2023 年 74 巻 5-6 号 p. 315-324
本研究では,生物地理分布境界である渡瀬線が設定される小宝島,悪石島間における海洋生物相の変化を,現生貝形虫をモデル生物として用いて検討した.解析にはGB21-3航海によって採取された表層堆積物5試料を用い,トカラ列島北部周辺海域における現生貝形虫組成の空間分布を明らかにした.結果として,54 属150種以上の貝形虫が認められた.産出した貝形虫の多くは東シナ海で一般的に報告される亜熱帯– 熱帯域に生息する分類群であった.R-modeクラスター分析の結果,4つの貝形虫種群に区分され,Q-modeクラスター分析では4つの貝形虫相が認められた.これらの種群や貝形虫相は特に底質によって変化する傾向が認められた.また,トカラ列島南部周辺海域の貝形虫相と比較した結果,貝形虫相は渡瀬線によって変化せず,黒潮の流路分布と調和的な傾向を示した.トカラ列島周辺海域の貝形虫相の空間分布は黒潮の影響を受けて形成されている可能性が示された.