植物分類,地理
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東亞産キンポウゲ科についての新知見
田村 道夫
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1958 年 17 巻 4 号 p. 114-121

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抄録

6)トウハクサンイチゲは中國北部および満州(熱河省)に分布し,ハクサンイチゲの變種や亞種とみなされたり,あるいはヒマラヤの Anemone demissa HOOK. f. et THOMS. の變種とみなされたりしている。この植物は全體に毛が少なく,根葉裂片が幅廣く,缺刻が浅くて,缺刻片も幅廣く先が鈍である。この葉の形は一見にして,ハクサンイチゲや A. demissa とは異り,むしろ,朝鮮北部から中國:山東省にかけて分布する Anemone chosenicola OHWI にそっくりである。又,時にメシベに毛のあるものが現れたり,主としてハクサンイチゲよりも低い所に生育する點なども,これに似ている。このような點からみて,トウハクサンイチゲは,A. chosenicola のように複繖形花序をもつことはないが,ハクサンイチゲよりも,むしろこれに類縁が近いことは明らかであると思う。そして,ハクサンイチゲや A. demissa から切離して,獨立種としてとり扱い,學名には A. catayensis KITAGAWA を起用するのが解りやすいであろう。なお,これは朝鮮北部にも分布している。7)ハクサンイチゲの仲間は北半球寒帯に廣く分布し,大変變化が多い。そして,すでに HULTEN 氏(1944)も指摘したように,地方的な系統に分化しようとする傾向がいちじるしい。JUZEPCZUK 氏(1937)は,ソ聯領内より,この仲間を13種もみとめたが,これらの多くは,そのような地方的な變種とみなされるべきものである。ヨーロッパの Anemone nardissiflora L. というのは,五裂する根葉をもっており,それと嚴密に一致する植物は東亞にはない。葉の形という點では,アラスカから,アリューシャン,カムチャッカをへて,千島に分布してきているセンカソウ var villosissima DC. が,それと最もよく似ているが,全體に毛の多いこと,花の大きなことなどで異なる。根葉が五裂するといっても,本來は三出葉であって,それの側片のさらに分裂する程度が強いため,見かけの上でそうなるだけであるから,三裂葉との間に,はっきりとした區別があるわけではない。アルタイから満州北西部(大興安嶺)に分布する Var. crinita (JUZ.) m および,南ウスリより記された var. brevipedunculata (JUZ.) m. はこの點について,特に變化が多いようである。

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© 1958 日本植物分類学会
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