抄録
2021年11月に総務省で開始した「デジタル時代における放送政策の在り方に関する検討会」は、分科会やワーキンググループが設けられ、多様な論点で議論が続けられている。2022年8月には取りまとめが公表され、放送の将来に向けた政策として、守りの戦略と攻めの戦略が示された。守りの戦略とは、放送ネットワークインフラの将来像についての検討である。具体的には、1)クラウドマスターの導入等も含めたマスター設備の将来像、2)複数の局による共同利用型の模索を始めとした、中継局の保守・運用・維持管理のあり方、3)維持・更新費用が割高な小規模中継局等のエリアについて、放送波やケーブルテレビの再放送に加えて、ブロードバンドによる代替の検討という3点である。攻めの戦略とは、放送局のネット配信のあり方についての検討である。具体的には、1)「誰もが安心して視聴できるという信頼を寄せることができる配信サービス」に、人々がアクセスしやすくするための方策、2)ネット時代における公共放送の役割や、現在は放送の補完業務であるNHKのネット活用業務の位置付け等の2点である。提示された1つ1つの論点は重く、それらは複雑に絡み合っているため、論点を俯瞰して論じていかない限り、放送の将来像は見えてこないというのが筆者の基本認識である。加えて、議論のプロセスに並走しながら、重要な論点が避けられてはいないか、先送りされてはいないかを適切なタイミングに問題提起していくことも、どういう結論に至ったのかを検証する以上に重要ではないかと考えている。本稿では、8月に公表された取りまとめを受けて速報的に放送文化研究所のサイトで問題提起した、3回分の「文研ブログ」を再掲する。なお、ブログで扱った論点については、その後の議論の進捗に応じて内容が変化しているものもあるが、議論のプロセスの記録と理解いただきたい。