地質調査研究報告
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論文
東北地方の多元素海域地球化学図に対し太平洋側と日本海側で堆積環境の違いが与える影響
太田 充恒今井 登立花 好子池原 研片山 肇中嶋 健
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2017 年 68 巻 3 号 p. 87-110

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抄録

著者らは東北地方の陸海域包括地球化学図を作成し,海域の堆積環境が広域元素濃度分布にどのような影響を与えるかについて調べた.日本海の堆積物はカリウム,バリウム,希土類元素など珪長質火成岩に多く含まれる元素に富み,特に海底地形の高まりで採取された堆積物に著しく濃集する傾向が認められた.この堆積物は,デイサイト質火山灰やバライト団塊などを伴う新第三紀堆積岩の削剥生成物と考えられる.深海盆に分布するシルトや粘土は,マンガン,カドミウム,鉛などに富んでおり,初期続成作用がこれらの元素の濃集の原因と考えられる.大陸棚のシルト質堆積物は大規模河川から供給されたにもかかわらず,その化学組成は隣接する陸域物質の影響よりは,粒径効果の影響が強く現れていた.太平洋側に広く分布する砂質堆積物は主に,波浪限界深度よりも深い海域で採取された.これらの化学組成は均質であり,苦鉄質火山岩の影響を受けた河川堆積物の化学組成と類似していた.この結果から,これらの堆積物は第四紀の苦鉄質火山活動の影響下で形成された残存堆積物であり,陸棚から深海へ重力流によって移動していったと考えられる.陸域の土砂生産量の内,81%は日本海側へ供給されるが,必ずしも陸と海との間で元素濃度の空間分布に連続性が認められる訳ではない.同様の結果は太平洋側にも認められる.例外的に,釜石沖の粗粒砂は,隣接する陸域に露出する付加帯堆積岩や花崗岩に多く含まれる元素に富む特徴を示す.この地域の河川は皆小規模であることから土砂生産量は少ないことを考慮すると,これらの粗粒砂は海進・海退期に母岩の海岸浸食・削剥などによって形成されたと考えられる.

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© 2017 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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