堆積相と放射性炭素年代値,2,308本のボーリング柱状図資料を整理することにより,東京低地の北部の沖積層の3次元的な分布とシーケンス層序,古地理を明らかにした.
 最終氷期最盛期以降,中川と荒川,古東京川の開析谷を充填した沖積層は,下位より礫質な網状河川性堆積物,植物根を含む砂泥互層からなる蛇行河川性堆積物,貝化石を含む砂泥層からなるエスチュアリー性堆積物,貝化石を含む砂層からなる砂嘴性堆積物,貝化石を含み砂と植物片の含有量が上方に増加するデルタ性堆積物から構成される.そしてこれらの沖積層は,シーケンス層序学的な解釈を適応することにより,海進面が網状河川と蛇行河川性堆積物境界,最大海氾濫面がエスチュアリーとデルタ性堆積物境界に認定され,それぞれ>14,100 cal BPと8,100~5,900 cal BPの年代値を有することが明らかになった.砂嘴性堆積物は東京低地北部の東縁に局所的な堆積体を構成する.
 東京低地の北部では,後氷期の海水準上昇に伴って,網状河川から蛇行河川,干潟,内湾へと古地理が変遷した.荒川開析谷では約10,000~5,000年前に卓越した利根川の土砂供給によって,砂州とデルタによる急速な埋積が進んだ.一方,中川開析谷ではその時期,供給土砂が欠乏し,潮流が卓越した流路が形成されたと考えられる.潮流が卓越した流路は約5,000年前以降,中川開析谷に流路を変遷した利根川の供給土砂によって内陸から陸化した.中川開析谷の流路口(奥東京湾口)には,埋没段丘から削剥された砕屑物によって,約8,000~4,000年前にかけて砂嘴が形成された.

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© 2009 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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