植物分類,地理
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新潟県とその隣県に分布するカンアオイ属植物, 特にコシノカンアオイとその近縁種に関する分類学的研究
菅原 敬
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1998 年 49 巻 1 号 p. 1-17

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抄録

1996年新潟県北部の荒川流域で奇妙なカンアオイ属植物が確認された。この植物は,同地城周辺から従来報告されていたコシノカンアオイ(Asarum megacalyx F.Maek.),あるいはユキグニカンアオイ(A.ikegamii [F.Maek.ex Y.Maek.] T.Sugaw.)によく似るが,花の形態はそれらの中間型のようにみえる。一方,新潟県西部から富山県東部の地域には未記載種クロヒメカンアオイ(Heterotropa yoshikawai nom. nud.)が知られていた。この植物もコシノカンアオイに近縁と見なされてきたが,いまだその実体は充分に解明されていない。そこでこれら問題の植物の分類学的位置づけ,ならびに既存の2種との関連を明らかにするため,花の形態ならびに染色体からの比較研究を進めた。その結果,未記載種クロヒメカンアオイは独立種とみなしうることが判明したので,Asarum yoshikawae T. Sugaw.の学名で正式な記載を行った,また荒川流域の問題のカンアオイ属植物はユキグニカンアオイの新変種と位置づけられ,アラカワカンアオイ(A. ikegamii var. fujimakii T. Sugaw.)として記載した。クロヒメカンアオイは萼筒が上方に狭まった筒形で,萼筒口が径4mm以下と著しく狭く,萼筒内壁の襞は著しく複雑化する。また中期染色体でも4本の次中部型染色体を含む固有の核型をもつ特異な種である。一方新変種のアラカワカンアオイは狭義のユキグニカンアオイ(var. ikegamii)に比べて萼筒がより大きく,口環もより発達して目だつ。また,花柱附属突起はユキグニカンアオイのように萼筒口の高さにまで達することはなく,常に萼筒内におさまっている。この新変種は荒川流域に沿って新潟県関川村から山形県小国町付近まで分布する。

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© 1998 日本植物分類学会
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