地質調査研究報告
Online ISSN : 2186-490X
Print ISSN : 1346-4272
ISSN-L : 1346-4272
論文
日本離島域の地球化学図作成に向けた河川堆積物中の簡易・迅速多元素分析に対する評価 ―瀬戸内海島嶼域―
太田 充恒
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 69 巻 1 号 p. 1-30

詳細
抄録

離島域の地球化学図作成に向けて,ICP発光分析,ICP質量分析,原子吸光分析を用いて測定した河川堆積物中の 53 元素の迅速かつ簡易分析法の評価を行った.0.1 g の試料をフッ酸・硝酸・過塩素酸を用いて125℃下で 2 時間分解後,更に145℃下で 1 時間の追加分解を加えることで,難溶性鉱物に多く含まれる元素の定量性の改善を試みた.結果,希土類元素,Nb,Taについては 5–15%,Zr,Hfについては 30%の改善結果を得た.ヒ素の分析においては,0.1 g の試料を酸化剤である過マンガン酸カリウムを添加した混酸を用いて 120℃下で 20 分間の分解を行った.酸化剤を添加しない場合や長時間の分解を行った場合,地球化学標準物質中のヒ素の濃度は低下した.しかし,河川堆積物試料中のヒ素濃度は過マンガン酸カリウムの添加や分解時間に関係なくほぼ同じ値を示した.水銀分析は,前処理なしに試料約 50 mgを加熱・気化させた水銀を原子吸光法で測定した.ICP発光分析,ICP質量分析,原子吸光分析を用いて測定した地球化学標準物質中の 53 元素の濃度は推奨値と良く一致した.これらの結果から,地球化学図作成のための簡易・迅速分析は十分な精度を持っていると結論づけられる.

瀬戸内海島嶼の河川堆積物の地球化学的特徴は,その河川流域に分布する母岩に強く影響されていた.Na2O,Al2O3,K2O,Be,Rb,Nb,REEs,Ta,Tl,Th,Uなどは花崗岩が広く分布する離島から採取した堆積物に多く含まれていた.一方,MgO,TiO2,V,Cr,MnO,Fe2O3,Ni,Coは塩基性火山岩が噴出した小豆島の堆積物に多く含まれていた.鉱床や人為汚染に関係していた河川堆積物にはCu,Zn,As,Mo,Cd,Sn,Sb,Hg,Pb,Biの極端な濃集が認められた.

著者関連情報
© 2018 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
次の記事
feedback
Top