2014 年 63 巻 3 号 p. 205-220
食品の産地表示は商品選択において最も基本的な情報であり,消費者の関心が高いことから,正しい表示がなされていることが食品の信頼性を保つ上で重要である.また,産地表示はブランド戦略にも利用されており,高い付加価値を持つ産地ブランドを維持するために表示の偽装は見逃すことができない.そこで,食品の産地を科学分析により判別する研究が偽装防止のために行われてきた.本稿では,食品の産地判別法として日本で最初に実用化された,誘導結合プラズマ質量分析法を用いた多元素の濃度組成による判別法がいかに開発されたかについて紹介する.別の判別指標として重元素同位体比は地質情報を中心とした生育地の情報がそのまま農産物等に移行するため,信頼性の高い産地判別を可能とする.この指標を用いた産地判別法の開発が待ち望まれていたが,重元素としてSrとPbの同位体比を用いた方法がようやく実用化に至ったことから,この判別法の最新の研究例を紹介する.