地質調査研究報告
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論文
隠岐トラフ周辺海域及び近接陸域における表層堆積物の元素分布:特に日本海固有水のシルト質および粘土質堆積物への強い影響
太田 充恒今井 登寺島 滋立花 好子池原 研片山 肇
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2015 年 66 巻 3-4 号 p. 81-101

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抄録

全国陸域地球化学図に続く海域地球化学図プロジェクトにおいて, 日本海西部海域から460個の海洋堆積物が採取され, 53元素の分析がなされている. これら海洋堆積物の粒径や化学組成は堆積環境ごと(陸棚, 縁辺台地, 斜面, 海盆など)で大きく異なる. まず陸棚上砂質堆積物の特徴として, 主たる起源物質と考えられる(隣接地域の)河川堆積物の化学的特徴を反映していないことが挙げられる. 陸棚の堆積物の多くは, 鉄水酸化物で覆われた石英を多く含みかつヒ素に著しく富む特徴を有する. この特徴から, 陸棚試料の多くは海退期−海進期に形成された残留堆積物が主で, 現世の河川堆積物の寄与が小さいと考えられる. 縁辺台地の堆積物の特徴として, 現世のシルト質堆積物で広く覆われていることが挙げられる. これは, 対馬海流(表層水)と日本海固有水(深層水)の境界が縁辺台地上(水深200–500 m)に位置しており, 細粒なシルト質堆積物がこの水塊境界部で選択的に沈殿しているためである. 西部縁辺台地のシルト質堆積物は, ニオブ, 希土類元素, タンタル,ト リウムなどに富んでおり, 恐らく第四紀のアルカリ火山岩の削剥物の供給があったことを意味している. これらの堆積物は海流の影響を受けて200 kmほど東方へ運ばれていることが明らかとなった. 一方, 縁辺台地東方部においては, シルト質堆積物は銅, 亜鉛, 水銀などに富む特徴を有し, 恐らく堆積物中の残留生物源物質の影響(有機物と結合して存在している)を見ていると考えられる. 粘土質堆積物は隠岐トラフや海盆域に広く分布し, 日本海固有水の影響を受けて, 半遠洋性の非常に酸化的な環境下にある. 堆積物表層部(0–4 cm)には, 初期続成作用に伴う薄いマンガン酸化物層が認められ, バナジウム, コバルト, ニッケル, モリブデン, アンチモン, 鉛を多く含む. このように, 本調査海域の海洋堆積物の化学組成は, 堆積環境に強く影響を受けていることが明らかとなった.

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© 2015 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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