地質調査研究報告
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論文
足尾山地のジュラ紀付加体の地質と対比:5 万分の1 地質図幅「桐生及足利」地域の検討
伊藤 剛
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2021 年 72 巻 4 号 p. 201-285

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抄録

足尾山地には足尾帯に属するジュラ紀付加体が分布する.5万分の1地質図幅「桐生及足利」の調査結果及び周辺地域の先行研究に基づき,足尾帯ジュラ紀付加体の岩相・層序・化石年代・地質構造を総括する.足尾山地のジュラ紀付加体は,黒保根– 桐生コンプレックス・大間々コンプレックス・葛生コンプレックス・行道山コンプレックス(新称)の4つのコンプレックスに区分される.黒保根– 桐生コンプレックスは破断相から整然相を示し,泥岩とチャートを主体とし,珪質粘土岩を含む.また,玄武岩類・炭酸塩岩類・珪質泥岩・砂岩・泥質混在岩を伴う.泥岩に劈開が発達することで特徴づけられる.本コンプレックスは上部と下部に区分される.大間々コンプレックスは破断相から混在相を示し,玄武岩類・チャート・泥岩を主体とし,炭酸塩岩類・珪質泥岩・砂岩・泥質混在岩を伴う.本コンプレックスは上部と下部に区分され,泥質混在岩は上部で卓越する.葛生コンプレックスはユニット1・ユニット2・ユニット3に区分され,ユニット1及びユニット3はチャート・珪質泥岩・泥岩・砂岩泥岩互層・砂岩が順に累重するチャート– 砕屑岩シーケンスの整然相を主体とする.ユニット2は,玄武岩類と炭酸塩岩類からなり,礫岩・珪質泥岩・泥岩を伴う.行道山コンプレックスは混在相を示し,泥質混在岩及びチャートを主体として,珪質泥岩・泥岩・砂岩を伴う.コンプレックス境界として3条の断層を認めた:桐生川断層(黒保根– 桐生コンプレックスと大間々コンプレックスの境界)・閑馬断層(新称:黒保根– 桐生コンプレックスと葛生コンプレックスの境界)・大岩断層(新称:葛生コンプレックスと行道山コンプレックスの境界).地質構造としては,北東– 南西に伸びる軸跡を持つ複数の褶曲(梅田向斜・飛駒背斜・葛生向斜など)によって特徴づけられる.泥岩の放散虫年代に基づくそれぞれのコンプレックスの付加年代については,大間々コンプレックス及び行道山コンプレックスが中期ジュラ紀の中期以降,黒保根– 桐生コンプレックス及び葛生コンプレックスのユニット2が中期ジュラ紀の後期以降,葛生コンプレックスのユニット1及びユニット3が後期ジュラ紀の前期以降である.美濃帯ジュラ紀付加体の地質体と比較すると,黒保根– 桐生コンプレックスは那比コンプレックスや島々コンプレックスに対比可能である.大間々コンプレックスと葛生コンプレックスは,それぞれ舟伏山コンプレックス・白骨コンプレックスと上麻生コンプレックス・沢渡コンプレックスに対比できる.行道山コンプレックスについては,ペルム系チャートを含む点などでは久瀬コンプレックスと類似する.しかし久瀬コンプレックスが玄武岩類や炭酸塩岩類を含むのに対し,行道山コンプレックスはこれらを欠く.

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© 2021 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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