分析化学
Print ISSN : 0525-1931
総合論文
人工ユビキチンリガーゼの分子設計法の開発─ユビキチン化活性に基づくがん診断に向けて─
宮本 和英砂川 真弓齋藤 一樹
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2017 年 66 巻 6 号 p. 393-402

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抄録

生体内のユビキチン化反応は,不要なタンパク質の分解,DNA修復,シグナル伝達など多くの機能を担っている.そのユビキチン化反応を構成しているE2(ユビキチン結合酵素)は,白血病,乳がん,大腸がん等,様々ながん疾患と深く関与していることが知られている.将来的に,E2活性を高感度・定量的に捉えることができれば,E2をバイオマーカとして活用できるはずである.これまでに著者らは,簡便にE2活性を検出するために,人工的なユビキチンリガーゼ(ARF)を分子設計・作製し,そのARFを活用する新しい検出システムを独自に研究してきた.ARFは,ユビキチン化反応に含まれるE3(ユビキチンリガーゼ)の活性部位(α-ヘリックス領域)を50残基程度のペプチドに移植して作製されるキメラ分子である.E3の活性部位のみを持つARFは,元のE3の分子サイズに比べ極めて小さくなっている.この分子設計法をα-ヘリックス領域置換法と名付けた.ARFは特異的なE2結合能を有し,また,それ自身が基質となってユビキチン化される機能を有する.したがって,ARFを用いることで,基質の同定を必要とせずに,E2活性を簡便に検出できる.本稿では,このARFの分子設計法,及びその立体構造,機能的な特徴について概説する.また,実践例として,抗がん剤ボルテゾミブを作用させたヒト急性前骨髄性白血病(NB4)において,ARFの検出システムを活用するE2活性の検出法についても紹介する.

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© The Japan Society for Analytical Chemistry 2017
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